俺は軍団を作る
<冒頭>
西暦2052年、晩春。
沖縄県石垣市の遥か上空の宇宙より、巨大隕石が落下した後、それは尖閣諸島に根付いた。
エメラルド色の葉をつけた、黄金の根幹を有する大樹。
この黄金の大樹は、光合成で酸素を放出する代わりに、銀色の瘴気を放出する。
その銀色の瘴気が、摩訶不思議なエネルギー物質だと判明したのは、日本政府が派遣した調査隊の証言からだった。
「葉の採取の途中、瘴気がパンに変化した」
「そのパンが砂金に変化した」
「砂金は燃えた後に氷になった」
「氷は瞬時に蒸発して、銀色の瘴気に戻った後、空気中に四散した」
など、地球上に類を見ないエネルギー変換能力があった。
このエネルギー物質に目をつけた中国政府は、尖閣諸島の領有権を主張し、日本に対して黄金の大樹の引渡しを要求する。
翌週、日本政府が拒否したこと、さらにエネルギー物質の不法採取を理由に中国政府は、
米軍基地のある沖縄県、長崎県、山口県を除いた西日本への空爆を電撃的に決行。
国連から非難を浴びるも、中国政府は日中の領土問題を掲げ、空爆の正当性を主張した。
日中戦争の開始から一ヶ月後。
中国軍が西日本全土を占拠した頃、米国は日米安保条約に基づき、軍事支援を開始した。
ただ、対価として日米尖閣諸島共同領有宣言の締結と大樹のエネルギー物質を軍事転用した、
自律駆動型軍用兵器、アムノイド(Autonomous Military Metal Mata)の共同開発があった。
このアムノイドが開戦から半年後に実戦投入されると、劣勢を強いられた中国軍はロシア、イギリス、アジア、アフリカ諸国など百カ国以上と大樹のエネルギー物質の共有と引き換えに、中ロ英を主軸とするAEU連合(Asian&EU)を結成。
対する日米はフランス、ドイツと軍事同盟を結び、戦争勝利後の世界、その秩序と管理を目的とするOWG連邦政府(oneworld Global)を設立。
東日本の陸海空を防衛する中部防衛戦線を張り、AEU連合軍と互角以上に渡り合った。
その一方で、市街地の戦火は苛烈さを増していた。
日本の総人口は1000万人にまで減少。
政治、経済は混乱し、警察、医療などの公的機関は崩壊。
OWG連邦軍が暫定統治するほど東日本は荒れ果てた。
そして戦局の進展がないまま、5年後の世界。
大樹のエネルギー物質が空気中に溶け込みすぎたせいか、世界中を震撼させる新細胞が誕生する。
NAPT細胞(Nanoparticle Transform ‐ナノ粒子トランスフォーム細胞‐)。
これは大樹のエネルギー物質を吸い込んだ妊婦を通じて、胎児に発生する変身細胞で、
中部防衛戦線に投入できるほどの魔獣に変身することができる。
これに目をつけたAEU連合軍とOWG連邦軍は、強力な変身能力を持つ子供、
特に大樹のエネルギー濃度が高い日本国内の新生児を集めた。
そして軍用施設、軍立人外魔獣養成機関付属高等学園(人魔学園)を日本の各地方に設立。
彼らは、次世代戦争の主力となる、特殊戦闘員・ナプト兵士の育成を目論んだ。
第一話「俺は軍団を作る」
<あらすじ>
ナプト兵士育成施設である人魔学園に強制入学することになった天正良樹は、
戦闘訓練なんて馬鹿馬鹿しくてやってられないとサボる気まんまんであったが、
AEU連合に支配された西日本の惨状を知ると、助けざるを得ない気持ちになり、
渋々ではあるが、真面目に戦闘訓練に参加する気になる。
そして100階建の戦闘訓練館を攻略するために、頼りになる仲間を集めた良樹軍団を結成する。
<本編>
人魔学園-中部校-
空は見える。
太陽の光は届く。
ただ、敷地面積4億3000万平方メートルの学園全体を包み込むように、上空を防弾ガラスで張ってあるせいか、閉鎖感がある。
大樹のエネルギー物質が学園外に漏れないための設計らしい。
教室の窓際の席から見えた、景色の感想はこんなところだ。
俺の名前は天正良樹。
年齢は15歳で身長は150センチメートル。
学籍番号は3708番。
授業用教材、個体認識、行動管理など色んな機能がついた学生端末を首からぶら下げている。
端末のIDは3708で、
パスワードは各自で変更しなさいと、アムノイドの教師から少し前に説明を受けた。
他にも学生寮で休息後、校舎の隣にある模擬戦闘訓練館に入るようにと、
君たちは今日から数年間、ナプト兵士として戦闘訓練を受けることになり、
食事や睡眠ができるかどうかは模擬戦闘訓練館で入手できる学生ポイントにかかっているので、頑張って稼ぐようにと、
学園は全寮制で、一泊500ptだと、
食事は白米なら、一杯100ptだと、
立派なナプト兵士になるまで実家には帰れないから死ぬ気で訓練しなさいと、
唐突に意味不明なことを言われた。
おそらく人魔学園の生活システムなのだろう。
米中戦争(第三次世界大戦)で実戦投入できる人材を育成するために、
ポイントを稼がないと衣食住が整わないようにしている。
飢え死にしたくなければ、頑張って訓練をしろ、ということだった。
正直、めんどうだ。
俺は勉強も訓練もしたくない。
学生ポイントなんて知るかだ。
というわけで今は学生寮にも行かず、校舎裏でごろ寝しているところだ。
このまま夕飯までぼーっとしよう。
「・・・不良だな」
ん?
「訓練をサボってこんな場所で寝る奴は滅多にいない。教師の指示を聞かず、団体行動も取らないお前はろくでなしだ」
ふん。
えらい言われようだ。
おそらく巡視のアムノイド教師だろう。
人間じゃないくせに生意気だ。
むかつくからぶん殴ってやろう。
「うるさい死ね」
俺は声のする方に拳を飛ばした。
ロボットのロケットパンチみたいなやつだ。
NAPT細胞のせいか、手首が分離して、関節からはジェット噴射の気流が出るという、普通の人間ではありえない身体になっている。
ちなみに拳は自動操縦で、念じれば手元に戻ってくる。
はずだった。
「ほお。いいパンチだな。だが上級生に手を出すのは感心しないな」
拳を飛ばした先には、身長180センチを超える大男が立っていた。
学生服を着ているあたり、学園の生徒だろう。
というか、自ら上級生だと名乗っている。
つまりアムノイド教師ではないらしい。
なんだ。サボって叱られたわけではないのかと、少し安心した俺は、飛ばした拳はどこだろうかと目で探すと、
大男のでかい口に噛まれていた。
「誰だお前? 俺に何か用なのか? ってか拳返せよ」
「ああ。少し話がしたくてな。俺の名前は十垣大宝、二年生だ」
大男は拳を前歯から離すと、こちらに投げ返してきた。
俺は右手の関節で受け止めると、大男は隣に座ってきた。
「お前、一年だろう? アムノイド教師の命令に服従しないのは、背いた後の懲罰の厳しさを知らない、新参者くらいだからな」
「ああそうだ。入学したばかりだ。どんな懲罰があるんだ?」
「学生ポイントを5000~20000pt減らされる」
「そうかよ。で、それを教えるために俺に話しかけたのか?」
「そんなところだ。ただし教示料30000ポイントを貰うがな」
「・・・は?」
「何を隠そう俺も訓練をサボって、未熟な下級生から学生ポイントを巻き上げようと企んでいる不良だ」
そう言って、大男の身体が変化する。
変身だ。
全身を銀色に光らせ、粘土のように姿形を作り変える。
しばらくしてサメとワニを足して二で割ったような、筋骨隆々の魔獣が現れた。
「ぐふふ。どうだ俺の魔獣、ホオジロダイルは? 良い顎をしているだろう? 噛む力、咬合力は常人の10倍の1000キロはあるからな。二度と拳は飛ばさない方がいいぞ」
「・・・ようするに新入生狩りかよ。魔獣で脅そうとか、考えが卑屈だぜ」
「そう言うな。新入生は初期ポイント30000ptを所持している割に、無知で鴨にしやすいんだ」
「へえ。初期ポイントなんてあったのか。そいつは親切に教えてくれてどうもだな」
「礼なら教示料30000ptでいい。さあ、早く渡せ」
ホオジロダイルは太い腕を突き出して、端末を寄こすように言った。
誰が渡すものかだ。
「高すぎるぜ。30ptならくれてやる」
「・・・お前、上級生を舐めてるのか? 白米も買えないだろう。痛い目を見ない内にとっとと渡せ。それとも何か? 俺に歯向かう気か?」
「いいねえ。その1000キロの前歯に、もう一度、拳を飛ばしてえ」
「ふん。どんな魔獣に変身できるのかは知らないが、小さい割に大口を叩くな」
「大口じゃねえ。事実だぜ」
「面白い。だったら見せてみろ。お前の魔獣を」
「OK。だったら見せてやるぜ。俺の魔獣、ジャンガリアイアンジェットハムスターをっ!」
そう言って、俺は身体を変化させる。
変身だ。
全身を銀色に光らせて、粘土のように姿形を作り変える。
しばらくして、鋼鉄のハムスターにジャンボジェットのエンジンを付けた魔獣が現れた。
ホオジロダイルは鼻で笑った。
「やっぱりな。身体同様、小柄な魔獣だな」
「外見で判断しないでもらいたいね」
言いながら俺は、尻尾を地面に突き立てた。
そしてゴゴゴゴゴと、尾てい骨のジェットエンジンの出力を上げる。
数秒で時速1000キロに到達すると、
今度は両耳をドリルのように捻じ曲げて、鋭利な先端にする。
「最後通牒だ。このまま尻尾を引き抜いて、どてっぱらに突撃されたくなければ謝りな」
「・・・・・・」
ホオジロダイルは想像した。
もし時速1000キロのドリルが胃袋に飛んできたら、風穴が開いて、しばらく白米を食べられなくなるだろう。
だが初期ポイント30000ptを考えると、戦う前に白旗を上げるのは勿体無いのか、
ホオジロダイルは全身の筋肉を盛り上げて、ドッジボールの玉を受け止めるような姿勢を取った。
「来るなら来てみろ。一発で受け止めたら、大人しく30000ポイントを渡せ」
「へ。上等だぜっ!」
俺は相手の了承を得た上で、遠慮なく尻尾を地面から引き抜いた。
ゴオオオオ――――ッ! とジェットエンジンが吹き荒れる。
秒速277メートル、マッハ0.817の鋼鉄のハムスターが、一直線でホオジロダイルに突撃する。
ヒュンッ!
本当に一瞬だった。
ホオジロダイルは、鋼鉄のハムスターを視認する暇もなく、見事、胃袋に風穴を開けられていた。
そして白目をむいて、ばたりと前に倒れる。
その後、銀色に光ると、流血こそないが、気絶した人間状態に戻った。
「素直に謝ればいいものを。馬鹿な奴だぜ」
倒れた大男、たしか名前は大宝だったか。
俺は気絶した姿を見届けながら、身体を人間状態に戻した。
とりあえず初期ポイントの30000ptは所持しているらしい。
なら訓練館に入らなくても、学生寮の寮費500ptは払えるだろう。
俺はそろそろアムノイド教師の言うとおり、学生寮に行ってみることにした。
校舎裏から学生寮は徒歩五分ほどだった。
学生寮は生徒4000人が寝泊りする巨大な宿泊施設だ。
俺は入り口の案内掲示板を見て、自分の部屋はどこだろうかと確認をした。
「・・・四階か。階段がめんどうだな」
俺は階段を上って四階に行くと、長い廊下を歩いて、IDと同じ3708号室を探す。
しばらく歩いて3708号室という部屋は見つかった。
見つかったのだが、
部屋には3708という数字の上に、3707という数字がある。
ひょっとしてこれは・・・。
「相部屋か?」
まさかと思った俺は、部屋のドアに端末を近づけて、ドアロックを解除した。
ウィーンと、ドアが自動で開く。
すると同時に、一人の生徒の姿が視界に入った。
小柄で身長は150センチ。
坊ちゃん刈りの髪型に、丸眼鏡をかけた真面目系の雰囲気。
いつ3708番の生徒が来るのだろうかと、二段ベッドの下側で待っている。
やはりか。
ルームシェアらしい。
学生寮は二人で一部屋のようだ。
とりあえず挨拶をしよう。
「よう。誰だか知らないが俺は天正良樹だ。ドア開けた早々わるいが、そっちの名前を教えてくれ」
「天空ミルオです。学生寮は二人で一部屋らしいですね。数年の相部屋になると思います。よろしくお願いします」
ぺこり。
相部屋のミルオという生徒は、礼儀正しく、ぺこりと頭を下げた。
なかなか可愛い奴だ。
真面目な奴でもあるのだろう。
片手には人魔学園のパンフレットがある。
「なんだ。さっきまで読んでたのか」
「ええ。天正くんが来るまで暇だったので読んでました」
「良樹でいいぜ。どうだ? 何か面白いことでも書いてあったか?」
「そうですね。僕たちが人魔学園の生徒になった経緯とか、読んでてわかりました」
「マジかよ。凄いこと書いてあるんだな。俺はこの学園がなんなのかもわからねえし、そもそもなんで入学することになったのかもわからねえ」
「2057年以降に生まれた子供は、例外なく人魔学園に強制入学らしいです。理由は変身能力を持っているからだとか」
「マジかよ。変身能力を持ってるだけで強制入学かよ。なんでだよ?」
「戦争に使えるからでしょう。AEU連合のアムノイド軍と生身で戦える子供は貴重です」
「大人は生身で戦えないのか?」
「ええ。大人はナプト細胞を持ってないので、魔獣に変身できません。また身体は脆弱です。それに今は西暦2075年なので、変身できる大人は一人もいません。みんなこれから大人になるって子供ばかりですね」
「子供に戦争の大役を任せるなんて、そこまでAEU連合のアムノイド軍に苦戦してんのかな・・・」
「それはわかりませんが、OWG連邦にとってAEU連合は驚異的な存在です。なにせ23年間も西日本を支配し続けてますからね」
「・・・・・・」
「OWG連邦がいて良かったです。彼らに東日本を統治されていなければ日本は終わってました」
「そうか? 統治も支配もあんまり変わらない気がするけどな。なにせ日本の総人口を1000万人まで減らした上に、今度は子供を戦争に投入しようとしてる。OWG連邦も、俺たちにとっては驚異的な存在だぜ?」
「ま、待ってくださいっ! OWG連邦を悪者みたいに言うのはやめましょうっ!」
「なんでだよ」
「だって この国は東で産まれるか西で産まれるかで、だいぶ生き方が変わりますよ? 東生まれの僕たちはまだOWG連邦軍に所属しているから人並みの生活を送れますが、西生まれの子供は悲惨です。AEU連合軍に支配された一般人は奴隷のように扱われるのですが、変身能力を持つ子供は奴隷のように扱われる上に、命ある限り、戦争兵器として利用され続けるらしいです」
「・・・・・・」
「酷い話です」
「ああ。同情心が沸いてきた。こっちはまだ衣食住が整ってるからマシなんだな」
「そういうことです。なので頑張って優秀なナプト兵士になり、戦争で戦果を挙げましょう。西側の人々を救出するために、この学園で訓練して強くなりましょう。それこそ僕たちが、この学園に入学することになった真の理由だと思います」
「なるほど。そう言われると強制入学の件にも納得がいくな」
俺は学生端末で、ポイント残高を確認する。
29500ptある。
寮費の500ptはドアロックを解除した時に回収されたのだろう。
それでも十分なポイントが残っている。
「・・・西側のみんなのためなら頑張って訓練するしかねえな。っと、その前に腹ごしらえか。今夜はOWG連邦様のおかげでステーキだ」
「どうも良樹くんはOWG連邦のありがたみをわかってないようです」
「いや、わかってねえのはお前だミルオ。衣食住が整っても、俺たちには自由がねえ。防弾ガラスに囲まれた学園に閉じ込められてるんだからな。様付けで呼んでやるのがちょうどいいぜ」
「・・・西側の人々を救出してくれる存在ですよ?」
「いや、だから、みんなを助けてくれるような連中なら人口が1000万人に減ってるのはおかしいだろ。俺はOWG連邦なんて信用しねえ。どうせ大樹のエネルギー目当てに決まってら。だから個人的な方法で、西側のみんなを助けるぜ」
「・・・どうやってですか?」
「軍団を作る。学園のナプト兵士を大勢集めて、AEU連合とOWG連邦のアムノイド軍をぶっ潰す。そして西日本と東日本を隔てる中部防衛戦線をなくして東西を統合する。これっきゃねえ」
「う~ん。OWG連邦と敵対しなくても東西の統合はできる気がします」
「念のためだ。大樹のエネルギーのためなら、連中、OWG連邦は俺たちを皆殺しにしないとも限らねえ」
「・・・・・・」
ミルオは否定しなかった。
それほど大樹のエネルギーは地球外物質で摩訶不思議なエネルギーだからだ。
「・・・とりあえず訓練は頑張るぜ。学生ポイントもちゃんと稼ぐ。そのために肉を食う。たんぱく質を摂らねえと筋肉つかねえからな」
俺は学生端末をポケットにしまった。
真面目に訓練する気はなかったが、西側の人々のことを考えると、さすがにやる気を出さずにはいられない。
OWG連邦に利用されるのは嫌だが、しばらくの間は仕方がない。
俺はアムノイド教師の言うとおり、模擬戦闘訓練館に入り、学生ポイントを稼ぐことにした。
良樹軍団を作るために。
「・・・待ってください。どこに行く気ですか?」
「校舎隣の訓練館だ。そこで戦って強くなる」
「もう閉まってますよ。時刻は18:05分です。生徒全員、食堂に行って夕食を摂る時間です」
「マジかよ。だったらアムノイド教師の言うとおり、昼寝しないですぐに学生寮に行くべきだったな」
「そうですよっ! 良樹くんは命令違反をしましたっ! 僕もいつ来るか分からないまま待ってたので、訓練館には行ってませんっ!」
「違反者は学生ポイントを5000~20000pt減らされるらしいぜ」
「ぐすん。仕方ありません。命令に背いた僕たちがわるいんですから」
「すまねえなミルオ」
すぐに学生寮に行かなかったせいで、ルームメイトに迷惑をかけてしまったようだ。
反省しないといけない。
なので俺はミルオに謝ると、一緒に食堂に行き、軽く夕飯を奢ることにした。
そして部屋で寝る。
今日の学生ポイントの消費は6900pt(寮費500pt+食事700pt×2+命令違反5000pt)だった。
早朝6時。
学園のパンフレットによると、この時間帯が起床時刻らしい。
食堂は7時から開いており、8時には朝食を終えて教室に入り、
国語・数学・理科・社会・英語などの座学の準備をしないといけないとか。
そして二時限目と三時限目が戦闘訓練で、校舎隣の訓練館が開放されるとか。
つまり西側の人々を救うためなら、二時限目の午前9時30分まで寝ててもいい、ということになる。
なので俺はぐうぐうと寝ていた。
「・・・・・・良樹くん。起きてください」
「・・・んあ?」
「昨日、軍団を作って、東西を統合させると大見得切ったでしょう。早く食堂に行って、仲間を集めましょう」
「・・・ああ。うん。そうだったな」
「具体的にどうやって仲間を集めるんですか?」
「・・・俺が学園で一番強くなればいい。そうすればみんな俺の後をついてくるだろ・・・」
「どうやって強くなるんですか?」
「そりゃ・・・模擬戦闘訓練館で、戦闘訓練とかじゃねえかな・・・」
「そうですか。真面目に訓練するのは良いことだと思います」
「・・・そりゃどうも」
「ですが良樹くんは今、一人です。仲間なしで訓練館に入り、強くなるのは限界があります。手始めに僕が仲間になってあげましょう」
「・・・マジかよ。助かるぜ。ルームメイトになったのは何かの縁だったんだな・・・よろしく頼むぜ・・・」
握手。
こうして仲間第一号が誕生した。
まだ眠いが起きることにしよう。
真面目な仲間と信頼関係を築き上げるなら、こちらも真面目に生活しないといけない。
「・・・そろそろ起きるか。朝飯食えば座学のやる気も出るかもしれねえ」
「そうです。訓練も大事ですが、五教科も大事です」
「わかった、わかったよ」
俺はしぶしぶ返事をすると、洗顔した後に食堂に行き、さんま定食を注文した。
そして食べ終わった後、しぶしぶ座学を受講して、午前9時30分になると校舎隣にある模擬戦闘訓練館に向かった。
「・・・高い建物だな」
校舎隣には、果てしなく高い100階建の模擬戦闘訓練館があった。
「パンフレットよると、フロア単位でアムノイド兵が徘徊しており、五階ごとにボス用のアムノイド兵が配置されているらしいです」
「アムノイド兵を倒せばポイントとか貰えるんかな」
「一体につき100~1000ptが端末に加算されるようですよ。他にもフロア内で入手できるアイテムにポイントカードがあるとか」
「ポイントカードか。全部拾いたいもんだな」
「僕なら落ちてるポイントカード、全部把握できますよ」
「どういうことだ?」
「実はそういう能力を持った魔獣に変身できるんです。今、変身してみましょうか」
そう言うとミルオは銀色に輝いた。
全身を粘土のように練った後、姿形を作り変える。
しばらくして、昔の箱型のテレビに翼が生えたような魔獣に変身した。
しかも二羽にわかれている。
「サテライトバードです。一羽は映像発信。もう一羽は映像受信で、半径10キロ圏内の様子を把握することができます。衛星上に飛ばせば、明日の天気を予測することも可能です」
「そいつは凄いな。半径10キロなら訓練館の各階に落ちているポイントカードを探索するなんざ楽勝じゃねえか」
「ええ。学生ポイント稼ぎ放題です」
「頼もしい相棒だ。んじゃ遠慮なく後方支援を頼むぜ」
「了解ですっ!」
俺たちは意気込んで訓練館に入っていった。
訓練館は迷路のような作りになっているのか、細く短い通路がしばらく続いた。
そして開けた空間に出ると、突然、顔のない人間が現れた。
アムノイド兵だ。
人工皮膚と筋肉で、首から下は本物の人間と大差ない。
またソルジャータイプなので、兵士らしく、銃器を装備している。
そんなアムノイド兵が三体いた。
「早速現れたか。模擬戦闘訓練っていうくらいだから銃器携帯は予想してたぜ」
出会って数瞬、銃口を向けられる。
その銃口から、ドガガガガッ! と射撃音が響くと、10発の弾丸が俺とミルオに飛んできた。
「・・・ゴム弾じゃねえのかよ。容赦ねえな」
コロコロと足元に鉛弾が落ちる。
本物の銃弾だ。
ナプト兵士の身体は頑丈なので、普通の銃弾では流血しないが、当たると青アザができるくらい痛い。
「だ、大丈夫ですか良樹くんっ!」
「なに。平気だ」
俺はミルオの前に出て、5発の銃弾を代わりにくらっていた。
ミルオが俺の仲間で、俺が良樹軍団の団長だからだ。
ミルオが後方支援にいる以上、俺が前衛に出るしかない。
なるべく攻撃はすべて受け止める。
一応、鉄鼠に変身できる身体なので、普通のナプト兵士より防御力は高いが、それでも痛いものは痛い。
なのでやり返す。
「よーし、今度はこっちの番だぜ」
俺はかかとのジェット噴射を使って、一体のアムノイド兵の懐に飛び込んだ。
そして顔面を殴る。
銃撃のお返しだ。
アムノイド兵の顔面には 動体検知の瞳がある。
そいつを破壊するのが一番、手っ取り早い。
「・・・・・・」
「へへ。何も見えねえだろ」
俺は視界を失ったアムノイド兵を、軽く二、三発殴って、機能停止させた。
残りの二体の瞳も破壊する。
一瞬だ。
人間状態では秒速277メートルの高速移動は無理だが、それでも俊敏な動きが可能だ。
俺は三体のアムノイド兵の、二回目の攻撃がくる前に、三体とも全滅させた。
「ふう。楽勝だったぜ。さてポイントはどんなもんかな」
端末を見ると900pt増えていた。
一体のソルジャータイプのアムノイド兵を倒すと、300pt加算されるのだろう。
ミルオに半分プレゼントする。
「いいんですか?」
「仲間だろ。訓練館で獲得したポイントは全部半分こだ」
「ありがとうございますっ!」
こんな感じで俺たちは、一階フロアを探索した。
そして倒したアムノイド兵は10体。
入手したアイテムは木刀一本、木製の防護盾一枚、ポイントカード三枚(1500pt)。
ミルオの映像能力で最低限の戦闘回数と移動で効率良くポイントカードを入手できた。
計4500pt(アムノイド兵10体×300+1500pt)を獲得して、二階へと上がる。
二階:アムノイド兵8体撃破。入手アイテム、ゲーム機、ポイントカード二枚(1000pt)。
三階:アムノイド兵12体撃破。入手アイテム、ゲームソフト×3本、ポイントカード三枚(1500pt)。
四階:アムノイド兵5体撃破。入手アイテム、金属バット、爆竹、ポイントカード二枚(1000pt)。
入手アイテムの内容に喜んでいいのかわからないが、計15500ptを獲得した。
そしていよいよ、ボスアムノイド兵がいるであろう五階に上がる。
すると先客がいた。
女子生徒二人だ。
「あら、ミルオじゃない。おはよう」
「おはよう、イチゴ」
出会ってすぐに女子生徒の一人とミルオが挨拶を交わした。
俺は少し気になった。
「知り合いなのか?」
「はい、僕と彼女は幼馴染なんです」
「なるほどな。イチゴっていうのか。はじめましてだ。俺は天正良樹っていう」
「はじめまして。あんたがミルオのルームメイトね。なんだか不良みたいだわ」
「人を見た目で判断するのは良くないぜ?」
あまり良い第一印象を持たれなかったのか、嫌そうな顔をされた。
反対にこちらのイチゴの印象は、身長140センチほどの、小柄で口うるさそうな女子だった。
その隣にいる身長155センチほどの女子生徒は・・・。
「おい。そっちの女子生徒を紹介してくれよ。お前のルームメイトだろ?」
「いいけど、お前って呼ぶのはやめてくれる?」
呼び捨てにされたイチゴは、隣にいる女子生徒に確認を取った。
名前を教えるかどうか、少し悩む素振りを見せると、
「・・・花園。十垣花園」
「十垣? どっかで聞いたような苗字だな」
つい最近、聞いた覚えがあった。
どこでだろうか?
と思い出そうとすると、
ドシーン、ドシーン。
重量感のある足音が響いてきた。
下の階層に配置されていたソルジャータイプのアムノイド兵よりも、一回り大きいアムノイド兵。
ジャイアントソルジャーの足音だった。
五階のボスアムノイド兵らしい。
イチゴと花園が目を合わせた。
「私たちの方が早く五階に到達したんだから、このボスアムノイドは私たちが相手をするわ。あんたたちは戦闘が終わるまで大人しく待っててよね」
「いいけどよ、手助けとかいらねえのか?」
「私のビッグ・ストロング・ガトリングベリーを舐めないでほしいわ」
そう言ってイチゴは銀色に輝いた。
変身だ。
全身を粘土のように練った後、姿形を作り変える。
しばらくして、巨大なイチゴの魔獣が現れた。
そして―――。
ズガガガガガガッ!
とイチゴの種らしからぬ音とともに、巨大イチゴは弾丸を吐いた。
「・・・・・・」
ボスアムノイドは登場してからわずか数秒で、ばたんと倒れた。
もう一人の女子生徒、花園が魔獣に変身する前に戦闘は終了した。
「ふう。手応えのない相手だったわ。つまらないから寮に戻りましょ。花園」
「うん」
イチゴと花園は帰っていった。
そしてボスアムノイド兵が再び起き上がる。
今度はこっちの相手をしてくれるらしい。
「なんだよ。手加減でもしてたのかよ」
「・・・・・・」
五階のボスアムノイドだからだろうか。
まだ体力が残っていても、倒れたフリをするようだ。
強さも見た目ほどではないらしい。
下の階層のアムノイド兵同様、魔獣に変身しなくても楽勝そうだ。
「いくぜミルオっ!」
「はいっ!」
「・・・・・・」
そして数分後。
俺とミルオとボスアムノイドとの戦闘は終了した。
結果は俺たちの勝利だ。
イチゴのように数瞬で勝利できなかったのは残念だが、まあまあの結果だろう。
クリアポイント、1000pt獲得できた。
また区切りがいいからという理由で、今日の訓練は終わることにした。
今は学生寮に戻っているところだ。
「ん?」
部屋の前に誰かいた。
さっき出会った花園だった。
「よう。何してるんだ?」
「・・・べつに」
そう言って花園は部屋から離れようとしたが、俺は逃がさないように手を掴んだ。
同時にドアを開ける。
すると部屋の中には、何者かに荒らされた形跡があった。
「・・・たぶん、財布がねえ」
俺は直感を働かせた。
財布を探す前に問いただす。
「もしかして、お前か?」
「まあ、うん。確実に部屋にいないと分かってたからね。ちょっとドアロックを解除させてもらったんだ。あたしの能力でね」
そう言うと花園は銀色に輝いた。
全身を粘土のように練った後、姿形を作り変える。
しばらくして、浮遊する注射器に乗った、ナース服の猫女の魔獣に変身した。
「私の魔獣はギャングキャッツ。胸の聴診器を当てれば、どんなセキュリティも解除できる泥棒向きの能力だよ」
「・・・何の目的で部屋を荒らした?」
「金目の物があるんじゃないかとお邪魔したのさ。案の定、財布の中身は小銭ばっかだったけどね」
ちゃりんちゃりんと、小銭を見せつけてくる。
反対の手には、その小銭が入っていた財布がある。
俺の財布だった。
「・・・てめえ、覚悟はできてんだろうな?」
「いいけど、私、強いよ?」
そう言って、空飛ぶ注射器の先端をこちらに向ける。
そして、
ゴオオオオオオ―――ッ!
と火を噴いた。
空飛ぶ注射器は、火炎放射器だった。
「どう? 熱い? 他に金目の物を持ってるなら止めてあげるけど」
「・・・いや、それには及ばねえ」
俺は全身火達磨になりながらも、平然と答えた。
すると花園は戸惑いを見せた。
「・・・熱くないの?」
「まあな。鋼鉄の皮膚があるから火傷の心配はねえぜ」
「・・・そう」
言ってすぐにギャングキャッツは、浮遊する注射器を方向転換させた。
逃げるつもりのようだ。
反対方向に飛ぼうとしている。
「逃がさねえよっ!」
俺は銀色に輝いた。
変身だ。
全身を粘土のように練った後、姿形をジャンガリアイアンジェットハムスターに作り変える。
そしてすぐに尖った耳を捻らせて、尾てい骨のジェットエンジンを噴火させ、ギャングキャッツに突撃した。
「くっ!」
ギャングキャッツの脇腹に切り傷ができた。
これでも手加減した方だ。
「ひどい・・・女の子を攻撃するなんて最低」
「なに言ってんだ。人の部屋に盗みに入っておいてよ」
俺はギャングキャッツにトドメを刺すべきか悩んだ。
その間にギャングキャッツは、端末でメールを打っている。
誰に送るんだろうか。
しばらくして、ギャングキャッツは人間状態である花園に戻った。
「どうしたんだ? 降参するのか?」
「ちがう。もうすぐ来る」
「ん?」
何が来るんだろうか。
俺はしばらく呆然としていると、
「おお。妹よ。どうしたその怪我は」
「兄貴っ!」
現れたのは昨日、新入生狩りをしていた不良だった。
たしか名前は・・・。
「大宝、十垣大宝だったか。なるほど、どっかで聞いたことのある苗字なわけだぜ」
十垣大宝と十垣花園。
二人は兄妹らしい。
どうやら花園は、兄貴の大宝にメールを送っていたようだ。
「・・・連絡があったからすぐに駆けつけたが、誰だ? 俺の妹を傷つけたのは?」
花園はこいつ、って指差した。
「助けてっ! 私、脇腹を抉られかけたっ! こいつをやっつけてっ!」
「ほお・・・・・・」
大宝はどんな奴だと俺を見た。
すると、
「・・・・・・」
「よう、昨日の怪我の具合はどうだよ?」
「・・・・・・こいつか?」
「うんっ! こいつっ! こいつが私のこと傷つけたっ!」
「・・・・・・そうか」
大宝は俺の顔を見た途端、険しい表情が死んで、具合が悪そうな顔つきになった。
胃袋の痛みがまだあるのだろうか。
とりあえず確認しよう。
「大宝だったか。またどてっぱらに風穴を開けられたいわけねえよな?」
「ぐ・・・」
「兄貴?」
やはり痛むようだ
だが昨日、魔獣勝負で敗北したことを口に出さないのは、妹が目の前にいるからだろう。
ここは兄としての見栄と意地を尊重してやるべきか。
「おい、俺と殴り合うなら場所を変えようぜ」
「あ、ああ。そうだな」
俺は大宝を屋上に連れていくことにした。
学生寮の屋上、給水塔のそばで話をつける。
が、話をするまでもなく、二人だけになった途端、大宝は土下座してきた。
「すまんっ! 妹は手癖がわるいんだ。見逃してやってくれっ!」
「なんだ。花園が財布を盗ったこと、知ってたのか」
「ああ。うちは実家が貧乏でな。よく妹が盗んだ相手から恨みを買ったら、俺が面を出して闇に葬ってきたんだ」
「闇にって、物騒だな」
「魔獣に変身して、ちょっと脅す程度だ。殺しはしてない」
「ふん。蹴ったり殴ったりはしたってことかよ。悪い奴だな。どーしようかなー」
俺は弱みを握ったので、上下関係を作ることにした。
とりあえず軍団に誘おう。
「よーし。アムノイド教師にちくられたくなければ俺の仲間になりな」
「・・・仲間? 仲間にして何をさせるつもりだ?」
「西側のみんなを救出するんだよ。まずは良樹軍団を作って、東西を統合する。そのためにAEUとOWGのアムノイド軍をぶっ潰す」
「とんでもなく大言壮語だな。AEUのアムノイド軍ならまだわかるが、OWGのアムノイド軍も敵に回す? 正気か。頭がどうかしてるとしか思えん」
「だってよ。実質、アメリカに統治されてるんだぜ? 信用できねえだろ」
「まあな。強制入学させられた上に、衣食住をポイントで牛耳られてるからな」
「だろ」
「だがな・・・さすがに相手が悪い。OWGに喧嘩を売るのは・・・」
「そうだよ。そんなこと、できるわけないよ」
「ん?」
大宝とは別の声が、屋上の入り口から聞こえてきた。
花園だった。
「おお、妹よっ! 聞いていたのかっ!?」
「うん。こっそり後をついてきた。まさか兄貴が土下座するとは思わなかったけどね」
「ぐ・・・」
兄の尊厳を傷つけられた大宝が、恨めしく俺を見る。
いや、俺は何も悪くない。
大宝の運が悪いだけだ。
というわけで俺は気にせず、花園も軍団に誘うことにした。
「ちょうどいいや。花園だったな。お前も俺の仲間になれよ。後方支援ばかりのミルオ一人じゃ軍団として物足りねえ」
「ひどいっ! 訓練館では頼もしいと言ってくれたのにっ!」
花園の背後から声がした。
そして、ひょっこり顔を出す。
ミルオだった。
「なんだミルオもいたのか」
「ええ、いましたよっ! 聞いてましたよっ! ひどいじゃないですかっ! まるで僕を後方支援しか能がないみたいな言い方してっ!」
「いや、だって攻撃手段、何一つ持ってねえし」
ミルオの魔獣は基本的に、上空から見るだけである。
戦力として物足りないと言われても仕方がないのである。
というわけで俺は、ミルオの怒りを宥めることなく、勧誘を続けた。
「で、どうなんだよ。仲間になるのか、ならねえのか」
「・・・西側のみんなを救うか。考えたこともなかったな」
「そうだね兄貴。ぶっちゃけポイントを盗むことばかり考えてたもんね」
「どうしようもない兄妹だな」
「そう言うな。で、具体的に仲間になったら何をすればいいんだ?」
「とりあえず強くなればいいんじゃねえかな。ようはポイントをたくさん稼いで、学園一のポイント獲得者になれば目立つだろうし、そうすれば仲間もたくさん集まるだろ」
「なんだ。ポイントを稼ぐだけでいいのか。なら迷うことはないな」
大宝は土下座から立ち上がった。
そして握手を求める。
「わかった。仲間になろう。ポイントもたくさん稼ぐ。だから教師に窃盗のことは黙っておいてくれ」
「ああ。いいぜ。約束してやる」
俺は大宝の右手を握り返した。
花園とも握手をする。
こうして仲間二号と三号が誕生した。
これで後はイチゴに声をかけて、四号になってもらえれば万々歳だ。
良樹軍団は俺を含めて4人。まあまあ様になってきた。
学園生徒の総数が4000人であることを考えれば、1000人規模の軍団は作れるはず。
まずは目指せ100人だ。
第二話「俺は生徒会役員と敵対する」
<あらすじ>
学園内の衣食住のランクを決める学生ポイント。
上は最上級の部屋(12LDK)に豪勢な食事。
下は寮外のダンボールBOXに粗末な食事。
ポイント格差による貧富があった。
この貧富の根源である生徒会役員は、毎日、戦闘訓練館で大量のポイントを入手している。
その数なんと400万ポイント。
「これは許せねえ。こんだけ大量に獲得されると、下の奴らの入手分がなくなっちまう」
そう考えた良樹は、生徒会役員たちを悪だと認定し、生徒会室に無断で侵入する。
そして天誅だと、高級家具を破壊し、冷蔵庫にある超高級食材を食い散らかし、
挙句の果てに生徒会役員の書記と庶務をボコボコにする。
「悪は貴様の方だ」
と、その惨状を目撃した生徒会長は、良樹を粛正する。
一対一の魔獣対決で、良樹は敗北。
独房室送りになってしまう。
<ラフ本編>
早朝6時。
そろそろ起床しようかと思っていると、
大宝が部屋にやってきた。
「どうした大宝、朝っぱらから下級生の部屋に来るとは何事だよ」
「いやなに。西側の人々を救うと言っていたからな。朝から何をするか気になった」
「そうか。なら正直に言うぜ。何をすればいいのかわからねえ」
「助言しておくとだ。まずは西側の人々の前に、学園生を救った方がいい」
「どういうことだ?」
「まあついてこい」
俺は大宝に案内された。
どこに行くのだろうかと思っていると、
案内されたのは、学生寮の外だった。
その壁際に20人ほどがダンボールの箱に入って寝ている。
「・・・なんでこんなところで寝てるんだ?」
「まあ近づいてみろ」
大宝の言うとおり、俺は近づいてみることにした。
すると、
「うお、くせっ!」
結構な異臭がした。
おそらく長いこと風呂に入ってないから臭いのだろう。
「通称、物乞いの外壁だ。ここで寝ている連中は寮費の500ptが稼げなく、毎日ダンボールを敷いて、食糧を恵んでもらっている」
「冗談だろ。500ptなら訓練館に行けば拾えるぜ」
「いや、ない時もある。というかポイントの入手は早い者勝ちでな。訓練館に配置される学生ポイントは毎日合計8000000pt、学園長が管理しているんだが、学園生の総数4000人が毎日このポイントを狙ってる。そうなると一日一人当たり平均2000ptしか、入手できないって計算だ」
「うん」
「だが、毎日、その半分である4000000ptをある連中が入手している。誰かわかるか?」
「わからねえ」
「生徒会だ。生徒会役員が毎日、訓練館を出入りして稼いでる。一瞬でな」
「そんなに強いのか、生徒会って」
「ああ。強い。そして強い奴ほど学生ポイントを大量に入手できるシステムだからこそ、弱い奴が割りを食う」
「・・・・・・」
「こんな弱肉強食のシステムを学園に導入している学園長と生徒会役員を、こいつらは恨んでるだろうよ」
「うう・・・ひもじい・・・」
目の前の、ダンボールの中にいる生徒が呻いた。
餓死寸前かもしれない。
よく見ればガリガリで痩せすぎている。
明らかにカロリー不足だった。
「・・・こいつは許せねえぜ」
「ポイントを・・・学生ポイントを恵んでくれ・・・もう一週間も草と水しか食べてないんだ・・・」
「マジかよ・・・そろそろ死ぬじゃねえか」
「頼む・・・500ポイントだけでもいいんだ・・・頼む・・・」
「夕方また上ればいいか。ほら。くれてやるよ」
俺は端末通信で500ptプレゼントした。
すると、
「すまない・・・ありがとう・・・ありがとう・・・っ!」
「君~~~~、俺にも頼む~~~」
「俺にも~~~~」
周囲のダンボールから20人ほど起き上がってきた。
1人にあげたからだろう。
俺にも俺にもと集まってくる。
「う~ん、どうするべきか・・・」
20人に500ptだと10000ptだ。
結構な大金だが、
「いいぜ。くれてやる」
俺は気前よくあげることにした。
大宝が少し心配する。
「いいのか? こいつらにポイントをあげても何も返ってこないと思うが・・・」
「いいんだよ。俺は学園のポイントシステムが気に入らねえんだ。大量に持ってたって気分の良いもんじゃねえ。そもそも誰かが大量に持ってる分、持ってない奴が割りを食うシステムだろ?」
「ああ、そうだ。そのとおりなんだ」
「西側の人々の前にまずは学園生って言ってたな。ありがとよ大宝、学園にはポイントがなくて衣食住を満たせない生徒がたくさんいるってことを教えてくれてよ」
「じゃあ、やってくれるか?」
「ああ。やってやる。目下の敵は学園長と生徒会役員だ。まずは西側の前にこいつらを救うぞ。軍団を作って学園を牛耳る学園長を倒す。いや、その前にポイントを牛耳ってる生徒会役員の連中を倒さないといけねえか」
「・・・よく言った。それでこそ軍団のボスだ。ならその生徒会役員の面を拝みに、食堂に行こう」
「ああ。行こうぜ」
俺と大宝は食堂に向かった。
さすがに餓死寸前となると見過ごせねえ。
歩きながら仲間のミルオと花園にメールを打つ。
目下の敵は学園長と生徒会だと。
食堂には券売機の前に並ぶ、数人の学園生がいた。
そしてミルオと花園が待っていた。
「良樹くんっ! どこに行ってたんですかっ!? 探しましたよっ! メールの内容びっくりしましたっ! 説明してくださいっ!」
「ああ、いいぜ」
俺は大宝から聞いた話を、手短に説明した。
ミルオと花園はすぐに納得してくれた。
「なるほど・・・学生寮の外壁にそんな人たちが・・・」
「弱いって罪なんだね・・・」
「というわけだ。とりあえず生徒会役員を倒すぞ。食堂のどっかにいるはずだから、食いながら手分けして探そうぜ」
「・・・探すのはいいですけど、いきなり喧嘩を売るのはちょっと・・・」
「私はどっちでもいいよ。見てるだけだから」
「お前らなー・・・」
「安心しろ良樹。妹の分まで俺が助太刀する」
打倒生徒会に意欲的なのは俺と大宝だけらしい。
なんだか悲しかった。
ポチッ。
俺は券売機に端末をかざしてカップめんを注文した。
カップめんなら持ち歩きながら、生徒会役員を探せるだろう。
俺と大宝はカップめんを注文して、食べながら食堂内を歩くことにした。
しばらくして大宝が耳打ちをする。
大宝
「あいつだ。生徒会書記の毒蝮美土里だ」
生徒会書記の毒蝮、小柄で変わった口をしている。
毒蝮はアムノイドコックにしつこく注文をしていた。
毒蝮
「いいか、10万ポイントの肉だぞ? 10万ポイントの、A5ランクの黒毛和牛ステーキ肉だぞ? わかってるな」
コック
「了解してます」
毒蝮
「そうか。なら一分以内に作れ。俺様は気が短いんだ」
コック
「はい。どうぞ」
毒蝮
「早っ! 注文してまだ五秒だぞっ!?」
アムノイドコックは、ビーム攻撃によって数秒で焼き上がったステーキ肉の皿を、毒蝮に手渡した。
受け取った毒蝮は、ステーキ肉を周囲の生徒に見せびらかすように移動する。
毒蝮
「A5ランクの黒毛和牛ステーキは富裕層にのみ許された食事。貧乏人は卑しくカップめんでも啜っていればいいんだな」
毒蝮
「む?」
毒蝮は、とあるテーブル席の前で立ち止まった。
テーブル席には他の男子生徒が座っている。
毒蝮
「お前、新入生か? だったら教えてやるよ。この席はな、毒蝮美土里様の席なんだよ。勝手に座るんじゃないっ!」
どかっ!
毒蝮は男子生徒を蹴飛ばした。
お気に入りのテーブル席らしく、他の生徒が座ることを許さない。
そして空いたテーブル席に座ると、
毒蝮
「おおっ! 君、可愛いねっ!」
近くに座る可愛い女子生徒を発見した。
無理やり隣の席に座らせようとする。
毒蝮
「よし。君っ! 僕の彼女にしてあげようっ! さあ、隣の席においでよっ!」
女子生徒1
「や、やめてくださいっ!」
毒蝮
「おやおや~? 逆らっちゃうと、生徒会長に言いつけて、独房室に入れちゃうよ~? カップめんすら食べられないよ? いいのかな~~?」
俺はカップめんを食べながら様子を見ていた。
生徒会役員がどういう奴なのか、見定めるために。
良樹
「なあ大宝。なんであいつ好き放題なんだ?」
大宝
「生徒会役員は、学園内の治安と秩序を守るための、粛正行為が許されている。連中に目をつけられたら独房室行きだ。だからだろう」
良樹
「ふうん。まあいいや。ラーメンの汁、捨ててくるわ」
大宝
「良樹はカップめんの汁を残すタイプなのか?」
良樹
「ああ。俺はヘルシー志向だから塩分には気をつけてんだ」
言いながら俺は、食堂の流し台ではなく、毒蝮のテーブル席に移動する。
毒蝮
「さあ早くっ! 僕の口にあ~んするんだっ! おろしニンニクをたっぷり乗せてねっ!」
良樹
「よいしょ」
俺は毒蝮の頭を掴んだ。
そして口元にカップめんのふちを押し付けて、ラーメンの汁を流し込む。
ごくごくごく。
毒蝮美土里はゆっくり飲んでいる。
毒蝮
「・・・君、何してるの」
良樹
「ラーメンの汁を捨ててる」
毒蝮
「だめだよ。カップめんの汁は、食器返却所の隣にあるシンクに捨てなくちゃ」
良樹
「は? 言うの遅くね? なんで流す前に教えねえの? ばかじゃねえのお前」
毒蝮
「逆ギレされたっ! 僕、意味わかんないっ!」
パコーンッ!
毒蝮は全部飲み干してから、カップめんの容器を叩き落した。
そして怒り叫ぶ。
毒蝮
「てめえええええええええっ!! 覚悟はできてんだろうなああああああああああああああああっ!!!」
良樹
「ハハハハ。怒った怒った」
笑う良樹とは対照的に、毒蝮の顔は真っ赤だった。
そして近くの席に座る、生徒会庶務の花札五文を睨んだ。
毒蝮
「おい五文っ! 粛正だっ! こいつをボコボコのギタンギタンにするぞっ!」
五文
「断る。どう考えても女子生徒に手を出そうとした、お前がわるい」
五文
「だいたいA5ランクの黒毛和牛なら生徒会室にもあるだろう。わざわざ食堂で頼んで見せびらかす必要もない」
毒蝮
「いいじゃんか。僕たちは生徒会役員なんだぞ? ちょっとくらい偉く振舞いたいじゃないか」
五文
「・・・とりあえずだ、朝食は生徒会室でとれ。その方が平和だ」
毒蝮
「うわっ、五文っ! 何をするんだ放せっ!」
五文、毒蝮の襟元を掴んで、食堂を去り、生徒会室に移動する。
良樹
「・・・弱そうな奴だったな」
女子生徒1
「あの、助けてくれてありがとう」
良樹
「ふん。別に助けたわけじゃねえよ。あいつの態度が気に食わなかっただけだ。いこうぜ大宝」
大宝
「おう」
以降、生徒会室に殴り込む。
そして色々と天誅を加えるが、最終的には生徒会長に返り討ちにされてしまい、土下座を強要される。
生徒会長
「貴様がするべき行動は謝罪だ。今ここで土下座をしろ」
良樹
「・・・ああ。わかったよ」
良樹は土下座するが、大仰に、申し訳ございませんと言いながら、生徒会長のズボンをずりおろす。
ざわざわ。
生徒会長の真っ赤なブリーフが、大勢の観衆(生徒)の前で露になる。
男子生徒1
「生徒会長、あんな派手なパンツ履いてたのかよ・・・」
女子生徒1
「勝負パンツって奴かしら。いやらしいっ!」
副会長
「兄上、早くズボンをお上げに」
生徒会長
「・・・ああ。すまない」
男子生徒2
「あいつ、生徒会長に恥をかかせやがった・・・死ぬぞ・・・」
生徒会長
「どうやら爪だけでは反省できないらしいな」
男子生徒3
「で、出るぞ・・・生徒会長の奥の手、いや、奥の牙、ファントムファングが・・・っ!」
生徒会長は爪をビーム化させるファントムクロウだけではなく、
全身をビーム化して、光速の動きで駆け抜ける、ファントムファングがある。
良樹、生徒会長のファントムファングでフルボッコ。
そのまま気絶する。
生徒会長
「独房室にぶち込んでおけ」
第三話「俺は雷蜘蛛なんて怖くねえ」
<あらすじ>
とうとうAEU連合が西日本のナプト兵士を出陣させた。
名前は爾来屋鉄治。
魔獣は雷の4倍の電気エネルギーを持つ、フォージグワットスパイダー。
その討伐に、中部校の生徒会役員たちが選ばれる。
が、書記と庶務は早々にリタイヤ。
さらに副会長を人質に取られて、生徒会長は心臓に超高圧電流を流し込まれてしまう。
なんとか会計の鷹山零のおかげで、全員無事に学園に帰還することができたが、
任務を完遂できなかった生徒会役員たちに、学園長はご立腹。
こうなったら独房室で反省中のアイツを使うしかないと、
今度は良樹軍団に、フォージグワットスパイダーの討伐命令が下される。
<ラフ本編>
独房室に叩き込まれてから数時間。
ようやく俺は目を覚ました。
狭い空間だ。
四畳ほどの部屋に、洗面台とトイレがあるだけだ。
小さな鉄格子の窓から、対面の独房室が見える。
大宝の顔が見えた。
良樹
「・・・なんで大宝も閉じ込められてんだ?」
大宝
「無断で生徒会室に侵入した罰だそうだ。俺だけじゃない。妹も天空も十椎もだ。全員、独房室に入ってる」
良樹
「そうか・・・そいつはすまねえことしたな・・・」
大宝
「変身して出られないか?」
良樹
「わからねえ。やってみる」
俺は銀色に輝こうとした。
が、だめだった。
何故か変身できない。
大宝
「やっぱりか。俺も変身できないんだ。何故だろうな」
良樹
「わからねえ。わからねえが、この空間だからじゃねえかな。ちょっと息苦しいぜ」
大宝
「変身できない上に、呼吸しづらいとは、さすが独房室だな」
良樹
「まったくだな」
どうやら簡単には出られないようだ。
俺は、ぼーっとするしかなかった。
良樹
「・・・・・・」
しばらくして、独房室に近づいてくる足音がする。
看守のアムノイド教師だ。
鉄格子越しに、何かを渡そうとしてくる。
見ると小さな飴玉だった。
アムノイド教師
「投薬の時間だ」
良樹
「飴を舐める気分じゃねえよ。報告してくれ。なんだか息苦しいんだ」
アムノイド教師
「君たちが呼吸できるのは、大樹の瘴気が充満した学園内にいるからで、この独房室は学園外だ。独房室真下のフラスコシェルターによって、大樹のエネルギー濃度を0.001%にされている。酸素が少なくて苦しいのと同じだ」
良樹
「・・・何を言ってるのか意味わからねえ。フラスコシェルター? エネルギー濃度? 一体何を言ってやがる」
ミルオ
「フラスコシェルターは大樹の瘴気を凝固する、マイナス273.15℃の巨大な冷却装置ですよ。尖閣諸島に設置してあり、周辺の空気中に含まれる大樹のエネルギー物質を吸収し、凍らせて、ドロップ状にし、各学園に搬入してるらしいです」
良樹
「知ってるのかミルオ」
ミルオ
「ええ。以前読んだパンフレットに書いてありました。学園内にもあるとは書いてありませんでしたが」
アムノイド教師
「学園内のフラスコシェルターは懲罰用だ。エネルギー濃度を完全に0%にすれば、窒息死させることができる。そういう情報はパンフレットには書いてない」
良樹
「・・・・・・」
アムノイド教師
「というわけで飴を舐めろ。この飴は大樹のエネルギードロップだ。舐めれば息苦しさはなくなる」
良樹
「・・・わかった。舐めてやるよ」
俺は不満げな顔でエネルギードロップを受け取ると、
口の中に放り込んだ。
即効性が高いのか、息苦しさはすぐに消えた。
良樹
「ふう。こいつはすげえな。一瞬だ」
ミルオ
「・・・・・・」
良樹
「ってか大樹のエネルギーって、俺たちの身体に不可欠なものだったのかよ。こりゃ完全に飼い慣らされるな」
ミルオ
「ええ。完全に0%にされたら言いなりになるしかありませんね」
良樹
「だな。一応、エネルギードロップは各学園に運び込んでるらしいが、どこに保管されてるんだろうな」
ミルオ
「わかりませんが、おそらくフラスコシェルターの中でしょう。マイナス273.15℃の空間なら生徒に盗まれる可能性もなくなります」
良樹
「いつか盗んでやりたいぜ」
ミルオ
「危ない真似はやめましょう。相手はOWG連邦です。逆らうのはよくありません」
良樹
「け。まだOWG連邦のことを信じてんのかよ」
ミルオ
「だって・・・そうするしか方法が・・・」
ばたん。
俺は会話を中断するように、鉄格子の窓を閉めた。
寝よう。
他にするべきことがない。
呼吸も満足にできないんじゃお手上げだ。
良樹
「ぐー。ぐー」
良樹軍団が独房室に閉じ込められてから数時間。
場所は変わって西日本、関西校。
AEU連合が支配するこの人魔学園では、本日、モニター会議が行われようとしていた。
AEU連合第一国家(中国)、首脳、正老宝
AEU連合第二国家、首脳、フィッシュアン・ド・チプス、
AEU連合第三国家、首脳、ピロシキ
AEU連合第四国家(アジア代表)、キム・チカライ
AEU連合第五国家(アフリカ諸国代表)タジン・ケバブ
以上の五名だ。
「さて、そろそろ会議を始めようか。議題はいかにして東日本を制圧するかだが・・・」
「東日本を制圧するには、人魔学園中部校を潰さねばならん。その手前、中部防衛戦線に配置しているアムノイド軍も邪魔だ」
「数は何体でしたかな?」
「およそ100万体だったと記憶しております」
「ふむ・・・。100万体か。こちらの120万体と良い勝負だな」
「しかしこちら側にはアムノイド兵のエネルギーとなるドロップが数百個しかありませんぞ」
「あちら側は大樹の一日のエネルギー生成量を考えれば、おそらく数万個はあるかと」
「持久戦になれば圧倒的に不利だな。何か名案はないものか・・・」
「核は?」
「それを使えば大樹のエネルギーに異変が生じる。だからこそOWG連邦も使用してこない」
「そうだ。我々は殺し合いがしたいのではない。いかに大樹のエネルギーを得るかだ」
「学園生に盗ませるのはどうでしょうか? たしかこちらの数百個のドロップも学園生に盗ませたものだと記憶しております」
「我々にはフラスコシェルターがないからな。尖閣諸島は未だにOWG連邦に牛耳られている」
「となるとやはり、盗ませるくらいしか方法がないか」
「ふむ・・・学園生に貴重なドロップをくれてやることになるが、他に名案が浮かばない以上、致し方あるまい。爾来屋よ。まずは中部防衛戦線のアムノイド軍を突破してこい」
正老宝がそう言うと、モニター室の隅で待機していた、関西校の学園長が動いた。
胸ポケットに入っているエネルギードロップを投げる。
それを大男が受け取った。
名前は爾来屋鉄治。
関西校の生徒だ。
「よいか爾来屋。なるべく一体でも多くのアムノイド兵を倒すのだぞ。そして突破後は人魔学園中部校に潜入し、フラスコシェルター内にあるであろうエネルギードロップを盗むのだ。よいな?」
「了解した」
そう爾来屋は了承すると、
スッ・・・。
一瞬の残像を残して、モニター室から姿を消した。
まるで忍者のように素早かった。
その動きに、残された首脳陣が感嘆する。
正老宝
「エネルギー量が互角になれば、後は優れたナプト兵士をどれほど抱えているかが勝負の決め手となる。こちらの手駒は上々だ。爾来屋なら一人で中部の人魔学園を制圧できるやもしれん。もしそうなれば東日本を我が手中に治め、大樹のエネルギーを独占し、世界はAEU連合が支配することになる。楽しみじゃな。ふぇっふぇっふぇ」
中部防衛戦線とは。
滋賀県と岐阜県の県境に配置されている100万体のアムノイド軍のことだ。
この23年間、一度もAEU連合軍に突破されたことがない、絶対的な守備の要だ。
そこを走る影が一つ。
早い。
時速100キロで砂埃を巻き上げながら突っ走っている。
だが飛行型のアムノイド兵、穿孔蝶には及ばないのか、
数体の穿孔蝶に囲まれると静止した。
「・・・人間か、どこからやって来た?」
「・・・・・・」
穿孔蝶に問われた人間。
それは爾来屋鉄治だった。
彼は正老宝に言われた通り、一体でも多くのアムノイド兵を破壊するため、正面から中部防衛戦線を突破しようとしていた。
「答えよ」
穿孔蝶が尻尾のドリルを構えた。
ギィイイイイイインッ!!!
と高速で回転する。
一般人なら触れただけで肉を抉り取られるだろう。
が、爾来屋は普通の人間じゃない。
がしっ、と右手で受け止めた。
「・・・数体か。初戦の相手にしては数が少ないな」
そう言いながら爾来屋は、銀色に輝いた。
変身だ。
全身を粘土のように練った後、姿形を作り変える。
しばらくして10メートルの、蓄電器を背中に乗せた巨大な蜘蛛に変身した。
「こいつ、ナプト兵士・・・か?」
穿孔蝶は爾来屋の正体を見た後、視界が真っ黒になった。
同時に落雷のような衝撃音を聞く。
超高圧電流だ。
爾来屋の口から放たれた数本の糸、有刺鉄線を伝わって、穿孔蝶の身体に飛来していた。
そして周囲の穿孔蝶たちは、すべて焼き焦げていた。
爾来屋
「脆いな」
穿孔蝶
「ホ、ホウコク・・・スル、至急、応援ヲ、要請ス、ル・・・」
ズガ―――ンッ!!
二度目の超高圧電流が飛来する。
こうして、爾来屋と100万体のアムノイド軍の戦いが始まった。
場所は変わってOWG連邦の第一国家、アメリカ合衆国のホワイトハウス。
現大統領であるバーガー・ピザンツが、ハンバーガーとピザを食べている所に国防長官が駆け込んだ。
「バーガー大統領っ!」
「なんだ? 私は今、食事中だ。話があるなら後にしろ」
「呑気にハンバーガー食べてる場合ではありませんぞっ! でかい蜘蛛が現れたというのにっ! 日本の中部でっ!」
「外来種か何か? 大方10センチくらいだろう。アメリカなら30センチくらいのが民家に出る。そんなに騒ぐことではない」
「いえっ! それがっ! 10メートルの蜘蛛ですっ!」
「・・・ほう。ビックサイズだな。種名はなんと言うのだ」
「フォージグワットスパイダーですっ! 口から数十本の有刺鉄線を吐き出し、背中の蓄電器から4ジグワットの電力を放出する魔獣ですっ!」
「・・・・・・」
バーガー大統領は魔獣と聞いて、ハンバーガーをテーブルの皿の上に置いた。
食事を止めて会話に集中する。
「・・・ナプト兵士か?」
「ええそうです。AEUのナプト兵士です。そのナプト兵士が中部防衛戦線に配置しているアムノイド兵、48万体を破壊し、民間エリアに侵入しました」
「・・・48万体、破壊しただと?」
「は、はい。ソルジャータイプ10万体、穿孔蝶8万体、バタフライレーザー30万体、すべて超高圧電流で焼き壊されました。完全に機能停止してます」
「・・・23年間もAEU連合軍の侵入を阻んでいた防衛線を、たった一人のナプト兵士に突破された、か・・・4ジグワットの電力など、落雷でも無理だというのに・・・」
「まさかそのような猛者がAEU側で育っているとは驚きました」
「ああ。まったくだ。それにナプト兵士とアムノイド兵に、そこまでの戦力差があるとは驚いた・・・」
アムノイド秘書
「ピピピ、通信が入りました」
大統領の机のモニターに映像が流れる。
AEU連合からだった。
正老宝
「ふぇっふぇっふぇ。久しぶりじゃのう。バーガー大統領」
バーガー大統領
「正老宝か。何の用だ?」
正老宝
「いやなに、こちらのナプト兵士が中々に育ってきたもんでな。一人差し向けてみたわけだ」
バーガー大統領
「・・・・・・」
正老宝
「あやつの魔獣、フォージグワットスパイダーはその名の通り、歩く雷雲じゃ。お主たち、OWG連邦のナプト兵士で太刀打ちできる魔獣はおるかのう? ふえっへっへっへっ!」
バーガー大統領
「・・・・・・」
正老宝
「いないのなら、大人しくエネルギードロップを渡すことじゃ。そうすれば爾来屋を退いてやってもよいぞ」
バーガー大統領
「馬鹿なことを言うな」
ピッ。
大統領はモニター回線を遮断した。
バーガー大統領
「ふん。面白い。とうとうこちらの手駒を動かす時が来たか。日本が魔獣の巣窟となって18年、そろそろ実戦投入しても良い年齢だろう。・・・おい、学園長に繋げろ」
国防長官
「ははっ!」
ピピッ。
今度は人魔学園中部校とモニター回線を繋げた。
学園長(餅田五平)
「お呼びでしょうか、バーガー大統領」
バーガー大統領
「AEUの正老宝から通信があった。とうとう駒を動かす時が来たらしい。一人のナプト兵士を送り込んだそうだ。そいつに、中部防衛戦線を突破された。狙いは大樹のエネルギーを凝固したエネルギードロップだ。真っ直ぐ中部校のシェルターに向かっている」
学園長
「フラスコシェルターですか・・・やはり大樹のエネルギーを狙ってきましたか」
バーガー大統領
「いるのか? 敵は口から有刺鉄線を吐き出し、4ジグワットの電力を放出する巨大な雷蜘蛛だ。そのような化物に敵うナプト兵士が、こちらの人魔学園で育っているのか?」
学園長
「・・・難しいところですな」
バーガー大統領
「中国に、いや、AEU連合に大樹のエネルギーを渡すわけにはいかない。ただでさえエネルギードロップの搬入時に数百個強奪されたというのに、これ以上、エネルギードロップを奪われてたまるものか」
学園長
「大統領、西側の日本人の救出もお忘れなきよう」
バーガー大統領
「わかっている。が、大樹のエネルギーが第一だ。それに日本という国家が事実上消滅し、我々が暫定統治している今、日本人という表現は正しくない。言うなら連邦民か、米国人だろう」
学園長
「・・・そうでしたな」
バーガー大統領
「餅田よ。くれぐれも優先順位を間違えるな。大樹のエネルギーが第一、次いで西側だ。必ずやAEU連合を壊滅し、大樹のエネルギーを独占しろ。いいな? 和平、和睦はないと、学園生にも周知させておけ」
学園長
「了解しました」
バーガー大統領
「うむ。ではAEU連合のナプト兵士の殲滅、頼んだぞ」
学園長
「ははっ!」
ピッ。
中部校とのモニター回線は、ここで遮断された。
ズズーン。ズズーン。
場所は変わってとある森の中。
フォージグワットスパイダーが歩くと、木々は揺れ、スズメたちが慌てて飛んでいく。
いや、あらゆる動物たちが逃げていく。
その脱兎の中、逃げないで立ち向かう人影が数名。
学園長が送り込んだナプト兵士、
生徒会役員たちだ。
毒蝮
「・・・あれがAEUのナプト兵士か。想像以上に規格外だな」
生徒会長
「あれほどの巨体なら、こちらの姿に気づくまい。お前の毒液で目を塞いだ後、俺のファントムクロウで首を斬りおとす」
生徒会長
「先回りして待ち伏せるぞ」
生徒会役員たちは生徒会長の指示通り、高い木に登り、気配を隠して、フォージグワットスパイダーを待ち伏せする。
その間に、毒蝮が色々と不満を漏らす。
毒蝮
「ち。生徒会長の奴、俺たちを餌にして美味しいところを持っていく気だぜ。なあ五文。許せなくないか?」
五文
「気のせいだろう。作戦に集中するぞ」
毒蝮が生徒会長の指示を無視して、タイミングを待たずに木から飛び降りる。
そしてフォージグワットスパイダーの鼻の上に立つ。
毒蝮
「ここで手柄を立てて、俺が生徒会長になるんだ――――っ!!!」
五文
「やめろ毒蝮っ!」
毒蝮、フォージグワットスパイダーの顔に毒汁をかけるが、失敗してしまう。
フォージグワットスパイダー
「握り潰してやろう」
毒蝮
「五文助けてっ! 五文助けてっ!」
フォージグワットスパイダー、毒蝮を鷲づかみにして、五文に投げつける。
五文、受け止める。
その隙をついて、フォージグワットスパイダーは口から有刺鉄線を放ち、二人の身体に貫通させる。
そして稲妻を走らせる。
一瞬で、毒蝮と五文は気絶してしまった。
生徒会長
「美土里っ! 五文っ! く・・・作戦が狂ったか、ファントムクロウッ!」
生徒会長、有刺鉄線を斬り、二人を救出する。
生徒会長
「零、二人を学園まで乗せていけ。手当てが必要だ」
鷹山
「はい」
生徒会長
「いくぞ都々羅っ!」
副会長
「はいっ! 兄上っ!」
生徒会長と副会長の二人が駆け抜ける。
生徒会長、吐かれた有刺鉄線の上を綱渡りのように渡って、フォージグワットスパイダーの顔面まで走り、斬りつける。
フォージグワットスパイダー
「ほう。これは怖いな」
フォージグワットスパイダー、人間状態の爾来屋に戻る。
ファントムクロウから逃げるように、近くの森の中に逃げ込む。
生徒会長
「逃さんっ!」
爾来屋、森の中に罠を張る。
生徒会長、それを見抜く。
生徒会長
「森に連れ込み、有刺鉄糸で包囲する算段なのだろうが、貴様の糸では俺を縛ることはできんぞ」
爾来屋は木々の上を飛び回る。
時折、地面を走って追ってくる生徒会長に糸を吐きかける。
生徒会長
「貴様の糸などに俺は絡まん」
爾来屋
「そんなことは先の攻撃で理解している」
副生徒会長
「・・・っ!」
爾来屋が狙っているのは、生徒会長の闘羅ではなく、妹の副会長、都々羅だった。
上空に大量の有刺鉄線を吹き掛ける。
天網恢々で、副会長を鉄糸責めにする。
副会長は、置き網に絡まった魚のように身動きが取れなくなり、超高圧電流の餌食になる。
副会長
「きゃあああああああああああああああああっ!!!」
爾来屋
「俺が闇雲に糸を吐いていたと思っていたか?」
いつの間にか、副会長の足元には、斬りおとされた有刺鉄線が散布していた。
それらは絨毯のように繋がっている。
生徒会長
「いかん、これでは―――」
爾来屋
「遅い」
ピシャーン。
絨毯の上を稲妻が走り、副会長の足元を襲う。
副会長の周辺は、爾来屋の有刺鉄線で張り巡らされていた。
近寄れば感電する。
生徒会長は副会長を救出することができなかった。
そして爾来屋は、副会長を人質にする。
殺されたくなければ、大人しく糸にかかれと。
生徒会長、副会長を人質に取られて、大人しく有刺鉄線に縛られる。
身動きを封じられる。
爾来屋に、背後から羽交い絞めにされる。
爾来屋
「両手首を押さえられては自慢の爪も使えまい」
爾来屋、生徒会長の腕をへし折る。
そして口から有刺鉄線を飛ばし、生徒会長の心臓に貫通させる。
爾来屋、心臓に4ジグワットの雷を走らせる。
生徒会長
「がああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
生徒会役員と爾来屋の戦闘が終了する。
爾来屋は生徒会長にトドメを刺そうとしていたが、会計の鷹山零がそれを防いだ。
魔獣、ゼロホークに変身して、瀕死の生徒会長と副会長を前足で掴み、高速飛行で学園に帰還した。
学園長
「まさか生徒会長の虎寅闘羅が敗れるとは・・・」
学園長
「この学園に奴以上の魔獣に変身できる者は・・・」
アムノイド教師
「学園長、天正良樹たちへの投薬が終了しました」
学園長
「・・・ふむ、いたな」
学園長はそう言うと、独房室に移動した。
独房室ではミルオが泣いている。
ミルオ
「ぐすっ、ぐすっ・・・授業に参加したい・・・学生寮に戻りたい・・・」
良樹
「・・・・・・」
アムノイド教師
「食事だ。食え」
良樹
「うるせえ」
俺は肉もどきを運んできたアムノイド教師の首根っこを掴んだ。
バキバキっとへし折る。
そして独房室の鍵を奪取する。
「ハムスターにならなくたって、こんくれえの鉄格子、朝飯前よ」
警報が鳴る。
良樹は次々に応戦してくるアムノイド兵たちを破壊する。
しばらくすると、アムノイド兵たちの攻撃が止まる。
止めたのは学園長だった。
「・・・誰だあんた」
「餅田五平だ。学園を統括する長だ」
「ああ。あんたが学園長か。結構な爺さんだな」
「その有り余る闘志、別の奴にぶつけてみる気はないか?」
良樹は学園長に、学園長室まで案内される。
そこには鷹山零と倒れた生徒会役員たちがいる。
良樹
「・・・どうしたんだこいつら。ボロボロじゃねえか」
鷹山
「学園長。どうしてコイツが独房室から出てるんですか?」
学園長
「見張りのアムノイド兵たちを倒して、脱走を試みていた」
鷹山
「・・・この非常時に騒ぎを起こすなんて、これだから不良は嫌なんです」
良樹
「俺は金髪だが、これは生まれつきだ。不良じゃねえよ。ってか非常時って何の話だ?」
学園長と良樹が色々と会話をする。
良樹
「気に入らねえおっさんだな。ようはこいつらが駄目だったから今度は俺を差し向けようって魂胆だろ」
学園長
「まあな」
良樹
「いいぜ。その代わり、俺がフォージグワットスパイダーを倒したらミルオを解放しろ。あいつは俺たちの悪ふざけに巻き込まれただけだからな」
学園長
「よかろう。見事、爾来屋を討ち果たした時、天空だけとは言わず、他の者も無罪放免にしてやろう。鷹山」
学園長
「こやつらを送ってゆけ」
良樹軍団、全員、仮釈放される。
大宝、花園、イチゴ、ミルオたちが事情を聞く。
イチゴ
「ようは、私たちでそのフォージグワットスパイダーってのを倒せばいいわけね」
大宝
「良樹、大丈夫か? フォージグワットスパイダーは強敵そうだが・・・」
良樹
「闘羅を半殺しにした奴なら、相手にとって不足はねえ」
花園
「こっちは命掛けの戦いをするんだし、100万ポイントくらい貰わないとやってられないよ」
学園長
「いいだろう。見事フォージグワットスパイダーを倒した暁には100万ポイントを用意する」
大宝
「マジか・・・100万ポイントあれば毎日ステーキ食えるな」
以降は良樹軍団とフォージグワットスパイダーの戦いが始まる。
良樹軍団、フォージグワットスパイダーの背中の蓄電器が取り外し可能なことに気づく。
有刺鉄線を使って、背中の蓄電器を吊り上げて、取り外す。
電気エネルギーがなくなったフォージグワットスパイダーは、ただの巨大な蜘蛛になり、簡単に倒される。
良樹
「こいつだって好きで戦ってるわけじゃないだろ。殺すことはねえ」
良樹、爾来屋を独房室まで運ぶ。
AEU連合の首脳陣、爾来屋が倒されたと報告を受ける。
正老宝
「まあよい。わしの人魔学園にはえげつない魔獣がまだまだおる。首を洗って待っているがよい。天正良樹よ。ふぇ~っへっへっへっ!」
第四話「俺は関東校のヘッドを倒す」
<イベントラフ>
良樹軍団、学園長の指示で、関東校を見学する。
関東校のヘッド、龍也と出会う。
龍也軍団と喧嘩をして、勝利する。
その間にAEUのナプト兵士であるワーグナーが、東京のアムノイド工場にあるエネルギードロップを狙って、強襲する。
魔獣、スネークバットの血の霧で、工場労働者の体内に、細菌(人食いバクテリア)を送り込む。
このアムノイド工場の襲撃事件を聞いた、アメリカのバーガー大統領が、学園長にナプト兵士の出撃要請を送る。
良樹軍団と龍也軍団、学園長の指示でワーグナーを倒すためにアムノイド工場に潜入する。
良樹がワーグナーを倒して、人食いバクテリアの抗体である唾液腺を摘出する。
抗体を使って、人食いバクテリアに感染した工場労働者や仲間たちを救出する。
ワーグナー、OWG軍に捕まって、爾来屋と同じく独房室へ。
第五話「俺は正義のヒーローじゃねえ」
<イベントラフ>
良樹軍団、学園長の指示で、東北校を見学する。
東北校の生徒会長、弘光と出会う。
弘光とともに戦災復興の手伝いをする。
その間にAEUのナプト兵士である安藤義信が、魔獣、アトミックボムスライムの破片を学園の生徒たちの体内に侵入させる。
義信、弘光に東北校のエネルギードロップを盗まないと、生徒たちの体内にあるスライムの破片を爆破させると脅す。
弘光は魔獣、ダイアモンドリルモグラに変身して、エネルギードロップが保管されているフラスコシェルターの最下層まで穴を掘る。
その間に良樹たちは、花園の注射器でスライムの破片を吸い出して、学園の生徒たちを救出する。
人質を取っていたはずの義信は、一気に形勢が逆転して、大人しくお縄につく。
義信、OWG軍に捕まって、独房室へ。
第六話「俺は女子校のノリがわからねえ」
良樹軍団、学園長の指示で、北海道校を見学する。
北海道校に侵入したAEUのナプト兵士、金怜と妹の綾子と出会う。
そして敵だと気づかないまま、一緒にAEUのナプト兵士の侵入防止のためのパトロールをする。
その間に金怜は、綾子の魔獣、ソンビバエの蝿帽子で、学園の生徒たちを洗脳する。
洗脳した生徒たちに暴動を起こさせて、その騒ぎに乗じて金怜はフラスコシェルター内部に侵入。
エネルギードロップを盗むために、金怜は体温が絶対零度(マイナス273.15℃)である魔獣、DMEゴマコアザラシに変身。
凝固したエネルギードロップを、融解することなく安全にAEUに運ぶため、DMEゴマコアザラシの胃袋に入れる。
するとDMEゴマコアザラシの、冷気エネルギーで巨大化する能力が、エネルギードロップに反応して、強化されてしまう。
DMEゴマコアザラシは、全長100メートルに成長。
DMEゴマコアザラシの息吹きだけで、東日本大寒波が発生する。
北海道、青森、岩手と、次々に東日本が氷の世界と化していく。
そして金怜が、エネルギードロップをAEUに運ぶため、北海道から南下すると、東北校、関東校まで氷漬けになる。
中部校まで氷漬けにされたらお終いなので、良樹軍団は総力を上げて、巨大化した金怜、DMEゴマコアザラシを倒す。
(第二編)
(ラフあらすじ)
正老宝は、爾来屋や金怜たちと同じように、今度は武闘派集団である威武教の天神たちを東日本に侵入させる。
が、威武教の禁欲主義は、OWGどころかAEUもまとめて敵視するような思想で、
教主である天神を筆頭に、教徒たちは次々とAEUから離反する。
新しい独立勢力になった威武教。
彼らは、欲望にまみれた人間たちを滅ぼすために、日本本土を破壊しようとする。
全人類共通の敵となった天神たちを、金怜たちや良樹軍団が協力して倒す。
(キャラ設定)
天神:人間の三大欲を禁じた生活をしているおかげで、神獣のごとき能力を得ている。
その能力は万物浮遊現象。
この能力で、日本の各地方にある原子力発電所を浮遊させて、地上100メートルに到達すると、何の迷いもなく落とす。
欲望にまみれた人間たちを滅ぼそうとする。
川本美香:OWGのナプト兵士で、中部校の二年生。性別は女子で、容姿端麗。グラビアモデルをしている。
魔獣、弁天孔雀に変身し、羽根を広げると、幻惑の効果を発揮する。
その美しすぎる羽根を見た者は、恋の奴隷になってしまう。
川本は人間状態の時でも、男と見つめ合うことで、幻惑を見せることができる。
毒蝮、川本に校舎裏に呼び出されてドキドキする。そして羽根を見てしまい、恋の奴隷と化してしまう。
似たような手口で、良樹軍団の男たち、龍也や弘光までも恋の奴隷と化してしまう。
男に対して絶大な効果があるので、学園長から、対威武教の戦闘メンバーに抜擢される。
(第三編)
(ラフあらすじ)
黄金の大樹と同じ方法で、地球に三人の使者がやってくる。
三人の会話で、黄金の大樹が、隕石ではなく、異世界のワープゲートによって飛来した、マナの樹木であることが判明する。
マナの樹木が、光合成によって排出している銀色の瘴気。その正体が魔力であることも判明する。
三人の使者の目的は、魔獣(魔物)を増やして、成長したら元の異世界に呼び、異世界にいる魔王の軍勢に加えること。
異世界で戦っている、勇者と魔王の戦いに巻き込まれてたまるかと、良樹軍団は抵抗する。
良樹軍団は三人の使者を倒して、今度は異世界の魔王を倒そうとする。
が、異世界の魔王の膨大なる魔力を見て「こいつには勝てねえ」と直感で判断し、大人しく地球に帰還する。
(キャラ設定)
オーシャンパシフィックイーター:異世界からやってきた三人の魔物の一人。
本体は巨大なプランクトンで、全長は50センチほど。
液体と同化して自身の肉体とする能力があり、最終的には太平洋と同化する。
同化した後は、全長1000メートルの魔物になる。
アメリカ大陸のプレートを持ち上げて、揺れ動かせるほど大きい。
上記のように意図的に津波や地震を起こして、アメリカを滅ぼすことができる。
危険を察知したアメリカは、とうとう核兵器を使う。
だが、海水でできた巨大な手によって鷲掴みにされ、海中に落とされてしまう。
最後はミルオの能力で、太平洋のどこかにいるであろう本体を探索されてしまい、良樹に倒される。
完結。