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黒の元OLと黒の王族少年  作者: 鶯餡
第一章 ユーフォリア王国
3/5

第一王子

私が少年を追い掛けた先に見えたのは、はっきり言うと、地獄画図だった。

犬の威嚇の声が耳に木霊する。真っ青な空が、真っ赤に染まった気分だ。

足がすくんで、冷や汗を嫌でもかいてしまう。


彼とは似ても似つかない真っ赤な、ただただ赤い切れ目。

漆黒のような黒で、それが数体立ち尽くしている。

まるで、今から街を襲うと言わんばかりに。

それだけだも充分私の恐怖を掻き立てられる。


今、彼はいない。追っていたはずなのに。周りに人さえもいない。何故ならこの恐怖の獣がいるからだ。

どこで見逃した?どこで迷った?

こんなことなら、大人しく待っていればよかった。




「グルルルルル」



「…………ひっ」




少しずつ、獣たちは近づいてくる。私を完全に拒んで。

言葉にならない恐怖心が、声に出る。

顔は真っ青に染まり、無意識のうちに自分がどれほど震えていたのか、私は知るよしさえもなかった。


何がいけなかったのだろう。

彼、少年と出会って、ここが異世界だって察して、

素敵な、理想郷(ユートピア)のような世界に恋をして、

それで、彼とここまで笑ってきた。

日本に一緒にいこうって、指切りだってした。


視界が涙でぼやける。

私のブラウンの目は、潤いを張った。

頭が真っ白で、真っ青で……、助けなんて、誰にも言えなくて。


彼の顔が、笑顔が、脳裏に蘇ってきた。

サラサラとした黒い髪。真っ赤な輝いていた瞳。全てが彼の温情、優しさを引き立てる。

それは、笑ってた。少しだけ、悲しい表情を浮かべて。




(___私。この世界で何がしたかったのかな?)




少し、期待してた。

神様がきっと、私を心配してくれたんだって。

神様はきっと、私を見捨てていないんだって。

それさえも裏切られて、人生を終えるというの?

そんな悲しいこと、私は嫌だよ。




「ガウッ!!」



「きゃっ!……」




突然、獣は地面を蹴り、ジャンプをかまして勢いよく襲い掛かってくる。私は咄嗟の瞬発力で逃げ切れたが、もう一匹、二匹、三匹、……と、私を待ち構えるかのように襲い掛かってきた。


避ける。逃げる。右に。左に。上に。下に。

そこまで運動神経はよくない。けど、命の危機がかかっているのだ。私とて油断なんてしない。



だけど、ついには囲まれてしまっていた。





「ギャンギャン!!」



「や、やだっ……やだっ……」





周りの獣は、泣き出しそうな私を睨み付ける。

その姿は、まるで怒った犬だ。その叫ぶような鳴き声でわかる。

私が何をしたって言うの?異世界に来たのがいけないの?それとも、彼と、あの少年と出会わなければよかったの?

何が悪いの?どうしてそんなに怒っているの?どうして__

周りを震えながら見渡す。

皆、1歩ずつ私に距離をつめていく。私が食われるのも時間の問題だろう。





「ガウウウッ!!」


「…………っ!」




目の前に獣が迫ってくる。

その一瞬で、その瞬間で、私は死を悟った。

走馬灯が、人生の記憶が、頭に戻ってくる。

お婆ちゃんと、お婆ちゃんの犬のナツと、庭で駆け回ったこと。

いじめられて、感情さえ失うほど苦しんだこと。

お母さんには蔑んだ目と言葉で嫌われて、居場所なんてなかったこと。

それでも、一時期は助けてくれた私の初恋の男の子がいたこと。

その男の子を、失ってしまったこと。

社畜として社会に出て、上司からのパワハラにいつも疲れていたこと。

そんなとき、彼はいた。

見知らぬ私にさえも優しくしてくれて、笑ってくれて……。

彼といた時間は、凄く凄く楽しかった。


(最期に彼と笑えて、良かったなぁ__)







(来世も、彼と笑えたらいいなぁ____)




そして、現実に戻る。

私は目を閉じて、一粒の雫を溢す。それは倒れる勢いで揺らいで、散っていった。

心臓の音が、耳に届く。脳内を支配して、それしか聞こえない。

彼にさようなら、って言えなかったのが1番の心残り……かな。






(幸せに、なりたかったなぁ____)

そう感傷的に浸った、その時だった。
















瞬時に、目の前の獣が横真っ二つに分かれる。

生々しい音をたてて、それは倒れた。

ドンッ!と、尻餅をついたまま、私は目を見開いた。

血に染まった地面。獣だったもの。

そして____




「大丈夫ですか!?」



「_____え?」




シャン!と、鉄音をならして剣をしまう。

黒色のローブは、分かりにくく血に染まっていた。

フードを外し、私の上に立ち尽くしている少年が心配そうにしゃがみこんでいた。

純白の真っ白な髪。それは左目を隠しており、唯一出ている目は真っ青な輝いた瞳をしていた。 

髪に続き真っ白な肌につく血は、獣を殺したと言う証拠だと主張している。


(その顔立ち。背丈。まるで、まるで、……彼みたいな___)




「グルルルルル」


「……まだいるんだった。お姉さんはそこで待っててください」



私の思考は、獣の声によってかき乱された。

また私を囲っている獣だが、切れた目線は目の前の彼のもとに行き届いている。

彼は振り向き、獣の方を睨む。そして、また剣を取り出すとすぐに勢いよく攻めていった。

そして、彼はとにかく早かった。

見事にまでの剣捌き。次々に獣は血を吐き出し倒れていた。まるで、舞のよう。剣が輝いてる。そして、彼自信も、数滴の汗を垂らして真剣な目付きをしていた。

そんな今の状況を、簡単に受けいられるほど私の頭は追い付くのは早くなかった。

(この子は誰?なんであの子に似てるの?

あの子はしってる。けど、この子は知らない。)




「キャン!!」



まるで、犬の高い叫び声だ。

この獣は犬じゃないのに。

お婆ちゃんの犬、ナツを連想させてしまうのだ。

怖かったから、耳を塞いだ。

見たくなかったから、目を閉じた。

ポタ、ポタと雫のようなものが落ちる音が、嫌でも耳に木霊する。

私の恐怖心は、それだけで煽られた。

大丈夫だ、大丈夫だ、と言い聞かせながら、ただ震えて縮こまるだけ。そんなとき、声が聞こえた。




「___お姉さん、大丈夫ですか?」


「………あ、あなた、は、……」




コツ、と足音が聞こえると共に、その優しい声が聞こえる。

もう大丈夫かと思いつつ、手のひらで押さえ込むように閉じていた耳を解放し、目を開く。

目の前に立ち尽くしていたのは、先程の少年。

周りを見渡すと、痛々しいくらいに獣が倒れ込んでいた。それを見ないふりして、彼に視線を集中させる。

その少年はクスッと微笑み、右腕を前にだし、頭を下げ、こう告げた。




「初めまして。私はユーフォリア王国第一王子、レイス・デッド・ユーフォリアでございます。」





確かに、『第一王子、レイス・デッド・ユーフォリア』と。





_________


短くてすいません(´・ω・`)

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