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【すずの木くろ】バフ持ち転生貴族の辺境領地開発記  作者: すずの木くろ【N-Star】
第1部
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第7話 調子のいい次兄

「えっ、マジか!? 教会で確認したのか!?」


「したよ。それで、その効果なんだけ……ちょ、ちょっと兄さん!?」


 そう言いかけるフィンの頭を、ロッサは突然がしがしと撫でた。


「そっかそっか! いやぁ、お前だけいつまで経っても発現しないからさ。俺もずっと心配してたんだよ。父上は母上の浮気を疑うし、母上は夜中に一人で泣いてるしでさ。昔は神童とまで言われたのに、どうしてこんな不出来の――」


「ロッサ兄さん、気持ちは分かるけど、それを僕に言うのって無神経過ぎない?」


「あ、悪い悪い! 悪気はないんだよ! ただ、びっくりしちゃってさ。つい、な」


 慌てて謝るロッサに、フィンが苦笑する。

 彼はいつもこんな調子で、良くも悪くも言動と態度が軽いのだ。

 悪い人間というわけではなく、祝福が発現せず周囲から白眼視されていたフィンに対しても普通に接してくれていた。

 ただ、メリルやフィブリナのようにフィンのことを庇ってくれるようなことは一度もなかった。

 そこに他意はなく、ただ彼は彼の好きなように過ごしていたというだけである。

 要は、良くも悪くもマイペースなのだ。


「それで、どんな祝福が発現したんだ?」


「えっとね、僕のは、他人の祝福を強化する力なんだ」


「祝福を強化? そりゃ珍しいな。そんな祝福、初めて聞いたよ」


「うん、神父様も驚いてた。すぐに王家に報告するってさ」


「えっ、それってけっこう大事おおごとなんじゃないのか?」


 驚くロッサに、フィンが頷く。


「すごいことらしいよ。他人の祝福を(A+)にまで強化する祝福なんて、前代未聞だって言ってた」


「へえ、A+にまで……って、A+!?」


「うん」


 こくりと頷くフィンにロッサが詰め寄る。


「おま、A+って王族じゃないと持ってないアレだろ!? ソレがアレしたら、俺や兄貴の祝福もアレするってことに――」


「に、兄さん、落ち着いて」


 アレだのソレだの言い始めてたロッサを、慌てて落ち着かせる。

 あまりにも唐突な話に、混乱してしまっているようだ。

 隣で話を聞いている侍女も、目を白黒させている。


「わ、悪い。……で、その祝福の強化は、誰のでもできるのか?」


「多分、できると思うよ。メリルとフィブリナ姉さんのも、もう強化済みだし」


「そうなのか。2人のは確か、『食料品質の向上』と『傷の治癒』だっけ?」


 ロッサがメリルとフィブリナに目を向ける。


「2人ともE+だったよな? A+になるとどう変わるんだ?」


「私のは、一瞬で食べ物がものすごく美味しくなるようになったよ」


「私は、大怪我でも数秒で完全に治癒できるようになったわ」


「……マジで?」


「「マジで」」


 怪訝そうに聞くロッサに、2人が声をそろえて答える。

 2人とも、なんだか楽しそうだ。

 フィブリナが続けて、口を開く。


「5日前に、フィンが崖から落ちてしまったの。頭は割れちゃってたし、腕や足も変な風に折れ曲がっちゃったんだけど、私の祝福で完全に治癒させることができたわ」


「マジかよ……そのフィンの祝福って、いつ発現したんだ?」


「たぶん、その時頭を打ったおかげで発現したんじゃないかしら。記憶が戻ったとも言ってるし」


「記憶? 記憶ってアレか? 子供の頃は神童って呼ばれて頃のやつか?」


 ロッサがフィンに目を向ける。


「うん、それも全部思い出したよ。あと、前世の記憶も」


「前世?」


 ロッサが小首を傾げる。


「まあ、それについてはオーランド兄さんにも一緒に説明するよ。ロッサ兄さんも一緒に来て」


「よし、分かった。……と、その前にさ、俺の祝福も強化してみてくれないか?」


「うん、いいよ」


 フィンがロッサに手のひらを向ける。

 ロッサの体が一瞬、青白く光った。


「おおっ!?」


「はい、できたよ」


「……え? できたって、もう強化したのか?」


「うん」


「本当か? 何も感じないんだけど」


「いいから、使ってみてよ」


「よ、よし」


 ロッサは周りを見渡し、何かないかと探す。

 ロッサの祝福は腐敗(D+)だ。

 基本的に何でも腐らせることができるのだが、効果の目安は、樽一杯分の何かを半日かけてゆっくりと腐らせることができる、といったものだ。

 今まで彼はその祝福を使い、酒蔵に通って酒造りの手伝いをしては小遣いを稼いでいた。

 

「むう、腐らせてもいいものが見当たらないなぁ……フィン、何か手頃なものを持ってないか?」


「手ごろなものって……その辺の窓でも腐らせてみたら?」


「窓? 窓って腐るのか?」


「窓枠なら木だし、腐るんじゃない?」


「なるほど、よし」


 ロッサが窓に手を向ける。

 腐れ、と念じた瞬間、窓枠を黒い霧のようなものが覆った。

 その途端、木製の窓枠はみるみるうちに黒く変色し、ぼろぼろと崩れ落ちて土になってしまった。

 外側に開いていた木の窓が外れ、がたんと音を立てて外に落ちた。


「うおおっ!?」


「うわっ!?」


 ロッサが驚いて手を引っ込める。

 フィンも、その腐る勢いのすさまじさに後ずさった。


「つ、土になっちゃったね……」


「な、なんだこれ。いくらなんでもヤバすぎだろ……何か変なモヤモヤが出てたし」


 すごいというよりも怖いという感覚が先行するらしく、ロッサの顔が引きつる。


「これ、アレだな。人に使ったら、証拠も残さずに土に還るまで腐り殺せるな」


「ちょ、ちょっと、怖いこと言わないでよ!」


 物騒なことを言うロッサを、フィンが慌てて諫める。


「はは、冗談だって。それに、この力は生き物っていうか、動物には通用しないし」


「えっ、そうなの?」


「おう。あくまで『物』を腐らせる祝福なんだよ。ま、たとえ生き物に使えたとしても、そんなの気持ち悪くて使う気にはなれないけどな」


「そうだったんだ。でも、木を数秒で土に還せるなんて、すごい力だよね」


「だなぁ。これからはアレだな。酒屋もそうだけど、肥料屋も兼任してみるかな」


 きっと儲かるぞ、とうきうきした表情でロッサが言う。


「生ゴミとか建材の切れ端とか無料で集めてさ。全部腐らせて、肥料にして売るんだよ。ゴミ処理ってどの街でも問題になってるし、これは俺の時代が来たな」


「あ、ごめん。言い忘れてたけど、強化って1日しか持続しないんだ」


「……マジで?」


「うん、マジで。水鏡にそう書いてあったから、間違いないよ」


「そっか……よし、フィン。今日から俺と一緒に暮らそう。『ロッサとフィンのゴミ処理商会』を設立しようぜ! これで大儲け間違いなしだ!」


「ごめん、それも無理」


「何で!?」


 すでにやる気になっていたのか、ロッサが愕然とした声を漏らす。

 いちいちリアクションが大きくて面白い。


「エンゲリウムホイストを、フィブリナ姉さんやメリル、それに村の人たちと一緒に大都会にするって約束したんだ。この力を使って、あの場所をこの国一番の大都会にしてみせる」 


「あのクソ田舎を大都会に? どうしてそんな約束……」


 ロッサが言いかけて、フィブリナとメリルを交互に見た。

 そして、おお、と納得したように頷いた。

 がしっとフィンの肩を抱き、内緒話するように壁際に寄る。


「ちょ、何する――」


「そういうことか。好きな女にいいとこ見せて、今までの評価を覆してやろうってわけだな?」


 うりうりと、ロッサがフィンの頬を指でつつく。


「えっ、いや。ち、違う……わけじゃないけど」


「はは、やっぱりな。それで、どっちが好きなんだよ? メリルか? フィブリナか? 俺としては、気立てもスタイルもいいフィブリナをお勧めするけど」


 ちらりとロッサが背後を見やる。

 フィブリナは出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでおり、かなりスタイルがいい。

 メリルはフィブリナに比べると少々控えめというか、一般的な体つきの持ち主だ。


「い、いや……その……」


 口ごもるフィンに、ロッサが意外そうな顔になる。


「何だ、メリルが好きなのか」


「……うん」


 赤くなって頷くフィン。

 男としてどうかとも思うが、いつも自分のために怒ったり庇ったりしてくれたメリルに人並ならぬ好意を持っていることは事実だ。

 それが過去の事故からくる罪悪感によるものだとは分かっている。

 ロッサは、そうかそうかとフィンの頭を乱暴に撫でた。


「じゃあ、頑張らないとな! 兄さんは応援してるぞ!」


「あ、ありがと」


 よし、とロッサがメリルとフィブリナに振り返る。

 

「さて、兄貴のところに行くとするか。きっと驚いて腰抜かすぞ」


「ねえ、今フィンと何の話してたの?」


 メリルが怪訝そうに眉根を寄せる。


「そりゃ秘密だよ。な、フィン?」


「う、うん」


「なによそれ。私たちには言えないようなことなわけ?」


「言えないなぁ。ま、そのうち分かるって!」


「はぁ? いったいどういう――」


「おっし、それじゃあ、苦悩に悶えてる兄貴を救いに行くぞー!」


 ロッサは明るい声でそう言うと、フィンの腕を掴んで屋敷の奥へと歩いていく。

 メリルとフィブリナは顔を見合わせて小首を傾げ、彼らの後を追うのだった。

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