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【すずの木くろ】バフ持ち転生貴族の辺境領地開発記  作者: すずの木くろ【N-Star】
第2部
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第60話 お裁き

 フィンが歓迎のあいさつを皆に向かって行っている間も、ドルトとドランは唖然とした様子で畑と花畑に目を向けていた。

 何が何やら分からない、といった表情だ。

 ミレイユがレイニーに歩み寄り、ぼそぼそと何やら耳打ちする。

 すると、レイニーがフィンの隣に歩み出た。


「皆様、本日は遠路はるばるお越しいただきありがとうございます」


 レイニーが優雅に一礼する。

 皆も、深々と腰を折った。


「見学会を始める前に、皆様に残念なお知らせをしなければなりません」


 レイニーはそう言うと、ドルトに目を向けた。


「ドルトさん、王家に対する反逆の疑いであなたの身柄を拘束させていただきます」


「なっ!?」


 レイニーの背後に控えていた騎士たちが、ドルトに駆け寄って取り押さえる。

 見学者たちは、いったい何事かと目を剥いていた。

 レイニーはそんな彼に構わず、見学者たちに向き直る。


「彼は、この村の畑や果樹園に配下の者を使って毒物を撒いて、すべての植物を枯らそうと画策しました。また、自らの私利私欲のために法に背き、複数の祝福を持つ人間を国への届け出をせずに自分の駒としていいように使っていました」


「ぬ、濡れ衣です! レイニー様、いったい何をおっしゃっているのですか!?」


 ドルトが必死の形相で叫ぶ。


「そのようなこと、何一つ身に覚えがありません! 第一、なにを根拠に――」


「ミレイユさん」


「はい」


 レイニーに目を向けられたミレイユが、肩に留まっているカラスをちらりと見る。

 カラスは一声鳴くと、バサバサと小屋の方へと飛んで行った。

 そしてすぐに、ラーナと数人の騎士が捕らえていた者たちを連れてやってきた。

 数百羽のカラスが上空を旋回し、村中の猫たち、それに加えて10頭の猟犬が彼らの周りを取り囲んでいる。

 彼らが変身しても、これならば逃げることは不可能だ。


「ドルトさん。彼らに見覚えは?」


「知りません! 初めて見る者たちです!」


「ドルトさんはそう言っていますが……ええと」


 レイニーが老年の男に目を向ける。


「……ゲイズです」


 彼が名乗ると、ドルトの表情が引きつった。


「ドルト様、この人たちに隠し事は不可能です。観念するしかありませんよ」


「何を言うかっ! 知らん! 私はこの男たちのことなど、何も知らんぞ!」


「ならば、私からすべてをお話ししましょうか」


 取り乱すドルトに代わり、ゲイズが今回自分たちが行ったことと、今までやってきたことを洗いざらい白状する。

 百年以上も昔から、好待遇と引き換えにトコロン家のために祝福を使っていたこと。

 その祝福で果物栽培を試みる者たちの土地に毒を撒き、ことごとくライバルを潰してきたこと。

 そのために、トコロン家が毒の研究を先祖代々から続けていること。

 教会もグルになっており、トコロン家から多額の賄賂を受け取っていること。

 これまでの悪事をゲイズが洗いざらい話すと、見学者たちから悲鳴にも似た非難の声が上がった。


「ふざけるな! すべてデタラメだ! 何の証拠があってそんなことを言う!」


「ドルト様。教会のことや毒物のことなどは、今後の調査で明らかにさせていただきます。それと、証拠についてですが」


 ミレイユが傍に控えていた騎士の1人に目を向ける。

 ラーナの兄のカーライルだ。


「皆様、これをご覧ください」


 彼は手にしていた紙束を見学者たちに手渡した。

 そして、背負っていた大きな布袋の中から鉄製の大きな瓶を取り出して地面に置く。

 ドルトの前に歩み寄り、手元に残しておいた紙を広げて見せた。


「っ!?」


 紙に転写されていたのは、ゲイズたちとドルト、ドランが何やら話している様子の写真だった。

 それを見たドルトが言葉を詰まらせる。


「これは、祝福によって貴殿らが毒の散布について話している現場を映したものだ。先ほど貴殿は、この男たちを知らないと言っていたな?」


「……」


 ドルトが口を閉ざす。

 どうやら、観念した様子だ。

 ドランも、その様子に顔を青ざめさせていた。


「それと、この瓶の中には村に撒かれた毒と同じものがこびりついている。貴殿の屋敷も徹底的に調べさせてもらおう。言い逃れはできないぞ」


 カーライルはそう言うと、レイニーの傍に下がった。


「あなたたちの処遇は追って決めさせていただきます。それまで、身柄は王家の名のもとに預からせていただきます。連れていきなさい」


 レイニーの指示で、ドルトやトコロン家の者たちが騎士たちにうながされて再び馬車に乗る。

 このまま、王都へと連行されるのだ。


「……なんだか、すごく嫌な気分」


 フィンの隣でその光景を眺めながら、メリルが暗い表情で言う。


「もっとすっきりすると思ってたのに……なんだかなぁ」


「そうだね……」


 今まで散々自分のことを虐めてきたドランとはいえ、これからの彼の未来を考えると、単純に「ざまあみろ」とは喜べなかった。

 下手をすれば彼の父親は処刑されてしまうだろうし、彼自身もただでは済まないだろう。

 最低でも、トコロン家は取り潰しになるはずだ。


「フィン様もメリル様も、お優しいのですね」


 その様子を見ていたミレイユが微笑む。


「ですが、その優しさに付け込まれて足元を掬われることもあるのがこの世の中です。それをお忘れなきように」


「「はい……」」


 フィンとメリルが同時に頷く。


「では、私は彼らと王都へ行ってまいります。しばらく留守にさせていただきますが、そのうち戻ってまいりますので。それまで、レイニー様のことをよろしくお願いいたします」


 ミレイユがぺこりと頭を下げ、馬車へと向かう。

 フィンとメリルはそれを見送り、疲れたようにため息をつくのだった。 



* * *



 それから数時間後。

 フィンたちは気を取り直して、見学者たちに村を案内して回っていた。


「こちらが、エンゲリウムホイスト村が誇るアプリスの果樹園です」


 真っ赤な実をいくつも付けたアプリスの木々をフィンが紹介する。

 これまで行ってきた品種改良の話や、今後はアプリス以外の果物も栽培していく予定だと説明し、収穫したての実を切り分けて皆に配った。


「おお、これは美味い!」


「本当、街で売っているものよりも美味しい気がするわ」


 アプリスを口にした者たちが、感心した様子で口々に言う。


「ところで、畑や果樹園だけが水浸しなのはどういうわけでしょうか? 他はすっかり乾いている様子ですが」


「これは、先ほど話のあったトコロン家によって撒かれた毒を無毒化した名残ですね。レイニー様に作物が植えられている場所だけに雨を降らせていただいて、水でびしゃびしゃになったところを――」


 祝福によって毒をすべて消し去った話を、フィンが説明する。

 皆、なるほど、と納得した様子だ。


「それと、村ではエヴァさんたちの祝福の力で、洗濯物が一瞬で綺麗にできているんです。たとえば、こんなふうに」


 そう言うと、フィンは泥水のたまっている水たまりに、えいやっと突っ伏した。

 あっという間に泥まみれになってしまったフィンに、皆が驚いた顔を向ける。


「うあ、冷たい……。さあ、エヴァさん、お願いします」


「はい!」


 エヴァが手をかざすと、フィンの体全体が強く光り輝き、泥水まみれだった体がただの水浸しの状態になった。


「な、なんと!」


「これがA+の祝福の力か……」


 驚く面々に、フィンが笑顔を向ける。


「はい。なので、いくら服を汚しても、エヴァさんがいればへっちゃらです。どろんこ遊びし放題ですね」


 フィンの言葉を聞いて、それを見ていた彼らの幼子たちが「いいなぁ」といった表情になった。

 それに気付いたエヴァが、フィンに顔を向ける。


「フィン様。せっかくですし、お子さんたちには好きなだけ泥遊びを楽しんでもらったらどうでしょう? 服は私が全部綺麗にしますから」


「まあ、それはいいですね!」


 フィンが答えるよりも前に、レイニーがぱちんと手を合わせて微笑んだ。

 

「空いている畑で、皆でどろんこ遊びしましょう! 私がたくさん雨を降らせて、どろどろにしちゃいますから!」


「楽しそう! 父上、やってきてもいいですかっ?」


「私もやりたいですっ!」


 子供たちが騒ぎながら、自身の両親にせがむ。

 親たちとしてもレイニーの手前止めるわけにもいかないので、「行っておいで」と子供たちを送り出した。

 レイニーとエヴァが子供たちを引き連れて、畑へと走っていく。

 すると、ラーナがフィンたちに歩み寄ってきた。


「レイニー様、ご立派になられたな……」


 子供たちと走っていくレイニーの後ろ姿を見つめながら、ラーナが感慨深げに言う。


「あのような出来事があった後だ。さぞかしショックを受けていると思うのだが、気落ちした様子は微塵もお見せにならないとは……。これも、フィン殿たちのおかげだよ」


「えっ、僕たちの、ですか?」


「うむ」


 視線をそのままに、ラーナが微笑む。


「正直に言うとな、王城にいたころのレイニー様は、いつもほわほわしているというか、周りの言うことに素直に従うだけで、ご自分から何かをするということはなかったのだ。それが村に来てからは、自ら率先してあれこれと意見を言うようになって……本当に、見違えるようだよ」


 ラーナがフィンとメリルに顔を向ける。


「きっと、この村でご自身の祝福を使って畑や果樹園を育てたり、話し合いに参加したのがいい刺激になったのだろう。自分でも人々の役に立てるのだと、自信が持てたのだと思う。フィン殿や村の人々には、いくら感謝してもし足りないよ」


「そんな……。僕らは、ただ毎日を慌ただしく過ごしていただけですよ」


「いやいや、そんなことはない。先ほども、王族らしくあのような気丈な姿を見せていただけて……。あの姿を見れば、きっと陛下も安心なされるはずだ」


 ラーナがフィンに向かって姿勢を正す。


「王家の騎士を代表して、礼を述べさせてもらう。ありがとう。今後とも、レイニー様をよろしく頼むぞ」


「いえ、こちらこそ、レイニー様やラーナさんたちには感謝しっぱなしです。これからもよろしくお願いします」


 頭を下げるラーナに、フィンも頭を下げ返す。


「フィン。見学会の続きをしないと」


 そうしていると、2人の様子を微笑んで見ていたフィブリナが声をかけてきた。


「あっ、そうだね! では皆様、先ほどの続きですが、アプリスや作物の一部は祝福で高品質化してから出荷する予定で――」


 その後、フィンたちは見学者たちの村の紹介をして回り、つつがなく見学会は進行したのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公がこの逮捕劇で元クラスメイトにざまあを言わなかったのは、気質としてうなずける。 [一言] 実行犯の一人だから明確に重い処分下りますよね。王女居住地に毒だし。明確な王家に対する反逆行為…
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