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【すずの木くろ】バフ持ち転生貴族の辺境領地開発記  作者: すずの木くろ【N-Star】
第1部
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第6話 前代未聞の祝福

 それから4日後の昼。

 フィンたちは険しい山道を抜け、長兄のオーランドが管理する地、ライサンドロスへとやってきた。

 この地はライサンダー家が先祖代々管理を任され、家名を名付けることを許された由緒ある土地である。

 人口は、約8000人ほど。

 街を中心として、あちこちに鉱山や森、湖を有している美しい土地だ。

 しかし、近年では鉱物資源が枯渇してきており、財政はやや悪化している。

 それでも、中堅貴族が任される街としてはそこそこな大きさだ。

 別の貴族が管理する隣街とは徒歩で半日ほど離れており、その間には深い森が広がっている。

 ちなみに、フィブリナたちの両親が管理していた領地は、ここからはやや離れた場所に位置している。


「わあ……皆、街だよ街!」


 馬車の後ろを歩いていたハミュンが、眼前に広がる街並みに喜びの声を上げて駆け出していく。

 村とは違い、石で舗装された広い道の両脇には2階建ての家々が立ち並んでいる。

 人通りもそこそこ見られ、昼時ということもあって、そこかしこの家からは炊事の煙が立ち上っていた。


「フィン様の街ってすごいんですね! どの家も大きいし、お店もいっぱいあるんですね!」


「そんなことないよ。王都とか、もっと大きい他の街に比べたら全然だよ」


「えっ、そうなんですか!? ここよりもっとすごい街があるんだ……」


 ハミュンは想像がつかないのか、はあ、とため息をつきながら街並みを眺めている。


「フィン、先にオーランド様のところに行く?」


 御者台に座るフィンに、メリルが客室から声をかける。


「ううん。その前に教会に行って、僕の祝福についてはっきりさせておくよ。じゃないと、兄さんたちに説明するにしても二度手間になっちゃうしね」


「そっか。確かにそうだよね」


「フィン様ー! なんだかいい匂いがしますよー!」


 いつの間にか飲食店の軒先まで行っていたハミュンが、遠目から大声で手を振っている。

 その様子に、フィンとメリルがくすりと笑った。


「とりあえず、お昼にしよっか。あそこのお店で済ませちゃおう。メリル、後ろに皆にも伝えて。もちろん、代金も僕たちが持つって」


「うん!」


 メリルが馬車の窓から顔を出し、皆にそれを伝える。

 フィンは背後から響く嬉しそうな声を聞きながら、約10日ぶりに訪れた街並みを眺めるのだった。



* * *



 それから数時間後。

 楽しく食事を済ませたフィンたちは、町なかにある教会へとやってきていた。

 教会は石造りで、高い天井と高価なステンドグラスの窓を備えた立派なものだ。

 壮年の神父に事情を説明し、奥にある祭壇へと皆で通してもらった。


「どうぞ、水鏡を覗き込んでください」


「はい」


 フィンは祭壇の手前で深く一礼し、置かれている水鏡を覗き込んだ。

 水に映った自分の顔が目に映った瞬間、水面にぼんやりと、金色に輝く文字が浮かび上がった。

 どれどれ、と横から神父も水鏡を覗き込む。


「こ、これは……!」


 神父が驚愕に目を見開き、ぎょっとした顔でフィンを見た。

 フィンは脂汗をかきながら、じっと水鏡を見つめている。


「神父様、なんて書いてあるのですか?」


 メリルが背後から声をかける。

 神父は再び、水鏡へと目を向けた。


「……『転生補助・祝福強化(A+)。他者の祝福を24時間の間、A+に強化する』。そう書かれています」


「「A+に!?」」


 メリルとフィブリナが同時に声を上げた。

 A+は、祝福の効果の最大値である。

 この国では、それほど強い祝福を持っているのは国王とその息子だけだ。

 礼拝に来ていた何人かの市民も、それを聞いて目を丸くしている。


「フィン・ライサンダー。転生補助と女神様のお言葉が出ていますが、これについては何か思い当たることは?」


「……僕は、前世の記憶が残っているんです。きっと、そのことかと」


「ふむ、前世の記憶ですか……。ということは、強化の力はそれに付随するものというわけですね」


 神父は頷き、もう一度水鏡を見た。

 金色の文字は、いまだに水面に浮かび続けている。


「これは、前代未聞の大変な事態です。フィン・ライサンダー、あなたのことは、すぐに王家に報告しなければなりません。追って連絡があると思いますので、近日中はあまり遠出をしないようにしてください」


「え、えっと、それがですね神父様。今私は、エンゲリウムホイストという村で領主をしているので、ここからだと少し距離が……」


「所在が分かっていれば問題ありません。村を離れて他領へ出向くといったようなことを控えていただければ大丈夫です。これからすぐにエンゲリウムホイストに戻り、大人しくしていてください」


「あ、そういうことですか。分かりました。実家に寄ったら、すぐに戻りますね」


 神父に礼を言い、皆で教会を出ようと入口に向かう。


「フィン」


 すると、神父がフィンに声をかけた。

 振り向くフィンに、彼は真剣な眼差しを向ける。


「あなたを見舞った今までの苦難は、今日という日のために女神様が与えた試練だったのでしょう。今まで人を恨むことや、憎むこともあったと思います。ですが、それを晴らすために、その力を使ってはいけませんよ」


 フィンと彼は、昔からの顔なじみだ。

 フィンが何度もこの場所を訪れては、そのたびに落胆して帰っていく姿を彼は見続けてきた。

 それだけに、フィンの心が歪んでしまわないかとずっと心配していた。


「はい、神父様。僕は大丈夫です」


 フィンが晴れやかな笑顔を、彼に向ける。


「僕は、今まで僕を支えてくれた人たちや、僕を必要としてくれる人たちのためにこの力を使うつもりです。この力で、きっと皆を幸せにしてみせます」


「……余計な心配だったようですね。失礼いたしました。あなたに、祝福の女神の加護があらんことを」


 ほっとした様子の神父に見送られ、フィンたちは教会を後にした。



* * *



 教会を出たフィンたちは、街の中心地にあるライサンダー家へと向かった。

 大きな鉄の門をくぐって敷地に入り、馬車を庭先に停める。

 ハミュンたちにはそこで待つように言い、フィン、メリル、フィブリナの3人で家の中へと入った。

 突然現れたフィンの姿に、使用人たちが目を丸くする。


「フィン様? どうしてここに……」


「オーランド兄さんは?」


 困惑顔の若い侍女にフィンが尋ねる。


「執務室にいらっしゃいますが……その、今は止めたほうが」


「えっ、何で?」


「それは……」


「フィン? お前、こんなとこで何やってんだ?」


 フィンが怪訝そうな顔をした時、廊下の先から次兄のロッサが現れた。

 彼はフィンたちの姿を見て、参ったな、とでも言いたげな表情になった。


「おい、まさか、田舎暮らしに耐えられなくなって逃げ戻ってきたんじゃないだろうな? 悪いことは言わないから、兄貴に見つかる前に――」


「違うよ、兄さん。逃げ戻って来たんじゃなくて、どうしても兄さんたちに伝えないといけないことができちゃって」


「伝えたいこと?」


 怪訝そうな顔をするロッサに、フィンが頷く。


「うん。僕にもとうとう祝福が発現したんだ」


 ロッサの瞳が、驚愕に見開かれた。

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