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【すずの木くろ】バフ持ち転生貴族の辺境領地開発記  作者: すずの木くろ【N-Star】
第2部
48/61

第48話 果物を国中に広めよう

 十数日後。

 村の広場では、大勢の人々が集まってアプリスの大試食会を開催していた。

 先日収穫したアプリスの中から選りすぐりの実の種を収穫して新たに栽培を試みたところ、それらの木に実ったアプリスには1つも奇形が見られなかったのだ。

 ついに品種改良が完了したということで、こうして皆にお披露目しているのである。


「美味しいですね! 瑞々しくって歯ごたえもよくって、このままでも十分売り物になりますよ!」


 切り分けられたアプリスを齧りながら、エヴァが表情を綻ばせる。


「これ、メリルさんの祝福を使ってないんですよね?」


「うん。まだ使ってないよ。使ったやつはこっち」


 メリルが別の皿をエヴァに差し出す。

 エヴァは、そちらのアプリスも摘み、しゃくっと齧った。


「わわっ!? これ、すんごく甘いです!」


 高品質化済みのアプリスの味に、エヴァは目を丸くした。

 祝福をかけていないアプリスも十分に美味しかったのだが、高品質化したアプリスははるかにそれを上回っている。

 甘さと風味が段違いに向上しているのだ。


「やっぱり高品質化したものは別格ですね……。売り出すアプリスは、全部に祝福をかけるんですか?」


「ううん、一部だけかな。祝福をかけた実はちょっと高めにするってフィンが言ってた。あと『種を取って植えれば育ちます』って宣伝もするみたい。育て方も全部教えるんだってさ」


「そうなんですか。それなら、すぐに国中でアプリスが栽培されることになりそうですね!」


「でも、普通に育てると2年はかかるから、国中に広まるのは少し時間がかかると思うわ。種を蒔いた人たち全員が一気に美味しい実を収穫できるとも思えないし」


 メリルとスノウの説明に、エヴァがふむふむと頷く。

 アプリスは芽が出てから結実するまでに、丸2年もかかる。

 もともと成長の早い果樹なのだが、スノウの祝福によって、村で育てているアプリスの成長速度は何十倍にも加速されていた。

 その分、大量の肥料を消費してしまうため、肥料づくりのための落ち葉や枯れ木集めに村の人々は毎日大忙しだ。

 そうして皆で試食を楽しんでいると、フィンがレイニーとラーナを連れてやってきた。

 村中の畑への水やりが終わり、戻ってきたのだ。


「スノウさん、品種改良は大成功ですね!」


 レイニーがニコニコ顔でスノウに言う。


「王都の人たちが見たらびっくりすると思います。今度、村の紹介も兼ねて皆さんをお招きしてはどうでしょうか?」


「まあ、それはいいお考えですね。フィン様、ぜひやってみませんか?」


 スノウが言うと、フィンはすぐに頷いた。


「はい。村のことを宣伝するいい機会ですし、やってみましょう」


「では、私からお父様にお手紙を出しておきますね」


「レイニー様。はい、アプリスをどうぞ! 祝福で高品質化済みですよ!」


 エヴァがアプリスの盛られた皿を手に、レイニーに駆け寄る。


「ありがとうございます! ……んっ、すっごく美味しいですね!」


 程よい歯ごたえと芳醇な甘みに、レイニーが頬を緩める。

 すると、ロッサがアプリスを丸齧りしながらフィンに歩み寄って来た。


「フィン、俺は午後にはライサンドロスに出かけるけど、収穫できるやつは全部持っていっちゃっていいんだよな?」


「うん。これから育てる分の種はもう分けてあるからね。今、ハミュンたちが残りを収穫してくれてるから、全部持っていっちゃってよ。荷馬車も用意してあるからさ」


「あいよ。ライサンドロス以外にも出荷するけど、種のことも説明しちゃっていいか?」


「もちろん。これに育て方を説明したメモ紙が入ってるから、出荷先に配ってもらえる?」


「りょーかい。いやはや、まったく気前がいい話だねぇ」


 メモ紙がぎっしり入った袋を受け取り、ロッサが苦笑する。

 アプリスの販売は村の宣伝と国中への安価な流通が主目的なので、儲けについては度外視だ。

 もっとも、収穫量はかなりのものになる見込みなので、安値で出荷してもきちんと利益は出せるだろう。


「国中の人たちの幸せのためだからね。何年かしたら、皆が手軽に果物を楽しめるようになるよ」


「うへぇ。フィン、だんだん兄貴に似てきたんじゃないか? まさに貴族の鏡ってやつだな」


「そんなことないって。僕はオーランド兄さんみたいに一人じゃ何もできないよ。結局は他の人の祝福頼みなんだから」


「いやいや、そんなことないって。そういう驕らない姿勢がすげえよ。優秀な弟を持てて、兄ちゃんは幸せだぞ!」


 ロッサはしゃくしゃくとアプリスを芯だけ残して綺麗に食べると、ゴミ箱代わりの木箱に放り込んだ。

 木箱に手を向け、中のアプリスの生ゴミだけを器用に腐らせて土に変える。

 そして、わしわしと乱暴にフィンの頭を撫でた。

 そんな兄弟の姿に、スノウたちがくすくすと笑う。


「ちょ、ちょっと! 恥ずかしいからやめてってば!」


「わはは、いいじゃんか。そんじゃ、俺はもう行くわ。スノウ、すぐに戻ってくるからな!」


 ロッサが言うと、スノウはにっこりと微笑んだ。


「はい。どうかお気を付けて。早く帰ってきてくださいね?」


「もちろん! ぱぱっと行って、すたこら帰ってくるから!」


 ロッサがにかっとスノウに笑顔を向け、果樹園へと駆けていく。

 この村にとって、ロッサの祝福による肥料作りは必要不可欠なものであり、彼がいてこそ作物の大量生産が可能なのだ。

 彼の終始明るい雰囲気も、村にとって欠かせない存在となっていた。

 今回彼がライサンドロスに出かける目的は、村への移住や協力を申し出てきた貴族たちとの面談。

 そして、あちこちにいる知り合いへの再度の勧誘と、ライサンドロスの屋敷にやってくる登用希望者との面談だ。

 オーランドからの申し出で、村で長く生活しているロッサも面談に加わった方がいいだろうということから、この運びとなった。


「やることなすこと全部が順調で、なんだか嘘みたいだわ。ネズミもだいぶ減ってきたし、もうしばらくすれば完全に駆除できるんじゃない?」


 メリルがアプリスを齧りながら、フィンに言う。


「そうだね。猟犬たちが頑張ってくれてるおかげでイノシシの食害も減ってるし、言うことなしだよ」


 わいわいと楽しそうに話しながらアプリスを食べている皆を眺めて、フィンが微笑む。


「あとは鉄道がなんとかなれば観光客も呼び込めるし、作物の輸送も一気に楽になる。実用化はなんとかできそうだから、山道をどうやって切り開いていくのか、きちんと計画を立てないと」


「実用化って、蒸気機関車の? 今はどれくらいまで進んでるの?」


「動力部分に使うシリンダーっていう装置の試作が、この間できたところだよ。鍛冶工房にあるから、見にいってみる?」


 フィンが言うと、少し離れた場所でそれを聞いていたハミュンが駆け寄ってきた。


「フィン様! 私も! 私も見たいです!」


「あはは、それじゃあ、今から行ってみよっか」


「ゴーガンさんたちにもアプリスを持って行きましょ。最近ずっとこもりっぱなしみたいだし」


「そうだね。たくさん持っていこうか。ハミュン、大皿をもう1つ持ってきてくれる?」


「はい! すぐに取ってきます!」


 その後、フィンはメリルとハミュンを連れて鍛冶工房へと向かった。




 フィンたちが鍛冶工房に到着すると、ゴーガンが孫娘のルナと一緒に、しゅぽしゅぽと煙の出る装置を前にしてお茶を飲んでいた。

 ゴーガンがフィンたちに気付き「よう」と片手を上げる。


「こんにちは、ゴーガンさん。お疲れ様です」


「ああ、お疲れさん。こいつ、小一時間動かしっぱなしだが、今のところは順調に動いてくれてるぞ」


 ゴーガンが、目の前に置かれた装置に目を向ける。

 装置の傍らにはフタをされた鍋でお湯が沸かされており、固定されたフタからは鉄の筒がシリンダー部分へと延びていた。

 2本のシリンダーの先には金属の棒が付けられていて、実験用にと作られた木製の車輪に繋げられている。

 2つのシリンダーがピストン運動をするのに合わせて、車輪が高速でくるくると回転していた。


「な、何これ!? どうなってんの!?」


「すごい……! 触ってないのに、くるくる回ってます……!」


 シリンダー部分から蒸気を漏らしながら高速回転する車輪を見て、メリルとハミュンが目を丸くする。


「えへへ、すごいでしょ? これ、私とおじいちゃんの2人だけで作ったんだよ?」


 装置の前でコップを手にしゃがみ込んでいたルナが、誇らしげに言う。


「いやはや、ルナがいなけりゃこの装置はこうも簡単には作れなかったよ。さすがはわしの孫だ」


 ゴーガンがルナの頭をよしよしと撫でる。

 ルナはとても嬉しそうだ。

 ちなみに、彼の息子は祝福遺伝の例に漏れず、ゴーガンと同じ『金属変形(E+)』の祝福持ちだ。

 息子の奥さんは「消臭(E)」という祝福持ちで、効果は文字通り臭いを消すというものである。

 フィンによってA+に強化する前は、まるで効いているんだか効いていないんだか分からない程度の消臭効果しかなかったが、A+に強化されてからはすべての臭いを完全に除去する強力なものになっていた。

 まな板に付いた魚の生臭さや、トイレに染み付いた悪臭も完全に除去できるので、村ではかなり重宝されていたりする。


「フィン様、これで蒸気機関車が動くんですか!?」


「うん。実際に機関車に取り付けるのは構造が少し違うけど、こんな感じで車輪を回して走るんだ」


「すっごいです! 実験が成功してるなら、もう蒸気機関車が出来上がったようなものですね!」


「あはは。それはまだ気が早いよ。これから、機関車の車体と線路も作らないといけないんだから」


「ううー、楽しみです! 早く乗ってみたいなぁ!」


 フィンが言うと、ハミュンは待ちきれないといった様子で身悶えした。

 ものすごく嬉しそうだ。


「はー、本当にすごいね……。これ、人がたくさん乗れるような大きいものじゃなければ、すぐに作れたりするんじゃないの?」


「ん? 小型の蒸気機関車ってこと?」


 メリルの意見に、フィンが聞き返す。


「うん。線路も真っ直ぐなものだけにしてさ。前にフィンが『道は真っ直ぐだけじゃなくてカーブもあるから、車輪も工夫して作る』みたいなことを言ってたじゃない。もう車輪は回ってるんだし、真っ直ぐ進むだけの蒸気機関車なら作れそうに私には見えるんだけど」


「ああ、確かに。実際に機関車を走らせる実験にもなるし、小さいものを1つ作ってみてもいいね」


 フィンが言うと、ハミュンがフィンに駆け寄って手を掴んだ。


「フィン様、作りましょう! ちっちゃな機関車、見てみたいですっ!」


「よし、分かったよ。ゴーガンさん、やってみましょうか」


「おう、いいぞ。これは作ってて面白いし、まるで新しいおもちゃを作ってるような気持ちになるな。子供くらいなら乗れる程度の大きさで作ってみるとするか」


 フィンとゴーガンの言葉に、ハミュンとルナが「やったね!」と両手でハイタッチした。

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