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【すずの木くろ】バフ持ち転生貴族の辺境領地開発記  作者: すずの木くろ【N-Star】
第2部
33/61

第33話 聖人

 エンゲリウムホイスト村を出発して5日後、フィンたちは峠を越えてライサンドロスへとやってきた。


「はあ、なんだかすごく久しぶりだね」


 御者台で手綱を握るフィンが、両隣に座るメリルとフィブリナに言う。

 ずっと馬車の客室に乗りっぱなしだと飽きてしまうので、フィンたちは交代で手綱を握って街までやって来たのだ。

 清々しい外の景色を眺めながら馬を操るのはなんとも心地よく、三人はあれこれおしゃべりしながら久々の旅を満喫していた。

 ちなみに、ハミュンも付いてきたいとせがんだのだが、学校での勉強優先ということで村に置いてきた。

 ハミュンはかなり渋っていたのだが『秘書になるからには、勉強が何よりも大事』とフィンが言うと、渋々納得して引き下がった。


「ほんとだよね。ずっと村にいたから、街の生活を忘れちゃいそうだよ」


 フィンの言葉に、メリルが微笑む。


「でも、街や王都で暮らしていた時よりも、村での生活のほうが私は楽しいな。今の仕事、すっごくやりがいがあるもん」


「私もそうね。村の皆に必要とされてるのを肌で感じるし、少しずつ村が発展していく様子を毎日見ていられるし。なんだか、人生の目的を見つけられた気がするわ」


「あ、姉さん、いいこと言うね!」


 メリルがにこっと微笑む。

 フィンも同意して頷いた。


「うん、僕もそう思う。いい人生を送らせてもらってるなぁって、毎日サウナ風呂で疲れを落としてるとしみじみそう感じるよ」


「ふふ、フィンったら、なんだか表現が爺臭いわよ」


「えっ、そう?」


「うん。何だかお爺さんみたい」


「あはは。確かにそんな感じかも。記憶が戻ってから、妙に落ち着いた雰囲気になっちゃったし」


 クスクスと笑うメリルとフィブリナに、フィンが苦笑する。


「まあ、一応二度目の人生だからね。ストレス耐性の限界確認テストみたいな毎日を送ってた前世と、どうしても比べちゃうんだよ」


「なら、今度の人生は、なんとしてもいいものにしないとね!」


 メリルがにっこりと微笑む。


「うん、そのためにも頑張るよ。メリルもフィブリナ姉さんも、絶対に幸せにしてみせるから」


 メリルが一瞬きょとんとした顔になる。

 そして、みるみるうちに頬を赤らめた。


「な、なな、何を急にそんなこと言ってんの! 王族じゃあるまいし、ふたり同時にってわけ!?」


「え? ……あ! い、いや、そういう意味じゃなくって! 言葉の綾だよ!」


「はあ!? じゃあどういう意味よ!?」


「な、なんで怒るんだよ。別に深い意味は……フィブリナ姉さん、何とか言ってやってよ」


 フィンがフィブリナに目を向ける。


「そうねぇ、ちゃんとお返事しないといけないわね」


 フィブリナは艶っぽくそう言うと、フィンに向かって体を向け直した。

 膝に両手で三つ指を付き、可愛らしく微笑む。

 頬が、少し赤くなっていた。


「フィン様、ふつつかものですが、末永くよろしくお願いしますね」


「えっ、あ、はい。よろしくお願いします」


 条件反射でフィンが頷くと、メリルは焦り顔になった。


「ちょっ!? 姉さん、なに言ってるの? フィンも、なに応えてるのよ!」


「だって、フィンだったら旦那様になってもらうのに申し分ないもの。だから、早い者勝ち。ね、フィン?」


「え、ええと……」


「ああ、子供は何人作ろうかしら。私、大家族に憧れてるのよね。フィンは何人欲しい?」


「もう! 姉さん、いい加減にしてよ! フィンもなんとか言いなさい!」


「な、なんとかって言ったって……というより、なんなんだよこの状況は!」


 その後もメリルがぎゃーぎゃー騒いでいると、フィンたちの乗る馬車に気づいた街の人々が次々に駆け寄ってきた。


「フィン様!」


「フィン様、お帰りなさい!」


「おーい! フィン様が帰って来たぞー!」


 近くにいた人々が、わっとフィンたちのもとに集まる。

 あっという間に、馬車の周囲は黒山の人だかりとなった。


「フィン様! 私たちのために数々の施策、本当にありがとうございます!」


「市民税は3割引きになるし、石炭の無料配布まで最近始まって、本当に助かっています! ありがとうございます!」


「いただいたお芋と麦、すっごく美味しかったです! いつか、私たちもエンゲリウムホイスト村に行かせてください!」


 集まった人々が、次々にフィンに感謝の言葉を述べる。


「え、えっと……いえ、喜んでもらえてよかったです」


 フィンは混乱しながらも、人々に笑顔で答える。

 どうやら、早くもオーランドは領地の大幅な改革に取り組んでいるようだ。


「市民税が3割引き、それに石炭の無料配布って……。オーランド様、思い切ったことやってるのね」


「本当ね……何だかその施策はフィンが主導したことになってるみたいだし。オーランド様、自己顕示欲がないのかしら……」


 メリルとフィブリナが小声でフィンに言う。


「う、うん。全然知らなかったよ。オーランド兄さん、そんなことやってるなら、手紙で教えてくれればよかったのに」


「こら、道を塞ぐんじゃない! 馬車が通れないだろうが!」


 馬車の前を進んでいたカーライルが見かねて、馬上から大声を張り上げる。 

 他の騎兵たちが人々を誘導し、道を空けさせた。


「フィン殿、さあ、今のうちに」


「カーライルさん、すみません」


 フィンは手綱を握り直すと、馬車をライサンダー家へと進めるのだった。



* * *



 フィンたちがライサンダー家の門をくぐると、オーランドが使用人たちとともに玄関から出てきた。

 どうやら、街の騒ぎに気付いて出迎えに出てきたようだ。


「フィン、おかえり」


 オーランドがにこりと微笑む。

 侍女や使用人たちも、一斉に「フィン様、おかえりさいませ!」と声を張り上げた。

 使用人の数が以前よりも増えており、新顔がたくさんいる。


「オーランド兄さん、ただいま戻りました。すみません、大騒ぎになっちゃって……」


 フィンが馬車から降り、背後をちらりと見る。

 門の外には大勢の人々が押しかけており、いまだにフィンを褒めたたえる声を上げていた。


「あの、彼らが言っていたんですけど、市民税を減額したうえに石炭の無料配布をしているとか」


「ああ。石炭と銀の採掘で大儲けできているからな。領民に還元するのは、統治者として当然の責務だ」


「その、全部僕がやった、みたいに彼らが言ってるんですけど、どういうことなんですか?」


「ん? 領民には本当のことを伝えているだけだぞ?」


 オーランドが当然といった様子で言う。


「石炭鉱床が見つかったのも、銀が採掘できているのも、全部フィンのおかげだからな。何も間違ったことは言っていないと思うが」


「で、でも、あえてそれを宣伝しなくても。オーランド兄さんが領主として行った施策じゃないですか」


「確かに施策の指揮は俺が執ったものだが、それができたのはお前のおかげだ。エンゲリウムホイスト村の宣伝にもなるし、お前を重用すると決めた王家の顔を立てることにもなる。領民はライサンダー家に感謝して協力的になるし、いいことずくめじゃないか」


 オーランドがフィンの肩をぽんと叩く。


「お前はただ、胸を張っていればいいんだ。ただし、慢心はするな。これからも国と領民たちのために、利己的な考えは持たずに精一杯頑張れ。それが、貴族というものだ」


「せ、聖人だわ、この人……」


「ロッサと血を分けた兄弟だなんて信じられないわね……」


 フィンの後ろで、メリルとフィブリナがひそひそと話す。

 フィンも口には出さないが、確かに、と内心頷いた。


「それにしても、フィンが早めに戻って来てくれてほっとしたよ。レイニー様の出迎えに、ギリギリ間に合ったな」


「え? レイニー様の到着って、確か三日後じゃなかったでしたっけ?」


「いや。明日の夜にお着きになられると、急に連絡が来てな」


「あ、明日ですか。二日も早まってますよね?」


「そうなんだよ。なんでも、レイニー様はエンゲリウムホイスト村に行くことを非常に楽しみにしておられるようでな。急遽予定を繰り上げたらしいんだ」


「そうなんですか。早めに出て来てよかった……」


 王都で会ったレイニーの顔を、フィンが思い浮かべる。

 あの時は、フィンの前世の話にやたらと食いついてきて、終始質問攻めに遭っていた。

 これから村で一緒に生活するとなると、何をするにも付いて回られることになるだろう。

 相手は王族なので、絶対に失礼のないように気をつけねば、とフィンは気を引き締めた。


「さて、長旅で疲れただろう。風呂の用意ができているから、まずは汗を流すといい」


 オーランドが背後の侍女をちらりと見る。

 以前、フィンにクッキーを渡してきた若い侍女だ。


「フィン様、メリル様、フィブリナ様、長旅お疲れ様でした! こちらへどうぞ!」


 侍女がフィンに駆け寄り、フィンの顔だけを真っ直ぐに見ながら頬を染める。


「……あの娘、やっぱりフィンのことを狙ってるわ」


「ものすごく、あからさまよね……」


 ぼそぼそと話すメリルとフィブリナの声を背に受けながら、フィンは侍女に愛想笑いをするのだった。

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