第25話 近衛騎士たちとの野営
「フィン様、王都ですよ、王都! 楽しみですね!」
ガタガタと馬車に揺られながら、ハミュンが嬉しそうな顔をフィンに向ける。
馬車に乗っているのは、フィン、ハミュン、メリル、エヴァだ。
エヴァは実家に帰省したいと申し出てきたので、王都へ行った帰りに再び合流して村に戻るという約束で連れてきた。
家族に一度、村での暮らしを話して聞かせたいらしい。
「きっと、すんごい大都会なんでしょうね! ああ、早く着かないかなぁ」
「ハミュンが想像しているより、もっと都会だと思うよ。ライサンドロスなんて比べ物にならないくらい栄えてるからね」
「そうなんですか! うう、楽しみですっ! フィン様はどうしてそんなに落ち着いていられるんですかっ!?」
ハミュンの口ぶりに、フィンが苦笑する。
「そりゃあ、10年間も住んでたんだもの。いまさらわくわくはしないよ」
「あ、そうでしたね! ……あれ? 10年ってことは、フィン様は何歳から王都へ行っていたんですか?」
「8歳からだよ。貴族の子供は、全員8歳になったら親元を離れて王都の学生寮で生活しないといけないんだ」
それを聞き、ハミュンがぎょっとした顔になる。
「は、8歳からですか!? いくらなんでも、早すぎなような……」
「だよね。でも、祝福を持つ人間がその力で好き勝手するような人物にならないように、小さい頃から学校で一貫教育をするんだ。祝福を悪用したりしないように、小さい頃からしっかり教育するんだよ」
貴族の持つ祝福の力は、ものによっては非常に強力だ。
使い方によっては人を殺めてしまうこともあるし、期せずして事故を引き起こすこともある。
そんなことにならないように、貴族の子供は小さい頃から“祝福を正しく使う人物になるように”教育を施されるのだ。
「そ、そうなんですね……そんな小さなころから家を出ないといけないなんて、貴族様って大変なんですね……。メリル様もエヴァ様も、貴族学校に通っていたんですよね?」
「うん。10年間きっちり通ってたよ。ほんと、大変だった」
「お勉強が、ですか?」
「うん。食事のマナーとかダンスとか、座学以外にも覚えないといけないことが山ほどあるんだ」
「そ、そんなことまでやるんですか。大変そうです……」
「大変だよ、学期末にはテストがあるし、不合格になると季節ごとのお休み返上で補習を受けないといけないし」
フィンがそう言うと、エヴァが懐かしそうに目を細める。
「ほんと、懐かしいですね……。それに、12歳からは祝福のおおまかな種類ごとに分けられて、将来関わるかもしれない仕事についても勉強させられるんですよ」
「へええ! 本当にいろんなことを勉強できるんですね! 祝福ごとに、ですか!」
「ええ。私、ずーっとお茶の淹れかたとか、観賞魚の育てかたとかを習ってましたよ。楽しかったなぁ……」
「すごいですね。卒業してからも、学校で勉強したことでお仕事ができちゃうんですね」
「そうなんですよ。でも、私の場合は、両親も同じことを学校で勉強していたので、なんだか損した気が……。自分の好きな科目も選べたらいいのに」
「あ、そうだ。フィン、王都に着いてからのことだけどさ」
話の流れを断ち切って、メリルがフィンに話を振る。
「陛下との会食って、私たちは出ちゃダメなのかな?」
「んー、どうだろ……。誘われてるのは僕とオーランド兄さんだけだし、ちょっと難しいんじゃないかな」
「そっか、そうだよね……」
「あっちに着いたら聞いてみようか?」
「えっ。でも、失礼にならないかな?」
「聞くくらいなら大丈夫でしょ。直接陛下に聞くわけでもないんだし」
「そうかな……じゃあ、聞いてみてもらってもいいかな?」
「うん」
「……あれ? メリル様、今、私“たち”って言いました?」
「うん、言ったよ? ハミュンちゃんだけ置いてけぼりにするわけないでしょ」
当然といったふうにメリルが頷く。
「い、いやいやそんな! 私、ただの平民ですから! いくらなんでも無理がありますよ!」
「でも……」
「私は大丈夫ですから、お二人で行ってきてください。私は大人しくしているので」
「うーん……フィン、やっぱりさっきの話はいいや。私も待ってる」
「まあまあ、2人とも一緒にお願いできないか、聞くだけ聞いてみるからさ」
そんな話をしながら、馬車は山道をゆっくりと進んでいくのだった。
***
数時間後。
日も暮れてきたということで、山の中で野営をすることになった。
騎士たちは手慣れた様子で天幕を張り、今は薪拾いをしている。
フィンたちは夕食の支度の担当だ。
「皆さん、夕食ができましたよー!」
フィンの呼びかけに、騎士たちが戻ってくる。
メニューは、村から持ってきたローストポーク、ふかし芋、パン麦のおかゆだ。
皆が皿に盛られた料理をみて、怪訝な顔になる。
「フィン殿、その肉は村から持ってきたものか?」
「ええ、そうですよ」
「失礼だが、この気温の中運んできたのでは傷んでいると思うのだが……」
カーライルの言葉に、騎士たちが一様に頷く。
塩漬け肉なら別だが、そうでない限りは肉類はすぐに傷むのが常識だ。
事実、皿に盛られている肉は黒ずんでおり、どう見ても傷んでいた。
「それは大丈夫です。メリル、お願い」
「うん、任せて」
メリルが料理に手をかざす。
すると、ローストポークがぼんやりと光り輝き、みるみるうちに焼き立てのような色合い取り戻した。
あっという間の出来事に、騎士たちがぎょっとした顔になる。
「なっ! い、今のは彼女の祝福の力か?」
「ええ、そうです。食料品質の向上の祝福です」
「そ、そうか……フィン殿の祝福でメリル殿の祝福をA+に強化したというわけか」
「はい。出来立ての状態にまで戻りました」
「フィン殿の祝福は、誰のものでも強化できるのか?」
「おそらくは。強化できなかったことは、今のところ一度もないので」
「そうか……。ふむ、すさまじい祝福だな」
「どうぞ食べてみてください。出来立てにまで鮮度が戻ってますよ」
フィンからフォークを受け取り、カーライルが肉を一切れ頬張る。
「……確かに、まるでたった今作ったような味だ。これは便利だな」
「でしょう? どんな食べ物でもすぐに新鮮な状態に戻せますから、本当に重宝してます。あと、加工前の材料なら最高品質にまで変化させられるんですよ」
「ああ、それは私も聞いたことがある。食料品質の向上の祝福は、なにかと便利らしいな。このパンと芋は、祝福をかけてあるのか?」
「はい、どうぞ食べてみてください」
騎士たちが皿を手に取り、芋やパンを口にする。
数回咀嚼し、皆が同時に「おお!」と声を漏らした。
「こ、この芋、めちゃくちゃ美味いな……」
「ああ、パンもなかなかだが、芋がすごいな……」
「こんなに美味い芋がこの世にあったのか……」
皆が口々に芋を褒めたたえる。
パンよりも芋に感想が集中しているのは、パンの焼き方の問題だろう。
素材は最高級品だが、パン焼きの腕はさすがのメリルもプロ並みとはいかないからだ。
「むー。灰焼きパン、結構自信あったんだけどなぁ」
「あ、いや、パンもかなり美味いぞ。これほどの味なら、王都のレストランでも通用するだろうな」
「うんうん、メリルの焼くパンはすごく美味しいよ。なんだか、食べててほっとするって言うか」
「そ、そう?」
「むむ……フィン様、私も灰焼きパンは得意なんですよ! 村に戻ったら焼きますから、食べてみてください!」
「あ、そうなんだ。楽しみにしてるね」
「はい!」
そうして皆でわいわいと騒ぎながら、夕食の時間は過ぎて行くのだった。




