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【すずの木くろ】バフ持ち転生貴族の辺境領地開発記  作者: すずの木くろ【N-Star】
第1部
23/61

第23話 サウナ風呂

「はあ、びっくりしました。フィン様と一緒にお風呂なんて……はうう」


 まだ少し顔を赤くしているハミュンが、頭から煙を出している。


「もう、フィンったら冗談に品がないんだから。あとできつく言っておくからね」


「え、冗談……だったんですか?」


 ハミュンがきょとんとした顔になる。


「冗談に決まってるでしょ。……え、真に受けちゃったの?」


「はい……なんだ、冗談かぁ。はあ」


 そう話ながら歩いていると、風呂小屋の傍で数十人の女性陣に囲まれているエヴァを見つけた。

 2人して、彼女の下へと歩み寄る。


「エヴァさん、お洗濯ご苦労様。今日も大量?」


「メリルさん。はい、今日もすっごい量ですよ。まだこれでも、3分の1くらいらしいです」


 彼女の前にはいくつもの洗濯カゴが置かれ、どれも汚れた洗濯物で山積みになっていた。

 近くには大きな水桶が置かれていて、皆その中でじゃぶじゃぶと洗濯をしている。

 よく見てみると、桶の中の水はぼんやりと青く光り輝いていた。


「いつ見ても不思議よね……。いくら洗っても水が汚れないなんて。落とした汚れはどこに消えてるのかしら」


「ですね。我ながら、何がどうなってるのかさっぱりわからないです」


 エヴァの祝福で常に水が浄化されるため、どんなに汚れた衣服を洗っても水はすぐに透き通る。

 彼女がいるおかげで、村人たちは洗濯をするためにわざわざ川まで行く必要がなくなったのだ。

 それどころか、ある程度水洗いをして濡れた洗濯物に彼女が祝福をかけると、ちょっとした泥や汗の汚れならまとめて消え去るのである。

 ちなみに、この辺りの地域は今の時期は比較的空気が乾燥しているため、夜に干しても朝までには乾いてしまう。

 女性たちは洗濯が終わったそばから、物干し竿にそれらを掛けていっている。


「前にフィンが言ってたけど、これは『洗濯革命』って言っても過言じゃないわね。今までとは、手間が雲泥の差だわ」


「私も、まさか祝福がお洗濯に使えるなんて思いませんでした。フィン様って、家庭的なところにも目が向くんですね」


「ほんとよね。焼いた石灰が乾燥剤になるとか、水を温めるのに使えるとか。いろんなことを知ってて確かにすごいんだけど、視点が所帯じみてるっていうか……」


「前世の記憶、でしたっけ。どんな生活をしていたのか、すごく気になりますよね。……あ、お二人は今からお風呂ですか?」


「うん。今日は早目に入ることにしたの。エヴァさんは?」


「私はお洗濯が終わってから、皆さんと一緒に入ろうかなって」


「そっか。それじゃ、先に入らせてもらうね」


「はい、ごゆっくりどうぞ」


 エヴァに見送られ、メリルはハミュンと女性用の風呂小屋の中へと入る。

 小屋の中は脱衣所、サウナ風呂、洗い場の3つに分かれている。

 サウナ風呂でたっぷり温まった後、洗い場で水浴びをして汗と汚れを洗い流すのだ。

 脱衣所で服を脱いで棚に置き、タオルを手に引き戸を開いて浴室へと入る。

 隅ではかまどにかけられた大鍋で湯が沸かされており、むわっとした熱気が2人を包む。

 部屋の広さは縦4メートル、横1メートルという長細い造りで、上段と下段に分かれて腰掛けられるように段になっている。

 壁に掛けられた3つの豆油ランプの灯りが、室内をほのかに照らしていた。


「はあ、温かい。お湯に浸かるお風呂もいいけど、サウナ風呂も気持ちいいよね」


 奥の下段に腰掛け、メリルがため息をつく。

 ベンチにはタオルが敷かれており、そこからじんわりとした温かさが腰へと伝わっていく。


「ですねー。こう、体中の疲れがゆっくり外に溶けだしていくみたいな感じがします……。メリル様、お水飲みますか?」


「うん、もらおうかな」


 ハミュンが席を立ち、入口に置かれている水瓶に向かう。

 柄杓で水を汲み、置かれていた木のコップに入れてメリルに手渡した。


「ありがと。……んー、美味しい」


「このお水、本当に美味しいですよね! ハーブでお水がこんなに美味しくなるなんて、全然知りませんでした」


 水にはスノウが持ってきたハーブが漬けられており、爽やかな香りが鼻孔をくすぐる。

 毎日夕方になると、皆でこうしてハーブティを飲みながらのんびりと汗を流すのが恒例となっていた。

 ハーブにはメリルが祝福をかけているため、味だけではなく香りも極上のものだ。


「水出しする時間とか、淹れるハーブの組み合わせでも全然違ってくるらしいよ。私も今度教わろうかなぁ」


「あ、私も教えてもらいたいです! 美味しいお茶が淹れられるって、何だかおしゃれな感じがしますし!」


 そうしてしばらく話していると、戸が開いてフィブリナとスノウが入ってきた。


「あ、姉さん。怪我しちゃった人は大丈夫だった?」


「ええ。太い血管まで切っちゃってたけど、すぐに元どおりに治ったわ。でも、すごく血が出ちゃってたから、何日かは家でゆっくり休むように言っておいたの」


「そっか。出ちゃった血までは元どおりにはならないもんね」


 フィブリナの強化された祝福『傷の治癒(A+)』は、たとえ神経が切れていようが骨が砕けていようが、ものの数秒で治癒できるというすさまじいものだ。

 今日の怪我人も普通であれば命に関わるが、彼女のおかげでたいした騒ぎにもならずに元どおりに治癒できた。

 すでに彼女は、この村に欠かせない存在となっていた。


「そうなのよね。なくした分はたくさん食べて補わないと。血を作るのに、お肉が手に入ればいいのだけれど」


「なら、イノシシとかネズミを捕まえないとですね!」


 ハミュンの発した『ネズミ』という単語に、3人が「うっ」と顔をしかめる。


「そ、そうね。でも、できればネズミよりイノシシがいいかしら」


「う、うん。ハミュンちゃん、イノシシがいいよ。大きいし、食べごたえもあるしさ」


 村ではネズミも捕まえれば焼いて食べるのが普通なのだが、ライサンドロスや王都では捕獲してもゴミ扱いである。

 ネズミというだけで、3人ともとても食べる気が起きなかった。


「イノシシですか。あれは捕まえるのがすごく難しいんですよね……。罠で何かいいものがないか、あとでフィン様に聞いてみます!」


「でも、フィン様っていろんなことを知っているけれど、動物の捕まえ方まで知ってるんでしょうか」


 心配げに言うスノウに、ハミュンが元気に頷く。


「大丈夫です! フィン様なら、もし知らなくてもきっといい方法を考えてくれますから!」




***



「ですって。フィン様、何かいい考えはおありですかい?」


 隣で頭を抱えているフィンに、中年の男が小声で笑いかける。

 フィンも他の男たちと一緒に、サウナに入っているところだったのだ。

 建屋自体が真ん中を間仕切りして女性用の風呂と分けているため、話の内容はほぼ筒抜けである。


「いや、罠の作り方なんてわからないですよ……。ディスカバリープラネットで少し見たことはあるけど、構造なんて覚えてないしなぁ」


「そしたら、あとで何とかして皆で考えてみましょうや。大体の形がわかってるなら、少し考えれば作れたりするんじゃないですかい?」


「う、うーん。どうだろ。罠って、そんな簡単にできるものなのかな……」


「もしくは、あれだ、餌を置いておいて、それを食べに来たやつを皆で捕まえるってのはどうですか?」


「餌……ああ! その方法があったか!」


 別の若い男の提案に、フィンが顔を上げた。


「塩を使いましょう。山の中に塩を撒いておいて、その下に網罠を仕掛けておくんです」


「塩ですか? イノシシが、その塩を舐めに来るってことですか?」


「そうです。野山の動物は、塩があればそれを舐めに来る習性があるんですよ。確か、人のおしっことかを撒いておいても、それに含まれる塩分を舐めにくるはずです」


 フィンの話に、皆が「ほう」と感心した声を上げる。


「そんな方法が……。それも、その“ディスカバリープラネット”ってやつで見たんですか?」


「ええ、あの番組本当に好きで……。ああ、もう一度見てみたいなぁ。本当に面白かったんですよ」


「そんなにですか。俺も見てみたいなぁ……。あ、フィン様、そのテレビってやつも何とか作ってくださいよ」


「いや、無茶言わないでくださいよ。何でも屋じゃないんですから」


「でも、ハミュンちゃんはそうは考えてないみたいですよ?」


「うう、そうなんですよね……期待してくれるのは嬉しいんだけど、もう少し控えめにしてくれると嬉しいんだけどな……」


 げんなりした様子で言うフィンに、男たちの笑い声が響くのだった。

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