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【すずの木くろ】バフ持ち転生貴族の辺境領地開発記  作者: すずの木くろ【N-Star】
第1部
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第15話 ハミュンとの約束

 翌日の昼。

 村に帰り着いたフィンたちは、領主邸の前に村人たちを集めていた。

 フィンは、近日中にスノウが移住してくるという話と、彼女が来るまでにしておかなければならないことを話して聞かせる。


「彼女が来たら、果物の品種改良と並行して村中の作物に成長促進の祝福をかけてもらいます。食料を大量生産して、それをメリルが高品質化したものを他領で売り、今後の施策の資金にします。そのためには大量の肥料が必要になるので、皆さんにはロッサ兄さんと協力して準備をしてもらいたいんです」


 フィンが隣のロッサに目を向ける。

 ロッサは頷き、村人たちに顔を向けた。


「俺の祝福を使えば、落ち葉だろうが廃材だろうが、なんだって腐らせて肥料に変えられる。生き物以外なら何でも腐らせられるから、どんどん俺のところに持ってきてくれ。これでもかっていうくらい、肥料を作りまくらないといけないからな」


 ロッサがそう言って、手に持っていた小枝を目の前にかざす。

 彼の祝福によって小枝は黒い霧に包まれ、あっというまにボロボロと崩れて土になってしまった。

 皆が、おお、と大きくどよめく。


「こ、これはすごいですな……。野菜の皮とか、使い古した布とかでも大丈夫なのですか?」


 村長のアドラスが聞くと、ロッサはにっと笑って頷いた。


「ああ、なんでも大丈夫だ。石とか金属以外ならなんでも肥料に変えられるから、生ゴミでもボロ布でもなんでもいいから持ってきてくれ。肥料が雨で流れちまうといけないから、屋根のある場所に貯めるのがいいかな」


「それなら、小屋を新しく作らないといけませんな。さっそく作業に取り掛かりましょう」


「あ、兄さん。例えばだけど、枝全体じゃなくて真ん中だけを腐らせたりとかはできるの?」


 ふと思いつき、フィンがロッサに聞く。


「できるぞ。腐らせた周りは、ちょっと小汚くなるけどな」


「なら、木材の切断とか加工も手伝ってよ。兄さんが加工すれば、すごく早く小屋が作れるんじゃない?」


「いいけど、あんまり見てくれは良くないと思うぞ? 何せ、腐って切り落とすわけなんだからさ」


「別にいいって。今は作業効率優先で進めないとだし」


「そっか、それもそうだな。それじゃあ、始めるとするか」


 ロッサは村人たちを引き連れて、近場の森へと向かっていく。

 去っていく皆を見送っているハミュンに、フィンが小首を傾げた。


「あれ、ハミュンは一緒に行かないの?」


「はい! 私、フィン様のお手伝いがしたいんです!」


「手伝いって、僕はこれから手紙作りをするんだけど……」


 村に戻ってくるまでの間、フィンたちはオーランドから預かった領内の貴族のリストを見て、登用する者の目星をつけていた。

 領内には数十人の貴族がおり、そのほとんどがE+やEといった弱い祝福を持つ者たちだ。

 EやE+の祝福は商売につながるほどの効果を持たないことがほとんどで、一般市民と同様の仕事に就いている者たちが大半である。

 本来ならばすぐにでも彼らの下に出向きたいところではあるのだが、教会からの指示でフィンは村を離れることができない。

 そのため、オーランド伝いに登用の話を持ち掛けてもらうのだ。

 話を持ち掛けても、皆がスノウのようにすぐに返事をくれるとは限らないので、こういった話があるので検討して欲しい、と伝えておくのである。

 ちなみに、スノウに会うために出向いたフィリジット家は、弱い祝福を持つ貴族としては珍しく、他の貴族相手に商売をしている。

 水の成分を変質させたり浄化させたりする祝福を使い、上質なお茶を振舞っては手間賃を貰っているとのことだ。


「声をかける貴族様って、駅とか電車を作るのに協力してもらえそうな人たちですよね?」


「ううん。今のところは、開墾とか金属加工に役立ちそうな祝福を持ってる人たちだけだよ。駅とかは、まだ少し先の話だね」


「そうですか……」


 あからさまにがっかりして肩を落とすハミュンに、フィンが苦笑する。


「とりあえずは、今できることから始めないといけないからね。まずは、今ある農産業を底上げしないといけないからさ」


「ハミュンちゃん、心配しなくても、フィンは約束を破ったりしないって。1つ1つ順番にやらないといけないから、少し時間はかかっちゃうかもしれないけど、ちゃんと最後までやりとおすから。だよね、フィン?」


 メリルがにこっと微笑み、フィンを見る。


「うん、もちろんだよ。僕たちも頑張るからさ、ハミュンも一緒に頑張ろう?」


「フィン、ハミュンちゃんには、事務仕事のお手伝いをしてもらったらどうかしら?」


 フィブリナの言葉に、メリルも頷く。


「あ、それがいいね! お仕事を手伝ってもらいながら、フィンがサボらないように見張っててもらおっか!」


 2人が言うと、ハミュンは勢いよく顔を上げた。

 キラキラした瞳で、フィンを見る。


「えっ! ほ、ほんとですか!? フィン様の傍でお手伝いさせてもらっていいんですかっ!?」


「うん、もちろんいいよ。それじゃあ、ハミュンには僕の秘書になってもらおうかな?」


「やった! フィン様、ありがとうございます!」


 万歳して大喜びするハミュン。

 そしてすぐ、はて、といったような顔になった。


「えっと……秘書って何ですか?」


「んー、簡単に言えば、僕のことを一番近くでいろいろ手伝ってくれる人のことだね。すごく忙しい仕事になると思うけど、やってくれるかな?」


 フィンが聞くと、ハミュンは即座に頷いた。


「はい! 私、頑張ります! なんだってやりますから、たくさんお手伝いさせてください!」


 勢い込んで言うハミュンに、フィンも笑顔で頷く。

 人頼みではなく、できる限り手伝おうという姿勢は実に素晴らしい。

 せっかくやる気があるのだから、その気持ちを汲んであげたい。

 平民だとか貴族だとか、この村では関係なく目的に向けて進んでいきたいとフィンは考えていた。


「よかった。じゃあ、まずは秘書になるための準備をしないとね」


「準備、ですか?」


「うん、準備。秘書っていうのは、読み書きができないと話にならないんだ。だから、まずは文字を完璧に読み書きできるように勉強しないとね」


 うっ、とハミュンがたじろぐ。

 それを見て、メリルが少し意地悪な顔になった。


「ハミュンちゃん、秘書ってすごく大変な仕事だよ。秘密は守らないとだし、フィンの代わりにいろんな人と交渉できるようにもならないといけないんだから」


「え、ええっ!? そんなことまでするんですかっ!?」


 焦り顔になるハミュン。

 そんなやり取りに、フィブリナが苦笑する。


「メリル、意地悪しないの。ハミュンちゃん、大丈夫よ。そういうことをするのは、しばらく続けて慣れてきてからだから」


「は、はい! 頑張ります!」


「うん、よろしくね。それじゃあ、まずは勉強しないとだね。僕たちが代わりばんこで毎日見るから、頑張ろうね」


「が、頑張ります……」


 途端に声のトーンを落とすハミュンに、3人の笑い声が響くのだった。



 ***



 その日の夕方。

 フィンはハミュンと2人で、水桶を手に村の傍を流れる川へと向かっていた。

 水を汲みに行くというハミュンに、フィンが手伝いを申し出て付いてきたのだ。

 他の皆はまだ仕事を続けており、メリルとフィブリナは夕食作りに取り掛かっている。


「はー、何だか頭がふらふらします……」


 ハミュンが額に手を当て、大きくため息をつく。


「結構長い時間、集中して勉強してたもんね。どう? 頑張れそう?」


「はい、頑張れます! フィン様の秘書としてお手伝いできるように、早く字を覚えないと!」


 ぐっと両方の拳を握り、気合を入れて見せるハミュン。

 ハミュンは勉強は苦手だと言っていたが、先ほどまで約4時間もの間、まったく休憩せずに読み書きの勉強を行っていた。

 覚えは確かにあまりよくない様子ではあったのだが、本人のやる気にはすさまじいものがあった。

 この調子で勉強すれば、きっとすぐに読み書きをマスターすることができるだろう。


「フィン様。私、頑張りますから! だから、他の人を秘書にしたりしないでくださいね?」


「はは、大丈夫だよ。ハミュン以外に、頼むつもりはないからさ」


「ありがとうございます! 精一杯頑張ります!」


 そんな話をしながら道を進み、数分で川へと到着した。

 川は幅3メートル程度で、深さは50センチ程度といったところだろうか。

 水は綺麗に澄んでおり、小魚もちらほらといるようだ。


「へえ、綺麗な川だね。魚もいるみたいだけど、捕ったりしてるの?」


「してますよ! もう少し山を下ると大きな池があるんで、そこに罠を仕掛けてカニとか魚を捕まえてます」


「罠か。どんなのを使ってるの?」


「網を使うんです。朝のうちに池に網を沈めておいて――」


 ハミュンが身振り手振りを交えて、罠の仕組みを説明する。

 朝のうちに沈めておいた網の上に餌を撒いておき、夕方にそれを引き上げて大きな魚やカニを捕まえているらしい。

 小魚は網の隙間から逃げていくので、取りすぎて数が減ってしまうといったこともないようだ。


「そうだ! せっかく村に戻って来たんですし、明日はお魚パーティーにしましょっか! ……フィン様? どうかしましたか?」


 何か考えている様子のフィンに、ハミュンが小首を傾げる。


「ん? いや、その池を観光資源にできないかなって思ってさ」


「えっ、どういうことです?」


「池をきちんと整備してさ、水遊びしたり、放した魚をつかみ取りしたり、焼き立ての魚を食べられるような施設を作ったら面白いかなって。前世の世界でそういうお店がけっこう人気あったから、こっちでも通用するんじゃないかなって思ったんだ」


「確かに面白そうですけど……それをするために、こんな場所まで人が来るでしょうか? それに、他の場所にも川とか池はあると思うんですけど……」


 いまいちピンとこないのか、ハミュンは困惑顔だ。


「王都みたいな都会には、そういうことができる場所がないからさ。こういう自然が豊かな場所ならではの遊びっていうのは、けっこう新鮮に感じると思うんだよね」


「そうなんですか……じゃ、じゃあ! 絶対に村に駅を作らないとですね!」


「うん、そうだね。この村には、絶対に鉄道が必要だよ。この村を中心に国中に鉄道網を広げて、人も物もすべてが集まる一大拠点にするんだ。この祝福の力を上手く使えば、きっと実現できる」


 フィンは力強くそう言い、ハミュンに目を向けた。

 ハミュンは少し驚いたような、戸惑ったような表情になっている。


「昨日、ハミュンと電車の話をしてからさ、僕なりによく考えてみたんだ。あの時は『あんまり期待はしないで欲しい』なんて言っちゃったけど、ハミュンの言うとおり、あちこちに簡単に行き来できる移動手段は絶対に必要だ。必ず、実現してみせるから」


「……っ」


「えっ、ちょ、ど、どうしたの!?」


 泣き笑いのような顔をするハミュンに、フィンが慌てる。

 目尻には涙が光っており、少し泣いてしまっているようだ。


「えへへ……ごめんなさいです。ちょっと、うるっときちゃって」


 ハミュンが指で涙をぬぐう。


「そんなに真剣にこの村のことを考えてくれてるんだって分かったら、嬉しくって。フィン様、ライサンドロスに行った時も、村に戻ってくる間も、それに今も、ずっと村のことを考えてくれてますよね」


 ハミュンが喜びと感動が入り混じったような微笑みをフィンに向ける。


「私、毎日同じことの繰り返しの、何も変わり映えしない生活がずっと続くんだろうなって思っていました。でも、フィン様が来てくださったおかげで、あっという間にすべてが変わり始めて……こんな奇跡みたいなことって、あるんですね」


「はは、そんなふうに言ってもらえると嬉しいよ。期待に応えらえるように、頑張るね」


 フィンは少し困ったように笑うと、ハミュンに右手を差し出した。


「だから、一緒に頑張ろう。皆で協力して、この村を大発展させるんだ。僕たちなら、きっとできる」


「はい!」


 ハミュンは元気に返事をし、しっかりとその手を握った。

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