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冬の蒼虎(1)

 舞鶴を出港する海上自衛隊戦闘護衛艦〈ながと〉。かつての帝国海軍で最も国民に親しまれていた名戦艦の名を次ぐこの戦艦は、かつてのステルス巡洋艦〈ズムウォルト〉とはまたちがう不気味さがある。氷山のような巨大な艦容。ステルシーかつ避弾経始まで考えられた装甲カバーに覆われた600ミリ速射レールガン15基と対空レーザー、重厚な装甲に守られた300セルもあるVLS(垂直発射機)、そして発電用原子炉からのエネルギーを貯めて急加速に使うフライホイールを装備した電気推進装置はこの排水量9万トンの巨艦を33ノットで推進できる。

 話だけ聞けば全くの時代錯誤に思えるこの巨大戦艦は、21世紀経済と政治が完全に行き詰まった末に起きた世界大戦世界の必然によって生まれた最新鋭兵器なのだ。

 なにしろこの戦艦は対艦ミサイルでは撃沈できないのである。航空機搭載の対艦ミサイルは質量が小さすぎて貫徹力に劣るのだ。それゆえかつてのソ連は時代錯誤に復活したレーガンの戦艦・〈ミズーリ〉級戦艦に驚愕した。〈ミズーリ〉もまた、大質量・大落角で襲いかかる重艦砲弾の物理エネルギー以外ではその装甲は破られない。対艦ミサイルは確かに〈ミズーリ〉を襲ったら、その上部構造物を痛めつけることはできる。華奢なレーダー、センサー、そういったものはすぐにぼろぼろになる。だが、装甲司令塔も砲塔も、機関や弾薬庫と言ったバイタルパートの装甲もそれでは撃ち抜けない。釣瓶撃ちしたところで止められない。9・11で高層ビルを破壊したように対艦ミサイルが火災を起こしてその装甲を熱で溶かし割ろうとしたところで、堅牢なバイタルパートに守られた乗員は砲撃戦の中でそれを消火してしまう。

 それゆえソ連は大型艦対艦ミサイルを装備しそれに核弾頭をつけたり、高速爆撃機バックファイアから度外れて大きな対艦ミサイルを撃ち込むことを考えたり、比較的に弱そうな艦腹を破るべく原潜艦隊に投資した。ソ連はどうやっても〈ミズーリ〉を追い返せる同じクラスの戦艦は作りようがなかったのだ。巡洋戦艦は作れた。しかし本物の戦艦、重防御の戦艦は作れなかったのだ。

 かつて戦艦はそういう戦略単位であった。存在するだけで大きな脅威であった。それを使い所を間違えて水底に束で送り込んでしまった帝国海軍は大きく批判されても仕方がない。大日本帝国海軍は米英への戦略よりも政争をおなじ日本陸軍と戦うことを考えざるを得ない『戦う役所』であったのだ。それゆえ負けるしかなかった。

 しかし、それを自力改革もできない。統帥権問題を盾にして予算をぶんどってしまったことがあとで逆に動きが取れなくなる原因にもなった。軍縮条約も頭に血を上らせてその裏をかこうとしたのに結果、無謀な建艦競争に歯止めがかからずただでさえ非力な日本経済を圧迫した。そして政府自身が統制経済でそれを解決しようとして民間経済を疲弊させ、その活路に満州に手を出し泥沼にハマり、さらに遠く離れた独伊と無理な同盟を組んで孤立し最後に石油禁輸で詰んでしまった。すでに終局であったのに戦艦や空母でそれを挽回できるわけもなかったのだが、それを自覚しても入り組んだ制度と空気のなかで誰もそれを言えない。言ったところで一笑に付される。そして本当に破滅するまでだれもみな方針を変えられない。どう考えても無能なのだがそれでも日本人はやりこみが得意、匠の技、などと日本人優位論という精神論でカバーできることにしてしまう。そんなもので戦争が勝てるわけがない。戦争は伝統工芸ではない。だからそもそも戦うべきではなかった。戦わずに欧米の南方植民地にじわじわと浸透し正面では屈服しながら密かにそれらを独立させるなんて事ができればよかったのかもしれない。だがそれも無理な話。歴史に『もし』はない。

 それは戦後日本も同じである。同じ轍は踏むまいと日米同盟を基軸にじわじわと力をつけてきた自衛隊。戦争の結果ほとんど失いのこりは駆逐艦数隻だけの帝国海軍から、再び空母とイージス艦を保有し、戦闘機も最新鋭のJSF、F-35を手に入れた。戦車もよく研究した10式戦車を頂点に揃えた。しかしその間にまた制度改革ができない行き詰まりになっていた。一度決めたら自分では変えられない。まるで旧軍の統帥権問題のごとく財政再建を盾にする財務省の横暴。それに連なって愚策を乱発する厚労省文部省。かれらは日本政府でありながら日本人を痛めつけることに喜びを見出しているとしか思えない愚策を、一帯一路を唱える中共という明白な脅威を理由に乱発し続けた。そして日本人はその中で腹を立ててその愚策の撤回のために改革する力も暴動でひっくり返すこともどちらもできないほど去勢されていた。追い詰められ苦しめられても聞き分けの良い国民であろうとした。そうすることが利口そうで無難で、楽だったからだ。しかし気づけば追い詰まっていた。先の大戦と同じである。あまりの愚策に反抗を言っても冷笑される。まさしく同じである。

 その間に国際情勢は目まぐるしく変わり、戦争が気づけば始まっていた。でも日本はそれを戦争とは呼ばないことにした。そうすれば日本は平和憲法も守れるし日本の国是や制度をいくつも守れるからである。まるで致命傷を受けても絆創膏を貼って「痛くない痛くない、ちちんぷいぷい」といっているに等しい愚かさなのだが、日本は真顔でそれを選んだ。実質的に空母であってもそれを多目的護衛艦だと言い張ってそれが意味があると信じ込んでいるうちに、沖縄が中国のものになった。


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