マルチロール(5)
だが、そのとき、灰色の影がさっとカット・インしてきた。
「!!」
「友軍機です!」
奇跡だった。友軍機が遠いここまで救援にきてくれたのだ!
アーセナルバードを守ろうとする敵機と、それを攻める友軍機の猛烈な空中戦になった。
「友軍機がこの混乱の中、ペアをしっかり組んでます」
「やっぱり、チームプレイでなきゃダメなのか」
「そうですね。でもここまでマルチロールらしい戦いは、できましたよ」
「そうだな。俺たちはツイてる! このままこの空域を脱出、帰投するぞ!」
「ええ!」
だがその時!
「!!」
ガクンとつんのめるような衝撃に襲われた。機体が流れ弾に被弾したのだ。
何という不運!
ブリッツの心臓、エンジンに致命的な損傷を受けたことを示す警報の赤いサインが一斉に点灯する中、大田原はすぐにコクピットの黄色い引手を引く。緊急脱出するのだ。
直後、射出座席に座ったまま、大田原はキャノピーを突き破って飛び出した。それより少し先に後席の竹崎が射出されたはずなのだが、どうやっても見えない。くそ、だめだったか……!
そして射出された大田原の落下傘が開いた。その降りていく彼の目の前で友軍機の猛攻を受けてアーセナルバードの巨大な機体が折れ、壮絶な断末魔の墜落を見せていた。
それと同じく、ここまで乗ってきたブリッツが、遥か彼方で堕ちていっている。
その引いていった悲しい一条の煙を、大田原は見つめる。
ーー最後まで、あいつは『駄作機』だったな。
大田原はそう思った。
しかし、こうも思っていた。
ーーだが、俺たちには、それでもあいつは『愛機』だった。