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あの星を守れ(6)

 そして無人機の群れが接近してきて、大乱戦が始まった。種子島射場を守ろうとする空自機に襲いかかる彼らに、恐怖や疑念を感じるメンタルはない。あるのは敵を打ち落とすのに最適なコースを算出し、葬るのに最適なタイミングで火器を発射するアルゴリズムなのだ。

 そしてAIと戦う人間はいつも独特な嫌な感触を味わう。AI臭い動きを感じた途端に人間はそれにとらわれるのだ。その現象についての分析はまだすすんでいない。だが、AIに兵器を任せることが人類のタブーであったのはこれを先駆的に感じていたからかもしれない。だがそのタブーは戦争のために破られてしまった。

 空自のパイロットはそれでも勇敢に戦う。そしてそれに無人機QF-2も従う。だが、残念ながら、そのロマンはこの時代の空中戦にはあまりにも古風で、そぐわないのだった。空自のパイロットはあまりにもそれには生身で人間っぽかった。そして怒りも苛立ちも悲しみも、全て判断に影響するのだ。そしてその判断の微妙な遅れとズレが次々と状況を悪化させる。まさに負の感情のスパイラルが起きていた。

 それを見越した中国空軍の猛烈な突進が始まった。空自パイロットはそれに向けてミサイルを撃ち込む。しかし相手は無人機、その槍衾に恐怖を感じる心もない。命令コマンドがあればしたがって最適なふるまいをするアルゴリズムしかないのだ。それに当然、苛立ちも怒りもないのだった。そして空自パイロットの負のメンタルにその猛烈な、捨て身の突進に対する焦りが重なった。空中での人間の判断は六分頭とよばれるように地上にいるよりも働かない。それに負のメンタルまで働いたのだから、熟練したはずの操作にミスが多発していく。

 それにさらにロケットの打ち上げ時間の接近というプレッシャーまで重なったのだからたまらない。それでもロケットの打ち上げを延期はできなかった。秒読みを止めようと考える打ち上げ要員もいたのだが、彼らもまた人間だったのだ。打ち上げのために無理なスケジュールになっていたのもそのミスを拡大した。

 それが敵機接近中の無謀な打ち上げになってしまった。冷静な自動秒読みとともにロケットが打ち上がり、液体酸素と液体水素の燃焼による白煙、正確には水蒸気をひいて上昇していく。その間近に戦闘機が迫る。空自か? 中国空軍か? しかしそのどちらでももう引き返せはしない。唯一できるのは管制破壊、自爆コマンドを送るだけなのだがそれでは全く本末転倒だった。

 そして接近した3機の戦闘機の識別マークが見えた。グレーの日の丸が2つ、グレーの星が1つ。中国空軍機がここまで来てしまっていた。そして空自の戦闘機が機銃とレーザーで狙う。だが、中国空軍機はすこしもそれを回避せずにロケットを追って上昇する。あとすこし、あとすこしでその射程からロケットが逃げ切れる!

 だが、ずたずたに撃ち抜かれた中国空軍機がその最期に放ったミサイルが、その願いを、空前のロケットの大爆発で吹き飛ばした。

 撃ち落とした空自の戦闘機がその大爆発に巻き込まれ、片方はもみくちゃにされ、もう片方は墜落した。そしてその脱出装置は働かなかった。


 雲を抜け群舞する戦闘機の群れの真ん中を登る白いロケットの煙が、空中で丸い爆発の瘤になって、そこからくるくると制御を失って狂ったブースターのねじれた4つの排煙になって落ちていく。

 あまりにも陰惨な打ち上げ失敗の風景だった。立ち直ることもできずに、パイロットたちは旋回を続けた。幸いそう彼らを屈服させたことに凱歌をあげる機能は、中国空軍の無人機のアルゴリズムにはないのだけが救いだったかもしれない。


 そして救いは、種子島射場の施設にも要員にも被害がなく、またこの空戦に貴重な海上自衛隊の空母〈いずも〉が巻き込まれなかったことだった。〈いずも〉はこの防衛戦に参加するはずだったのだが機関不調で参加できなかったのだ。原因はそれも詳しく見れば長くなったこの事態でのクルーの疲労によるヒューマンエラーだった。


 いつまで続く泥沼ぞ。日本の軍歌はほとんど反戦歌のような陰惨な風景を歌っている。日本のこれまでの強者達も、同じように心くじけてきたのだろうか。

 そう思うかれら空自パイロットの機体は、搭載したミサイルを撃ち尽くして軽くなっているのに、どこか重たいようだった。


 それでもこの戦い、戦争だと言わない戦争は続く。


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