No.8
No.8
トトカト村。人口約四百人弱の小さな村で、多種多様な種族が住む村でもある。
主な生産は麦。大豆などの穀物に野菜類。畜産は鶏。牛。山羊がいる。
その他に木々の枝葉と、名が付くこの村の近くには、自然豊かな森林が存在する。村の人達が定期的に森に住む獣を狩り。その命を恩恵として食している。
通貨は存在するが、田舎の村のトトカト村は欲しい品物などは物々交換が基本だそうだ。
通貨を使うのは定期的に来る行商人の品物を買う時か。もしくは村にある唯一の宿屋兼食事処や雑貨屋で使うぐらいだと聞いた。
「一面、麦畑だ……」
「秋頃になれば金色の穂が沢山実るよ」
今日はユーリ父さんと一緒にトトカト村へと向かっていた。
向かう理由はこの間約束したトトカト村にいる魔道具職人に会いに行くためだ。
その向かう途中で青々とした麦が植えられている場所を通る。
始めて見る自分の家の周り以外の風景。
その放牧的な風景を楽しみながら眺めていると。麦の世話をしている人がユーリ父さんに気がつき、挨拶をしにくる。
「こんにちはユークリウッドさま。今日はどうしたんですか?」
「こんにちはクランスさん。今日は息子をトトカト村に案内しようたかと」
「へぇー息子さんを…………息子、さん?」
何でみんなして同じ反応をするんだよ! どうせ俺は家族とは似てない顔付きだよ!
他誰も彼も俺の顔を見ると怪訝そうな顔をして、本当にお宅のお子さん? と言う表情をするのだ。
ユーリ父さんは苦笑して「実子ですよ。ほら、口元なんか似てるでしょう?」と、答える。だが決して誰に似ているなんて事は言わない。
そのうち泣くぞ!
「はじめましてロッソストラーダ家次男にて妖精族の、デュヴェルオブリス・ロッソストラーダと言います。今年で三つになります。どうぞよろしくお願いいたします」
泣くのを我慢して挨拶を済ませる。
そうするとクランスと呼ばれた獣人族の人がポカーンとした浮かべる。
「へ、へえ、こちらこそよろしくお願いいましますです。はい。……えっ? これで三つのお子さん…!? 村にいるガキ供よりやたらと出来が良いじゃないですかっ!?」
これもここまで来る間に見慣れた光景だ。
この村の人達はなんでみんな同じリアクションしかしないだ? 別に芸人根性を見せろとは言わないが、もう少し違ったリアクションを見せても良いと思う。
「はあー。なんかえらいおも、変わった顔つきの坊っちゃんと思いきや。賢い坊っちゃんですね……」
おい。いま『おもしろい』とか言おうとしなかったか? なんだ俺の顔がおもしろいのか? どうおもしろいのか言ってみろやあ! あぁん!?
失礼なおっさんに「お仕事頑張ってください」と、無難に声をかけ。トトカト村へと急ぐ。
「えらいしっかりしたお子さんだなぁ……。種がしっかりしてるからかねぇ?」
「どうしたんだぁ?」
「いや、いま領主様に会ってよぉーーー」
俺達が去った後。そんな話をしていた。と思う。
そして着くまでの間にも同じやり取りが何度もあったが。なんとかトトカト村へと到着。
到着すると先ず始めに村長さんのところに挨拶に行った。
まあ、ここでも来るまでに出会った村の人達と同じ反応をされたがな!
大人の精神の俺じゃなかったらグレて育つぞ、絶対。
「村長さんに挨拶は済ませたから、どうするデュオ? このままずくに目的の人のところへ行くかい? それとも村を少し見て回るかい?」
「村の中はその人の行く途中で見られる分で良いよ。早く行って、【収納箱】の魔道具が作れるか試さないと」
でなければ、一生ルー姉の荷物持ちをやらされそうな気がする。それだけは絶対に回避しなければならない未来だ。
「じゃあこっちだよ」
「ねえユーリ父さん。魔道具職人さんってどんな人?」
やはり職人と言うくらいだから昔気質な人だろうか? 見て覚えをと言うのは構わないが、頑固や偏屈な人だとやだな。
「ん、デュオも知っている人だよ」
ん? 俺が知っている。それでいて村に住む人? まさか……あの人か?
家の家族以外で知っている人と言えばそれほど多くはない。
その思い当たる人物を思い浮かべていると。
「こんにちはユークリウッドさん。今日はこちらにご用で?」
素朴な木の建物の前で掃き掃除をしていた。紺色の牧師が着るロングコートのような礼服(これなんて言うんだ?)を着た人族の男性。
スラッとした出で立ちに。やや長身の背丈。筋肉はコートを着ているため分からないが細身の、まだ若い二十代半ばくらいの人だ。
顔立ちはこの世界の基準は分からないが、地球に合わせれば平均的。
だがしかし。
この平凡的な要素を持ち合わせた人でも、一際目立つ部分がある。
そう、それは頭部だ。
頭のてっぺんがつるりんっと光ッているのである。
そしてその周りにだけは毛がある。
あえて言うならザビ〇ルスタイル。ザ〇エルって知ってるか? 日本にキ〇スト教を教えに来た宣教師だ。歴史の教科書に出てくるあのザビ〇ルだ。
よし。ザ〇エル押しはここらでいいだろう。
さて話を戻そう。この目の前にいる人が俺が家族以外で唯一知っている人。トトカト村の牧師ーーー
「ザーム牧師こんにちは」
「はい。こんにちはデュヴェルオブリスくん」
俺も挨拶をする。ザーム牧師はアルカイクスマイルで返してきた。
ふーむ。菩薩の笑みとはこの事を言うのだろうか。まさに悟りを開いた人の笑みだ。
「ザーム。今日は牧師ではない、君に会いに来たんだ」
普段はザーム牧師と呼ぶユーリ父さんが、親しい間柄のようにザーム牧師を呼ぶ。
なんでもザーム牧師もユーリ父さんが冒険者時代に知り合った人だと言うことなんだそうだ。
「……ハァ、あなたがそんな風に呼ぶときは、何か厄介事を持ち込んだときのみなんですが……」
ザーム牧師は頭痛がすると言うように額に手をやる。
「別に大したことじゃないさあ。実はデュオが『空の系統』を持っていてね。魔道具職人。魔具師であった君の力で【収納箱】の魔道具が作れないかと相談しに来たんだ」
ユーリ父さんは来た目的を簡潔に言う。
しかしザーム牧師は怪訝そうな表情をしてから真面目な顔をしてこう言った。
「ユークリウッドさん。デュヴェルオブリスくんはまだ三つだったでしょう。系統の適正を知ることは出来ても、魔法を精密にコントロールする術はまだ持ち合わせてはいないでしょうに。それに魔道具を作るのには何よりその精密さが、たいせつ……なん、です……よ……!?」
百聞は一見にしかず。俺は説明するより見てもらった方が早いと、その場で無詠唱の【光源】を作り出す。
ザーム牧師は俺が作り出した【光源】に目を見張り。最後は声もなく驚いていた。
そして正気に戻るとユーリ父さんに詰め寄るように駆け寄り。少し口調が崩れた声で。
「これはどう言うことですか!? ノイッシュさんですか!?」
「彼女は何も教えてないよ。デュオが独学でここまで習得したみたいでね」
「独学で……!?」
ザーム牧師は俺の方を見て信じられないと言う表情を見せる。
いあまあ、魔法に興味ありましたし。子供ゆえに特に何かしろとは言われませんからね。日がな一日魔法に費やしてました。
「…………ハア、これはなんと言いましょうか……似なくて良いところが、似てしまったのでしょうね」
しばらくすると何かを諦めた顔をしてから納得された。
この村に来て初めて両親に似ていると言われたのだがーーー
なんでだろうな、あまり嬉しく感じないのは……。
深く考えるとど壺にはまる気がしたので、考えるのを放棄した。
「まあ立ち話もなんですから、礼拝堂にお入りください。詳しいお話はそちらでお聞きします」
ザーム牧師の招きで礼拝堂に入る。
中は地球でも見たことのある礼拝堂とほとんど変わらない。
幾つもイスが並べてあり。祭壇のようなものがあり。そこには四つの種族のそれぞれの特徴を持った四人の女性の姿の像が祀られていた。
質実剛健と言った感じの佇まい。剣を突き立てた鎧姿の女性像。人族の守護者カリブルヌス。
才色兼備の様な美しい顔立ち。尖った耳に二対の羽と翅を持つ。リュートのような弦楽器を片手に歌う姿の女性像。精霊族の守護者ラーナ・マーヤ。
五穀豊穣と言うように周りには実り豊かな作物が。それと赤子を慈しむ様に抱き。ピーンと立った耳にふさふさの尻尾。動物の耳と尻尾を生やした女性像。獣人族の守護者ギヌバ。
装飾過多と言うようにゴテゴテ強い宝飾で着飾り。本と天秤を持つ。羊のように大きく捻れ曲がった角を生やす女性像。魔族の守護者ヤバルナ。
四種族の守り神とも言われている神々を表した像。
こうした姿をしていると言うわけではないらしい。動物だったり。植物だったり。自然そのものを表していたり。その時によってその姿が違うらしい。
人の姿をしているのはその方が分かりやすいとか。親しみが湧きやすいとかと言う理由だと聞いた。
女性なのはなんでか? 男よりはウケが良いからだろう。
ああそれと。この世界の主神クラウベルブァーナの姿を模した像は、聖神教の本山のみにあるとの事だ。
それ以外の場所でクラウベルブァーナを表す時は十二色の布を使って表現すると、ユーリ父さんがザーム牧師がなにかを持ってくると言って、案内された客室で待たされている間に教えてくれた。
「道具を置いてあることはわかっていたのてすが、何処に仕舞ったか思い出せずに、お待たせして申し訳ありませんでした」
「急ぐものではないかね。構わないよ」
ザーム牧師が四角形の木造の道具箱を持ってきた。
それをテーブルの上に置き。蓋を開ける。中には木札の様な物が数点と、金平糖の様なカラフルな物が瓶に詰めれていた。
それ以外にも工具らしき物が幾つか入っている。
「使わなくなって随分と経ちますからね。物は最低限の物しか入っていません」
ザーム牧師は道具箱に入っていた物を丁寧にテーブルの上に並べていく。
「それで【収納箱】の魔道具を作れないかと言うことでしたが」
「そう。デュオが『空の系統』持ちとわかって、その時に『空の系統』で家でちょっとした話題になってね」
「ああなるほど。術者以外の人でも別系統の魔法が使えるようになりたい、と。確かに魔道具はそうした思いから、魔具師が作り出したものですからね。わからなくはありませんーーー」
道具を並べながら話をするザーム牧師。
しかしそこで言葉を一旦切り。
「ただ。『空の系統』だけは技術の高い魔具師であっても、なかなか難しいものなんです」
「作れないってことですか?」
ここまで用意して作れないと言われると、俺は一生ルー姉の荷物持ちが決定してしまう。
「作れない、と言うことはないんですよ。作れても扱うことが出来ないと言うだけで」
「どう言うことですか?」
作れても扱えないって欠陥品ってことか?
「そうてすね。昔私も『空の系統』の魔道具を作ったことがあります」
そう言って一枚の木札をテーブルの中央に出す。
出された木札には電気図の様なものが彫られ、書かれていた。
ザーム牧師はその図面の一部分に指を置く。
「『魔力よ。集まりて力となれ』」
詠唱短縮、ではない。ただ単に魔力を集める為だけの言葉を紡ぐ。
そして指先に集まった魔力は木札へと流れていくと。
「おおっ!?」
木札の上には無色透明な小さな箱が現れた。
目の前のものはつまり。【収納箱】の魔道具である。
「デュヴェルオブリスくんが驚いていると言うことは、この魔道具はきちんと起動していると言うことなんですね」
ザーム牧師は何処かホッとしたような。それでいて残念なような表情をしていた。
「見えないんですか? あれ? なんでボクが見えてるの?」
術者以外には見えないと言われていた【収納箱】。ザーム牧師が発動させたのに、俺が見えていると言うのにおかしな気がした。
「これが『空の系統』の魔道具が世にでない理由でもあるんです」
「どう言うことだいザーム?」
「ユークリッドさんも見えていないのでしょう?」
「ああ、なんの変哲もない。木札があるようにしか思えないけど」
「だけどデュヴェルオブリスくんには木札の変化が見えて取れる。それは『空の系統』の適正持ちだけが、『空の系統』の魔道具を認識できると言うことなんです」
え? 適正ない人が認識できないんじゃ魔道具としては意味なくない。だって適正ある人は自前で魔法使えるよ。
俺の心の声を聞こえたかのようにザーム牧師は苦笑する。
「『空の系統』だけは、初級に載る【遠手】であっても、適正を持たない人では扱うことが出来ない。と言うのが現状なんです」
それでも試しに作りますかと訪ねてくる。
これは困ったぞと、俺は悩んだ。
ルー姉の荷物持ち一直線ではないか!
「どうにも出来ないんですか?」
「私が知る技術ではどうすることも出来ませんね。もしかしたら最先端の技術で何かしらの成果をあげているかもしれませんが……」
なんてこった……荷物持ち確定か……。
俺の脳裏に四六時中ルー姉の付き人のように付き従う自分の姿が浮かんだ。
そんな未来を振り払うように頭を振る。
そして別の方法で何とか出来ないかと話す。
「別な方法ですか……。色々と昔から考えられていますが、【収納箱】の魔道具が完成したと言う話が聞かない以上は……」
「別に【収納箱】にこだわる必用はないんじゃないでしょうか! 物がたくさん入って、楽に持っていけるようになればいいんですから!」
俺が諦めきれずに説得を試みるも、色好い返事は返ってこない。
「そもそも『空の系統』はそれほど魔法が発達してませんからね。他の方法と言うのが……」
ええーいこんちくしょう! 無いなら作れ! 誰か今すぐ作れ! 俺をルー姉の荷物持ちから解きはnーーーッ!?
次回は11月11日の更新となります。