No.6
No.6
「…………」
俺が無言で指先に魔力を集めると光る玉が出現する。
「よし。無詠唱はこれで習得、でいいんだよな?」
光の玉を消し。『初級魔法書』を開き。一ページずつ自分の魔法修得に間違いがないか、口に出しながら読み直していく。
「魔法とは術式を組み立て。己の中に宿る『魔力』を使い。世界に発現させる技である。
初めの内は本書に記されている各系統の基本の術式を口頭で唱えながら利き手に意識すること。
さすれば利き手に魔力が流れ集まり。最後にトリガーとなる魔法名を唱えれば魔法が発現する。
発現できた者はその系統の魔法に適正がある。
発現できなかった者はその系統の適正が無い。
ただ修練次第で発現することは可能となるが、素直に魔道具で補うことを勧める。
続いて発現できた者は魔法をより自分のモノにできるように努力する事。
どうすればいいのか。
それは魔法の術式文を短縮させると言うのが先ずひとつにある。
その方法が構成する術式文の省略である。
『魔力よ。集まりて~~〇〇せよ』
この部分を省略させることが出来れば『詠唱省略』となる。
やり方は口頭ではなく。己の内にて術式を構築し。構築した術式に合わせ魔力を操作し、発現させる。
この時、省略させる術式文は少しずつ短縮させていくことをお勧めする。
そして省略させ発現出来れば成功である。
更に発現させる際の最後の魔法名の部分を省くことが出来れば『無詠唱』となる。
これらの短縮はさせればさせる程に魔法の制御が困難となり。また使用する魔力の量も上がっていくので注意されたし。
しかし以上の事が出来れば、その魔法は己のモノとなったと言っていいだろう。
更にその先として、構築する術式文を組み替えることにより。同一の魔法であるにも関わらず。別の魔法へと変えることが出来る。
一例をあげるとするならば。
『魔力よ。集まりて光の礫となれ。其は闇夜を貫く一条の光なり。【光の礫】』
この魔法は【光源】の魔法を光属性魔法に存在する【光弾》】の攻撃魔法と同じ効果の持つ魔法に変換させたものである。
この様に同じ魔法名であってもその構築する術式文を変えるだけで別の魔法へ変えることが出来るので、魔道を志すものは既存の魔法だけでなく。新たな別の魔法を自らが作り出すと言う向上心を持って貰いたい」
絵本ぐらいの厚さしかない『初級魔法書』を捲っていき。最後のページへと行きつく。そこには著者の名前が書かれている。
「汝、魔導の探求を続けよーーー著作アデル・マーリン」
その名前を読み上げると。『パタン』と、本を閉じる。
「……うん。問題ない。あとは他の系統の適正がどれだけあるかだな」
魔法は自然の力を模したかのような魔法が多い。その為、必然的に系統には自然の力を示した呼び名がある。即ちーーー
『火の系統』『水の系統』『風の系統』『土の系統』『雷の系統』『鋼の系統』『樹木の系統』『瘴の系統』『光の系統』『闇の系統』『空の系統』『無の系統』
ーーーと、この十二の系統に別れている。
俺が一番に覚えた【光源】の魔法はその名の通りに『光』。だから俺には『光の系統』の適正を持っている。
今日はそれ以外の適正の確認をするため。家の裏で適正確認をしているのだ。
「確か、魔法が得意じゃないユーリ父さんが『無』と『鋼』で。ノイッシュ母さんが『無』『火』『水』『風』『土』を持ってるって言ってたから、それらが在るかもしれないからな。一応そっちの方から確認してみるか」
系統は血統で受け継がれると言うわけではないと聞く。
ルー姉は『無』と『火』の適正を持ち。アル兄は『無』『光』『雷』『鋼』の適正を持っていると言っていた。
しかしこう言うと、ルー姉はユーリ父さん似で。アル兄はノイッシュ母さんに似と言う感じがするな。容姿は逆なんだが。
「じゃあ先ず『無の系統』から」
『無の系統』。または無属性魔法とも呼ばれる。自然の力を模していない魔法。
端的に言えば属性付与なしの自身にのみ効果のある魔法だ。
だから魔力を扱えるものなら誰でも持つ系統でもある。
「『魔力よ。体に満ちて力となれ。其は堅固なる鎧なり。【防護】』」
術式を唱えると。自分の体の回りを包み込むように魔力の皮膜が出来上がる。
「まあ、できて当然だな」
【防護】の魔法は基本中の基本でだ。質と量を変えていくことで身を守るための強固な鎧となる。
その他にも『魔力操作』を応用して行えば、身体強化の魔法へと繋がっていく。
無属性魔法は派手さはないが、堅実な魔法が多い。
「時間がもったいないから次々いってみよー!」
『火の系統』ーーー火属性魔法ーーー【火種】ーーー成功。
『水の系統』ーーー水属性魔法ーーー【湧水】ーーー成功。
『風の系統』ーーー風属性魔法ーーー【小風】ーーー成功。
『土の系統』ーーー土属性魔法ーーー【土塊】ーーー成功。
「おおっ!? 六属性持ち!? スゴいな!」
ノイッシュ母さんを越えての六属性持ち。
五属性系統以上は魔法使いの適正としてもバッチリなのである。
「魔法使いか……。前じゃひやひやしながら『魔法使い』を回避してたけどな」
まあそんなどうでもいい話しする必要もないか。
残り半分か…。六属性以上の系統持ちがいない訳じゃない。自分がそうだとは思わないが、一応確認しておくか。
『雷の系統』ーーー雷属性魔法ーーー【電気】ーーー成功。
『鋼の系統』ーーー鋼属性魔法ーーー【変形】ーーー成功。
『樹木の系統』ーーー樹木属性魔法ーーー【成長】ーーー成功。
『瘴の系統』ーーー瘴属性魔法ーーー【腐蝕】ーーー成功。
おいおいおい……!? 一体いくつ俺には適正があるんだ!?
『闇の系統』ーーー闇属性魔法ーーー【暗闇】ーーー成功。
『空の系統』ーーー空属性魔法ーーー【遠手】ーーー成功。
「……できちゃったよ。全部の系統の魔法、つかえちゃったよ……」
なんだこの物語の主人公のような適正の数は!?
いくら自分がおかしな境遇に見舞われているとは言え、幾らなんでもこれは出来すぎじゃないかと考える。
神様イベントはなかったが、もしかしたらこの世界にいる(かもしれない)神様達の誰かが何かしたのかもしれない。
と、考えるも。これが元の『デュヴェルオブリス』が持っていた適正なのか。はたまた自分が一緒になった影響なのかが分からない以上は、考えても仕方がないと諦めた。
「ひとつずつ習得していくか」
適正が多くある事はその分魔道具に頼らなくて良いと言うことだが。欠点は満遍なく習得していくと、どれも得意なものがなくなると言うところである。
「まあそれも中級以上を覚えるならの話だけどね」
俺は魔法が使いたいと思ったが、ばかすかと魔法連打するような戦闘狂を目指している訳じゃない。微妙に痒いところに手が届かない。この世界の文明で楽をするために覚えるのだ。
「人は堕落するためだったら、労働を惜しまないて、どっかで聞いたことがある気がする」
……言ってることはダメ人間臭いけどな。楽したいから、苦労しないで済む何かを生み出すと言うのは人類が進歩してきた歴史だとも思うのだよ。
「さて、どの系統が一番適してるかな?」
全ての系統に適正が在ると言っても、どの系統が自分にとって使い勝手が良いかと言うのもあるものだ。
そんな自分に適した魔法の習得をする前に、先ずは先程『初級魔法書』に載っていた魔法の説明からだ。
一番始めの説明は『火』『水』『風』『土』。この四系統から。これらは生活でも使える基本の系統だ。
【種火】はマッチの火程度の火を起こすことができる。火起こしには便利だ。
【湧水】は澄んだ水を作ることができる。しかも魔力で作ったわりには、きちんと飲み水としても利用できるんだぞ。
【小風】はそよ風を起こすことができる。部屋の空気の入れ換えや涼む時には重宝するだろう。
【土塊】は泥団子のような塊を作ることができる。これがいまいち使い道が思い付かないが、用は考え方次第だろうと思う。
次に『雷』『鋼』『樹木』『瘴』の四系統だ。これらは生活にも生産にも使える魔法だと言われている。
【電気】の魔法は主に魔道具で再現されているが、畑で獣避けの電流線が張られているのを見たことあるだろうか?
こちらの世界でもそうした使われ方がされている。あとは攻撃系が多いみたいだ。
【変形】は物の成形をするのに使われる魔法だな。『鋼属性』なんて言われているのは、昔鍛冶の人が使っていたからと言われているらしい。今では彫金や魔道具製作などで使われてるみたいだけどな。
【成長】は農業関係の人が使う魔法らしいが、あまり多用すると土が痩せ細ってしまうから注意が必要な魔法でもあるようだ。
【腐蝕】は瘴とか腐蝕とか語感は悪いが、用は物の発酵を促す効果のある魔法だ。【成長】と、どう違うのかと言われるとなかなか難しく答えられないが、まあ兎に角存在する魔法だ。
それと主に料理人の人が重宝する魔法と言うことらしい。
そして残りの四系統『無』『光』『闇』『空』のこの四つだ。
【防護】と【光源】は話しているから飛ばしても良いよな?
【暗闇】は対象物の周囲に黒い霧、みたいなのを出すことができる。視界が遮られるから明るいところで寝られない人は便利かもしれない。
あああと、夏場の強い日差し避けにも使えるかもしれないな。夏場になったら試してみよう。
そして最後【遠手】。
これは見えない手を魔力で作り出し。魔力を発しない無機物のみを操作することができる。
生物や魔力を発する無機物は駄目だ。それが持つ魔力と干渉して魔法を相殺してしまうと書いてあった。
この『空の系統』は魔法と言うより超能力と言った方が適切なのかもしれない。名前もそうだしな。でも一応言っとくぞ。これは魔法だ。
この中で『火』『水』『風』『土』『雷』は、初級以降はその威力と規模が大きくなっていく魔法のようだな。
『鋼』は物質の生成。強化や軟化。他の属性の付与をなどを手助けすることができると、『初級魔法書』には載っていて、あとはこれを極めていく。と言うのが『鋼』の魔法のようだ。
『樹木』と『瘴』その性質が似ている。適切なところまで持っていくか。ぶっちぎるかの違いなだけ。
最も『樹木』も『瘴』も中級以上になると両方とも違う形の攻撃系の魔法があるようだ。『酸の魔法』とか怖すぎると思う。
『光』『闇』も性質が似て相反すると言った感じなのかな?
『光』はファンタジー魔法にある『浄化魔法』と言うのがある。『闇』の中には『死霊魔法』と言うのがあった。
『死霊魔法』と言うと聞こえは悪いかもしれないが、要は死者の弔いをしたり。未練のある死者の声を聞いたりと。イタコと坊さんが合わさったような魔法かな?
『無』と『空』。どちらも魔力のみと言うのは意味ではこれも似ている。
先程話したように『無』は使用者に対してのみ効果のあるもので。『空』は使用者から離れて効果のあるもの、と言ったものだ。
だから『無』の使用者が魔力を離して扱えるようになれば『空』になると思うのだけれども、どうも違うらしい。その辺はまた何かの違いがあるのかもしれない。
「どの系統が一番楽できるのかな?」
「どの系統も習得するには楽と言うものはないよ」
「うわっ!?」
『初級魔法書』をベラベラとめくったり閉じたりを繰り返しながら首を捻り考えていると、後ろから急に声を掛けられた。
ビックっとして後ろを振り返ると。
「もうユーリ父さん! ビックリさせないでよ!」
そこには金髪イケメンの我が父。ユークリウッドがいた。