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マギ! マギ! マジック!  作者: 嘉和尚武
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No.4




 No.4




 「奥さま。デュオさまをお連れしました」


 シェルティがリビングの扉を軽く叩き。入室するために中に居るものに許可を取る、が、中からは返事が返ってこない。

 もしかして母さんがまだ来てないのかと、そんなことを思ったが。呼んでおいて居ませんでしたと言うような、そんなヘマをするシェルティとは思えなかった。

 そして案の定シェルティは軽くため息を吐き。中に居るものに入る許可を貰わず扉を開け放つ。


 まあ、自分の家のリビングなのだから、端から許可など貰わず開ければ良いと思うのだけれどもね。


 「失礼致します」


 扉を開けると豪華とは言いがたいが、それなりの見映えのあるリビングである。

 右手側には暖炉。冬の時には大変世話になった。

 左手側にはソファー。これに横になりながら暖炉の火に当たっていると、心地よい眠りに誘われた。

 そしてそんなソファーに座る一人の女性。

 均整の取れた美しき顔立ちに、バランスの取れた豊かな肉体。

 そしてそれ以上に目立つのが、煌々と燃え上がるような緋色の髪(スカーレットヘアー)

 何処かの名工が造った精巧に出来た作り物、そう思わせる女性が、静かにソファーに腰を掛けていた。


 「おはようノイッシュ母さん。シェルティに言われて来たけど、なに?」


 そうなにも隠す必要もないし。このリビングには入ったときに一人しか居なかったから、この人物が誰であるかはすぐに分かっただろう。

 このやたらと美人の女性が今の俺の母親『ノイッシュ』。愛称もノイッシュ。とても三児の母親とは思えない人だ。一体今いくつなんだと聞きたいところであるが。そんなことを聞こうものなら、世の女性がどう言う反応をするのか分かりきっているので、聞いていない。自ら虎の尾を踏む馬鹿はいないと言うやつだ。


 「ノイッシュ母さん?」


 呼び掛けているのに反応がないので、もう一度声を掛けるもやはり反応がない。どうしたんだと思っていると、シェルティがノイッシュ母さんの側に行き。その肩に手を置き。


 「奥さま。起きてください。デュオさまが参られました」

 「ーーーう~ん……シェルティ……? おはよう……」

 「おはようございます。奥さま」


 シェルティに揺り起こされると緩やかな声を出して、その閉じていた瞳を開く。


 ……寝てただけなのかよ。


 「……ああ、デュオもおはよう」

 「おはようノイッシュ母さん」


 起こされたノイッシュ母さんは側に俺も居ることに気がつくと挨拶をしてくる。その返事を俺も返すとにこやかに笑顔を向けてくる。


 ……相変わらずぽわっとした雰囲気を持つ人だな。


 部屋に入ってきたときは精巧な人形に思えたノイッシュ母さん。寝起きと言うのを差し引いてもぽややんとした雰囲気を全開で振り撒いている。


 「あのねママ。シェルティに起こされて。その時になんだかデュオが魔法が使えるなんて言われて気がするの……。不思議よねぇ、デュオはまだ三つになったばかりなのに。だからこれはきっと夢ねって思って、もう一度めを閉じたの」


 寝ぼけているからだろうか、聞いてると眠りを誘いそうなその声。

 シェルティはこちらを見て、もう一度魔法が使えるかどうかと言うような顔をしていた。

 まあ確かに、ノイッシュ母さんに口で説明するよりは、実際に見せた方が早いだろうと思い。魔力にもまだ余裕があったことから、もう一度【光源(ライティング)】の魔法を使う。

 先程シェルティにも見せたように指先に光の玉が出現すると、ノイッシュ母さんが驚きの表情をして。


 「まあ! シェルティ。デュオが魔法を使ってるわ! これは夢?」

 「……いいえ奥さま。実際に使われております。そして夢ではありません」


 驚いたノイッシュ母さんは改めてシェルティの口から説明されると、目の前のものが現実であると理解して、俺が作り出した『灯りの魔法』をまじまじと見始める。


 「本当に『灯りの魔法』ね。……デュオ。いつ魔法なんて覚えたの?」

 「去年の春辺りの時に、書庫に『初級魔法書』って言うのがあるのを知って。アル兄に読んでもらいながら覚えたよ。魔法が上手く使えるようになったのは、ここ二、三ヶ月くらい前からかな」


 大体一年ほど前だ。俺の意識が『テュヴェルオブリス』として目覚め、この世界の事をより深く知ろうと始めた頃からだから、うん。そんなものだな。最近じゃあアル兄に読んで聞かせて貰うのは悪いと思って、必死になって文字も覚えた。お陰で読めるようになってからは寝不足と言うわけだ。


 「すごいわ! じゃあ殆ど独学で魔法を習得したのね!」


 ソファーから立ち上がり。俺の前まで来たノイッシュ母さんは、膝立ちとなり。俺に目線を合わせると頭を撫で、それからギュッと抱き締めた。


 「の、ノイッシュ、母さん。くるしい……」

 「あ、ごめんね。つい」


 美人で豊満な胸に抱き締められるのは男として本望たが、窒息死させられてまでと言うのは勘弁願いたいな。ああそれと、相手が母親って言うのも少し考えものか…。


 「ごほっ。ごほっ。ノイッシュ母さん。すごいって言っても、ボクは本に書いてあった通りの事をしただけだよ?」


 書いてあったことは単純作業を繰り返す様なことだらけで、忍耐と根気さえあれば、誰でも今の自分と同じ技術くらいは出来るのではないだろうか?


 「魔法の訓練は地味なことばかりよ。訓練してもすぐに成果が出てくるようなものじゃないから、魔法を覚えようって人は中々いないのよ」

 「そうなの? ボクが読んだ本には誰でもすぐに使えるようになるって書いてあったよ?」

 「そうね。いまデュオが使った『灯りの魔法』のように、その魔法が扱える適正があって、魔力を練って呪文を唱えれば、取り敢えずの形になるものよ。でもそれをここまで形と維持が出来るようになるには、またものすごく時間が掛かるの」


 ノイッシュ母さんは今だ形を維持している【光源(ライティング)】を指差す。


 確かに始めの頃はすぐ魔力不足で長時間の維持は出来なかったな。

 しかしそうなるとこの世界の人は忍耐とか根気がないのだろうか? あ、いや違うな。魔力が減れば倦怠感に苛まれる。労働者にこんな倦怠感が仕事中に出れば仕事にならないだろうし。子供だと飽きて長続きしない。となると魔法を覚えようとするものは、余程魔法に固執した人物か。生活に余裕の有る人物に限られてくると言うことなのだろう。


 「だからデュオがすごいって誉めてあげてるの!」


 そう言って再び抱き締める。


 「こんなに魔法が上手く使えるんですもの。デュオは将来魔法騎士(マギナイト)に成りたいのかしら?」

 「うぐぐ……い、や。ルー姉じゃないんだから……」

 「あら? そうなの? じゃあ、魔法師(マギア)の方?」

 「み、宮仕えは……したくない……」


 もう組織の中であくせくして働いていくと言うのはしたくありません。のんびりと気ままな生活を送りたいです。


 因みに『魔法騎士(マギナイト)』。『魔法師(マギア)』は、クロウバルワ王国に存在する王国を守護する職で、子供の就きたい職業トップスリーに上がる職業だそうだ。

 ついでに言うと、三位は一攫千金が狙える冒険者らしい。


 「ええぇ!? じゃあなんでデュオは魔法を覚える気になったの?」


 そこに魔法と言うことはがあったからと、答えたら頭のおかしい子供に思われるだろうか? 確実に思われるな。


 「生活が……豊かになるって……書いて、あった……から……」

 「魔道具もあるじゃない!? ……あれ? デュオ?」

 「奥さま。デュオさまが窒息しかけてます」

 「え? ああ!? ごめんねデュオ!」


 息が出来ず意識を失いかけてた俺を助けたのはシェルティの一言。でも、出来ればもっと早くから助けて欲しかった。

 そして『魔道具』だが、魔力をもってあらかじめ決められた魔法が作動する道具のことだ。

 これには二種類あって。ひとつは、道具に『術式』と呼ばれる魔法式を書き込み。使用する者の魔力で発動するタイプのものと。もうひとつは『魔石』と呼ばれる、地球で言うところの電池の様なものがあり。その魔石に蓄積されている魔力を解放することで作動するタイプのものだ。

 そうだな。もう少し分かりやすく例えるなら、前者は補助輪付きの自転車とするなら。後者は電動付き自転車と言ったところか。もちろん後者の方が値段は物凄く高い。前者の魔道具なら一般家庭でも買えるレベルらしいが、後者は金持ちの度合いによるのが、ひとつふたつ持っていれば良い方だと言うところのようだ。

 この家にも魔石型の魔道具がひとつある。それは【熱源(ヒート)】と言う魔法が発動する魔道具で、お風呂の湯を沸かすために使われている。これのお陰でこの家ではかなりの頻度でお風呂に入れる。元日本人としてはありがたい限りだ。


 「……けほっ。けほっ。でもノイッシュ母さん、魔道具って高いんでしょう?」


 ノイッシュ母さんから解放された俺は少し咳き込みながら、おいそれと買えないものだろう言い。なら自分で魔法を覚えて使った方が安上がり的なことを言う。


 「子供がお金のことなんてk「奥さま」


 気にしなくて言いと言いたかったところをシェルティに遮られる。


 「ご実家の方とは違い。ここトトカト村はまだまだ潤沢とは言い難い財源でございます。デュオさま『質素倹約』旨として生活されると言う心持ちを持った、大変素晴らしいお子さまに育っていると、私は思われますが」


 いや、そんな高尚な心構えを持ったつもりはないんだが……。ただ魔法と言う存在があったから使ってみたい思っただけで。


 シェルティの言葉にノイッシュ母さんは「でも……」と、子供に苦労をさせたくないと言うような目でシェルティに訴えている。


 ……この二人はたまに立場が逆転するんだよな。


 シェルティはノイッシュ母さんの主として仕えているが、ノイッシュ母さんがあらぬ方向へ行こうとすると諌めるように苦言を呈する。

 ノイッシュ母さんもノイッシュ母さんで、シェルティからそうした言葉があると強くは出れないでいた。

 そしてノイッシュ母さんは俺の方をチラチラと見て、「デュオは魔道具欲しいでしょ?」と目で訴えてくる。

 俺はその目を見てると、実は自分が何か欲しい魔道具があるんじゃないかと思う。

 聞いた話だとノイッシュ母さんはその昔魔法師(マギア)を目指していたが、呪文を唱える必要性がなく。魔力さえ在れば発動する、魔道具の便利さに取り憑かれ。魔法主体で行われる魔法師(マギア)へとは行かず。冒険者への道へ進み。そこで父さんと出会ったとか言っていたな。

 まあ、そんな両親の恋愛話は今はどうでもいいか。


 俺が魔道具を欲しいとねだれば、シェルティも強くは反発しないだろうがーーー。


 「今は魔法を覚えてみたいから要らない」

 「ええ~! そんなぁ~。【電波(レイディオ)】って言う新しい魔道具あったのに~」


 がっくりと項垂れるノイッシュ母さん。そしてやっぱり新しい魔道具が欲しかったのか。

 俺に拒否されしょぼくれて要るノイッシュ母さんに、止めを刺すかのようにシェルティの冷たき声が。


 「奥さま。私の記憶が確かなら、先月も何やら新しい魔道具を買われていたようですが」

 「え? あ、あれ? あれはほら、別物。今回のとはまた違うの……よ?」


 必死になって言い訳をするノイッシュ母さん。しかしそんなものシェルティには関係ない。使うのであれば多少は多目に見ることもあるだろうが。だがノイッシュ母さんの場合は飽きれば使わない。そうした魔道具はタンスの肥やしにしかならないのだ。

 そしてそうした数の魔道具が家には幾つも在る。魔石型では無いとは言え、シェルティからしてみれば無駄は極力省きたいと言うところだろう。


 「今度は、今度はちゃんと最後まで使うから~」

 「今までそう言っていくつ無駄にされてきたのですか。ここはご実家ではありません。自立して御家を作っていくのであれば、何が必要で。何が不必要なのかちゃんとお選びください」

 「デュオォオオ! シェルティがママをイジメルよおお!」

 「お子さまに泣きついてどうするのですか!」


 シェルティに説教を貰っていたノイッシュ母さんが俺に抱きついてきた。


 やれやれ……これじゃあ誰が大人で、誰が子供かわからないな……。


 泣きついてきたノイッシュ母さんを庇って魔道具を買って欲しいと言いたいところだが、そうすると今度は俺に説教(矛先)が来そうなので、敢えて俺は無言を貫く。


 悪いなノイッシュ母さん。俺もシェルティの説教は勘弁して貰いたい。


 そして俺を挟んでの説教が始まる。はっきり言ってこの上なく迷惑だ。


 俺はただ魔法が使いたかっただけなんだがなぁ……。


 そんなことを思い。いい加減腹も減ってきたところで、このリビング入ってくる者がいた。


 「ああ、ここに居たんだね」


 扉を開けて入ってきたのは、少し天パの入った金髪イケメン男性さん。甘いマスクに魅惑のボイス。さぞ結婚前は多くの女性におモテになったろうと確信を持って言える人。そうこの人がーーー。


 「入室をするのなら先ずノックをしてろ! この主人(グズ)が!」


 ノイッシュ母さんに説教をしていたシェルティが、鬼軍曹のような声を出し。飛ぶような軽やかなステップで、くるくると回転しながら部屋に入ってきた男性の腹にローリングソバットを食らわせる。


 「げふっうぅぅぅ!?」


 とても人が出している声とは思えない声を出して、入ってきた男性はその場で倒れ込む。


 ……相変わらず容赦がないな……。そしてどうやってスカートをはためかせないで、ソバットなんか放てるんだろうか?


 シェルティのスカートが物理法則を無視しているかのような動きに疑問を持つ。

 倒れ男性は生まれたての小鹿のように体をプルプルとさせ、ドアに寄りかかりながらなんとか立ち上がり。ドアを軽くノックする。


 「……は……はい、て、よろ……しい、でしょうか……?」

 「始めっからそうしておけ! そして用件はなんだ。簡潔に述べよ」


 仁王立ちをして男性に鋭い視線を向けるシェルティ。

 うちの家族ではこの人以外には絶対にしない対応の仕方だ。


 「しょ、食事が……できているので、呼びに……」

 「そうか。ご苦労。ーーー奥さま。デュオさま。食事の準備が整ったようです。食堂へと参りましょう」


 目の前の男性からこちらに振り向いた時にはいつものシェルティへと変わっていた。


 凄い豹変の仕方だよな。二重人格と言われても信じられる。

 ノイッシュ母さんはシェルティの説教がこれで逃げられると、我先にと行ってしまった。

 そしてそれを追うシェルティ。残ったのは俺といまだにプルプルと体を震わしているイケメン男性。


 「……ああ、ユーリ父さん。ボクも先に食堂行くけど、来れる?」

 「……ふふ……ちょっと、パパ無理かな。足にキテるし。それにお腹が……」

 「そう……じゃあみんなにはユーリ父さんが遅れるから、先に食事してて良いって言ってたって言っとくよ」

 「……ありがとう、デュオ。そう、言っておいて……」


 それだけ言うと地に伏せるように再び倒れ込んだユーリ父さん。

 そうこの人が俺の父親。『ユークリウッド』。愛称はユーリだ。

 そしていつも何かしらシェルティにケチをつけられ、教育と言う名の制裁を受けている。この人こそが、ロッソストラーダ家の家長であり。この家のヒエラルキーの中では一番下に位置する人でもある。

 じゃあ、この家で誰が一番上か? そんなものはこのやり取りを見ていたら大体わかるだろう? 














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