No.34
No.34
「結局何が出来るのよ?」
「しょうがないなぁ。じゃあルー姉でもわかるーーーいたたたたたたっ!? 頭が! 頭が果実を絞るようにッ!?」
「でもって何よ! でもって!」
感覚派のルー姉にわかるように、物を見せての説明をするよと言おうとしたら、アイアンクローをされた。
ユーリ父さんとアル兄はアイアンクローされている俺を苦笑しながら見守っている。
いや見守ってないで助けて!
一頻り喚き暴れていたら漸く放してくれた。……危うく脳みその搾り汁みたいな状況にされるところだった。
実演、と言っても然程在るわけじゃない。なので俺が試作で作った中でも、これはイケるんじゃないかと思えるものを数点取り出して、説明していこうと思う。
「先ずこれから」
筒状の物にグリップが付いたもの。見ようによっては拳銃にも見える、かもしれないものを手にする。
「これは【熱風】と【冷風】の風を吹き出すことの出来る魔道具」
これだけの説明でわかる人は要るだろう。そう、ドライヤーだ。
その使い方や利便性などをかみ砕きながら説明していくと。
「なるほど。髪を洗ったときには早く乾きそうだね」
「そんなのデュオが居れば事足りるじゃない」
……次いってみよう。
次に手にしたのがソリのような四角い箱形の物。
「これは【浮遊】って言う魔法が組み込まれていて。こうして中に物を入れて、起動させると箱が浮く。それからこの紐を引くと一緒に箱も着いてくる。浮かんでるから重さも殆どない。欠点は勢いをつけすぎると止めるのにちょっと苦労するってところ」
「あっ、それたくさんの本の持ち運びとかに便利そう」
「そう? 【収納箱】があるデュオに持たせた方が便利そうだけど」
…………次。
「これは従来の魔道具にもある『コンロ』って呼ばれてる竃の代わりになる魔道具。だけど従来のコンロと違うところは火加減の調整が出来るってこと。と言っても今のところ『弱』『中』『強』の三段階しか出来ないんだけどね」
「これはバルガスが喜びそうだね」
「デュオならもっと上手く魔力操作できるんだから要らないでしょう?」
「…………さっきからなんなの!? ボクが作った魔道具にケチつけるようなことばかり!」
クレームか!? よぉしぃ! 受けてたってやる!
「だってどれもこれもデュオが居ればみんな出来るものばかりじゃない」
「ボクは一人しかいないんだなら、ボクが居なくても使い方さえ知ってれば、誰でも扱えるものを作ったんだよ」
相変わらず俺を家電扱いするか。そう言うのを払拭するためにも、こうした魔道具を作っていると言うのに。
「こらこら落ち着きなさい二人とも。ケンカはダメだぞ。姉弟仲良くだ」
ユーリ父さんがヒートアップする前に止めに入る。
「ルージュ。先ずデュオのような常識はずれな魔法の使い方をする魔法師は居ないよ」
ユーリ父さん? なんでいきなり俺のことをディスするですか?
「それが常人の考え及ばないことだとしても、それは要らないら無いんじゃないか? と思っても、口にするのはやめなさい」
うぉい! 泣くぞ!
「それはまだ自分が"その価値"を知らない。と言うことだけなのだから」
……ぐすっ、どうせ俺の作るものはこの世界じゃ変なモノさ……ん?
「家族であり。姉であるルージュがその事を理解してあげることが、何よりも大切なことでもあるんだよ」
あれ? なんか方向が変わって。
「デュオの考え方は"現在"必要とする考え方ではなく。"未来"に於いて必要になる考え方なんだ。これはルージュが目指す、国を守り。人々を守る魔法騎士にも通じるモノがあるんじゃないかな?」
あらゆる脅威から人々を守るために強くなる魔法騎士と。
そうユーリ父さんはルー姉に問い掛ける。
ルー姉はわからなかった疑問が徐々に氷解していくような表情をして、最後には頷いていた。
「ごめんなさいデュオ。無価値でガラクタだと言ったことは謝るわ。あなたの魔道具も発展なる前と言うことなのね」
本当にこう言うところはいさぎ良いと感心する。
ルー姉は暴力的でわがままなところもあるが、決して傲慢ではない。自らの過ちがあったとわかれば謝れる人間だ。そこは素直に称賛する。
「……まあ、作ったものに理解を示してくれるのは嬉しいよ」
否定されるよりは認められる方が良い。それは何かを創るものにとっては何よりも嬉しいことがらだ。ーーーしかし。しかしだ。
「でもこれのどこがガラクタなの!? 無価値じゃないでしょう! どこ見てるのルー姉は!」
「なッ!? なによ謝ってるのにその態度は! どう見てもそんなのヘンテコじゃない!」
それがどんなことであれ、評価は受け入れるが、作ったものを侮辱されるのは作り手として許せん。
「こら二人とも! ケンカはダメだとーーー」
「よぉしぃ! これがガラクタじゃないところ証明してやる!」
「いいわ! 見せて貰おうじゃない!」
「うわぁ、これ収穫祭で見た『記録再生紙』の魔道具みたい」
「なら次はこれで! ああアル兄! それは『撮影機』って言う巷に出てる写真機の魔道具版だよ。人物や風景を一時的にその魔道具に収めておけるんだ」
「どこでそんなの使うのよ? 限られてるじゃない」
「……ハァ……」
ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあと騒ぎながらも他の魔道具の説明をしていく俺。それにイチャモンを付けるルー姉。その説明を横で聞き。魔道具を手に持ち、自分なりの楽しみを見つけているアル兄。そして先程まで良いことを言っていたのに最早完全に蚊帳の外。空気と化したユーリ父さんが深い溜め息を吐いていた。
「ここはいつ来ても大騒ぎしてんやねぇ」
大騒ぎをしている俺達の下に今では聞きなれた声が聞こえてくる。
「あ、アデルばあちゃん。こんにちは……ガッテムッ!」
アデルばあちゃんに挨拶をするが、アデルばあちゃんの姿を見たとき膝から落ち。悔しくなり地面を叩いていた。
「どないしたん? デュオ坊?」
「うわぁっ!? 木の馬が空を飛んでる!?」
「どっちかと言うと浮かんでるじゃないかな。ルージュ姉さん」
「浮かぶ? もしやそれはデュオの?」
「そうや。【浮遊】を組み込んだ魔道具や」
先ほど説明していた中にあった【浮遊】の魔道具。
別に形がソリだろうが馬だろうがそんなことはどうでも良い。俺が悔し泣きをしてまで悔やんでいることは。
「何で移動できるように術式が組み直されてるの! それ次回にしようって言ってたじゃないか!」
俺の知らぬ間に術式が組み直され。更にそれを魔道具として作られている。
なにこの開発チーム内で自分一人だけはぶられた感覚は。いじめか!?
「毎回デュオ坊には驚かされとるからなぁ。たまにはこっちが驚かしたろうと思うて」
「要らないよそんな驚きは!」
悔しい。新たな技術の完成に立ち会えなかったことが。
そして悔しがっている俺を他所に、アデルばあちゃんが乗ってきた空飛ぶ木馬。なんかこう言うと白いアレを思い出すな。あの木馬白く塗っちゃダメだろうか? うむ。俺の中の何かがやめとけと言っているな。んで、その木馬に皆興味津々で、代わる代わる乗せて貰っている。
「……なんか歩くより遅い」
「元々人を乗せるためや無いからな」
「では何を乗せるために?」
「これもデュオ坊の発案なんやけど。主に重い荷物の運搬やな」
その通り。重い荷物をえっちらおっちらと運ぶ人を見かけた時。【遠手】が扱える人なら楽々運べるような荷物。そうした魔法が使えない人達のために何かないかと考えて考案して作ったのが【浮遊】だ。また浮かすだけじゃなんだから圧縮空気の噴射エネルギーを利用した推進システムも同時に考案していた。それを今度の時に組み込もうと話していたんだけど、俺の居ぬ間にやられた、と言う話だ。
また速さに関してだが、空気圧のエネルギー量を変えれば速度は出るようになる。一度試してやったら、空飛ぶサーフボードのようにすっ飛んだときは驚いた。
そしてこれを見た時に人を乗せて空を飛ぶ航空戦力が頭に浮かんだ。それは俺だけでなくアデルばあちゃんも思ったようで。
「なあ、デュオ坊。これ人も乗せることは出来るんやろうか?」
「うん。出来るよ。きちんと人が乗れるように調整すれば…」
今後【浮遊】が組み込まれた魔道具が世に出れば、兵器として考え付く人が必ず出てくるだろう。
しかし俺は以前の時ほど、何がなんでも兵器開発反対。と言う意思はなかった。
この世界クラウベルブァーナは、人と争うより魔物と争いが起きる方が圧倒的に多い。魔法や魔道具もそうした魔物から人々を守るために技術発展されているからだ。それ故に俺も考えを改めるようになった。そんな切っ掛けが生まれた訳は、今回の話には関係ないのですっ飛ばします。いつか何処かで語られるだろうしな。
「デュオ。これもっと速く出来るんじゃないの?」
さっきまで魔道具の発想した使い方なんてものを考えも及び付かなかったルー姉が、【浮遊】の魔道具を速く動かすことが出来るんじゃないかと言ってきた。
馬の形をしてるからその発想が出てきたのか? それともいつもの野生の感か?
「デュオ~♪ 出来るの? 出来ないの?」
「べきまふ(出来ます)。ふぁから(だから)えふぁごでかほつかあないで(笑顔で顔を掴まないで)」
力を入れていないとは言え、屈託のない笑顔で顔を掴まれるのは、アイアンクローをされるのと同じくらい恐ろしいものだ。
「馬くらい速く出来るの?」
「一回しか試してないからなんとも言えないけど。たぶん馬より速く出来ると思う」
空気噴射ではなく。ジェットエンジンみたいにすれば、の話だが。ただそれはそれで機体の方をどうにかしないと、一瞬で空中分解を起こすことになるだろう。
「じゃあ、それやって!」
「人を乗せての速度実験はまだしてないから、魔具師見習いとしても、それは許可できないよ」
「えぇー」
「ルージュ。さっきも言ったけど魔道具には危険なものがあるんだ。デュオが駄目だと言ったら諦めなさい」
「はーい」
ユーリ父さんが駄目だと言ったから一応は理解を示したと言う態度だが、あれは後で試させろと言うに違いない。短いとは言え。伊達に姉弟はしていない。
「うーん。走るくらいの速度までたったら、それで我慢してよ。ルー姉」
「んー。まあ、それでいいわ」
納得してくれたみたいなので、俺は直ぐ様木馬に組み込まれた紋章術式の空気圧噴射の出力設定を変える。
「へぇー、紋章術式の組み替えってそうするんだね」
木馬に付与されている術式を呼び出し。現れた紋章の一部の設定を変えたいくのを、アル兄が興味深そうに覗き込んでみている。
「魔道具に術式を付与する場合は、専用の用紙に術式を書き込み。その用紙を鋼魔法の【付与】で物に付与するんだ。その後の調整はこうして呼び出せば、はい。終わり。ルー姉終わったよ」
「早いわね」
「速度調整だけだからね。もう一度言うけど人が走るくらいの速度だと言っても十分気を付けてね」
「わかってるわよ。で、どうするの?」
「木馬に跨がって。【浮遊】は魔石で補ってるけど【空気噴射】は自前の魔力だからね。ええっと、アデルばあちゃん」
「その手綱やね。それに魔力流せば術式が発動するえぇ」
「と言うことらしいよ」
説明を聞くと早速魔力を流すルー姉。そうすると木馬の背面に【空気噴射】の紋章術式が現れ。その紋章術式から空気が一気に押し出されるように噴射する。すると木馬はその場から一気に加速するように前に進む。
「うわっ! はやいー!」
自分で駆ける方が早いだろうに、ルー姉は喜びの声を上げてはしゃいでいる。
うむ…噴射力は想定規定内。ただ噴射時間が物足りないのと、左右に移動する時に機体を傾けて無理やり曲げてるって感じだな。曲がる時にサイドスラスターのようなもので曲がれるようにするか。それとも別物にするかだな。あとは停止か。空気ブレーキと空力ブレーキがあるよな。速度が今のままなら空気ブレーキの方が良いか。
木馬の動きに驚きを見せる他の人達を他所に。俺は一人技術者として目で魔道具の効果を見ていた。するとはしゃいでいたルー姉が木馬から降り。浮いている木馬を引きずるようにしながらこっちに戻ってきた。
「どうしたのルー姉? 何か問題ーーー」
「疲れる! 魔力式じゃなく。魔石式にして!」
魔力消費は肉体的な疲れじゃなく。精神的な疲れだからな。慣れないとそりゃあしんどいけどさ。四、五回分の魔法消費量でギブアップって、確か姉様は魔法騎士目指してませんでしたか?
「【空気噴射】まで魔石で補えるように変更するのは少し時間が掛かるから、今直ぐには無理だよ」
「じゃあ、もういいわ」
そんな飽きたオモチャのように興味をなくしたと態度をとるルー姉は、次に乗りたそうにしていたアル兄に木馬を譲る。
「お姉ちゃんは魔力制御がちょい苦手なようやね」
「…魔力制御って小難しくて好きじゃない。剣振っていた方が良い」
「お姉ちゃんは将来魔法騎士に成りたいんやったな?」
「うん」
「そやったら。魔力制御は覚えておいて損はないよ。難しい言うんなら、おばあちゃんがちょっとコツ教えてあげるから、安心しぃ」
「…本当?」
「ホントやでぇ。お姉ちゃん達のお母さんも昔は魔力制御が下手でな。おばあちゃんが教えたら、みんなから天才だ天才だと、もてはやされていたもんや」
へぇーあのノイッシュ母さんがねえ。
と、その噂されているノイッシュ母さんの方を見る。
普段のノイッシュ母さんならこうした新しい魔道具の披露があれば、散歩に出掛けるときの犬のように喜び勇んで現れるのだが、アデルばあちゃんが苦手なノイッシュ母さんは、家の中でハンカチでも噛む勢いで恨めしそうにこっちを見ている。
「デュオ。これだけ早くても、移動するときに全く振動がないのがスゴいね!」
「そうなんだよアル兄。地面に接地されている乗り物だと、どうしても地面の状態に左右されるけど。この【浮遊】を組み込んだものだと、それに関係なく移動できるのが、ひとつのポイントなんだよ。それからーーー」
さすがアル兄だ。少し乗っただけで【浮遊】の利点を見抜くとは。
そして俺が親切丁寧に【浮遊】の説明に入ると、アル兄の表情が彫像の様に動かなくなっていたような気がするが、それはきっと気のせいだ。何しろアル兄が大変素晴らしいと言うように何度も頷き返していたからな。あまりにもアル兄が熱心に聞いてくれるので熱の入った説明になったのは、致し方ないことだと思う。
そしてそんな説明をしている最中、ちょっとした変化に気がついた人がいた。
「……むっ。あれは……」
「ああ。安心ぃ。あれは調教されてる連絡用魔獣や」
先ずそれに気がついたのはユーリ父さんだった。
そしてユーリ父さんが少し雰囲気を変えると、アデルばあちゃんも何があったのかと、ユーリ父さんの視線を追うように見ると、俺達の真上に一匹の鳥が旋回するようにいた。
それを見たアデルばあちゃんが首からアクセサリーを取り出す。それは笛のようで、一吹きすると甲高い音が鳴る。すると旋回していた鳥が一気に急降下してくる。アデルばあちゃんは樹木魔法を使い。地面に生えている植物を一気に成長させ。一本の止まり木のようなものを作り上げた。降りてきた鳥は狙い済ましたかのようにその木に見事に着地する。
その鳥は鷹のような猛禽類のような魔物の鳥だった。止まり木に着地しても周りを警戒しているのか、高い声で威嚇している。
「よう来たな。ごくろうさんや。これでも食べて腹の足しにしたってやぁ」
【収納箱】から取り出した肉の欠片を鳥に向かって放り投げると、器用にキャッチしてムシャムシャ食べる。食べ終わると警戒心は薄れ。アデルばあちゃんがその鳥に近寄り。足に付けられている足環みたいな物を探る。
伝書鳩は昔から手紙の受け渡し手段として用いられていたけど。この世界だと普通の鳩じゃ食われるのがオチだからな。魔物の鳥を使うのは当然の帰結なんだろうけど。
「……あれってストライクバードよね?」
「うん。魔物図鑑で僕見たことある。狂暴性がすごく高くて。人間の子供くらいの大きさなら、掴んで巣に持ち帰り食べちゃうって」
「魔物って飼育できるものなの?」
「デュオ…。アンタ教会でグリーンキャタピラー飼ってるでしょうが」
「あれ無害だからだよ。狂暴なのは飼育しようとも思わないよ」
あんな翼広げたら三メートル以上ありそうな。「あぁん? なにガンくれとんじゃ、ワレ!」とか言ってそうな雰囲気でこっちを見ている。そんなストライクバードから姉兄弟三人身を寄せあって避難していた。
「はぁー。もうそないな時期かいな…」
何かを読んでいたアデルばあちゃんが、面倒事がやって来たと言うような溜め息を吐きながら呟いていた。そしてーーー。
「そや! デュオ坊。ちょいとおばあちゃんと、今度の満月の夜、祭りに出掛けへん?」
「はい?」
唐突にそんな申し出をして来たのだ。
ゆっくりと。ゆっくりとてすが他作品も書いてます。もしよろしければそちらもm(_ _)m