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マギ! マギ! マジック!  作者: 嘉和尚武
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No.3




 No.3




 チッチッチッ。


 窓の外で夜が明ける少し前に小鳥が鳴く。

 ここのところ夜遅くまでこの世界に関する本を読んでいたので、まだ寝ていたいのたが。

 しかし前世(?)で使っていた目覚ましと同じその()が聞こえてくると。

 「目を覚ませー! 起きる時間だー!」「ヒャッハー! 今日も一日の始まりだああああ!」と、寝ていたいのに体が勝手に覚醒して(目覚めて)いく。


 「…………………………ねみぃ」


 お陰で仕事をしていた時からの感覚が、このお子さまの体になっても抜けないでいた。

 二度寝すればいいじゃないかと思うかもしれないが、長年一旦動き出して。朝食を取って。それから一休みすると言う行動をしてからでないと、体の方が休ませてくれないのだ。

 まあ、暫くすればこの感覚も抜けきるだろうから、それまでの辛抱なのだが。


 「おや? デュオ坊っちゃん。今日もお早いですね」


 顔を洗いに洗面に向かう途中で、スキンヘッドに筋肉隆々。体のあちこちに刀傷を持つ。どう贔屓目に見ても堅気の人に見えない大男が、木箱を担いで現れた。


 「バルガス、おはよう……」


 別に起きたくて起きてる訳じゃないんだがな。と、そんなことを言えば、じゃあなんでだ、と言うことになりかねないので、その言葉は飲み込む。


 この堅気に見えない筋肉隆々な大男バルガスは、今の俺の生家。ロッソストラーダ家の料理番をしている。

 見た目から料理人? と思ってしまうかもしれない。

 彼はこの家で働く前の職業は『冒険者』と言う何でも屋の様な職を生業としていたのだ。

 しかしその仕事中に膝に矢を、ではなく。大怪我を負い。完治はしたのはいいのだが、冒険者を続けられるほどの肉体ではなくなってしまったそうだ。

 それで次の職を探していたバルガスだが。そんな彼の料理の腕を知っていたうちの父さんに、その料理の腕を買われ。ロッソストラーダ家の料理番として働くことになった。


 ん? なんだかバルガスが怪訝そうな表情でこっちを伺っているが、何かあったか? それとも連日こんなに早く起きるのは、子供らしくなかっただろうか?


 疑惑を持たれたかと思っていると。


 「……デュオ坊っちゃん。ここ数日で死んだ魚の様な目をしてきましたね。どうしたんですかい?」

 「…いや、まあ、ちょっとね」


 疑惑ではなく心配で見られていたのか。


 俺は誤魔化すように顔を洗い。近場にあるタオルを探すと、手渡される感覚があった。

 バルガスが気を利かせて手渡ししてくれたのかと、お礼を言おうとそちらに向くと。


 「ありがとうバルガス……?」

 「おはようございます。デュオさま。昨晩もご熱心に読書をなされていたようですね」


 そこにいたのはケモノ耳メイド。シェルティであった。

 しかもよくわからんが、笑顔ながらも威圧的な感覚がビシッバシッと伝わってくる。

 はっきり言って怖い。

 檻越しではない。直に肉食獣を前にしている様な気分になる。

 視線を外さないようにしてバルガスの方を見ると。バルガスは苦笑しならが手を振って厨房の方へ消えていく。その姿はまるで関わり合いたくないと言うように。


 ……ヤロウ、逃げたな。


 「デュオさま。夜はお眠りになる時間でございます。宵の口(夜八時頃)まで辺りであれば、お咎めもいたしませんが、夜半(零時頃)も過ぎても尚起きていらっしゃるのは、さすがにどうかと思われますが。その辺はどう思われているのでしょうか?」


 怖えぇ! 笑顔が笑顔に見えないと言うのは、これほどまでに恐ろしいものなのか!?


 「いや、ほら、きちんと起きられてるし…」

 「お体に差し障られます。子供の内はよく食べ。よく学び。よく眠る。これをされることで、ご健康なお体を作ることになります。今からその様な不健康な生活をされれば……」


 なんでいきなり言葉を止める!?


 途中で言葉を止め。ジロジロと俺の顔を観察するシェルティ。

 そして暫く観察してからハッとして、咳払いをして取り繕い。


 「失礼いたしました。その様な腐りきった目を見るのは何分初めてで。どの様な過ごし方をしていたら、その様な目が出来るのかと、深く考えてしまいました」


 現代の働く日本人労働者の目はきっと俺みたいな目の人ばっかだよ……。ってか、みんなヒデェな! 死んだとか腐りきった目とか! どっちにしたって変わらねえだろうが! 


 俺はそんな言葉を聞き(なるべく)流すようにして、言い訳をする。


 「本って読み始めると終わりどころがなかなか、ね」


 子供の(デュオ)も差ほど知識は持ち合わせていない。だからいつ終わるとも分からない暇がある内(子供時代)に、出来るだけ知識だけでも詰め込んでおきたい。

 それに俺が調べたこの世界の文化レベルだが、中世時代ぐらいの文化基準だと思う。たまに現代日本よりも優れたおかしな技術があったりするから、断言はできないが。

 そんな時代レベルの文化だから、三人姉兄弟(きょうだい)で俺は次男だ。基本的に長男がどうにかなら無い限りは、家を継ぐこともない。大概は外にほっぽり出されるか。家に居ても言いと言われても、肩身の狭い暮らしをしていくしかないだろう。

 だったら今のうちから出来ることはして、悠々自適な暮らしが出来る準備を今からしておくのは、悪いことではないと思う。楽をするためには、苦労は買ってでもしろって言うからな。


 「だからと言って、灯り代とてタダではありません。日中にお読みください」

 「まあ、そろそろ【光源(ライティング)】も使えるようになってきたし。ん、わかった。今度からそうしておくよ」


 シェルティの注意を聞き届ける。朝食はまだ出来ないだろうから、外に出て。更に体を起こすためにラジオ体操でもするかと、シェルティの横を通りすぎようとすると。何故かシェルティが俺の肩をガッシリと掴んだ。


 「なにシェルティ? 本は昼間に読むようにするよ」


 もしかして俺の返事が聞こえなかったかなとシェルティの方を見ると。ギィギィ……っと、油がなくなった歯車の様な動きをしながら見るシェルティの表情は、驚愕の顔をしていた。


 「お、お待ちください、デュオさま……。私の聞き間違いでしょうか? いま【光源(ライティング)】がお使えると言ったような……」

 「え? ああ、うん。使えるよ。ほら、『魔力よ。ひとつに集まりて光となれ。其は闇夜を照らす灯火なり。【光源(ライティング)】』」


 信じられないと言う顔で言うシェルティに、俺はここ最近読んでいた本。『初級魔法書』に載っていた『灯りの魔法』を使った。


 そう、この世界クラウベルブァーナには、『魔法』と言う(ことわり)が存在する。

 俺はその情報を得たとき、真っ先に魔法の事を調べ始めた。なにしろ魔法だ。地球にはない技術。使ってみたい。覚えてみたいと言う好奇心に駆られ。寝る間も惜しんでなんとか、いまは【光源(ライティング)】の魔法だけであるが、まともに使えるようになった。


 あらゆる生命の体内に在ると言われる魔力を練り高め。灯りの呪文を唱えた俺の指先には、テニスボールほどの大きさの光の玉が宙に浮かぶ。


 好奇心で覚えた魔法だが、これが以外と疲れる。肉体的な疲れと言うよりは精神的な疲れだな。

 『初級魔法書』に載っていた生活に役立つ魔法の扱い方を熟読し。実践し始めたが、初めの魔力操作で手間取り。やっとこさ魔力の扱いにこなれてきて、魔法を使い始めても、最初のうちは一分も持続して使ってると、意識を失うようにぶっ倒れた。今だと二時間ほどで倒れるから伸びは良いのかもしれない。

 それで朝は無理矢理起きてるから、二人には死んだ目とか腐った目とか言われてるのかもしれない。


 よし。今日はどっかで昼寝でもして過ごそう。


 俺が今日の一日の行動を考えていると、呆然と見ていたシェルティがカタカタと震えだしていた。

 俺はどうかしたのか? と、シェルティの方を改めて見ると。


 「お、お、おお……」

 「シェルティ?」


 こんなにも動揺しているシェルティを見るのはどちらの俺も初めてだ。

 大丈夫か? と声を掛けようとした瞬間。


 「お嬢さまー! おじょうさまー! デュオさまがー!」


 大きな声を上げて、何処かへ飛んで走るように行ってしまった。


 「どうかしましたかい?」


 俺が首を傾げて疑問に思っていると。厨房へと逃げたバルガスが何事かと言うようにこちらを覗いてきた。


 「さあ? シェルティが急に走って行っちゃった。『お嬢さま』とか言ってたけど。ルー姉のこと?」

 「あのシェルティが『お嬢さま』と言ったら奥さまのことですが……って!? デュオ坊っちゃん!? その手に在るのは!?」

 「え? 『灯りの魔法』だけど」

 「デュオ坊っちゃん……魔法が使えましたっけ?」

 「練習して使えるようになったよ」


 バルガスが驚きと呆気混じりのため息を吐き。シェルティがどうしてあんな声を上げていたのかが分かったと言うような顔をした。


 「もしかして魔法が使えるのがおかしいの?」

 「おかしいってことはないですが、デュオ坊っちゃんはまだ三つになったばかりでしょう。いくら習得が簡単な『灯りの魔法』とは言え、そんな年代の子供が使えば驚きもしますよ」


 そうなのか? 『初級魔法書』には子供でも覚えられる、一番始めに覚える魔法とも記載されていたんだが。もしかして俺は転生物語でよく在る、あり得ないこと(チート)的なことをしてしまったのだろうか?


 やってしまったものはしょうがない。今度から気を付ければ良いんだ。変に目立って厄介事に絡まれるのは御免だからな。


 少々不振がっていたバルガスに、俺は食事が出来るまで外で体を動かしていると告げ、庭へと出る。

 庭へ出たらラジオ体操第一をする。俺(前世)の子供の時には第一しかやらなかったからな。第二のやり方は半分も知らない。ましてやその先の第三、第四、第五なんてものは在るとだけしか知りもしない。


 「すー……はー……よし。次はストレッチをしよう」


 子供の内から少しずつやって鍛えておかねばな。十代なんてあっと言うまに過ぎていく。二十代になると少しずつ体力が落ちていって、三十代になると更に落ちていったからな。


 一汗欠く頃には、落ち着きを取り戻したシェルティが俺を探しに外へやって来た。


 「デュオさま、こちらにお出ででしたか。もう間もなく朝食の時間となりますが、その前に奥さまからお話があるそうです」

 「ん? 『お嬢さま』が?」

 「……それについてはお忘れください」


 少しからかいで言ったせいか、シェルティが羞恥の顔を晒した。始めて見るその仕草は物凄く貴重な場面(シーン)だったのではないだろうか。


 カメラか何かがあれば撮っておきたかった場面だな。


 「時にデュオさま。先程の動きはなんでしょうか。なにやら規則正しい動きをされておりましたが」

 「あれは柔軟だよ。運動とか体を動かす前の準備」

 「動かす前の? 必要なのでしょうか?」

 「体が固まったまま動くより。体を柔らかくしておくと怪我の防止になるし。健康のためにもなるよ」

 「その様なことが…。どちらでその様な知識を?」

 「本に載ってたよ」


 そんな本が在るとは思えんが、こう言っとけば不審には思わないだろう。何の本に載っていたか聞かれたら、忘れたとでも答えておこう。

 その後はシェルティに汗を拭いた方が良いと言われ、タオルで汗を拭き。今生の母親が待つであろうリビングへと向かっていった。














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