No.26
No.26
トトカト村の秋の収穫も終わり。もう間もなく冬が訪れる頃。秋の実りに感謝する収穫祭がトトカト村では行われる。
そしてそれは大人も子供も大忙しと言うように行われていた。
「収穫祭の準備って聞いたけど、結局なにやるんだ?」
「なんだデュオ。知らないのか?」
「食べたり飲んだりが基本。あとは踊ったり。男の人達が力自慢みたいなことをしてるわよ」
「この日はおいしいものがたくさん食べれるから、僕としては嬉しいよ」
「って! 俺の説明とるなよ!」
と、俺にとっては既にお馴染みとなったウィドー。マルタ。ポテプの三人組だ。
教会で『教育日』がある度に一緒に要るから、良い友達となっている。
そして一緒に行動するようになってからか、俺の口調はこいつらと要る時は、大分俺らしい口調になっていた。
「去年はすごかったんだぜ! でかい猪がどーん! って感じでさ!」
「お肉がたくさん食べれたよ!」
「聞いてる聞いてる。ルー姉やアル兄が随分と興奮しながら教えてくれたよ」
「あれは本当に凄かったわよ! もう! こーんなに大きいの!」
ウィドーとマルタが自分達の体を使って、その時の猪の大きさを表していた。ポテプはその時の肉の味でも思い出して要るのだろう。若干ヨダレを垂らしている。
「またあんなのが出てこないかな」
「おいおい。一応は魔物だぞ。そんなのが早々出て来られても困るだけだろう」
「魔物のお肉はおいしいからね。また食べたいなぁ……」
「自分の住みかから追い出されるような魔物なら、平気じゃない?」
「そんなことはありませんよ」
そんな俺達の会話にすっと、入ってくる人がいた。
「「「「ザーム牧師」」」」
「マルクレスタさん。自分の住みかから追い出された、と言うことは。もう後がないのと一緒です。魔物とは言え生き物ですから。自分が生きるために必死に為って、その糧を得ようとします。手負いの獣は恐ろしいと、シュワイトさんから教わりませんでしたか?」
「……うっ、おそわりました……」
猟師をしている父親からの言葉を思い出したのか。マルタは項垂れ。自らの言葉に反省の色を見せた。
「魔物の中には攻撃性の無いモノも居ますが、それは希です。殆どの魔物は攻撃性が強く。狂暴なものが多いのです。皆さんも不用意に森に入ったり。森から出てきた魔物を見かけても近寄ったりしないでくださいね。もし見かけたら、必ず誰か大人の人に言うこと。良いですか?」
「「「「はーい」」」」
教会に来ていた子供達がザーム牧師の言葉に元気良く返事を返す。
この教会では魔物のグリーンキャタピラーを育てているのだが。まあそこはそれ。利用価値の有る魔物も中には要るので、ケースバイケースと言うところだろう。
「んでよ。今年の収穫祭だがよ」
「去年はお前んところでやったろ。したら持ち回りとしたら。次はお前んところじゃないか?」
「……ねえ」
「受け持つのは構わねんだけど。代わり映えしねぇって言われるのはなぁ」
「魔物が出たときは騒ぎになったけんど。去年は良かっただなぁ」
「……ボクの話を」
「んだんだ。みんなえれぇ興奮してな。ウチのところなんてその夜はカカァと燃え上がってな」
「なんだお前んところもか。ウチのところもだよ。なんつうか、昼間の興奮冷め止まずって感じでな」
「あの日はみんな同じってこったな」
「「「「あっははははは!!」
ダンッ! と机を叩き。バカ笑いをしている大人達の意識をこちらに向ける。
「あっははじゃないよ! ねえ! なんで!? なんでボクがこの話し合いに参加させられてるの!? おかしいよね!? おかしいでしょう!?」
机を何度も叩き。今起きている理不尽さを訴えるが。大人達は誰一人としてこのおかしな状況に疑問を抱いていないようで、寧ろ何をそんなに怒っているんだと言う顔をしていた。
「その不思議そうな顔はなに!? 収穫祭の運営にボクが関わるのはおかしいって話だよ!」
そうなんでか知らないが。『教育日』が終わったあと。いつものように魔道具の教えをして貰えるのかと思ったら。何故かトトカト村の人達がぞろぞろと教会に入ってきたのだ。
俺は始め今日は何かあるのか? しかしザーム牧師からは何も聞いていないがと、首を捻り考えていると。来た大人達は自分達で勝手に話し合いを始めたのだ。
これ見て、ああただの場所貸しか。と思っていたのに。いつ自分はその輪の中に入れられたのか不思議なほどに、大人達の話し合いの場に入れられていた。
そして今。あまりにもすんなり話の輪の中に入れられていたことに理不尽さを感じ。その話を切り出したをした。と言ったところだ。
「おかしいと言われてもなぁ」
「ちょうどデュヴェルオブリス坊っちゃんが居たからなぁ」
「んだんだ。ついでだから話の場に入ってもらっただけだよ」
「その"ついで"の意味が分からない!」
子供の自分に一体何を期待しているんだここの人達は。
俺はもう家に帰ろうかと席を立つと。
「デュヴェルオブリスくん。もう少しだけ話し合いに参加してください」
「ザーム牧師……でも……」
ザーム牧師がいつもと違った苦笑に満ちた表情でそう言ってきた。
「ユークリウッドさんからも知恵を貸してあげられるならしてあげなさいと、言葉をもらってます」
「ユーリ父さんから?」
そんな話は聞いていなかったが。……うむ。なるほど。
「……あははは。予想通りと言うか。予想以上と言うか」
乾いた笑いをするザーム牧師。その視線の先には、デュオが村人を相手に熱演を演じていた。
「村の人達がみんなで楽しめるものなんだよね? だったらこう言うのはどうかなと思うんだ」
「坊っちゃんが言うことはようわからんけど。こげんことして手間かかるんじゃなか?」
「そこは問題ないよ。ひとつの場所に手間隙は掛けない。大体は使い回し。少し大変なのは、その場所で何をやるかってことだけ」
「なにやるかっつてもな。オラたち坊っちゃんみたいな魔法が使えるわけでも。頭良いわけでもねぇからな」
「ボクだって万能じゃないよ。だからみんながどんな事をやりたいのか話して。それをみんなで形作れば良いんだよ」
デュオの言葉にその場に居るものが唸るようにして首を捻り考える。
「取り合えず言葉に出してみよう。出来る出来ないはそれからだよ。はい。そこのおじさん。おじさんは何がしたい?」
「えっ!? オラ? えーっと、そうだな。なんかこう、楽しいのがやりたいなぁ」
「おじさんにとって楽しいことは?」
「ええっ!? 酒飲んだり。あとはそうだなーーー」
と言う具合にデュオはその場に居たもの達に色々と聞いていく。
そしてそれが次第に形となり。
「よし! 具体案はこれでまとまったよ! あとは収穫祭にまでに準備すればOK!」
「「「「おおっ!! さすがデュヴェルオブリス!!」」」」
「いや、それもういいから」
村人達の意見を纏め上げ。それを作案したフローチャート用紙を村人に見せると。村人達から歓声と拍手が沸き起こる。
「だけどこれだけだとちょっとも物足りないな。うーん……よし。ユーリ父さんにも協力してもらおう」
収穫祭でやるべきモノは決まったが。それだけでは少しインパクトが足りないと。自分を巻き込んだユークリウッドにも手伝いをさせようと思案する。
「……あの、デュヴェルオブリスくん。何をするつもりなのかは知りませんが。大分顔が悪どい顔をしてますよ」
「え? そんなことないよ。ちゃんと話を通しておいてくれたらもっと凝ったものが考えられたのにとか。いくら親とは言え。三才児のボクをこき使うのはどうかと思うとか。ぜんぜんそんなこと思ってないよ?」
「……思ってるんですね。ハァ…まあ、ユーリが自分で撒いた種です。自分で摘み取ってもらいましょう」
「あ! ザーム牧師も協力してね」
「私もですかっ!?」
「当然だよ。ザーム牧師もトトカト村の一員なんだから」
「……ハァ、軽い気持ちで頼んだら。とんでもないことをやらされる嵌めになったと言う気分ですね……」
「大丈夫。そう大したことじゃないから。じゃあボクはユーリ父さんに報告と頼み事してくるね」
こうしてデュオが主軸とした。トトカト村の収穫祭の準備が始まったのであった。
今年の収穫祭は一体どんな収穫祭になるのか? 話を聞いていたザーム牧師でも予測が着かない故に、少々の不安を抱いていた。