No.13
No.13
「アッハハハハッ! 牧師さんが倒れたって聞いたときにはビックリしたが、腹へってぶっ倒れるとはな!」
「ハァ、ご心配お掛けしまして……」
「大したことがなくて良かったな!」
「ええ、まあ……」
案の定予想していた通りにザーム牧師は、幾人かの村の人達に囲まれ。からかわれ、いやきちんと心配していた言葉を掛けてはいる。ただまあ、居たたまれないと言う感じでザーム牧師が椅子に座って食事をしている。
「ザーム牧師、ご飯食べれた?」
礼拝堂で待っていた俺は迎えにきたシェルティと共に、ミュゼアムさんと言う人が経営する食堂にやって来た。
大衆食堂と言う言葉がピッタリな作りの食堂である。
「ええ、お陰さまで久しぶりにまともな食事を取らせていただきました」
久しぶりって、魔道具を作り出してからまともに食事を取ってなかったか。うーん。俺も前は人の事言えなかったらなぁ。
体調の悪そうな若い奴が「大丈夫です。平気です」って言っていたら一応様子見てたけど、午後から明らかに調子悪くなって、もう病院へ行けと行かせたら、即入院。緊急手術。なんて出来事がよくあったからな。仕事も大事だけど、健康で要ることがなによりも大切だよ。
しみじみと前の職場での出来事を思い出してザーム牧師に無理はしないでねと、伝えておいた。
「ああそうです。デュヴェルオブリスくん。君が考え付いた『拡張魔法』の魔道具。その試作品ですが、何とか形になりましたよ」
「ホント!? 実は今日ザーム牧師のところに寄ったのはその事を聞きに行ったんだ」
行ったら行ったで死体現場みたいでビックリはしたけどな。
「ただどうしても魔力型には出来なく。魔石型にしか出来ませんでしたが」
魔力型。魔石型。これらは以前話したように魔力型は自分の魔力を使って発動させる即席タイプの魔道具。
魔石型は魔力が宿った石があって、まあ所謂電池みたいなもだ。その魔石に内包されている魔力が無くなるか、止めない限りは続く。持続タイプの魔道具。
後者の魔石型の魔道具の方が技術的と言うよりは、材料が貴重なものを使うため高額のものになる。
「量産は無理?」
「そうですね。作れますが……魔石の消費量が多くなって、結果として高く付くでしょうね」
「そっか……」
作れればルー姉の荷物持ち(いまだにルー姉は諦めてない模様)から解放されると思ったのに。あとついでにこの村の良い資金源にもなったと思うのになあ。
俺が残念がっているとザーム牧師は思わぬことを言ってくれた。
「魔石を交換率を低くすれば、それほど高くならなくなると思いますよ。その為には魔物の素材を使って、魔道具を作らなければいけませんが」
「魔物の素材?」
このクラウベルブァーナには『魔物』と呼ばれる生物が存在する。
まあゲームなんかて登場するモンスターと思ってもらえれば分かりやすいと思う。
魔物と人類圏は上手く住み分けられている。
ただたまぁ~に人里に降りてきては災害をもたらすと言うことがある。この辺は野生の動物と変わらないな。
トトカト村にある近くにある大森林と呼ばれる森の奥深くにも魔物は住んでいるらしい。
去年かな。ユーリ父さんが村に魔物が出たと聞いて退治しに行ったことがある。
その時退治したのは、軽トラック並みの大きさの猪と言っていた。
俺は丁度その時は風邪を引いて寝込んでいて見に行けなかった。ルー姉やアル兄がすごく大きかったと興奮して語ってくれたことを覚えている。
「魔物がなんで魔道具作りに必要になるの?」
「おや? デュヴェルオブリスくんは魔石がどうやって取れるか知らないのですか?」
「魔石? 鉱山とかじゃないの?」
違うのか? この世界の文化知識と魔法に関する知識を優先的に集めていた時には載ってなかったから、別系統知識なのか?
「そうですか。ふふっ。ああすみません笑ったりして。少し安心しました。デュヴェルオブリスくんは大人顔負けな知識を持っていますが、こうした知識が不足していると言うことに、少しほっとしています」
「もしかして常識?」
「常識、と問われれば少し専門的になりますね。それで魔石ですが、魔物の体から取れるのですよ」
なんとッ!? えっ!? あれ石だよ!? もしかして胆石とかそう言うこと!?
「魔石と言うのは魔物の体から発見される石のことです。その石は高密度な魔力が宿っています。これは魔物の魔力が結晶化したものじゃないかと言われています」
「それだったら人は? 魔法が使える人達も魔石が在るんじゃないの?」
魔力が結晶化したものだったら人にもあるだろう。
「それが不思議なことに魔物からしか発見はないのですよ。魔力の強い魔法使いの方の死後の体を調べてみたと言う話があるのてすが。その人の体からは魔石は見つからなかったそうです。ですから魔石は何らかの魔物の生態に関わっているのでは、と言われてますね」
「へぇーそうなんだ」
「それで魔物の素材ですが、そんな不思議な魔石を持っている魔物は、死後もいくらかの魔力が宿っています。ですので魔物の死体を上手く処理すると、魔石よりは劣りますが、魔力が宿った素材として魔道具の材料として使われることがあるんですよ」
「なるほど」
ためになるお話です。
つまりは魔物をぶっ倒して素材を剥ぎ取り。加工してアイテムを作る。ええ知ってます。あれですね。モンスターを狩るゲームですね。よくやりました。上手にできました~♪ ってな。
「と言うわけで、魔石をなるべく使わない魔道具を作るとなると、魔物の素材が良いと思うのですが、どんな魔物の素材と言うわけにもいきませんよ。素材によっては目的の魔道具に沿わないのものもありますから」
あれだね。剣を作るためには骨とか爪とか鉱物が必要だけど。目玉とか心臓とかお肉とかでは作れないと言う話だね。
俺が欲しいのは物が沢山入るバックとかだ。爪や鱗、骨や肉はいらない。まあそれはそれで使い道はあるだろうが。
となるとバックだと皮や繊維や木材か? 木材は魔物じゃ持ってなさそうだが。
取り合えずバック系の魔道具を作るのだから、それに適した魔物はいないかを聞いてみる。
「そうなると皮系と繊維系ですね。皮だと牛や馬系統の魔物が良いでしょう。ですが狂暴性がありますからね。集めるのに苦労します」
「繊維だと、どんな魔物?」
「繊維……繊維……どんな魔物がいましたか。すみません。どなたか繊維を持つ魔物を知ってる方はいらっしゃいますか?」
ザーム牧師は食堂にいた村の人に訪ねる。
しかし村の人達はもう仕事する気がないのか、昼間っから酒飲んで最早出来上がっている。
「おるよ? ザームほくし」
「……すみません……何でもありません」
「そうけ? ぶっはっはっはっ!!」
ダメな大人を見ているようだ。ザーム牧師もあの状態じゃ話が通じないと諦めたようだ。
「シェルティは魔物に詳しい?」
「残念ながら然程詳しくはありませんが、繊維、糸と言うことでしたら。捕獲が容易なグリーンキャタピラー辺りが良いのではないでしょうか?」
グリーンキャタピラー。所謂芋虫だ。ただそのデカさが三十センチ程ある芋虫だけどな。
草花を食い荒らすので、農家の方が見つけたら即退治していると言われている。
子供でも容易に捕まえることが出来るが、奴らは糸を吐く。その糸が結構粘り気のある糸で。捕まるとトリモチに引っ掛かったように動けなくなる。そうして相手が動けなくなったところで、奴らは悠々と逃げていく。奴らに攻撃手段はないからな。
「グリーンキャタピラーの糸ですか。試してみる価値はありそうてすね」
ザーム牧師の目がキラリと光っている。
ああこれはまた魔道具作りで徹夜する感じか。
俺はやれやれと言う感じだが、元作り手としては止めるのもなんだかなと思った。
「難しい話は終わったかい」
俺達の話に一段落が着くのを見計らったのか、この食堂のおかみさん。ミュゼアムさんが声を掛けてきた。
ミュゼアムさんはなんとなく雰囲気的に肝っ玉母ちゃんと言う感じがする。
そしてうちのノイッシュ母さんとはまた違った女の色気と言うのを出している。
……うむ。あれだ。料亭の女将とか、そんな感じの人だ。
「ごめんなさい。ミュゼアムお、お姉さん。注文しないで居座って」
危なくおばちゃんと言いそうになったが、軌道修正をしてお姉さんと言った。
この手の微妙な年齢の人におばちゃんはいけない。自分の命が惜しかったらだ。
「あっはっはっはっ! おばちゃんでいいよ! お姉さんなんて年はうん年前に通りすぎてるからね」
「ええっと、じゃあミュゼアムさんって呼びますね。はじめまして、ボクはロッソストラーダ家次男にて、妖精族のデュヴェルオブリス・ロッソストラーダと言います」
「あっはっはっはっ! 律儀な子だね。三つだって聞いてたけどとてもそうは見えないよ」
よく笑い。竹を割ったような気っ風の良い人のようだ。
「で、話がまだ続いていたかもしれないけど、あたしの方でもちょいと聞きたいことがあってね。いいかい?」
「ええ、どうぞ」
「悪いね牧師。坊やがスパゲッティーやビザやグラタン。それとギョウザを考えて作ったってことで良いんだね」
「うん。そうだよ。美味しくなかった?」
正確には地球の料理で、クラウベルブァーナでも似たような料理があるから、こっちで問題ないのをモノを知識提供したんだけど。
「いや物珍しさもあったけどね。村じゃ結構評判良くてね。食べに来るよ。だけどねーーー」
ちょっと困ったような顔付きをして。
「スパゲッティーは麺にするのが少し手間だね。それとピザとギョウザかい。あの皮の大きさが違うからこれも手間になるんだよ。それとグラタン。鍋を使われるから他の料理に使えなくなる。どれか一品だけだったらそうでも無いんだけどね。ひっきりなしに頼まれるから手が追い付かないんだよ。何かいい方法あるかい?」
おう……料理の製法に関する話か。グラタンの方は今カルロスさんに陶器の皿を頼んでるからな。それでなんとかなるだろう。
俺はシェルティに目配せすると、シェルティは陶器の皿の話をミュゼアムさんに話す。
その間に俺は他の料理の製法が簡単になる方法を考える。
スパゲッティーの麺は、中身がよく分からんが製麺機でも作るか。いくつか作って要ればなんとか形にはなるだろう。
ビザと餃子の皮か。少し邪道だが円形の型抜きでやれば早く出来るな。あ、餃子の皮で思い出した。確か百均で手軽に餃子の皮を包める装置があったな。たい焼き機のような開閉出来る感じのやつが。
「へぇもう作ってくれてるとはね。さすが名前がデュヴェルオブリスだけはあるね! 仕事が早いわ!」
え? なに? 俺の話し?
途端にミュゼアムさんが俺の名前を呼ぶから思考の海から浮上して、そちらの方を見る。
「なにミュゼアムさん。ボク呼んだ?」
「? ああ違う違う。坊やを呼んだ訳じゃないよ。こっちがなにか言う前に終わってたからね。ビックリしただけさ」
何か誤魔化されたような感じはするが、ま、いいっか。
実はその後、ロッソストラーダ家三人姉兄弟の名前の秘密を知ることになる。
まあたいした秘密でもないんだが、俺以外はみんな知っていた。
俺はミュゼアムさんの態度に特に気にすることなく。今考え付いた料理の製法について話すと。
「そいつは、何か道具が必要ってことだろう。カルロスは陶器の皿を作ってるから頼みに行けないしね。牧師さん作れるかい?」
「申し訳ありません。さすがに鍛冶が必要なことは、魔道具なら何とかなりますが」
「魔道具だと高くつきそうだね。しょうがない。カルロスが作り終わるまで我慢するしかないね」
ミュゼアムさんが少し残念そうに肩を落とす。
カルロスさんもどれだけ時間が取られるかわからないしな。下手をすれば一年後とかになりかねないか。
そのまで待たせたら悪いしな。……よし。
「ミュゼアムさんボクで良ければ作ろうか?」
「坊やがかい!? 作れるのかい!?」
「たぶん作れるよ。形とかは本職の人に比べたら悪くなるけど」
魔法とか使えば何とかなる。きっと……。
不安げな言葉は告げず。堂々とした態度でいるとミュゼアムさんは不振がっていたが。
「まあ、作ってくれるなら誰でもいいけどさ」
「まかせて! じゃあちょっとボク行ってくるよ」
「あ! デュオさまどちらへ行かれるのですか!? お待ちください!」
ミュゼアムさんに作っても構わないと言われた俺は、食堂を飛び出すように出ていく。
その後をシェルティが慌てて追いかけてくる。
「……なんだか名前の通りの子だね」
「本人は自覚していないのですがね」
「知らないのかい!? あんな有名な話なのに!?」
「どうも本人はそう言った話よりは、実用的な話の方が好きみたいですね。魔石の話をした時も知らなかったのは、そこまでの知的好奇心が向いてなかったからでしょう」
いずれは辿り着いていた知識でしょうけどと、ザームは嘆息するように息を吐く。
「あの三人は良い意味で、ユーリ達の望む育ち方をしてるようです」
次回の更新は12月16日となります。




