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そうかけ (想像×創造 短編)

作者: 蜜柑 猫

 多世界。

 それは、何億何兆と存在する異世界の空間。

 多大なる量の異世界が存在するそこは、その名の通り『多世界』と名付けられた。

 

 いつこの空間が成立したのかも解らない未知なるその正体の中、今日も限られた時の中で多くは生きる。

 怠惰である者も、強欲である者も、幸運である者も……全て平等に。

 

 多世界にはあらゆる世界が存在する。死後の世界である数多の地獄や天国、極楽浄土、炎で包まれた世界や、亜種族の住まう世界、混沌に染まり上がった闇や種族の世界、魔法を扱う世界、幻想の産物だった世界、機械工業に染まった世界、AIが蔓延る電脳の世界……



 もちろん、神々が住まう世界だって存在する。妖怪や化物などの怪物が住まう世界だってある。

 ほとんどの世界はこの多世界の存在を知り、そしてその多世界と呼ばれる空間(というか境界)を通って他の世界へ渡る。

 ある世界は戦争を仕掛けて、またある世界は同盟を組んで……。

 平和に染まる世界があれば逆に残酷に支配される世界もあった。


 その世界でも、ヒトや獣や神々全てが全て住まえるような環境ではないものもあり、それこそ多世界の中で数を占めていた……。

 故に、数ある世界の位付けをしたのが、多世界のほぼ中心に位置する世界、通称「香花界」で、

 存在する世界を下から順に



 界 < 道 < 集 < 中 < 香 < 海 < 里 < 国


 と決められ


 界から集までに位付けされた世界、普通界というのだが、住めるような世界ではないのだ。


 その三位が普通界と称されたように他の位にも、単独界(中)、千現界(香~海)、三異界(里、国)とある。

 その中でも裏世界と言う名で、強力な個人の力や勢力を持つ世界が全38種程存在する。

 その中でも、裏地曲、旧山塊、大炎界、旧雷田、士御倉の5世界が他の裏世界よりも上に立ち、『5柱』と存在を称される。



 しかし、そんな中その多世界の存在に、未だ気付かずにいる世界があった。

 数多の惑星が点々と宇宙空間に存在する世界『地球の中』である。


 地球の中、即ち地球。特に日本。

 別に、多世界の存在に気付かない世界など、地球の他にもある。しかし、その中でも地球は、日本はまるで違っており、まさに多世界中の人々からは憧れ地であり、とても好かれている多世界の国だった。


 各世界での旅行雑誌でも、日本の特集は欠かさず載ってあるくらいだ


 しかし、なぜそこまで日本が好かれるのかと言えば、能力を持つものがおらず化物や異形すら存在しないからである。

 日本人からすれば、理解するのに苦しむかもしれないが、能力を持つ者がいないのであるなら、争いごとが起きない。即ち平和ということになる。

 

 そもそも、日本は多世界中と比べても、実に平和ボケしている世界であった。

 だから、皆から好かれる。


 公用語までとはいかないが、日本語を理解し喋ることのできる人が比較的多く、文化をそのまま、までとはいかないまでも、日本古来の和風建築や真似ている世界すらある。






 多世界ーーそれを一言で言い表すには持ったないほどの美しさを秘めているといっても過言ではない……。


 その言葉には、人々の生活というものがある。

 流れる川に立って、魚を捕まえる人々、絵を描く人、仕事をする人、あと一つしか無い林檎で喧嘩になる少年達、魔法学校に通う生徒たち、談笑に浸る悪魔達……。


 そこには、数えきれないほどの物語がある。

 鉄道に似たものがいくつもの世界で独自に作られて、互いに異世界からの交流人たちが評価し合い、自身の世界に持ち込み、その鉄道に似たものの精度が高められる。


 そのようなことが、何度も何度も繰り返され、

 今日、ドレスを身にまとった貴族と休憩中の兵士とが、隠れて連絡を取り合ったり、駅のホームに自動で光の柵ができる機械が全面的に導入されたり、悪魔達が学びを楽しむようになったり、ランプより安全な魔力灯になったり……。


 十人十色の人々の生活が現れているのだ。


※※※※※


 ゴーッと力強く鳴り響く、汽車の走行音と度々来る激しい揺れに頭上のトランクが落ちてきそうで気が気でなかった。


 四人席の特別に装飾されたその室内の窓際に白い手袋をはめた、執事の正装を身に纏う男がひじ掛けに腕を突っ立て手の甲で、頬を支えながら、流れゆく黄色い花畑を眺めて、今まで会ってきた人達の事をふと、頭に思い浮かべる。


 右も左も解らない自分に現実を気付かされてくれた人が傍にいて、

 

 何をやるべきかを探す切っ掛けを教えてくれた人がいて、


 何が必要なのか教えてくれた人がいて、


 大切なものが何かを教えてくれた人がいて、


 選択を切り捨てる勇気を教えてくれる人がいて、


 人の背中を押すことがどんなに大切なのか教えてくれた人がいて、


 自分を信じて力を与えてくれた人がいて、


 自分を犠牲にする理由を教えてくれた人がいて、


 自分を愛さなければいけないと気付かせてくれた人がいて、


 大事なものを返してくれた人がいて、


 涙の理由を教えてくれた人がいて、


 迷った時の対処を教えてくれた人がいて、


 自分の守るべき全てに気付かされてーー



 僕に大切なものを与えてくれた人がいて。



 過ぎ去ったと書いて『過去』、未だ来る書いて『未来』。

 

 足場の悪いレールが違うものへと変わったのか振動が噓のように感じなくなったと同時に目の前の景色が変わる。--世界が変わった。

 魔術と機械の融合体が、まさに今体感したことだった。難しい説明は省くとして、要は超人以上の力を持たなければ、行き来するのが不可であった多世界間での行き来を超人などのそれなりの力を持たずとも、行える、文字のようなまさに革命的な発明品だった。


 しかも、恐らく別世界へ到達するまでに1分として遅れはなかった。

 つまるところ、世界と世界の間である多世界の空間での移動はせずにどちらも、世界への入り口を空間移動先としてつないでいるということだが。

 あまり、理解のできる代物ではなかった。


 そんな中、景色が変わっても尚それに取り留めようとはせずただ、記憶の中の一人一人に意識がいく。


 今まで出会ってきた彼ら彼女らが自分の名を呼ぶ。

 その声が、古く脳内に残っているかのように、思い出される。

 今までずっと乾いていたかのように、じんわりと優しく沁みていくそれに呼応するかのように、引き締まって取っ付きにくい表情が、打たれたかのように優しく綻んだ。


 今までの記憶が放った矢の如く、それは一瞬で過ぎ去った。

 だけれども、一瞬は今までの数十年間の中で経験した困難や災難、喜びや感動の数々で、決して直ぐに過ぎ去っていくものではなく、いつまでもいつまでも脳裏で焼き付いて繰り返していそうなほど、密度の濃い、記憶の数々。


 気付けば、頬を涙が伝っていたーー


 とある世界。それも単独界のとある世界のとある国。円状に壁が建造され、それぞれの層に区画分けがされた5層に重なる一つの国。今日から一週間ほどこの貴族層で仕事があるのだ。城下街というだけあって大通りを行く人々が音楽や午後の茶会を楽しんでいるのが、見て取れて、心までもが踊る気持になる。


 やがて、駅のホームが見えて、ドアが開くと同時に光の塀が消える。


 日本で見て真似たホームドアの役割を果たすらしい。


 トランクを手に提げた男は出口へ向かう。日本と違って、この鉄道は改札がない(電車賃は事前に払うらしい)。

 そして、そこに待っていたのは、見慣れたメイド服を着た、見慣れた女性だった。


 「こんにちは、遅れて申し訳ありません」


 再会できたことに一先ず安心して、笑顔が零れる。

 そしてまた、その女性も嬉しそうにして、


 「いえ、時間ちょうどで驚いています。では早速行きましょうか」


 女性は、笑顔を絶やさず話し掛ける。その話の多くは、この世界の派遣に就いてからの日々の出来事で、彼も、その話に耳を傾けて微笑みながら彼女の話を聞いた。


 まだいくつもあっただろう彼女の話だったが、残念ながら話題一つ目にしてもう目的地へついてしまった。彼女もそのことには驚くしかなく。少々残念そうにも見て取れたので、

 

 「またお話聞かせてください」


 というと、彼女は満面の笑みで、


 「はい!是非とも!仕事が終わったらどこか行きましょう!」


 と、はしゃいでは、期待の眼差しを彼女に、彼は笑顔で


 「はい、ではまた仕事終わりに……王城に行きますので」と頷き、二人はそこで解散した。


 屋敷に入ると、庭師だと言う少年の屋敷の説明を諸々受けると、庭師は去って行ってしまった……。思ったより小さな屋敷だったので、内心意外であった。香花館の私有地なのだから大きなものかと思っていたがそこまででは無いようである。


 しかしながら今日から一週間の間に測位や地形図作成などの諸々調査をしていくのは毎度骨が折れる……。未然防止できる自然災害などを予見する為にこうやって手間暇をかけるわけだが、色々と面倒くさいのが測量なのだ……。


 早速、仕事道具を所定の位置に置いたり、洋服などを整理などして、事前準備に取り掛かるーー


 それからしばらくして、仕事が一段落つくと、窓の景色はすっかり夜の色に染まっていた……。


 しかし、どこかおかしく不気味なその空気に、彼が異変に気付いたのは、その時であったーー

 


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