表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただの、ありふれた、普通の『御伽』  作者: くだりづき
第一章 始まり始まり
4/109

第一章 その3 "更新かつてない恐怖"

よろしくお願いします


 クリーム色の革張りソファ。質素な木造りのテーブル。窓辺には一本の赤い花が入った花瓶。部屋の隅には小さな火の灯る暖炉。天井を見上げると四角い磨りガラスの中に明かりが灯ったものが五つぶら下がっている。


 俺は今、リビングのような広い部屋で待機を命じられている。


 瀕死のエシルを治療のため、彼の師匠ヘと引き渡してから、もう一時間ほど経った。

 エシルの師匠によって閉ざされた扉は、未だに沈黙を守ったままである。

 まだ治療は終わらないようだ。

 この一時間、たった一時間が、途方もなく長く感じられた。




――結局俺は、エシルを守れたと言えるのだろうか。




 あの時、あのモンスターが接近してきていることを伝えられていたら……


 ダメだ。一回落ち着こう。深呼吸。

 すぅー、はぁ〜、すぅー、はぁ〜。

 よし、とりあえず状況整理だ。まず、俺は魔王を倒すために異世界に召喚された。しかし、今のところ俺はただの人間。魔王を倒すどころか、俺を召喚したエシルという少年をモンスターから守ることもできずに、彼は片腕を失った。現在、彼は彼の師匠によって治療されている……


……幸先悪すぎる上にお先真っ暗じゃねーか。

 自然と、両手の握り拳に力が入る。


「おい、少年」


「ひゃっ! はいっ!」


 変な声出た。

 びっくりした。心底びっくりした。マジで。

 知らぬ間に、エシルの師匠が無表情で眼前に迫って来ていた。


「そんなに驚かなくてもいいだろう」


 落ち着いた、それでいて芯のある声で言うエシルの師匠の口元が、少し緩んだように見えたのは気のせいだろうか。


 どうやら俺は一見して分かるほど驚いていたらしい。

 文字通り他人の命を背負うことで、弾けてしまいそうなほどに張り詰めていた緊張の糸が、この一時間で弛みかけていた証拠だろう。

 そんなことよりエシルの容態だ。


「って、あの!、あ、えと……、エシルの師匠さん! もうエシルは大丈夫なんですか?」


 俺は、少し震える声で聞く。


「ああ。ひとまず峠は越えたと言えるよ。命は、助かった」


 淡々と、当たり前のようにエシルの師匠は告げた。

 良かった。とりあえず一安心、だな。

 比喩ではなく、俺はほっと胸を撫で下ろす。


「だが――」


 再び、彼女の表情が冷たくなる。


「あいつの左腕は、もう戻らない。左肩の下までが何かに食いちぎられたように損傷していた」


 エシルの師匠の表情に確かな感情が現れた。しかし、そこには先程のぞかせたような柔らかいもの一切存在しない。

 ただ冷たい、殺意のようなものだけを纏っていた。


「少年、何が起こったか詳しく教えてもらえないか?」


――冷ややかな汗が背筋を走った。

 まさか、俺が疑われているのか?

 ならば疑いを晴らさなくては。


「あ! あ、……あ、あ? へぇ?……」


 え? なんでだ?

――声が、出ない。


 今、目の前にいるのは金髪の、エルフの様な綺麗な女性だ。

 モンスターでなければ、鋭い爪も無数の牙も生えていない。

 だが、俺の手が、足が、全身の筋肉が言うことを聞かない。言葉を発せない。震えを抑えられない。

 背筋を走るものが、冷や汗から激しい悪寒へと変化していることに気付く。



 さっきの獣とは比べ物にならない程の殺気、威圧感。



 目に見える恐怖では無い。見えないからこそ、なぜ恐怖を感じるのかすら分からないからこそ、さらに恐怖が加速、増加する。


 恐い、何故恐い?

 分からない、恐い恐い、分からない、恐い恐い恐い――


「あ、ああ、すまない」


 そして再び、エシルの師匠の表情が柔らかくなる。

 少し遅れて全身の自由が、温かみが戻っていることを認識する。

 気が付けば身体の震えも止まっていた。


「いや、本当にすまない。別に君を疑っている訳では無いんだ。今のは、君に向けてのものではない。そうだな、半分はその犯人に、もう半分は自分に向けて、といったところだろうか」


 少し緩んだ表情のまま、エシルの師匠は俺に詫びる。

 その微笑は嘲笑なのか、慈愛からくるものなのかは分からなかったが。


「いえ! 僕は大丈夫ですよ……」


 どうにか笑みを貼り付けつつ、苦し紛れの虚勢を張る。自分でも少し、声が震えているのが分かった。きっと笑みも引き攣っていただろう。


「そうか、ならばいいのだが……。そういえばまだ名乗ってもいなかったな」


 そう言ってエシルの師匠は俺に手を伸ばす。


「――っ!」


 条件反射で、体がビクついてしまった。


「……私も嫌われてしまったものだな。私の名はフェルシアだ。本当に敵意がある訳では無い。今のは私が契約している魔物の能力の一つでな、『私が怒っている時、目があった者に強烈な恐怖を与える』というものなんだ。と言っても普段は自制が効くものであるし、効果も低レベルのモンスターや軟弱なチンピラへの脅しくらいにしかならないはずなのだが……」


 平和な日本でぬくぬく暮らしてきた俺には効果バツグンだった、と。

 いや、でも実際、本当に殺されるかと思った。

 人はこんなにも、人から恐怖を感じられるのだと思い知らされた。

 未だに手のひらも額も、汗でじっとりと濡れている。


「こちらこそすいません、僕、あまりメンタル強くないので……。あ、えっと僕は藤田小太郎と言います」


 引攣らないよう、引攣らないようにと愛想笑いを浮かべ、手汗を学生服のズボンで拭ってから、フェルシアと握手を交わす。


「よろしく、小太郎君。では、さっそくですまないが本題へ移ろう。先にも聞いたが何が起こったか、詳しく教えてもらえるかな?」


「はい、もちろん。と言っても正直僕もまだ色々よく分かっていませんが……」


 まだ少し声は震えるが、俺はこの世界に召喚されてからのことを全て、できるだけ詳しくフェルシアへ話した。

 エシルによって、こことは違う別世界から召喚されたこと、狼のような獣に襲われたこと、フェルシアの結界によって間一髪助かったこと。

 そして、俺は分かっていたにもかかわらず、怖気付いてしまったせいでエシルを助けられなかったこと。


 こうして整理しながら人に話すと改めて確認できる。


 自分の身に何が起きたのか。自分は何を成し遂げたのか。何をしてしまったのか。何をできなかったのか。何をすべきだったのか。


 そして、己の無力、無能、無知、臆病、愚鈍、平凡を。


「なにも泣くことはないだろう。男の癖にみっともない」


 フェルシアが、溜め息混じりに言う。

 確かにその通りだ。高校生にもなって本当にみっともない。

 だいたい、普通の高校生に出来る事なんてたかが知れている。だから、仕方ない。仕方なかったんだ。俺はよくやった方だろ。


 頭では分かっているのに、諦めがついているのに、慰められるのに、涙が止まらない。


 ただ悔しくて、悔しくて、悔しくて、悔しくて、悔しくて、


「ごめ、ん、なざい! おれがぁ! おれがあのどぎ! ちゃんと言えてれば! エシルはぁ! っ、ぐっああ――」


 俺にあの時、いや、そもそも俺に勇気というもの自体があったのなら、少なくともエシルは腕を失ってはいなかっただろう。

 なんの戦闘手段も持たずに、あそこまで深く森へ入るとは考え辛い。だから気付いていれば、気付かせることさえできていれば。


 本当にごめん、ごめんなさい、ごめんな、本当に、ごめん――

 思いつく限り、どれだけ贖罪の言葉を並べても、きっともう赦されない。赦せない。


 でも、とにかく、

「ごめんなさい……」


「どうして小太郎さんが号泣しながら謝っているんですか?」


 醜い、卑しい、汚い嗚咽の中、唐突にその清澄な声は流れた。

 色々な汁でぐしゃぐしゃに濡れた顔を上げると、開きかけの扉から少し怯えながら半身を覗かせているエシルがいた。


「エ、シル? もう大丈夫なのか?」


 峠を越えた、と聞いていたから目覚めるまではまだまだかかるものだと思っていたが。

 いや、今はそんなことどうでもいい。とにかく、


「良かった、生きていてくれて……」


「はい、生きていますよ。小太郎さんのお陰で」


 エシルは、胸に手を当てて、まさに満面の笑みを浮かべていた。

 胸に疼痛が走る。心臓の拍動に伴ってズキズキ、ズキズキと。


「でも、俺は、あの狼が近づいて来ていたのに気付いていたんだ……。なのに、ビビって、気圧されて……」


「バカなんですか?」


「……ぇっ?」


 エシルの口から、今までの彼からは想像も出来ないような言葉が、突如発せられた。その驚きの余波から、俺の脳はしばし働きを停止する。


「ボクが怪我したのはボクが至らなかったからです。それを自分のせいだのと、思い上がりにも程があります」


「な、俺は、別に思い上がってなんか――」


「だいたい、人間出来ることはやるんです。出来ないことだったからやらなかったんです。だから、出来なかったことを出来たはずだなんて思うのは、思い上がりにも程があるってことです」


 無茶苦茶な理論だな……

 しかも俺、年下に諭されちゃってるよ。ものすごく軽い憤りを感じる。


「でも、もしあの場に小太郎さんが居てくれなかったら僕は死んでいた、ということは事実です」


 また、心臓が飛び上がる。しかし先ほどのような痛みはない。


「ボクをおいて逃げることもできた。なのにボクを担いで走ってくれた。師匠の結界が無かったら、小太郎さんも死んでいたかもしれないのに、です」


 改めて、己の功績が挙げられる。そこは自分でも良くできたと思う。

 一息つき、再びエシルは俺を見つめる。


「やっぱり、小太郎さんはボクの見込んだ通りの人でした。ちょっと頼りないけど頼りになる、優しい人です。ボク、惚れ直しました」


 そしてまた満面の笑み。


「俺は、そんなに立派な人間じゃない! 非力だし! 馬鹿だし! 卑怯だし! ってえぇ⁉︎」


 エシルの言葉を、順番に噛み締めてから飲み込み、理解、返答を作っていた俺は、最後の一節だけ最終工程に達することが出来なかった。

 というか、まず飲み込めていない。


 ほれなお、された?


 ということはそれ以前から惚れられていた?

 いやいや、待て。それ以前にエシルって男なんじゃないのか?

 もしかしてソッチの子なのか?

 男の娘なのか?

 いや、確かに見た目は俺の知っているどの女の子よりもかわいいと思うが、さすがに俺、性別の壁は越えられません、よ?


「えっと、ちょっ、ちょっと待って、ください! まず、エシルって男の子、だよ、ですよね?」


 またまた敬語になってしまった。

 恐る恐るエシルの顔へと眼を向ける、が、


――見て分かった。エシルの顔は明らかに『しまった』とでもいうような、青ざめた表情になっていた。


「え、へぇっと!、はい!あ、ボクはおと――」



「何を言ってるのかは知らないが、この子は女の子だぞ? あと、名前も間違えている。この子の名前はルシエだ」



 声をひっくり返し、慌てふためくエシル……いや、ルシエ? の言葉を遮り、フェルシアは強烈なカミングアウトを二連発した。


「えっ? でもさっきは男って……、しかも自分でエシルって名乗ったじゃないか」


「ああ、もう師匠のバカ! どうして言っちゃうんですか! あの、えっと、……小太郎さんごめんなさい、あれは、嘘です……。実はボク、女なんです。あと名前はルシエといいます」


 エシルもといルシエは、フェルシアを怒鳴りつけたのち、俺へ向き直り頭を下げる。


「「どうしてそんな嘘をついたんだ?」」


 俺とフェルシアの声が重なる。


 純粋な疑問だった。何故嘘をつかれていたのか、どんな理由があってそんなことをしたのか。


 その答えは、ひどく呆気のないものだった。



「ボクは、小太郎さんと仲良くなりたかったんです」



 至極簡単な回答。だが、腑に落ちない。それがどうして名前や性別まで偽ることになったのか。


「これだけでは分かりませんよね……。少し長くなりますが話をさせてくれますか?」


 俺は心を読まれたような気がし、少し焦りながらではあったが、頷いた。

 ルシエは俺の首肯を確認したのちに、両の手でローブの裾を掴むと、俯き加減で語り出す。


「えっと、ありがとうございます。では、まず自己紹介をさせて頂きますね。ボクの名前はルシエ、性別は女、歳は十四です。五年前、両親を失ったところを召喚士のフェルシア師匠に拾われて、今は弟子という形でここに住まわせて貰っています。ですのでボクは、師匠から召喚術について学んでいます。あとボクには一つ、他の人には無い特殊能力があります」


 ここでルシエは一息つく。が、少しだけ呼吸を整えるとまた語り出す。


「ボクの能力は、他の世界へリンクするというものです」


 少しだけ語気を強めて、吐き出すようにルシエは言った。

 リンク、する?

 他の世界へ行き来でも出来るというのか?

 続きをうながすよう首を傾げる俺の目を、エシルは申し訳なさそうに見つめ返してくる。


「具体的に言うと、ボクは眠りに落ちた瞬間、小太郎さんの元いた世界で目が覚めるんです。とは言っても実際に肉体がある訳ではなく、言うなれば幽霊のような感じで存在します。そして……」


 ルシエはそこで再び少し、言葉を詰まらせる。


 というかヤバい。なかなか理解が追いつかない。

 だが、俺はこの空想妄想理想に満ちた現代社会の現代っ子だ。舐めるなよ!


「目が覚めるのは決まって小太郎さんの枕元だったんです。小太郎さんが目覚めた瞬間にボクもそちらの世界で目覚める、といった感じですね。で、その後ボクは自由に動き回れるんですけど、何故か小太郎さんから半径十メートル以上は離れられなかったんです」


 ふむふむ、なるほど。


 要するにこの娘は常に、ずっと、俺のそばに居たと。あれやアレ、あんなことやこんなことをしている時も、ずっと。


「初めのうちは何か他にできることがないかとあれこれ模索してみました。話しかけたり、物や人に触れようとしてみたり、乗り移ろうとしてみたり。ですが、ボクにできることはせいぜい眺めること、浮遊すること、壁やドアをすり抜けること、あと夢の中なのに眠ることくらいでした」


 乗り移るだの壁抜けだのと、サラッと恐いこと言ったなこの娘。

 さらに、ルシエは続ける。


「だからもう、ひたすら眺め続けました。その世界の知識や、何故かいつも離れることが出来ない、小太郎さんのことを知るために。そのうちに、ボクは小太郎さんに特別な感情、恐らく恋愛感情を抱いてしまいました」


 いやいや、何故そうなった。

 言葉にこそしなかったものの、俺は心の内で強くツッコむ。


――しかし、正直な感想を言うと、俺は内心喜んでいた。

 年下ではあるがこんな美少女に好かれるなんて。


「でも、見ているうちに小太郎さんは人と会話すること、特に女性と話すことが苦手なんだということが分かってきました。だから、ボクは性別を偽りました……。出来るだけ小太郎さんと仲良くなるために。でも!、ある程度仲良くなって、小太郎さんが新しい性癖に目覚める前には本当のことを言うつもりでいました!」


 はい、確かに人との会話は苦手です。


 俺は人の目を見て会話をすることができない。何故だかは分からないが、反射的に目を逸らしてしまう。相手が男であれ女であれ関係無しに。まぁそりゃ相手が女性の方が緊張はするけど。

 これもありきたりな理由だが、心の内を読まれるような気がするからだろうか。


 というか、そこまで気遣ってくれていたのか。

 仲良くなるまでって、かなり長い間嘘をつき続ける覚悟だったってことかよ。


 人付き合いが苦手な俺には正直、人間を値踏みする才能はほぼ無いと思われるが、これは断言できる。


 この娘――ルシエはいい子だ!


 まず優しすぎるだろ!

 そして可愛いんだよ!

 ていうかそう簡単に新しい性の目覚めなんか起きるかよ!

 と、言い切れない自分がいる!

 こんな可愛い男の娘に言い寄られたら危なかったかもしれません!


「っていうか……」



 使い古された比喩だが、脳がパンクしそうだ。



 いくらファンタジーに慣れていようと処理が追いつかない。

 自分の部屋で落ち着いてゲームをしているのと、実際に体験するのとではやはり情報処理にかかる労力が違いすぎる。


 いや、そもそも色々急激に詰め込み過ぎだろ。


 まあまあ落ち着こう。もう一度情報整理だ。

 まずエシルはルシエで、ルシエは女で、ずっと前から俺のことを毎日見てて、いつの間にか惚れられていて……

 ダメだ。やはり頭が働かない。情報処理が出来ない。なんだか頭がクラクラする。




――いや、比喩ではなく本当に目眩がする。




 視界が霞み、歪み、回転し始めた。


 気分が悪い。気持ち悪い。喉の奥から何かが、吐き気が込み上げてくる。何がなんだか分からなくなってくる。


 ぐるぐるぐるぐる気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。


 なんだ、この臭い。

 金属臭い、気持ち悪い、鉄の匂い。



 --濃厚な血の匂い。



 ああ、そりゃそうか。あれだけ血だらけのルシエを背負っていたんだ。意識しないうちに、俺自身も血まみれになっていたんだな。


 改めて、自分の姿を見回す。


 少しくすんではいたものの、ほぼ白色だったはずの学生服は、今や七割方が鮮血によって真紅に染めあげられていた。

 それを目の当たりにした瞬間、更に一段意識が遠のく。


 思えば、こんなに大量の血液を一度に見たことなど今までにはなかった、あるはずもなかった。


 この血はどこから出てきたのだったか。


 そうだ、ルシエからだったな――


――本当に、


「ごめん、な――」


 あ、ダメだ。


 世界が、遠のく。五感が、薄れる。


 手足の感覚、触覚が。

 ルシエの美しい翡翠の双眸、視覚が。

 血の匂い、嗅覚が。

 鉄の味、味覚が。次々と零れ落ちていく。


 もはや自らの身体すら制御できず、俺は床へと崩れ落ちていく。


「――小太郎さん‼︎――」


「――おい! 少年!――」


 すげぇ。気絶するってこんな感覚なのか。バカみたいな感想。


 ルシエとフェルシアの声は聞こえていた。

――眠たい。

 ルシエが泣きそうな顔で駆け寄ってきたのも、ものすごくぼんやりと見えた。

――ねむってしまいたい。

 だが、必死で俺に呼びかけているルシエが何を言っているかは分からない。

――ねむってしまおう。


 最後に残った聴覚も、零れ落ちてしまった。



 もう、なにもわからない。



 だが、無意識のうちに、ついに泣き出してしまっていたルシエの手を握ってやることは、できた気がする――





 おやすみ、おやすみ、オヤスミ。

引き続き、よろしくお願いします。

しかし次回、主人公はベッドの中から出ません。

でも、よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ