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夜、晩御飯食べてさっさとお風呂に入ってからお兄ちゃんの部屋へいつものようにゲームをするため訪ねた。
「ああ…いらっしゃい。ゲームならいつも通り好きにしてよ」
「うん。お兄ちゃんはしないの? お仕事?」
「ん、今はいいよ」
んー? なんか元気ないな。私の方見ないまま机に向いてるし。お仕事忙しいのかな。
「ゲームしても大丈夫? ホントに邪魔じゃない?」
「…前にも言ったけど、僕が悠里ちゃんを邪魔に思うことなんてないよ」
「そう…」
まあ、隣でゲームしてるって言っても音だけだし、お兄ちゃんならお仕事に集中するくらい簡単だよね。
気にせずゲームすることにした。
○
「悠里ちゃん」
「なにー?」
「その…正直に言って欲しいんだけど…彼氏、いたの?」
「は? あっ…もう、変なこと言わないでよ。死んじゃったじゃない」
テレビにはKOの文字が浮かんでる。この格ゲー、イージーなのにラスボスに中々勝てない。これで三回目で、ようやくあと少しだったのにお兄ちゃんのせいで大振りの避けれたはずの攻撃をくらってしまった。
「ご、ごめん。タイミングが悪かったね」
「全くだよ。私、格ゲー弱いんだから。集中力切れたら即負けちゃうんだからね」
「うん…あの、質問に答えてもらっていい?」
「ん? ああ、いないよ。先月の頭にも言ったじゃん」
そろそろ二ヶ月前の話になるけど、その時いないのにそんなに急に恋人なんかできないって。
「そう、なの?」
「うん」
「いや、でも今日…その、見ちゃったっていうか…見るつもりはなかったんだけど…。キス、してたよね。男の子に」
「あー…あれね」
まさかお兄ちゃんに見られてたとは。確かに。私からしたら優生が女の子にキスしてたようなもんだし…気になるよねぇ。
「実は一目惚れだって告白されだんだ。断ったんだけどね。どうしてもって言われたから頬にキスしてあげただけだよ」
「…え…つまり、初対面の人にキスしたってこと?」
「え? あー、まぁそうだけど。でも外国では初対面でもキスは挨拶なんじゃないの? 行ったことないから知らないけど」
「それは僕もよく知らないけど、ここが日本なのは知ってるよ」
あれ、なんか…顔恐いよ?
少し離れて座ってたお兄ちゃんは対戦する時みたいに隣に来て私を向いて座る。
「…お兄ちゃん? 怒ってる?」
「当たり前でしょ。悠里ちゃん、知らない人にキスするなんてなに考えてるの? 頭がおかしいとしか思えないよ」
「は!?」
ええ!? なにそれ! ちょっとちょっと、いくらなんでも言い過ぎでしょ?
「悠里ちゃんがそんなにふしだらな女の子だとは思わなかったよっ」
興奮気味に言われて一瞬頭が真っ白になってから、ふつふつと怒りが沸いてきた。
なにそれ! どうしてたかが頬にキスしたくらいでそこまで言われなきゃならないの!? それに元カレだからしたんであって本当に全く知らない人ならしないし!
だいたい、お兄ちゃんは何人も恋人がいたんだからエロいことだっていっぱいしてるくせに、何で私は頬キスくらいでふしだらなんて言われなきゃなんないわけ!?
それに大学生とか社会人はお酒飲んだらふざけてキスくらいするでしょ!? イメージだけど! なのに私はそんな、そんな怒られなきゃなんない!? おかしい! お兄ちゃんおかしい!
「悠里ちゃん、反省してるの?」
するかバーカ。
こうなったらお兄ちゃんにもキスしてやる。そんでロリコンって言ってやる!
「お兄ちゃん」
膝立ちになって近寄ってお兄ちゃんの両肩を掴む。
どきどき。
「な、なに」
真剣な私にお兄ちゃんは戸惑ってるのか上擦った声をあげたけど無視する。
どきどきどき。
そっと顔を近づける。そう言えば、ほお擦りはしてもキスはしたことなかったなぁ。真正面から近づくのは初めてだ。
「ゆ、悠−」
ちゅ
ドキドキドキドキ。
お兄ちゃん、顔すっごい真っ赤にしてる。おかしいの。私は妹なのに。
「……ほら、お兄ちゃんにだってキスするんだから、他の、人に……」
ん? ていうか…さっきから、なんか変じゃない? なんか煩いっていうか。
ドキドキドキドキドキドキ。
もしかして私の心臓、早くなってない?
「……え?」
カーッと顔に熱が集まって耳までハッキリわかるくらい熱くなる。
え? え? えええ? なに、なんで私、唇の端にキスしたくらいで、ドキドキしてるの?
しかもこんな…100メートルダッシュしても足りないくらい異常にドキドキしてるとか…え?
「ちょっ、ちょっと待って! 待って! 今のなし!」
お兄ちゃんの肩を突き飛ばして座り込んで、赤いのを見られないよう耳を両手で抑える。
え? なに? キスくらいでドキドキするとか……え? あれ? 私…お兄ちゃんのこと、好き、なの?
「悠里ちゃ−」
「ちょっと待って! そこで待って!」
「は、はい!」
お兄ちゃんが手を伸ばしてきたから立ち上がって止める。お兄ちゃんはびっくりしたのか体を震わせながら止まる。
「ちょっと、ホント、タンマだから!」
私は確認のため急いで窓から出た。
○




