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パチ、と電気がついた。
「ん……え!?」
二度見された。
「え…なんで、っていうか、電気くらいつけなよ」
布団を被ってベッドの隅で縮こまっていた私にお兄ちゃんは呆れながら苦笑して、鞄を机に置いた。
勝手に入ってたことに関しては何もないらしい。優しいなぁ。
お兄ちゃんは優しい。だから、来てしまった。一人でいたくなくて、お兄ちゃんに甘えてる。
「ねぇ」
「ん?」
「今日も、お仕事だったの?」
「うん。そうだよ。明日から始まるからね、学校で準備とかしてた」
「ふーん…まだ、お仕事ある? 私、邪魔じゃない?」
「仕事はないよ。それに、僕が悠里ちゃんを邪魔に思うことはないよ」
「……」
そんな風にさらっと、鞄の中身を出しながら何でもなくお兄ちゃんは優しい言葉をくれる。
お兄ちゃんだけじゃなくて、彩ちゃんも実代ちゃんもみんなそうだ。私の周りには優しい人ばっかりだ。
私はそれに甘えて甘えて、今まで何も考えずに生きてきてしまった。だから駄目なんだろうなぁって思う。なのに自分から甘えに来てしまう。
駄目だ駄目だと思いながら自分を甘やかしてしまう。私は口だけだ。あー……自己嫌悪ー…しながらも、やっぱり甘えるし。
「ゆ、悠里ちゃん?」
「……」
後ろから抱き着くとお兄ちゃんは戸惑ったように固まった。
「悠里ちゃん? どうしたの?」
「……ちょっとだけ、甘えていい?」
「…いくらでもどうぞ。とりあえず移動しようか」
「…ん」
お兄ちゃんは鞄を置いたまま、いつも座るクッションの上に座った。私はそれに引きずられるようにして座りこんだ。
お兄ちゃんの座る勢いが早くて膝をぶつけたからちょっと痛かった。位置を直して膝立ちでお兄ちゃんのお腹まで手を回して抱きしめなおす。
お兄ちゃんの背中に頬をくっつけるとちょっと汗くさい。衿の近くだからかも、お兄ちゃんの背中は大きくて、熱くて、何だか気持ちいい。
「はぁ…」
ため息がもれた。
「悠里ちゃん…何があったの?」
「ん…いっぱい、言っていいかな。愚痴を言いたい気分なの」
「いいよ」
「…酷いこと言っても、嫌いにならないでね」
「ああ」
色々と、吐き出したい気分だった。
あれだけ泣いて、葉子ちゃんが帰ってからも泣いたのに、私の心はちっとも晴れない。
嫌なことばかり考えてしまって、潰れそう。
「今日…葉子ちゃんを、断ったの」
「うん」
「私、全然葉子ちゃんのこと考えてなくて…楽しければいいって感じで、軽い気持ちで付き合って、葉子ちゃんを好きになる努力もしてなくて、期待させるだけ期待させて、断ったの」
「そうなんだ」
「…私は、悪くない。現実逃避はしてたけど、私は私なりに葉子ちゃんのこと考えたもん。ドキドキしなかったんだから、仕方ないじゃなん。葉子ちゃんは私の好みじゃなくて、私にとって魅力的じゃなかったんだもん。葉子ちゃんに魅力がないのが悪いんだもん。葉子ちゃんが傷ついたのだって、仕方ない。私は悪くない。私のせいじゃない。私が葉子ちゃんを傷つけたんじゃない。私が酷いんじゃないもん…」
わかってる。物凄い、酷いことを言った。最低な自己弁護だ。自分が悪いってわかってるのに葉子ちゃんのせいなんて責任転嫁も甚だしい。
そうわかってるのに、こんな酷い考えが頭から消えない。私のせいだって思うしそう言うけど、頭の隅っこでずっとこんな風に自己中な私がいて言い訳をする。
だから全部吐き出した。そうやってお兄ちゃんに怒られたかった。お兄ちゃんなら私を嫌いにならずにちゃんと怒ってくれるから。
「悠里ちゃんは、悪くないよ」
「…え…?」
怒ってくれないの?
ちょっと長くなったので分割します。




