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二度目の私  作者: 川木
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部活はないけど、部員は生徒証であるカードをドア脇のリーダーに通せば自由に部室に入れる。好きなだけ泳げるようにだ。

部員じゃなくても普通の更衣室には同じ様にリーダー通せば入れるし、決められた時間なら基本的に使用は自由だ。


音楽室とか更衣室とかは基本的にカードキー式で、個人のロッカーももちろんそうだ。だから学校関係者以外は勝手に入れないようになってる。

今までは便利だと思ってたけど、秘密の話をするには関係者なら誰でも開けれるオートロックの鍵しかかけれないから、ちょっと不安。


「……」


ていうか、同じ教室からここまで黙ってくるからなんかめちゃくちゃ気まずかった。


部室の窓際にある横長の椅子に並んで座る。一応机とバラの椅子もあるけど、いつも使ってるから。


「悠里…返事、決まった?」

「一応ね」

「…ちょっと待って」


そう言ってから葉子ちゃんはすぅーはぁーと大きく深呼吸を繰り返す。


「はぁー……ん、言って」


心の準備を完了させた葉子ちゃんがきりっと表情を引き締めてまっすぐに私を見つめてくる。


武君は完全に年下の、子供の言葉だと私は流していた。でもあれから2年近くたった今、同い年にしては大人びた容姿の葉子ちゃんに言われるのでは気持ちが違う。

武君の件で反省したのもあるけれど、少なくとも葉子ちゃんの告白を子供の戯れ事だとスルーする気はない。だからか、少しだけどきっとした。


私の答えはさらに決断を遅らせるという、自分勝手な答えだから言いづらい。でも言わなきゃ。それ以外に答えを出せなかったんだから。


「…私は優柔不断だから、付き合うかどうか、まだハッキリと決断できない。ずるいとは思うけど、時間がほしい。だから、夏休みの間、お試しで付き合おう。夏休み最後の日に改めて答えをだす。それまで、待ってほしい」

「……悠里は、優しいね」

「え…?」

「悠里がそうするって言うなら、私は従う。お試し、する」

「…いいの?」

「ん。お試しでも仮でも、悠里の恋人なのは嬉しい、と思うから」

「…ありがとう」


葉子ちゃんは優しい。私が優しいなんて、嘘だ。私はいつだって自分のことしか考えてない。私を優しいと言うのは、葉子ちゃんが優し過ぎるだけだ。


玉恵ちゃんからアドバイスされた時はこれ以上ないグッドアイデアだと思ったけど、それから式中や今まで考えてすでに2週間くらい待たせてるのにさらに引き延ばすのはさすがに酷いと気づいた。

なのに葉子ちゃんは待つと、嬉しいとまで言った。自分がなんて酷い人なのか、より思い知らされた。


「悠里、顔あげて」


いつの間にか、俯いていた。葉子ちゃんに言われて、罪悪感を抱えたまま私は恐る恐る顔をあげた。


「ん」

「ぁ…よ、葉子ちゃん…」


キスをされた。一瞬だけ唇をくっつけるキス。友達ではしない、キス。


「嬉しい、よ?」


葉子ちゃんはとてもいい子だ。でも、ドキドキしない。

早まった。私は今、いけないことをしてる。やっぱり断るべきだった。こんなに素敵な子を適当な気持ちで振り回すなんて、いけないことだ。


「悠里」


そう、思った。だけど葉子ちゃんが私の名前を呼んで、私に抱き着いてきた。

あんまりに葉子ちゃんが嬉しそうで、やめようとは言えなかった。やっぱりやめたとか、そんなことは言えなかった。


何より私が、恋人ごっこをしてみたいと思った。昔の恋人の時は何も考えてなかった。だから今回の人生では、ちゃんと考えたい。


誰かの気持ちを察するとか、空気読むとか、私はそういうのが苦手だ。だから全然、葉子ちゃんが何を考えてるかなんてわからない。

だから、私の今の選択が葉子ちゃんを傷つけてるのか、気をつかわれてるのか、本当に喜んでるのか、全くわからない。


「葉子ちゃん…」

「一ヶ月でも、嬉しい」


葉子ちゃんを抱きしめ返しながら、私は泣きそうになった。


誰か、誰でもいいから、私に正しい答えを教えて。私の選択が正しいか間違ってるのか、誰かはっきり教えて!











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