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「うわ、すごーい」
先に帰省していた葉子ちゃんを追い掛ける形で訪ねた私は、葉子ちゃんの祖父母への挨拶もそこそこに荷物を落ち着ける間もなく自室へ案内された。
自室前で2、3分もったいつけられて通されただけあり、葉子ちゃんの部屋に私は感嘆の言葉をもらした。
葉子ちゃんの部屋はクラゲだらけだった。
「葉子ちゃん、絵がすごくうまいんだね。まるで本物みたい」
水槽があるのではなく、クラゲの絵が壁や天井をくまなく飾られていたのだ。スケッチブックからちぎりとったリングの跡がそのままなので恐らく葉子ちゃんが描いたのだろう。
とても上手だ。
「ん…うん」
やや得意げに嬉しそうに二度頷く葉子ちゃんに和む。絵ももちろん素敵だけど、多分だけどこれを見せたくて実家に招待しちゃう葉子ちゃんがとても可愛い。
無口な葉子ちゃんは小柄なのもあって小動物みたいで、黙って頷くだけで可愛いからなんかずるいけど和む。
「あ、これ、あの時説明してくれたやつだよね」
「覚えてた?」
「うん。と言っても説明は結構忘れちゃったし後からまた図鑑見たんだけどね」
「………、図鑑、見たの?」
「ごめんねー。あんまりいっぺんに説明してくれるからちょっと覚えきれなくて」
「いい。…忘れたら、また教える」
うむ? どうやら一回で覚えなかったことは怒ってないみたいだけど、でもそれにしては今の反応、ちょっと違和感? んーでも葉子ちゃんは普段から独特のテンポだし勘違いかな。
「これが、一番最近描いた」
「これは何クラゲ?」
「これは-」
葉子ちゃんのマシンガン説明を聞いて、まあ例によって半分も覚えられなかったけど、わりと楽しかった。
ていうかガチで葉子ちゃん絵、うまい。昔の図鑑が手書きだったころなら職人になれるレベル。美術系に進むとか言われても違和感ない。むしろなんで水泳?
「泳ぐの好き」
簡単な答だった。
聞いてみると絵もクラゲしか描かないし趣味にしかするつもりはないらしい。もったいない。
「どうせなら他に色々描けばいいのに。こんなに上手いんだから」
「クラゲ以外、描きたいと思わない」
「そうなんだ…じゃあ仕方ないかぁ。でも上手だよねぇ。練習とかどれくらいしたの?」
「してない」
「え、最初からこういう絵が描けたってこと」
「見たままに、描いてるだけ」
「ほわぁ」
いるんだなぁ、天才って。
「凄いなぁ、葉子ちゃんは」
「上手いのはクラゲだけ」
「そうなの?」
「昔、玉恵に頼まれて描いたのは、どれも下手くそだった」
「へぇ」
多分、葉子ちゃんは頭の中のイメージ通りに体を動かせるんだ。だからクラゲの姿は鮮明に浮かぶから描けて、それ以外は駄目なのかな。お手本とか見ればトレースできるタイプと見た。
「でもね、クラゲ以外も葉子ちゃんが好きになれば上手に描けると思うよ」
「そう、かな」
「うん。いつか、クラゲ以外の絵が描きたくなって描いたら、見せてね」
「…わかった。約束する」
「やった。ありがとう。楽しみにしてるね」
「ん」
「二人とも、そろそろお昼ですよ」
「あ、はーい」
戸の向こうから声がかけられた。早くに出て10時前に着いたのでそろそろ2時間だ。
「あ、荷物どこにおけばいい?」
立ち上がってから尋ねる。すっかり忘れてたけど私はまだ荷物を引き連れたままだった。
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毎日更新が効いたのか、お気に入り登録が増えています。テンションあがる半面、最近は急に増えていてビビります。
お気に入りしてる人が増えるともっと面白くしないとなぁとか思いつつ普段通り書いてしまいます。
ここまで読んでくれてありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。




