武1
好きなやつがいる。
気づいた時には好きだった。
俺が喧嘩をしたり誰かを殴るとすぐに飛んできて怒るから、最初は好きじゃなかったと思う。
四歳かそこらだからさすがにその時の感情まで正確には覚えてない。
でも乱暴な俺に誰も近寄らなくなっても、そいつは俺に近寄ってきた。それはたしかだった
俺が八つ当たりで殴ったのに、困ったように笑って許してくれた。
あっちへ行けって言っても、本当は傍にいて欲しいとわかってくれた。
俺が泣くと、小さいくせに俺の頭を撫でてなぐさめてくれた。
俺が謝ると全部笑って許してくれた。
俺が笑うと、もっともっと笑ってくれた。
いつからかは覚えてない。気づいたら俺はあいつが…悠里が好きだった。
悠里は俺にたくさん友達をくれて、何をしていいか、何が悪いか教えてくれた。
言葉は素直になれなかったけど、それでも俺はいつも悠里の近くにいようとした。
「おい悠里」
「なぁに、武君」
悠里はそれに笑ってくれたから、それで満足だった。
でもすぐに満足できなくなった。
他のやつより俺といてほしかった。
他の誰より、俺を見てほしかった。
これが恋だと気づいたのは、5年になる少し前だった。
悠里の傍にいるとドキドキした。悠里が笑うとドキドキした。悠里に触るとドキドキした。
いつも、一人になると悠里のことを考えた。
悠里にしかドキドキしなかったし、悠里以外の女には興味がわかなかった。
だから告白した。
「ごめんね」
断られた。隠れて泣いた。
それでも傍にいて、卒業式の、本当にお別れの日にもう一度告白した。
「ごめんね」
隠れずに、我慢できなくて、泣いた。
悠里の前だとか他に人がいるだとか考えられないくらい悲しくて、泣いた。
「っ、ごめんねぇっ」
そうするといつの間にか悠里も泣いていた。
酷いやつだ。
初めて俺は悠里を非難した。
俺の告白を断ったくせに、俺を大好きだという。友達でいようという。
でも
「な、泣くっ、なよ!」
「ぅ…た、武、君?」
悠里の涙だけは、見たくない。
だから悠里がそう望むなら、そうしたいっていうなら、俺は友達になる。ずっと友達でいる。
「俺は…俺はっ…」
断ったくせに、昔何をしても泣かなかったくせに、今、俺のために泣く悠里だから。
悠里が大好きだから。悠里は俺に沢山のものをくれたから。悠里は俺に友達を教えてくれたから。
「ずっとお前の友達でいてやるから。だから…泣くなっ!」
「う…うん。ごめん。っ、ありがとう」
驚いたように瞬きしてから涙をぬぐい、泣きながら小さく笑う悠里。
これでいい。悠里にとって俺が特別じゃなくても、俺にとって悠里は特別だ。
だから特別に、俺をフッても許す。本当に、特別なんだからな。特別に友達でいてやるよ。
○
最初はさらっと流すつもりだったんですが予想外に活躍したので武視点も書いてみました。
武君は馬鹿だけど普通にいいやつです。本当に付き合わせようかとも思いましたが、考えてる流れに戻すのが難しそうなのでやめました。
この三角関係は武君と悠里と祐巳ちゃん&その他クラスメートです。優生は数に入ってません。