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お兄ちゃんという大人が登場したからか、それとも私の怪我に気づいた別の男の子が「女子にいじめられてんのか?」と聞いてきて武君が「んなわけねーだろ! もしそうだったら全員ぶっ殺す! 冗談でも胸糞わりーこと言うんじゃねぇ」と大声で言いながらその子を殴ったからか、あれから私に女の子は関わって来なかった。
呼び出されることもなく、年も変わると徐々に結束が緩んだのか、女の子は私を避けてるけど挨拶くらいは返してくれるようになった。
そして卒業式の日、嘘みたいな手の平返しで女の子たちみんなで写真をとったり寄せ書き書きあったりした。変わり身早過ぎて恐いから逆らわずに従った。
「おい悠里」
「あ、武君も一緒に写真とる?」
「とる!」
とった。
うん、バッチリ。
「いや、あのな」
「寄せ書きも書こうか?」
「…真ん中にでっかく書いてもいいぞ。俺もそう書く」
渡された卒業アルバムの最後のページの寄せ書き部分はまだ白紙だった。せっかくなので大きさは普通で真ん中に書いた。
『長い間ありがとう。武君のおかげで楽しく過ごせたよ。中学は別になっちゃうけど、これからも仲良くしてね。悠里』
「書けたか? 俺は書けたぞ。見てくれ」
「うん、どれ……」
ど真ん中に大きく、他のをいくつか塗り潰すレベルで大きく、『好きだ!!! 武』と書いてあった。
「武君…」
「もうクラスの奴らみんな知ってるだろうから、今ここで言うぞ。いいか? …俺はお前が好きだ!! 付き合ってくれ!!」
「う…あぅ」
グラウンドまで響きそうな大きな声で、赤い顔で瞳をうるませて、武君はそう言った。
少しだけドキッとした。こんなにもストレートど真ん中に好意を向けられたのは始めてで、相手は小学生とわかっていても照れる。それに何より教室のみんなが私を見ていることが私の顔を赤くさせた。
「付き合ってくれるなら俺は一生お前しか見ねぇ! 絶対にお前と結婚して、死ぬまで幸せにしてやる! だから悠里! 俺を好きだって言え!」
武君の言葉に私は我に返って泣きそうになった。
少しほだされそうになっていた。今は小学生だけど大人になるし、付き合うのもいいかも知れないと思った自分を殴りたくなった。
武君がそんなにも私を好きだと、少なくとも今そう思うなら、私は絶対に彼と付き合うわけにはいかない。
軽い気持ちで応えたら悪いとか以前の問題だ。
だって私は、死ぬのだ。あと10年と、生きられない。決まっているんだ。
だから彼が一生をかけて愛するという申し入れを。受けいれるわけにはいかない。受け入れてはいけない。
もちろん、短くてもせっかくの人生だ。私だって無駄に過ごすつもりはない。恋人をつくるのもいいと思う。
だけど武君は駄目だ。彼ほど素敵な、真っすぐな子の、貴重な青春を私のために浪費させるわけにはいかない。
「ごめん。本当にごめん。武君のこと、大好きだよ。だけど付き合えない」
「っ」
くしゃりと武君は顔を歪めた。
「うわぁああーっ! な、なんっ、なんでだよおぉ〜っ!!」
盛大に、もう優生だってこんな風にしないというほど、赤ん坊みたいに、武君は泣いていた。
雄叫びをあげ、さっきと同じくらいの大きな声で、悲しいと叫んだ。
「ごめ、ごめんねっ」
つられるように、私も泣いていた。
今更なのに、私の限られた人生しか歩めない運命が悲しかった。
優生を助けて、それ以外に何もいらないと思ったはずなのに。私がただの子供なら、当たり前に武君に恋ができて、彼を悲しませることはなかったんだと考えてしまった。
それがとても辛かった。恋とは言えないけど、私は武君がとても好きだ。いつからかはわからないけど、弟と同じくらい、本当に家族のように、武君を身近に感じて、大切に思って、大好きになっていた。
だから本来なら彼を傷つけずに済んだと思うと自分のことが憎らしくて、苦しくて、悲しいんだ。
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