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「お姉ちゃん!? どうしたの!?」
いいと言ったのに強引に両頬にシップを張られた私は、夕方になって帰ってきた優生に駆け寄られた。
「あ、ちょっと…ドアに挟まれちゃって」
う…この言い訳は苦しいかな?
「あー…お姉ちゃん、気をつけてよね」
信じられた。ちょっと複雑。
部屋まで送ってもらったからお母さんには仕方ないから喧嘩したとか話したけど、口止めしてるから優生には伝わらないはず。
さすがにね。優生には絶対、心配なんてかけたくない。
「お姉ちゃん、元気だして。僕はちょっとくらいドジなお姉ちゃんが好きだからね」
「…ありがとう」
どうしよう…ドジだと思われてた。結構ショックだ。優生の前では完璧パーフェクツなお姉ちゃんをやってたはずなのに…。
「お母さん…私ってドジ?」
「え? そうなの? 気づかなかったわ」
「お母さんもドジだから。二人とも鈍いの」
「そうかしら」
「そうかな」
「そうなの」
新事実発覚。私とお母さんはドジっ娘だったらしい。そうは思わないし、多分優生の思い込みだと思うけど。なんでそう思われちゃったんだろ。
あれかな。前に一回だけ、遠足のお弁当に間違っておかず&おかず渡したのを根に持ってるのかな。別の場所に行った私のはご飯&ご飯でちょっと大変だったし、優生に怒られたからよく覚えてる。
「ねぇ優生」
「なに?」
「私のどこがドジなのかな?」
「…ううん。ごめんね、さっきのはなしで。お姉ちゃんはドジとか関係なくてそのままでいいんだよ」
あれ、なんか10歳にあるまじきフォローを言わせてる気がする。
○
「おはよ…悠里? その顔、どうした?」
「あ、気づいた?」
シップは外したけど、ちょーっと赤いからわかるかな? いや大丈夫かなーっと思ったら家を出てすぐ、最近は家まで迎えにくる武君には即見破られてしまった。
「昨日ちょっと転んだ拍子にドアに顔を挟んじゃって」
「お前相変わらずドジだなー」
……信じられた。いいんだけど。いいんだけど。なんだろう、この複雑感。普段転びまくったりしてないし、忘れ物だってたまにしかしないのに。
「私、ドジかな」
「ん? まぁ気にすんな。番長様のことは、俺が助けてやるからよ」
「ちょっと、やめてよ。5年になってからやっと収まったと思ったのに。武君が言うと男の子は皆真似するんだから」
「わかってるって」
「本当にわかってる?」
「わかってる。だって悠里は番長じゃなくて…俺の、お姫様だからな」
「……」
真っ赤になって言われた。多分私も真っ赤。いや、さすがに恥ずかしい。
「こらー! お前何顔赤くしてんだ! 変態! お姉ちゃんから離れろ!」
家から飛び出してきた優生が私に抱き着きながら怒鳴る。ちょっと転びかけたけど武君が支えてくれた。危ない危ない。
「う、うっせーぞ、優生」
「全く全く。お姉ちゃん、僕がトイレにいる間は待ってなきゃ駄目でしょ」
「え、待ってるよ?」
「家の中で! 外は物騒なんだから」
「はいはい、わかったわかった」
胸に抱きしめながら頭を撫でる。
そういえば前は私の胸より少し下の位置をキープしてた優生だけど、徐々に差が詰まってきた気がする。
まあ、私中学に入ったらぐっと伸びるし、いくら優生が男の子と言っても中学生の後半までは私の方が背が高い…はず。
抜かされたらやだなぁ。可愛い優生の頭が撫でられなくなっちゃう。
「おい、いつまでやってんだ。行くぞ」
「と、待ってよ」
優生と手を繋いで武君と並んで登校した。
○