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「よ、よう」
「あ、おはよう…」
次の日、武君と登校中に会った。
彼はいつもはぎりぎりだし、立ってたし、多分、私を待ってたんだろう。
「お前何?」
「あ?」
「ゆ、優生。駄目でしょ、そんな言い方しちゃ。何度も一緒に遊んでるじゃない。私の友達の武君よ」
「知ってるよ。名前じゃなくて、何でここにいんだよ。お姉ちゃんのこと待ってたの?」
「…ああ、悪いかよ」
「悪い。そーゆーのストーカーって言うんだぞ。お姉ちゃんに気があるのかよ」
「…わりぃかよ」
「…お姉ちゃんは僕のなんだから。お前なんかに渡さないし」
ぎゅ、と繋いだ手に力をいれて私に抱き着いてきた優生。もう4年生だって言うのに相変わらずだ。相変わらず可愛いと言う意味もあるけど。
そして武君、弟相手に嫉妬しない、睨まない。
「お前は弟だから結婚できねーんだよ。だからお前のねーちゃんは俺が嫁さんにもらうんだよ」
「はー!? ふざけんな! お姉ちゃんは僕と結婚すんだ!」
「できるわけねーだろバーカ!」
「何だと!?」
「二人とも、落ち着いて。喧嘩しちゃいけません」
コン、ゴン
二人を一発ずつ殴っておく。喧嘩両成敗だ。
「おい悠里、明らかに弟だけ贔屓してんじゃねーよ」
「知らないの? お姉ちゃんは僕が大好きだから強く殴ったりしないんだよ。お前は嫌われてるから殴られるんだよっ」
「優生っ、いい加減にしなさい。本気で怒るよ」
「……」
厳しくしてるつもり何だけど、年々優生が成長するにつれ生意気な態度が目に余るようになってきた。
今もいい子はいい子だけど、ちょっと過剰に私を独占したがるというか…。今だにお兄ちゃんと仲良くないし。
「武君も、年下相手に大人げないよ」
「…悪かったよ」
「優生」
「…ごめんなさい」
「ん。なら仲直り。じゃ、三人で一緒に学校行こうか」
「おう」
「…はーい」
どうしたものか。
私もブラコンの自覚はあるけど、優生のシスコンはちょっと攻撃的過ぎるよねぇ。
○
「悠里ちゃん」
「ん? 何?」
掃除が終わり、ゴミ捨てに行く途中、相方の祐巳ちゃんが真剣な顔で切り出してきた。
「ちょっと…聞きたいことがあるんだけど…」
「なに?」
「…今はちょっと…。放課後、いい?」
「う…うん、いいけど」
「じゃあ放課後、校舎裏で。待ってるから」
「うん…」
それきり祐巳ちゃんは黙ってしまって、私も黙ってゴミを捨てて教室まで戻った。
沈黙の中、私はもしかして祐巳ちゃんも私に告白!?という考えに至って午後の授業は集中できなかった。
○