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「お前…私立の中学行くって本当かよ?」
「え?」
放課後、待ち合わせ場所で落ち合ってから武君が切り出したのはそんな予想外の言葉だった。
「どうなんだよ」
「え、ああ…うん。2コ上の友達にすすめられて。成績よければ料金も格安になるみたいだし」
「…そいつのこと、好きなのか?」
「え? そいつって…そりゃ二人のこと好きだけど」
「二人? 二人もいんのか!?」
「ええっと、なんか勘違いしてない? 行くのは女子中だし、別に憧れの彼のため、とかそんな動機じゃないよ?」
「え…お、女か?」
「うん。女の子だけど…」
…な、なにこの展開。まあ、普通は中学も一緒なのに私だけ離れちゃうなんて、言わなかったから怒ってるのかな。
でも別に隠してたわけじゃなくて、去年に親を説得してからは中学の話題になれば私立を受けるって普通に言ってた。
ただ武君とは遊んでばかりでそんな話にはならなかったし…黙ってた、裏切ったって思われてる?
「黙っててごめんね。言う機会がなくて」
「…それはいいけどよ。別に中学は公立でもいいんじゃねーの?」
「私もそう思ってたけど、その二人が是非に、どうしてもってずっと言うし。私も興味あったし」
私はもう人生の半分以上消費したし、せっかくなら前と違う人生を楽しみたい。まあ、小学生でも前とはかなり違うし、せっかく幼なじみの武君には悪いけどさ。
「…行くなよ」
「もう決めちゃったし…ごめんね」
「行くなよ! 俺は…お前が好きなんだ。だから行くな」
「…え…」
え、えええええ!!?
「幼稚園の時から、ずっと好きなんだ」
「…し、知らなかった」
全然、全く。これっぽっちも、気づかなかった。
私の中では年下だし、面倒見てた気持ちだし。
「…今から止めたりはできないよ。申請もしてるし」
「……じゃあ、俺と付き合ってくれ。俺、毎日会いに行くから」
「………急に言われても…ごめん。武君のこと、そういう目で見たことないし」
「…そうか」
子供だからと軽く付き合うことはできたかも知れないけど、大切な友達には違いなく、幼い彼は傷つくだろうとわかってるのに軽はずみなことはしたくなかった。
彼が軽いノリで言うならともかく、初恋で少なくとも6年は私を思ってくれた気持ちに、いい加減に応えることはできない。
だからって、本気で付き合うには、彼はあまりに子供だ。私よりいくら大きくても、小学生相手に本気にはなれない。
「…じゃあ、これから見てくれ」
「え…」
「今から俺を意識してくれ。卒業するまで待つから」
「でも…」
「いいから。待つのは慣れてる」
「…うん、わかった。ごめんね」
「謝るなよ。まだ、わかんないだろ」
「…そうだね」
考えてもみなかった。確かに武君は親切だし、私の言うことなら他の子より素直に聞いてたけど……単に私のお姉さんパワーによるものかと。
「……」
「…と、とにかく! そういうことだから。俺に惚れさせてやるから覚悟しとけ! じゃーな!」
「あ、うん、また明日…」
急に恥ずかしくなったのか、真っ赤になった武君は走って帰ってしまった。
「…まいったなぁ」
告白されたのなんか前世でも一回だけだし、その時は付き合った。だからフッた後の対応なんてわからない。
明日から、どんな風に接しればいいんだろう。
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