高文1
僕ん家の隣にはとてもかしこい子供が住んでいる。中学生の時に出会ったけど、それから高校の中ごろまで勉強を教わってた。
なんて、信じてもらえなさそうだから人には言わない。
昔親友にだけ明かして一緒に教わったけど、もう何年も前だし忘れてるのかな。
その子は悠里ちゃんと言って、僕より10も年下だ。
勉強はできるけどよく手を繋いでって言うしゲームやらせてって甘えてくるし、まぁ、ちょっとばかりしっかりしすぎているけど、可愛い妹分だ。
そんな妹分には弟がいるんだけど、悠里ちゃんとは5年以上も付き合ってるのに弟の優生君に初めて会ったのは去年だ。
悠里ちゃんのことが大好きで、優生君から見て突然表れた僕を敵視している。
微笑ましいものだけど、優生君と手を繋いでいると僕とは手を繋がない。
それが少しだけ寂しいような気がするのは、悠里ちゃんを抱き上げたり接触してることが多かったからかな。
まぁ仕方ない。僕が大学生になり彼女はもう10歳だ。初めて会った時に比べてずいぶん大きくなった。
今は無邪気に抱き着いてくれたりするけど、もうちょっとしたらそんなこともなくなるんだろうなぁと思うと、少し悲しくさえある。
とはいえ、今でも無警戒にパンチラをさらされるとさすがにちょっとドキッとするから、成長してもやられたら困るんだけどね。
いや、ロリコンってわけじゃないし水着姿見ても微笑ましいとしか思わないし、きっと裸でも欲情したりはしないだろうけど…どうしてかパンチラってドキッとする。
ま、そんなちょっと言えない複雑な心境はともかく、とにかく僕には大切な妹分がいる。
「もしもしお兄ちゃん、明日暇ー?」
携帯電話が鳴ったのは土曜日の夜8時だった。
明日というのは随分急だ。でもそれだけ急用と言うことだろう。
「どうしたの?」
「明日、家族で遊園地に行く予定だったんだけどお父さんが風邪をひいちゃったの。優生が楽しみにしていて…急な話で悪いんだけど、もし予定がないなら保護者役をお願いできないかな」
明日、出掛ける予定はある。だけど甘えはしても僕に我が儘を言ったりして困らせたことが殆どない可愛い妹分の、実に珍しい我が儘だ。出来るだけ叶えてあげるのが兄貴分の使命というものだろう。
だから僕は二つ返事でOKし、謝罪のために先約の相手に電話をかけた。
○
朝になると、元気な悠里ちゃんの声が聞こえてきた。
遊園地でテンションがあがるなんて、やっぱり子供だなって微笑ましい気持ちになりながら僕もテンションをあげる。
よし、今日は一日頑張ろう。
「優生くーん」
「…(ぷい)」
悠里ちゃんの呼びかけにはご機嫌に応えた優生君だけど、僕の呼びかけには顔を背けてしまった。
どうも、参ったね。やはり大好きなお姉ちゃんが懐く僕は彼にとって憎らしい相手らしい。
「優生っ、お兄ちゃんに失礼でしょ」
「あはは、良いよ悠里ちゃん。僕なら大丈夫だから」
まあだけど、可愛いものだ。彼もまた僕の弟分みたいなものだし。
悠里ちゃんは僕を気遣いながらお礼を言った。やはり年に似合わぬ如才のなさだ。
ともかく僕らは遊園地に向かった。
遊園地につくと優生君は年相応に大ハシャギしだした。悠里ちゃんは手を繋ぎながら微笑ましそうにしていた。
和むなぁ。と思っていたのもつかの間。
小学生のパワーは凄い。正直見くびっていた。
疲れてしまって息があがる。なのに二人は全く平気そうだ。
そのままの勢いでジェットコースターに行こうとする二人に、僕は休憩して待っていると提案したが悠里ちゃんに却下された。
恥ずかしながら、ジェットコースターには乗ったことがないので身長制限のことを忘れていた。
悠里ちゃんは優生君の説得を始めた。
「優生、いい子だからわがまま言わないの」
「わがままじゃないもん! お姉ちゃんと一緒にのりたいだけだもん!」
「あのね、優生」
「なに!」
駄々をこねる優生君にしゃがんで目線をあわせる悠里ちゃん。
「うん! お姉ちゃんと一緒にいる!」
するとすぐに優生君はジェットコースターを諦めた。
上手いなぁと思う。感心する。お姉ちゃんだから当たり前なのかも知れないけど、あまりに年下の扱い方が上手い。
それにこうして見ると、本当に年齢を勘違いしそうだ。僕の三分の二ほどの身長で外見は大人びているわけじゃないのに、時々悠里ちゃんは僕と同い年くらいに感じてしまう時がある。そんなことなくて、まだ小さな子供なのにね。
「じゃあ、そろそろお昼にしようか。お兄ちゃんもいい?」
「勿論」
疲れた僕は一も二もなく頷いた。
○
芝生にシートを引いてお弁当を出す。
僕がまとめて荷物を持とうかと行きに尋ねたけど、優生君なんかは自分で持つのも楽しいらしいので各自別だ。
ちなみに僕のお弁当は悠里ちゃんが作ったものだ。朝、シートと一緒に渡された。昨夜体一つと鞄だけで言いと言われた通りすぎる。
お金も二人の両親が出してくれていて、優生君の世話は悠里ちゃんがするので、僕は無料で遊園地にこれて至れり尽くせりなくらいだ。
「お…美味しそうだね」
「ありがとう。といってもから揚げとキンピラは昨日の残りだし、卵焼きとウインナーとほうれん草炒めの簡単なのしか作ってないんだけどね」
「いや、十分凄いよ」
「…ありがと」
褒めると照れて悠里ちゃんがはにかんだ。実に可愛い。
それにしても、本当にお世辞じゃなく凄い。ウインナーはちゃんと蟹とタコだし、卵焼きは綺麗なものだ。小学生がつくったとは思えない。
僕もお弁当はつくったことあるけど、卵は目玉焼きで他は全部冷凍食品だったし。というか、やろうとする時点で偉い。
「うまー、うまーっ。お姉ちゃん、天才だねっ」
「はいはい、優生、そんなに慌てて食べないの。ほっぺにご飯粒ついてるわよ」
「んー」
優生君の頬からご飯粒をとって食べる悠里ちゃん。まるで母親みたいだ。
「お姉ちゃんお姉ちゃん、優生からあげもっといるー」
「あら、今日はたくさん食べるのね」
「うんっ、優生、せーちょーきだからっ」
「そうね、はい、沢山食べて」
「うん、うんっ。食べるよ」
悠里ちゃんのお弁当から優生君のお弁当にからあげが全部移動する。
え? 全部あげちゃうの?
「それじゃ悠里ちゃん足りないでしょ。はい、食べて」
「え、いーよぉ。それはお兄ちゃんの分だから」
「僕の分、大盛にしてくれたのは嬉しいけど、いくら僕が大人でもこんなに食べれないよ」
「…わかった。ありがとう。お兄ちゃん、大好き」
多分おじさんのお弁当箱なんだろう。本当はそんなに多いわけじゃない。それは悠里ちゃんもわかってるんだろう。
はにかんでお礼を言う悠里ちゃんは優しい笑顔で、やっぱりまるで大人みたいだ。
「ダメー! お姉ちゃんは優生の方が好きなの!」
「はいはい。もちろん、お姉ちゃんは優生が世界で一番大好きだよ」
「一番? 本当に一番?」
「うん」
「ふふーん」
頭を撫でられながら優生君はにやっと得意そうな顔を僕に向けてした。
いや、張り合われてもなぁ。
「あ、お兄ちゃん」
「ん? 何?」
優生君から僕に顔を向けた悠里ちゃんはくすりと笑う。
「やだ、子供みたい。ご飯粒、ついてるよ」
「……」
頬を撫でる。ど、どこだ?
「こっちよ。じっとして」
「あ、ありがと」
「どういたしまして」
と言って、悠里ちゃんは僕からとったご飯粒を食べた。
優生君にも当たり前にしてたから何の意味もないんだろうけど、ちょっと…ドキドキした。
あー、間接キスでからかわれるのは気にならないけど、こういうこと何気なくされると照れる。
大人びた悠里ちゃんの前では、子供に戻ったみたいに錯覚してしまいそうだ。
「お姉ちゃんお姉ちゃん!」
と、優生君が頬にご飯粒を付け出した。
「もう、変に張り合わないの」
「とってとって」
「はいはい」
悠里ちゃんは窘めながらも仕方ないなぁと言わんばかりに微笑んで、優生君にキスをした。
数が多いから直接食べることにしたらしい。ちょっとびっくりしたけど、子供同士だし抵抗はないんだろう。
優生君はまた僕にドヤ顔をした。
いや…どうしろと。まいったな。何とか優生君と仲良くなれないかなぁ。
久しぶりの更新です。
久しぶり過ぎて文量とか話し方とか書き方とかちょっと忘れかけましたが。何とかこんなものでしょう。
基本主人公視点でごくたまーに他視点をいれます。キャラごとに数字はふりますが、1しかない場合もあるかも知れません。
長く間が空いてやや書き方が変わるかも知れません。文章に違和感があれば言ってください。
今日中にまた更新します。