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事故の後は色々大変だった。友達はお見舞いに来てくれたけど、みんなにドジとかって怒られた。
授業に遅れたら大変でしょうと勉強を教えてもらえば何故か授業より進んでしまった。読ちゃん…何で教えられるし。
高校3年の勉強は未知の部分だから、今までほどスムーズにはいかないかと思ったけど、頭の出来が前よりいいからかすらすら進んだし、なによりモチベーションが違う。
勉強さえ楽しくてわくわくした。何もかもが、私が諦めるしかなかったもの。その全てが許されたのだ。
退院して学校に復帰してからリハビリもして、夏には私もお兄ちゃんも元に戻った。
「いやぁ…何だか大変なことになっちゃったね」
「人事みたいに言わない。悠里ちゃんが言ったんでしょ」
「まぁね」
私が結婚したいというと、お母さんの手回しは早かった。おばさんたちとも連携して、瞬く間に私は正式な婚約者になった。
お兄ちゃんの希望で籍をいれるのは私が高校を出てからだけど、式の姿が見たいからと、夏休みに結婚式をあげることになった。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「なに?」
「式の前に、一緒に行ってほしいところがあるんだけど」
「どこ?」
「海」
○
海開きもとっくにされたとは言え、平日の夜に人はいない。
私は夏休み始まってからでもよかったけど、お兄ちゃんが早い方がいいと即日家を出た。
すでに夜だったのに、お兄ちゃんはささっと我が家から外泊許可をとって車を飛ばした。
「……はぁ」
夜の海は、なんだか寂しい。
「どう? 悠里ちゃん」
「んー…確か、こっちかな」
「危ないよっ」
お兄ちゃんが私の手をとる。
「大丈夫。お月様がいるから」
「そんなメルヘンなこと言って。お月様は君を助けないよ」
「いや…」
単純に、満月に近い月が明るくて足場も結構見えるから大丈夫って意味なんだけど。
「悠里ちゃんを守るのは、僕なんだから」
「…うん」
まあ、いいか。
私はお兄ちゃんと一緒に海辺の端の方、あの女の子が死んだだろう場所に行った。
「……何か感じる?」
「まさか。私は霊感なんてないし、ただの海だよ」
「……そう」
「うん」
私はしゃがんで、そっと水面を見つめた。
沈んで行く女の子を夢想した。
「…ごめんなさい」
私は、生きて行くよ。死ぬって誓ったけど、あの約束はなかったことにして。勝手でごめん。
あなたの分まで生きるなんて酷いことは言わない。ただの自己満足だ。だから、ただ覚えておく。ずっと忘れないから。
ごめんね。偶然生き残っただけなら、私は死んであなたの後をおったかもしれない。だけど、生き残っただけじゃない。私が生きたいから、生きてる。
だから死ねない。まだ死にたくない。
いつか、今度こそ死んだら、また謝りに行くよ。
それまでさよなら。
最後まで自分勝手でごめんなさい。恨むなら、私を恨んでね。
「…行こうか」
「…もういいの? ふっきれた?」
立ち上がる私にお兄ちゃんは心配そうに言うけど、苦笑しながら首をふる。
「ふっきらないよ。ここには挨拶に来ただけ。私は…彼女を忘れない。覚えて背負って、そのまま生きていくの」
「…大丈夫?」
「大丈夫。思っていたより、私は酷い人みたいだから」
「悠里ちゃん」
抱きしめられた。驚いていると、お兄ちゃんが何故か辛そうな声を出す。
「僕が…君を許すよ。君に罪があるなら、半分こにしよう」
「…ばか」
そんなこと言ったら、私が辛いみたいじゃん。もう…ほんとばか。空気読め。
「僕はずっと一緒にいるからね」
「…うん」
私はこれから、約束を破って彼女を殺した罪悪感を持ったまま、生きて幸せになるんだ。だから、泣くような弱い人じゃだめ。泣いてちゃ幸せになれない。
だから私は泣くかわりに、お兄ちゃんを強く抱きしめた。
○
ふっきれたのかふっきれてないのか曖昧な答えになりました。この話は悩みましたが、簡単にふっ切れるキャラではないし、だからと言って引きずり続けられないので一応区切りをつけさせました。
このあとも海に行くたびに罪悪感に襲われたりしますが、それでも生きることを自分に約束したみたいな感じで。説明が難しいのですが。
約束だなんだと言ってますが、相手は悠里のことなんかちっとも知らないので勝手に気にしてるだけなんですけどね。