高文16
「よし」
これで全キャラ1レベルアップ、と。
「ん…?」
そういえば悠里ちゃん遅いなぁ。何気なく時計を見ると11時半だった。そろそろお昼か。悠里ちゃんが戻って来たら……………遅すぎないか? 嫌な予感がする。
僕はポーズをかけてゲーム機を放って、階下へ向かった。
トイレの前にスリッパがあって、鍵がかかって………は? なんでスリッパがあるの? 窓から来るし普段使ってな…
「悠里ちゃん! 悠里ちゃん!?」
ドアを叩いても返事がない。か、鍵…開かないっ。くそっ、昔は簡単に出来たのに。
って、どっちにしろ返事がないんだからいないに決まってる。早く追い掛けなきゃ!
玄関に行くと普段はくので出してあるスニーカーがなかった。靴箱から出すのももどかしく、僕は端にある新聞受けを見に行ったりする用のサンダルをひっかけて玄関を飛び出した。
学校に向かい猛ダッシュ。飛び出してから、普段通勤に使ってるんだから自転車に乗ればいいと気づいたけど、悠里ちゃんも多分徒歩だろうし、戻ってる時間ももどかしいからそのまま走った。
すると思ったより早く悠里ちゃんの背中が見えて、僕は走りながら声をあげた。
「悠里ちゃん!!」
ぱっと振り向いた悠里ちゃんは泣きそうな顔をして、何か呟いたみたいだったけど聞こえなかった。
一秒でも早く彼女を抱きしめてあげたくて僕は足に力をいれた。
「!?」
その時、視界の端でトラックがガードレールにぶつかるのが見えた。
「うわぁ!」
それとほぼ同時に悲鳴をあげて回りの人が逃げ出す。だというのに悠里ちゃんは悲鳴に振り向いてもぽかんとした表情のまま、余裕で逃げられる距離なのに突っ立っている。
ああもうバカ娘が!! どうして僕がいるのに勝手に一人で死のうとするんだ!!
「悠里ちゃん!」
頭に来て僕は走った勢いのまま彼女を突き飛ばした。
「うわぁっ」
勢いよく飛び出してつんのめるようにしながら悠里ちゃんは道路の真ん中、トラックの軌道から外れた場所へ移動した。
「お兄ちゃん!?」
振り向いた悠里ちゃんは目を見開いていて、それがなんとなくムカつきながらも慌てて僕もそっちへ向かー
「え…」
僕に向かっていたトラックが、何らかの力に無理矢理曲げられたみたいな不自然な動きで、悠里ちゃんへと方向転換した。
「いっ」
それに驚いて悠里ちゃんが顔を引き攣らせた。さっきより近いからか明らかに恐怖していた。
それでも悠里ちゃんは動かない。
「悠里ちゃん!」
もう間に合わない。この距離では二人が助かることはできない。しかも悠里ちゃんは死ぬ気だ。
ならもういい。生きなくったっていい。僕も一緒に、死ぬよ。
思いっきり地面を蹴って彼女を抱きしめた。
体から力を抜いた悠里ちゃんは、小さく息をもらすと、僕に抱き着いた。
それが凄く嬉しかった。
ついに、最後の最後にだけど、悠里ちゃんは僕を巻き込むという選択をした。僕と一緒にいることを選んだんだ。
それだけで満足だった。悠里ちゃんが僕を求めるなら、喜んで一緒にいる。それが死を意味しても、僕は嬉しかった。
だから力一杯彼女を抱きしめた。たとえ死んだって、彼女と離れ離れにならないように。
トラックが強くぶつかり、宙を舞い、地面に叩きつけられる。あまりに痛くて僕は気を失った。
○
次回で一気に行きます。




