12
前に約束した通り、私はお兄ちゃんと図書館に来ている。
スイミングスクールでの行き来で私とお兄ちゃんはだいぶ仲良くなったと思う。
「悠里ちゃん、何読んで……何読んでるの?」
お兄ちゃんは私の元に来て本に目をやると言葉を止め、何故か言いなおした。
「見て分からない? 『I can run』直訳すると『私は走ることができる』。向こうではわりと有名なんだよ」
まだ日本語訳されてないけど、私はそれなりに英語はできるので原本でも十分読める。
「…英語読めるの?」
「……うん、ちょっと、色々あって、ね」
いっそほら私って天才だからとか言ってしまおうかと思った。
読書以外趣味もなかった私は勉強ばかりやってたから成績は結構良かったし、幼児でこの脳みそは天才と言っても……駄目だ。
大きくなったらボロがでるだろうし。てゆーか、そんなセリフお兄ちゃんに言いたくないし。
「もしかして外国で生まれたとか?」
「んーまぁ、そんな感じ?」
「へぇ。いいなぁ。僕なんか全然英語分からないし…」
「じゃあ、教えてあげようか?」
「…………………う〜ぁ〜、悠里ちゃん」
「なに?」
軽い気持ちで言ったんだけどお兄ちゃんは物凄い顔で唸り声をあげた。
「中学生の僕が小学生以下に教わるってどうよ。悠里ちゃんが大人びてるのは認めるけどさ」
あー…確かに、私、来年に幼稚園に入る年齢だし。
「ん、とさ、年齢なんか関係ないよ。人には向き不向き十人十色、恥ずかしいことなんか何にもないよ。大人でも掛け算できない人がいるなら小学生にでも習った方がいいでしょ?」
「…そうか、まぁ、そうだね。じゃあ…今度頼もうかな」
おお、これってもしかしてレアじゃない? 将来の教師にものを教えるなんて…いい。
「じゃ、明後日教えに行ってあげるから放課後空けておいてね」
「え。ああ、分かったよ」
お兄ちゃんにとっても悪い話じゃないし、いいよね。私の優越感も満たされるし(あ、本音が)。
「ところで僕そろそろ帰りたいんだけど…その本借りる?」
「ん、いい」
親にバレるし。
ってこの考えってなんかエロス系を買おうとしてる男子中学生みたいじゃない?
「あ、でも何か一冊だけ借りてもいい?」
「勿論。選んでおいで」
「うん。お兄ちゃんは何を借りるの?」
「僕? 僕は人間失格って言う本だよ」
堅い…堅いよ。男子中学生がわざわざ図書館に来て借りる本じゃないよ。
相変わらずだなぁ。
とりあえず私は優生のために絵本を借りた。