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「ただいまぁ」
「おかえりなさーい、オヤツはいつものとこよー」
「はぁーい」
私は奥にいるお母さんに返事をしてから二人を振り向く。
「さ、二人ともどうぞ入って。自室はないけどとりあえず優生いる寝室でいい?」
「じしつ…?」
「あ、えと、私の部屋ってこと」
靴を脱ぎながら答える。
あ、二人ともちゃんと靴を揃えてる。偉いなぁ。まだ幼稚園児なのに教育が行き届いてる感じだ。
「悠里みたいな子供が一人用の部屋なわけないじゃない。どーせ悠里とかまだお母様と寝てるんでしょ?」
「寝るのは、と言うか布団は一人用だよ。部屋は一緒だけどね」
あれ、なんか『様』とか聞こえたけど? …聞き間違いだよね。
「え…悠里、いくつだっけ?」
「3歳になったばかりだけど…彩ちゃ、彩お姉ちゃんどうかした?」
いかんいかん。気をぬくと彩ちゃん実代ちゃんと言ってしまいそうになる。心の中でそう呼んでるせいだけど、心中までお姉ちゃん呼びはきつい。
「えー、私はお母様とお父様と一緒のお布団でなきゃ寝れないのに。悠里ちゃんって、やっぱりすごいね」
「そんなことないよ。実代ちゃんだって大きくなれば自然と止めるんだから、甘えられるうちに甘えたほうがいいよ」
「うん」
…てあれ? 何か今、ナチュラルに様づけしてなかった? ………え゛どこのお嬢様?
「ちょっと悠里、前から思ってたんだけどなんでたまにあたしたちのことちゃん付けで呼ぶのよ」
ぎくぅ…!
「えー…と、こっちだよ」
とりあえず誤魔化しながら二人を連れて奥に声をかける。
「お母ーさん、今日は友達連れてきたよぉ」
「あら、もしかしてプールでつくった友達?」
「う、うん、そーだよ」
実は未だにお母さんに公園に行ってることは言えてない。
なんだ感だ言ってる間にお母さんが妊娠しちゃって、私が出ると言ったら幼児の私に付き合うのは当たり前だけど迷惑はかけたくないなぁとか思ってたらこんなことになってしまってたりする。
私は二人を連れて部屋に入る。
二人はぴょこんと腰をおって挨拶する。
「? はじめまして、あたし深山彩乃です」
「私は藤田実代です」
「あらあら、ご丁寧にどうも。私は悠里ちゃんの母親のまち子よ。この子は優生ちゃん。仲良くしてあげてね」
「だぁあー」
お母さんはにこやかに挨拶をしてからはっとしたように優生を子供用布団に寝かせる。
「ごめんね悠里ちゃん、実は私、悠里ちゃんのこと待ってたの」
「え?」
「お買い物行きたいけど、さすがに優生ちゃんだけなのに鍵を開けていくのはできないしね」
「あ、そうなんだぁ。うん、いってらっしゃぁい」
意図的に舌足らずめに話して、私は急ぐお母さんを送り出した。
「ふぅ…じゃあ二人とも、ちょっと待ってて。ジュースいれるね」
タイミングよくお母さんも出ていったし、これでつじつま合わせをする必要もない。
……と言うか、なんで私こんなに行き当たりばったりなんだろ。
「おまたせー。はい、こぼさないように気をつけてね」
「…悠里、なんかおば様に対するのとあたしたちとで態度違うくない?」
「気のせいです」
キッパリと言っておく。口調だけだから態度は気のせいですからマジで。
「そうかな…?」
不思議顔の彩ちゃんに私はジュースを渡す。
「ん、美味しい」
よし、誤魔化した。実代ちゃんは……あ、優生に興味津々のようだ。
「実ー代ちゃ、実代お姉ちゃん、どう? 優生かーわいーでしょ?」
実代ちゃんの隣に滑り込むようにして座る。実代ちゃんは目を輝かせながら優生を見つめる。
「うん。…触ってもいい?」
「勿論。ほっぺたちょー柔らかいよ。人差し指でつついてみ?」
「う、うん」
実代ちゃんはそっと人差し指で優生のほっぺたをつついた。
「わ、やーらかい」
「だぁ、あぅ」
「ね? ね、可愛いでしょ?」
「うんっ」
笑顔で実代ちゃんはぷに、ぷにと優生のほっぺたをつついている。
うにゃあぁあ…二人とも可愛いぃ。
「悠里?」
「はっ! い、いけない…トリップしてた。あ、なに? 彩お姉ちゃん?」
「悠里…何か変」
「ななっ!?」
へ、変? いや、確かに優生可愛いし実代ちゃん可愛いしそれだけでちょっとかなりにやけちゃうけど……ち、違うわ! 私変態じゃない! ただちょっと子供好きなだけよ!
「さっきも、プールとか分かんないし。ちゃんづけしてくるし、それになんか悠里…大人のふりしすぎ! 悠里は妹なんだからね!」
大人のふりって…どんなふりか分かんないし。
「う、うん、分かったよ」
まぁでも、別に私の存在が変って言ったんじゃないんだよね。うん。ならよし。
「でも私、別に悠里ちゃんにちゃんづけされてもいいよ」
「本当?」
それはかなり楽かも。
「うん。友達だし」
「わーい、実代ちゃん大好き」
私は実代ちゃんに抱きつく。
う〜ん、子供のぬくぬく体温とぷにぷにボディが最高(まぁ、私も同じなんだけど)。
「…あたしは、お姉ちゃん呼びしか認めないんだからね!」
「うん、ちゃんと彩お姉ちゃんって呼ぶよ」
「…ふん」
…もしかして、焼きもちやいてる?
私は回転して彩ちゃんにも抱きついた。
「あーやお姉ちゃん」
「な、何よぉ」
「ふふふ…ねぇねぇ、彩お姉ちゃんも優生見て。可愛いよ」
「そこまで言うなら…遊んであげてもいいけど」
彩ゃんは実代ちゃんの向かいで優生をはさむように座る。
実代ちゃんの指を握りながら優生はじーっと彩ちゃんの顔を見る。
「……」
「……」
彩ちゃんはおそるおそる手を伸ばす。
「ゆ…優生?」
「だぁ」
がしっと掴まれた。
「……か…可愛い」
「でしょ!?」
優生、両手あげて二人の指を握るという微妙なポーズもまた可愛い…。
「優生君可愛いよね。悠里ちゃんが最近遊んでくれないのもわかるかも」
「う、う〜、でも、あたしとも遊ぶのよ!」
「分かってるって。以後気をつけます」
「イゴ?」
「ん…これからはってこと」
「ふん、最初からそう言いなさいよ」
すねたように言いながら彩ちゃんはじーっと優生と見つめあう。
「…きゃはぅ」
優生が笑った。
「……は!」
このままでは今度は私が仲間はずれになってしまう!? い、いやいや、私は大人なんだからそんな狭量な…。
「? 優生ちゃん? どうしたの?」
「むむむぅ…実代ちゃん、私と遊んで?」
「うん」
実代ちゃんはそっと優生の手をはずしてから優生の頭を撫で、私に向き直る。
「なにする?」
「あ、あたしも遊ぶ!」
「…ごめんね、二人とも」
こんなにいい子なのにほったらかしにしたりして…うう、大人なのに私が気をつかわせてどーするよ!
「明日からはまた公園行くから、一緒に遊んでね」
「うん」
「とーぜんよ! で、何する?」
「トランプでもしようか」
私は玩具箱からトランプケースを出した。
彩乃と実代は普通のセリフも舌足らずな設定です。
全部平仮名だと見づらいし、年齢に合わせた漢字もなにも幼稚園児は漢字知らないですし普通に書いてますが一応そういうことでお願いします。
そして主人公悠里は普通に話します。
体の構造からたまに舌足らずになりますが、基本的にスムーズに話す設定です。
早く大人にしたいです。