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「やぁ、いらっしゃい」
窓を開けるとニコニコ笑顔で向かえられた。
やばい。いつも通りで何でもないはずなのにめちゃくちゃ嬉しい。ていうかお兄ちゃんの顔を見て声かけられてるだけで胸がぽかぽかしてくる。
「う、うん」
部屋に入って定位置に座るとお兄ちゃんが隣に座る。
う、テンションあがる。昼間のがまだ落ち着いてたってレベル。
冷静になれ私。いくらなんでも極端すぎでしょ。
それにまずこれからのことを色々話さなきゃ。
「ねぇ悠里ちゃん」
「なんでせう」
「キスしていい?」
「……うん」
された。
駄目だ。何考えてたか忘れた。
「悠里ちゃん、安心していいからね」
「え? …何が?」
言われた意味がわからなくてちょっと考えたけど、やっぱりわからない。安心?
「悠里ちゃんが大きくなるまで変なことはしないから、安心してキスさせてね」
「…え? しないの?」
「うん」
「大きくっていくつ?」
「18」
「じゅっ…はぁ? あと何年待つつもりよ」
「今15でしょ? 3年だよ。あ、でも悠里ちゃんは早いからまだ高校生だよね。19まで待つよ」
「それまでエッチしないつもり!?」
「うん」
「…ま、またまたぁ。お兄ちゃんは男の子なんだから我慢できないでしょ」
「するよ」
「…え、ええぇえー?」
ど、どんだけ。真面目にもほどがあるでしょ。法律に触れるからって言っても18なのにさらに19にするとか。なに? お兄ちゃんMなの?
「いや…というか、私が待てないんだけど…」
19とか死んでるからね。
「えっ…ま、待てないって…悠里ちゃん、結構エッチな子なの? その…自分でしてなんとかならない?」
「顔赤くして変なこと聞かないでよ!」
そういう意味じゃない! 好きすぎて体がうずいてエッチしたくてたまらないから待てないとかそういう意味じゃない!
「そういう意味じゃないけど、16までで十分でしょ」
「いや、むしろ一番危険だよ」
「き、危険?」
「僕の職業は知ってるね?」
「学校のせんせぇ」
「うん。高校教師なわけでね、教え子と同い年とそういう行為に及ぶわけにはいかないんだ」
「黙ってたらわからないって」
「駄目だ」
「そういうのってだいたいホテルの出入りを見られてばれるんでしょ? 家でだけなら問題ないって」
「さらに駄目。家族にばれたらどうするの!?」
「誰もいない時を狙えば大丈夫だって」
「駄目」
「…ちなみにお兄ちゃん、生徒をそういう目で見てないでしょうね」
「見てない!」
「でもお兄ちゃんロリコンだしなぁ」
「僕は悠里ちゃんが好きでたまたま悠里ちゃんが子供なだけです!」
「いや、言い訳でしょ。ローリーコーン」
「た、例え僕がロリコンだとしても、悠里ちゃん専用のロリコンだから!」
まあ…最初からお兄ちゃんがよそ見をできるタイプとは思ってないけどね。でも専用のロリコンとか言われてもちょっとどういう反応していいかわからない。
ていうか…本気で私としない気? いや、今すぐどうしてもしたい!とは言わないけど…その…私だって好きな相手とはそういうことしたいと思ったりはする。
なのに死ぬまでお預けはさすがにない。ていうか処女のまま死にたくない。来世でマリア様になったら困るし。
さて、どうやって説得しようか。
「お兄ちゃん、16になったら私もう結婚できる年だよ? もし警察に見つかっても婚約者ならセーフだったはず。法的にはわかんないけど何か見逃されてたし」
「そ、そりゃ…悠里ちゃんと結婚できたら嬉しいけど…あ、待って。こういうのは僕から…」
「あっ、違う違う! 婚約してって言ってるんじゃないの! 言葉だけそうしたらいいと思うの」
「え…僕じゃ、駄目かな? そりゃ…気が早いとは思うけど。君が20なら僕は30だし…年の離れた未成年の君に告白する以上、その覚悟はとっくにしていたよ」
「う…あ…」
…ここ、感激して感動するとこかも知れないけど、ごめん。
ちょっとひいた。ていうか、かなりひく。
昨日付き合うってなったばっかで結婚とか言われても。そりゃ好きだけど…そこまで考えてないし、正直重いとしか言えない。だいたい私18で死んじゃうからね。
「…重い、かな?」
表情から察せられた!
「あー、まあ。ちょっと重い」
「……」
「落ち込まないでよ。真面目すぎなのもちゃんと私のこと考えてるからだってわかってるから。ただね? 先のことなんてわかんないじゃない?」
「…僕は…たとえ何があっても、君と一緒にいたいよ。悠里ちゃんがいない人生なんて、考えられない」
…それは、まあ…私だって? 昔からお兄ちゃんとは一緒だったわけだし? いなくなったらとか想像つかないけどさ。でも…考えられないとか、困る。
そんなに好かれても、無茶苦茶嬉しいって思っちゃう反面、重い。だって私、死ぬんだもん。
すぅ、と心が冷えていくのを感じた。
お兄ちゃんのことは好きだけど、お兄ちゃんに好かれるのは何だか苦しい。恐い、とすら思う。
私が死んだら、お兄ちゃんはどう思うんだろう。もう好きだって言ったし遅いけど、私もお兄ちゃんへの思いを我慢なんてできないけど、付き合わないことが最善だった気がしてきた。
「…駄目かな。大人になるまで待つから。それから考えてくれたらいいから。だから、結婚したい僕のこと、受け入れてくれないかな」
「…受け入れるのは、それはもちろん、構わないわ。私だって…お兄ちゃんが……す、す……んん、私もお兄ちゃんと同じ思いよ。でもできるだけ結婚のことだけは考えないで」
「…うん。もう言わないよ。ねぇ、キスしてもいい?」
「うん。あ、待って」
私にキスしようと手を伸ばすお兄ちゃんを止めて、私から近寄ってお兄ちゃんの膝に乗り上がって、そっとキスした。
お兄ちゃんが好き。『好き』という言葉は言えないけど気持ちは伝わってるよね? 『好き』だけは、もうちょっと待って下さい。
「…今、私は、あなたをお慕い申し上げております。それだけは覚えておいて。先のことなんて知らないし、約束もいらないから」
「…わかった。僕も、大好きだよ」
「ふふ…ファーストキスに続いて二回目ね、私からするのは」
「え? ファーストキス? …悠里ちゃん、他の人としてなかったの?」
「女の子とか身内はノーカンだし、お兄ちゃんとは初めてだからいいの。それにね、ファーストキスってのは好きな人との初めてのキスのことだから、もし他の人としててもファーストキスなの」
あ、今さりげなく好きって言えた。お兄ちゃんに向かって言うんじゃなきゃいくらだって言えるんだけどなぁ。
お兄ちゃんはそれに気づいてるのかいないのか笑顔のままだ。
「…じゃあ、僕もあれがファーストキスなの?」
「そうよ」
「そうか。それは…嬉しいな」
「でしょ」
お兄ちゃんに抱き着いてほお擦りする。ドキドキしてとても幸せな気分だ。
だから今はこれでいいことにする。エッチだって雰囲気にのったらそのうちしてくれるでしょ。それか押し倒せばいいよね。先のことは考えない。
死んだ後お兄ちゃんが傷つく? そりゃ傷つくだろうけど、何回もフラれても割と平気そうなお兄ちゃんだし、大人なんだから大丈夫でしょ。大丈夫じゃなくてもお兄ちゃんはお兄ちゃんなんだから、私の我が儘に付き合わせたって、いいでしょ? だからいいの。
考えない。余計なことは考えず、死ぬまでの余生をより幸せに悔いが残らないよう努力しよう。
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更新終わりです。
本当は高文9は96の後に入れるつもりでしたが一つずれました。一気に更新なんて一緒ですよね。
読んでくれてありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。




