高文9
窓が開く小さな音に僕は慌てて振り向くと、当たり前だけど悠里ちゃんがいて、へにゃっとしたどこか小動物ちっくな笑みを浮かべていた。
「ど、どーも、こにゃにゃちわ。悠里ちゃんでーす」
「あ、ゆ、悠里ちゃん。来てくれたんだ」
来てくれたことが嬉しくて思わず立ち上がる。昨日は来てくれなかったし、嫌われたかと思って気が気じゃなかった。
「うん…入っていい?」
恐る恐るとちゅうと半端に開いた窓に手をかけたまま聞いてくる悠里ちゃんに苦笑する。
なんだ、悠里ちゃんもどういう顔していいかわからなっただけか。よかった。嫌われてはいない。
僕は安心して自然笑みになりながら、悠里ちゃんの手をとって部屋に入れた。
手をとるだけでもおずおずとした態度で、可愛い。キスしたくなる。
「こんばんは」
だから昨日言った通り、挨拶しながら軽くキスをした。
触れた瞬間に悠里ちゃんはぱっと体をそらせて瞬きを何度もする。よほど驚いたらしい。可愛いなぁ。
「どうかした? 目、ぱちぱちさせて。ゴミでも入った?」
「あ…や…あの…な、なんで…き…ちゅー、したの?」
わかってたけどあえて尋ねるとかぁっと頬を染めながら悠里ちゃんが聞いてきた。
「え? この間言わなかった? 挨拶の度にキスするって言ったでしょ? 覚えてない?」
「お…覚えてます」
視線を泳がせながらさらに赤くなる。はぁ、可愛い。
もじもじして恥じらってるのがたまらない。もうちょっとだけいじわるしても…いいよね?
「あれ? 顔赤いよ? どうかしたの? キスなんて挨拶なんでしょ?」
「う、うう~」
耳まで赤くして唸る悠里ちゃんは押し倒したくなるほど可愛い。
「…お兄ちゃんの馬鹿」
「…やっぱり嫌だった?」
「う……い、嫌じゃない、けど…」
顔を覗き込むけど視線をそらされた。
悠里ちゃんが嫌だなんて言うとは思ってない。この間嫌じゃないって聞いたし。
ちょっとずるいやり方なのは自覚してる。年上なんだから優しくリードしてあげなきゃいけないんだろう。
でも僕にはそんなに余裕もない。悠里ちゃんを前にすると彼女のことしか考えられない。
キスだって軽くしかしていないし、それだけでかなり神経をつかってる。
「あの…いきなりは驚くから、ゆっくり…」
「ゆっくり、キスしてほしいの?」
「え? あっ、やっ…してほしいって訳じゃ…」
「そうなの?」
してほしいと彼女の口から聞きたい。
僕が勝手にしてるんじゃないって信じてるけど、ちゃんと言ってほしい。
「お兄ちゃんの馬鹿! 馬鹿!」
突き飛ばされた。一瞬何が起こったかわからない。
「え、わっ、ゆ、悠里ちゃん?」
「もう知らない! 帰るー!」
しまった! やり過ぎて機嫌を損ねてしまった!
「ま、待って!」
開いたままの窓枠に手をかける悠里ちゃんを慌てて引き止めるため抱きしめた。
「ひぅっ! あうあうあうぅ」
あれ、悠里ちゃんの反応が変だ。と思った瞬間に柔らかい感触に気づく。思いっきり胸を触っていた。
「あ…ごめん」
興奮しすぎて逆に冷静になったので自然に手をどけれた。改めて抱きしめる。
どこをとっても柔らかくていい匂いがする悠里ちゃんだけど、今の感触はまた格別だ。
悠里ちゃんが向こうを向いててよかった。顔を見られたらドン引きされるかも知れない。
「ああああ…あーうーわー」
「ゆ、悠里ちゃん? 大丈夫?」
「だだ大丈夫じゃない!」
「よかった、大丈夫だね」
うめき声から会話できるレベルになったので安心したけど不満なのか悠里ちゃんは体を揺らす。
「じゃねーってんじゃん! ねーってんじゃん!」
「てんじゃん?」
「言ってんじゃんんん!」
混乱して興奮してるのか呂律が回らなかったらしい。それは可愛いけど…
「じゃねー、とか口悪いよ?」
普段はそんな言葉遣いしないのに。教師だからかそういうのは気になる派なのでちゃんと注意しておく。
「あああっ、もっ、なんっ、なの! なんなの!? 私のこと好きなの!?」
「うん」
「…………………は?」
ぽかん、とした顔をしてるんだろうなぁってわかるくらい感情がわかりやすい声だったのに苦笑する。
でも全く気づいてなかったの? 心外だな。僕は好きでもない人とキスなんてしないよ。
「僕、悠里ちゃんが好きだよ。知らなかった?」
「…は、い? ……………私のこと、好きなの?」
「だから、そうだって」
そんなに信じられないかな。というか…僕が言ったんだから、悠里ちゃんにも言ってほしいな。
「悠里ちゃんは? 僕のこと嫌い?」
抱きしめたままだから、悠里ちゃんの表情はわからない。でもきっと、真っ赤な顔で、混乱したぐるぐるおめめなんだろう。
「…私、は…………す……」
す、と言ったきり悠里ちゃんは黙り込む。ああ、もう我慢できないっ、
「っ」
僕は悠里ちゃんの向きを変えて向かいあって抱きしめなおす。悠里ちゃんは拒まない。
「僕は好きだよ。ロリコンでもいい。君が好きだ。悠里ちゃんが、世界で一番好きだ」
「あ…」
もうこれ以上気持ちを抑えることなんてできなかった。悠里ちゃんへの思いが口から溢れた。
自分から誰かに告白するのは初めてだ。きっとこれが、最初で最後の僕の告白。
「わた…私も、す……す…」
好きだと言ってくれようとしてるんだろうけど、やっぱり『す』でとまる悠里ちゃん。
ああもう! 可愛いなちくしょう!
「悠里ちゃん」
キスしやすいように悠里ちゃんを抱きしめなおす。
言えないなら構わない。その続きはまた今度でいい。いつまでだって待つ。
君の気持ちは伝わってきている。だから無理に言わなくていい。今は悠里ちゃんがいるだけでいい。言葉なんていらない。
「いいね? 今度はゆっくりやるよ。何も言わなくていいから、僕が好きなら頷いて」
「……」
こくんとゆっくり悠里ちゃんは頷いた。
「ん」
ゆっくりしたキスは溶けそうなくらい気持ち良かった。
例え誰に何と言われても僕は後悔しない。絶対に悠里ちゃんへの恋をなくさない。恋をただの愛情とも入れ替えない。
僕は悠里ちゃんに恋していて、愛している。
誰に後ろ指さされても、構わない。例え、親友に軽蔑されても、だ。
大好きだよ、悠里ちゃん。
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