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二度目の私  作者: 川木
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96 交際開始

勇気を振り絞って窓から出たはいいものの、あー…でも、やっぱり明日でも…いやいやいや、部屋にいたってお兄ちゃんのこと考えちゃうんだから。

さっさと行ってすっきりしちゃおう。


屋根を渡ってお兄ちゃんの部屋の窓に手をかけ、ゆっくり開けた。


「…ど、どーも、こにゃにゃちわ。悠里ちゃんでーす」

「あ、ゆ、悠里ちゃん。来てくれたんだ」

「うん…入っていい?」


私の顔を見てちょっと慌てて腰を浮かせたお兄ちゃんだけど、恐る恐る尋ねる私に苦笑する。


「くす、どうぞ」


笑われた。ぐぬぅ。なんか悔しい。


「ほら、おいで」

「…うん」


頬を膨らませてお兄ちゃんを見てると微笑みながら近寄ってきて私に手を差し出した。

え、エスコートですか。前もたまにふざけてやってたけど…今日はやっぱり照れちゃうなぁ。


手をとって、ひっぱってもらって部屋に入る。


「こんばんは」


そしてキスされた。


……え?? いや、は??

ちょっと…何が起こってるのかわかんないです。


「どうかした? 目、ぱちぱちさせて。ゴミでも入った?

「あ…や…あの…な、なんで…き…ちゅー、したの?」

「え? この間言わなかった? 挨拶の度にキスするって言ったでしょ? 覚えてない?」

「お…覚えてます」


そうだったー! 忘れてた! またキスされたー!

お、お乙女の唇をなんだと思ってんのこの人ー!! もうやだばか!


「あれ? 顔赤いよ? どうかしたの? キスなんて挨拶なんでしょ?」

「う、うう~」


ドSだ! Sがいる! なにこのいじめ! 絶対お兄ちゃんわかっててやってるでしょ! キャラ変わってるよぅ!


「…お兄ちゃんの馬鹿」

「…やっぱり嫌だった?」

「う……い、嫌じゃない、けど…」


ずっと手を握ったままのお兄ちゃんが顔を覗き込んできて、またキスしそうな距離で私はせめてもの抵抗で視線をそらす。


心の準備って言うか。もっとちゃんとして欲しいって言うか。……こんなちゅっちゅっちゅっちゅされても、頭パンクして感触とかよくわかんないし。ゆっくりして欲しいって言うか。


「あの…いきなりは驚くから、ゆっくり…」

「ゆっくり、キスしてほしいの?」

「え? あっ、やっ…してほしいって訳じゃ…」

「そうなの?」


……し、してほしいけど。してほしいけど! やだもん!ちゃんとしてくれなきゃやだし!

もー! お兄ちゃんがなに考えてんのかわかんないよ!


「お兄ちゃんの馬鹿! 馬鹿!」


頭の中わーってなって恥ずかしくって照れ臭くってお兄ちゃんを突き飛ばした。


「え、わっ、ゆ、悠里ちゃん?」

「もう知らない! 帰るー!」


突き飛ばした勢いで手も離れたから回れ右して開いたままの窓枠に手をかける。


「ま、待って!」

「ひぅっ!」


後ろから思いっきり抱きしめられた。

てゆーかどさくさにおっぱい掴んでるからあああ!! ちっさいけど!


「あうあうあう」

「あ…ごめん」


慌てて改めて抱きしめなおすお兄ちゃん。


「ああああ…あーうーわー」

「ゆ、悠里ちゃん? 大丈夫?」

「だだ大丈夫じゃない!」

「よかった、大丈夫だね」

「じゃねーってんじゃん! ねーってんじゃん!」

「てんじゃん?」

「言ってんじゃんんん!」

「じゃねー、とか口悪いよ?」

「あああっ、もっ、なんっ、なの! なんなの!? 私のこと好きなの!?」

「うん」

「…………………は?」

「僕、悠里ちゃんが好きだよ。知らなかった?」

「…は、い?」


え? え?

…………………え?


「…私のこと、好きなの?」

「だから、そうだって」


だからとか。確かに期待してたけども。でもそんな、いきなり言われても。


「悠里ちゃんは? 僕のこと嫌い?」


抱きしめられたままだから、お兄ちゃんがどんな顔で言ってるのか私にはわからない。

振り返って見たいという思いと、でももし振り返って単に兄弟としての好きだったらという恐怖で、私は振り返れない。


「…私、は…」


何と言えば、いい?

私はこの期に及んでお兄ちゃんを信じきれない。本当に、私が好きなの?

だってついこの間、一昨日まで、そんなそぶりなかったじゃない。その前から好きな人がいるって真面目な顔で言っていたのに。

単に勇気に嫉妬して妹がとられちゃうって焦ってるだけじゃないの? 恋じゃないんじゃないの?


信じられない。でも…信じたい。

それにお兄ちゃんがどんなつもりだって、私は好きだ。好き。好き。好き。



「…す、………」


『き』がでない。

だ、だって一人でもでないのに、お兄ちゃんを前にして言えないよ。

やだ。恥ずかしい…。私馬鹿みたい。なんで。さっきは言えたのに。心の中でなら、いくらだって言えるのに。


好きだよ。本当だよ。凄く凄く、好き。

お兄ちゃんが、好きよ。キスしたいくらい、好き。お兄ちゃんだけが、特別に好きなの。


「っ」


お兄ちゃんは一度離すと勢いよく私を一回転させて、今度は真っ正面から抱きしめた。

突然のことに足をもつれさせないので精一杯の私はされるがまま抱きしめられた。


「僕は好きだよ。ロリコンでもいい。君が好きだ。悠里ちゃんが、世界で一番好きだ」

「あ…」


ハッキリと言われた。勘違いのしようがないくらい。ネガティブになりようがないくらい、ハッキリと。


「わた…私も、す……す…」


い、言えない。

何で言えないのかわからないけど、舌がもつれそうだ。


「悠里ちゃん」


情けなくて泣きそうになる私に、お兄ちゃんはそっと頬に手をあてて、私の腰を抱きながらちょっとだけ、上体を離した。


「いいね? 今度はゆっくりやるよ。何も言わなくていいから、僕が好きなら頷いて」

「……」


こくんと黙ったまま頷いた。

顔が熱いことなんてもう気にならない。全身が熱いし、それにお兄ちゃんも真っ赤で熱いから。隠す必要も照れる必要もない。


「ん」


ゆっくりと、お兄ちゃんは窮屈そうに背中を曲げて私にキスをした。

心臓が張り裂けそうなのに、溶けそうなくらい気持ちよかった。












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