冬の女王と従者ハルの物語 ~エピローグ~
――――1か月半後
『良くぞ! 良くぞ成し遂げてくれた!』
ここは王城、玉座の間。
そこには春の女王の従者である私と、美しい少女――冬の女王が招かれていた。
王様や重臣の方々からは盛大に感謝され、そのまま祝杯を上げることになる。
玉座の間が、あっという間にパーティ会場と化してしまった。
「ハル君! お疲れ様! 君がいない間、私は寂しくて寂しくて……」
「だ、駄目ですよ女王様。こんな場所で泣き出さないでください! 周りの目がありますので……」
畏まった挨拶が終わるや否や、感極まったように春の女王様が抱き着いてきた。
自分との関係を知らない者達が、勘ぐりの目でこちらを見ている。全く、本当に仕方のない女王様だ……
「オホン! あ~、春の女王、その久しぶりだな……」
「冬ちゃん! 久しぶり! 心配したんだよ! というか私の”アレ”が原因かもって言われて、もうどうしたらいいかって…」
そう。事の発端は、「冬の女王様が塔から出てこないのは、あの魔性の羽毛布団のせいなんじゃ?」と、自分が春の女王様に進言したのが始まりなのである。
それを聞いた春の女王様は大いに動揺し、王国に相談したところ、自分が派遣されることになったのだ。
「う、うむ。確かにアレは危険な物であった。が、結局は我の弱い意思が原因じゃ……。皆にも迷惑をかけた。深く反省をしておる……」
そう言って頭を下げる冬の女王。
本当に、大人になったな……
この苛酷な1か月半を振り返ると、なんだか感慨深いものがある。
この1か月半、自分は心を鬼にして彼女の減量をサポートし続けた。
過剰な筋肉がつかないように構成した運動メニュー、栄養バランスをしっかりと考えた食事、疲れを残さない為の入念なマッサージ。
自分が春の女王の従者であることを忘れそうな程の教官ぶりであったと思う。
「ふ、冬ちゃん……、大人になったね……、ってあれ? なんだか見た目も大人……って言うか綺麗になったような? というか、あれ? おかしいな? 目の錯覚かな? 私より、おっぱい大きくなってない?」
ええ、その認識は間違っていないですよ、女王様。
精神的に大人になった冬の女王は、その表情にも凛々しさが増しており、余った脂肪で育った胸は、減量後もあまり体積を変えなかったのだ。
「……ねぇ、ハル君。君は冬ちゃんに何をしたのかな?」
「……誠心誠意自立頂けるように、尽くさせて頂きました」
「……本当にそれだけなのかなぁ」
春の女王様がジト目でこちらを見る。
無論、自分に負い目などない。強いて言うならマッサージの際に……、いや、なんでもない。
「と、ところで春の女王、相談があるのだが……」
「……ハル君はあげないよ」
「なっ!? まだ我は何も言っておらんのに!」
「そんなの! 顔見ればわかるもん! 乙女だもん!」
「わ、わけのわからんことを! 大体に従者とはなんだ!? 私にはいないぞ!?」
「そりゃそうだよ! だってハル君は私が拾ったんだからね! だから私専用の従者なの!」
「ズ、スルいぞ! それに、ハルには誰にも見せたことのない私の全てを見られているのだ! 今更手放せぬ!」
「ななな! ハル君どういうこと!? やっぱり冬ちゃんに何かしたのね!?」
……これは、収集がつかない事態になってきましたね。
「誤解です。春の女王様。それに冬の女王様も言い方を考えて下さい。それでは誤解を招きます」
「誤解ではあるまい! 大体、お主はどうなのだ! あんなことを我に強いておきながら、今更見放す気か!?」
「ちょ! 冬ちゃん! しがみ付かないで! ソレはズルいよ! 凶器だよ! ねえハル君! ハル君は私だけの従者だよね!?」
これはあれですね。逃げましょう。
「え~、お二方の気持ちは大変ありがたいのですが、実は私、先程王様より別の任務を与えられていまして。そろそろ出立予定なのです」
「え!? それどういうこと!? 私の所に帰ってくるんじゃないの!?」
「ええ。実は、この寒さで夏の女王様が国外逃亡されたらしく、その捜索の命を賜りました。どうも、この度の件が評価されたようでして……」
嘘は言っていない。事実、その命は与えられている。いつからとは言われていないが。
「むーーーっ! 冬ちゃん!」
「ぐぬ……、すまぬ……」
「ということで、私はこれで。春の女王様はお勤めに励んでください。冬の女王様は、もう心配ないとは思いますが、次に会った時に体形が戻っていたら……怒りますよ?」
そう言うや否や、即座に会場から退散する。
後ろで女王様方が何やら叫んでいるが、気にしては負けだ。
◇
これは、従者ハルと冬の女王の出会いの物語。
そして物語は、夏の女王との出会いの物語へと続いていく。
~終~