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第三十四章 魔王さま、それ一発アウトです

 

「北門周辺、戦闘はじまりました! ルヴィナールの元山賊軍です!」

 キャサリンさまがおわします中央指令本部に最初に飛び込んできたのは、隠密諜報メイドからの一報でした。

「士気は十分ですがなにぶん元山賊なのでいま一つ戦闘が散発的ですが、敵魔物軍もあまり統率されておらず、状況は優勢です」

「よおっし、このミュゼちゃんの読み通りね、他の地区は!?」

「はぃっ、エルデさま率いるベルクガンズ部隊も戦闘に突入した模様! 獅子奮迅の活躍で文字通り魔物軍を蹴散らしております」

「東地区のロートヴァルド本体、左右から魔物軍に包囲されましたがこれをものともせず、むしろ押し返してます!」

「バルラヌス軍、弓兵隊を展開、すでに魔物軍の2割を撃破、後退させています!」

「ルヴィナール本体到着、直ちに元山賊軍と合流して魔物軍の撃破に当たります!」


「す、すごいです……」

 次々と寄せられる報告は、どれも魔物側の敗退や不利を知らせるものばかり。人間側の圧倒的優勢に指令本部の皆さんはわき立ちます。

 もっとも、その情報がいち早くわかるのはひとえにミュゼールさま率いる隠密諜報メイド隊の皆さんのおかげです。皆さんは危険も顧みず、各戦闘地域に行って戦況を見極め、そしてそれを本部に伝えてまた現地に戻っていくのです。

 その詳細な情報をもとに、キャサリンさまは細かな部隊配置を指示し、手薄なところに援軍を送り、魔物軍の連携を崩すことができるのです。

「マリア」

「あ、はい、レオンさま。私たちも出陣ですか」

 皆の団結と勇者そろい踏みでいよいよ魔王との決戦かと意気込んだのですが、メイド隊の報告では魔王は中央広場でまだ沈黙したままなので、まずは様子を見ようということになっていました。人間軍と魔物軍がぶつかれば、あるいは魔王がまた活動再開するという可能性もありますし。


「メイド隊の情報では、まだ魔王に変化はない。だがおそらく僕たち勇者の中ではキミがいちばん魔王の気配を探知する能力に優れていると僕は思う。ほら、舞踏会のときも」

 ああ……と私は思い出しました。

 王宮舞踏会の場に魔王の影が現れたときのこと。

 他の勇者王子の皆さんが感じなかった魔王の気配を、私が真っ先に気付いていたのです。

「それがアデリーンの影響かどうかは僕にはわからない。でも、魔王が動き出したら今の人間側の優勢は一気に崩れ去る恐れもあるんだ。どうだい」

「は、はい」

 私に果たしてそんな能力があるのかどーかわかりませんが、とにかく私はロートヴァルド王城の、中央広場が見える窓に近づいて、そこにうずくまる黒い影に意識を集中してみたのです。


「…………………………ひっ?」


 ぎろっ。

 全身に鳥肌が立つような悪寒、そしてぞっとするような視線を感じ、私は総毛立ちました。

 すかさずレオナルドさまが肩を持って支えてくれますが、あれは間違いなく魔王の気配です。しかも、レオンさまたちと戦っていた時よりも鋭いというか、ねっとりと絡みつくような不気味さを感じ、首の後ろの毛がちりちりと逆立つようです。

「感じたんだね、魔王の動きを」

「魔物どもがやられて、やっこさんも重い腰を上げざるを得なくなったか?」

「真打登場ってところだねぇ~っ」

「すぐにキャサリン殿下に進言してこよう」

 と、勇者王子さま方は勇気凛凛、闘志沸き立つ感じですが、私はなんともいやな気分でした。

 いえ、いまさら戦いが怖いとかそういうのではありません。そうではなく、なんというか「個人的に」「ものすごく不快な」気分がすると申しましょうか……

「マリア、すぐ出発する」

「はひっ?」

 キャサリンさまに報告してきたウィリアムさまに声をかけられ、私は飛び上がりました。

「いつ魔王が活動を開始してもいいよう、我々も広場に向かう」

「それで、配置は? いっせーのでドカンとやっちまおうぜ」

 勇ましいアントニオさまですが、キャサリンさまの指示は私たち五人で魔王を取り囲む形で備えるというものでした。


「先の戦いで、魔王は僕───聖精霊の勇者だけを集中して狙ってきた。僕が率先して囮役になって、側面や背面から攻撃して魔王を牽制するんだ」

 そういえば、そうでした。

 あのときは私はまだアデリーンさんの記憶を見ていませんでしたが、おそらく魔王は自分と同じ聖精霊の力を持つレオンさまだけを狙ってました。

「僕は魔王の正面、マリアは魔王の右後方だ。決して無理してはいけないよ」

「そういえばマリアくん。地精霊の力はちゃんと使えるのかな」

 と、ラファエロさまに言われ、私は意識を両手に集中してみました。

 ぶん、と空間が歪む気配と共に、一瞬でごっつい籠手が私の両手に収まります。

「あ、あれ……?」

「どうした、不調なのかマリア」

「いえ、ウィリアムさま。そうじゃなくて……むしろ」

 なんでしょう、この両手にしっくり馴染む感じ。今までなら例えば野盗相手には出せなかったり、力が出せたり出せなかったりとなにかと不安定だった地の精霊の聖法具「グランディール」ですが、今はまるで長年使いこんだ愛用品のように手にジャストフィットしています。

「ならいいじゃねえか、がっははは!」

「げふぅ」

 アントニオさまに思い切り背中をはたかれ、咳き込みつつも我ら勇者部隊はいざ魔王との最終決戦にのぞむべく、中央広場に向かったのです。


・・・・・・・・・・。


(い、いよいよです)

 中央広場に到着した私は、言われた通り魔王の右後方。こうしてあらためて見る魔王の巨体はいっそう不気味で、アデリーンさんたちが戦っていた漆黒の騎士よりも巨大で、かろうじて人型をとどめているだけの、まさに魔物の王そのもの。

(こんな恐ろしい相手を、アデリーンさんはたった一人で封印していたんだ)

 同じ地の精霊の加護を受けし勇者として、アデリーンさんの強さに少しでも追いつけるようにしないと、と私は両手に「大地の籠手グランディール」を出現させます。

 やはりそれは私の手にフィットし、安定しているようです。もしかしたら他の皆さんのように、精霊の人型形態も出せるかもしれません。よおし、と拳を握りしめる私の元に、一人のメイドさんが駆けてきました。

「マリアさま、レオナルドさま以下四名の勇者王子さま、配置完了でございます! レオナルドさまの攻撃を合図に一斉に攻撃を開始なさってくださいとのことです」

「は、はひ」

 そう、魔王は自分と同じ聖精霊の力を持つレオンさまを狙ってくるはず。魔王の黒い巨体に意識を集中した私は、その邪悪な気配がさっきよりずっと高まっていることに気付いていました。

「は、離れていて下さい。いつ魔王が動き出すかもわかりません、危険です」

 私の言葉にメイドさんは軽く会釈をすると、その場を離れていきます。

 その姿が見えなくなったのとほぼ同時に「それ」は起こりました。


「ぐうぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 びりびりと大気を震わせる凄まじい咆哮。

 スイッチが切れたようにうなだれていた黒い巨体がゆっくりと身を起こしていきます。

(魔王──────!)

 果たしてまだまだ未熟な私にどこまでできるかわかりませんが、私たち勇者は、いえ勇者以外の人たちもみんな勇気を振り絞って魔物と戦っているのです。

(そ、それに……魔王はまずレオンさまを狙うはずだし)

 と、いきなり後ろ向きなことを考えてしまう自分を叱りつけ、私は大地の精霊に呼びかけました。

(地の精霊、私に力を貸して下さい! できれば魔王の後ろからこう、こっそりどつく感じで!)

 両手にハマっていたグランディールがみるみる巨大化し、一抱えほどになります。いくら魔王でもこれでぶん殴れば少しは……


「グァアアアアアアア…………アデ……」

 あで?

「アデ……リィイイイイイイイイイイイイイイインンンンンンンン!」

 魔王はゆっくりと右斜め後ろに顔を向け、真正面から私の姿を捉えています。

 そして、ずん、ずしんと一歩ずつ、けれどもわき目も振らずに「魔王」は「私」に向かってきたのです。

「な、なんでぇえええええええええええ!?」

 先ほどまでの勇気は決意はどこへやら、私はくるり踵を返すと、一目散に逃げ出します。

 こっそりうしろからぶん殴るどころじゃありません、なじょしてこんなことに。


「あ」


 そ、そういえば。

 一人で魔王に立ち向かっていたレオンさまを投げ技でぶん投げて止めた私は、意識を失う寸前、魔王がアデリーンさんの名を読んでいた「声」らしきものを耳にしていたよーな。具体的には「27章の最後の辺り」という謎の言葉が頭をよぎります。

「マリアさま!」

 ふと見ると、さっきのメイドさんが私と並走しています。

「あ、あ、あぶ、危ないです離れて下さい!」

「しかし、見れば魔王はマリアさまお一人を狙って追いかけている様子。他の勇者王子さまたちが到着するまで、安全なところに!」

 いやもうあなた、安全なところもなにも、魔王はもう完全に本気モードで私の後を追っかけてきているんです。安全もへったくれもありゃしません。

「グランディール、行って!」

「きゃっ?」

 大地の籠手グランディールがメイドさんの腰を(できるだけ優しく)掴むや、私の逃げる方向と別の場所にびゅおんと飛んでいきます。

 やれやれこれで一安心、ではありません。グランディールに意識を向けていたため、魔王と私の距離がさっきよりも縮まっているではありませんか、こりゃやべえ! 地の精霊の力が働いているせいなのか、いつもの私に比べればうんと速く走れているはずですが、相手はなにぶん巨体。

「アデリィイイイイイ……グォッ!」

 と、突然魔王の歩が止まりました。


「マリア、無事か!」

 ハッと振り返ると、そこには渦巻く風で形作られた巨人が、巨大な弓を構えて魔王を狙っていました。間違いありません、ウィリアムさまの精霊です。

「まったく、なにをトチ狂ってるんだいこの魔王さまは?」

 風の矢に射ぬかれた魔王の足元にたちまち広がっていく氷。手をかざしているのは巨大な人型の水精霊。

「ウィリアムさま、ラファエロさま! あの、さっきのメイドさんは」

「ああ、俺がちゃんと安全な場所に運んでおいたぜ!」

 と、炎の巨人の肩に乗った槍使いの巨漢がにやりと微笑みます。ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、ばきばきばきと足元の氷を砕きながら、魔王が再び私に向かって歩き始めたのです。

 しかし───魔王の黒い巨体の胸を、銀色の輝く巨大な剣が貫いたのです。レオンさまの召喚した銀騎士……これで大地の精霊以外の精霊神、人型形態そろい踏みです。

「マリア! 遅くなってすまない。キャサリン殿下から戦況を伺っていたんだ」

「レオンさま!」


「アデリィイ……ンンンンンンンンン……ッ!」


 四方を精霊神に取り囲まれた魔王は、まだアデリーンさんの名を読んでいます。

 けれど、ここで私は疑問を感じずにはいられませんでした。魔王が聖精霊の力を継ぐレオナルドさまを狙うのはわかります。地の精霊の加護を受けた私を「アデリーン」と呼ぶのも、まあ理解できます。

(まさか、自分を長いこと封じ込めていたアデリーンさんへの恨み!?)

 んな、はためーわくな。

「マリア、よく聞くんだ。最近現れた魔物たちは、連携をしたり策を弄したり、ある程度の知能を持ち始めていたことは知っているね」

「は、はい」

「それは魔王───初代聖勇者の影響じゃないかと僕は考えていたんだ。彼らが知恵を身につけると同時に、あるいは魔王の感情そのものにも影響されているんじゃないかと」

「そりゃどういうことだ、レオン?」

 焔神の肩から降り立ったアントニオさまの言葉に、レオナルドさまは頷きました。

「いま王都の各地でそれぞれの国の軍が対峙している魔物軍……それが一斉に統率を失い、戦いを放棄して口々にこう叫んでいるそうだ……『アデリーン』と」

「…………………………」


 どゆこと?


 魔王がアデリーンさんに恨みを抱いて、私を襲ってくると言うならわかります。

 その影響を受けた魔物軍もまた、私───地の精霊の勇者───を襲ってくるのも。

 けど、それじゃ戦いを放棄する意味がわかりません。

 ぽかーんとアホ面を晒す私に、レオンさまはひじょ~に言いにくそうに、口ごもりながらこう仰ったのです。

「つまり……魔王や、その影響下にある魔物たちはかつての地の勇者アデリーンに久しく封印されていた。封印は解き放たれたけれど、彼らは、その……アデリーンにいまだ執着しているというか、固執しているというか。その、ラファエロならわかるんじゃないか?」

 レオンさまの話を聞いていたラファエロさまは、シャンペンブロンドの巻き毛を指にくるりと巻きつけると、呆れたように肩を落とし溜息をつきます。

「理解はしたくないけど、たまにいるねえ~そういう未練たらしい男って。女性にはまったくその気がないのにいつまでもつきまとって嫌われる、エレガントさの欠片もない勘違い男って言うんだろうかねえ」

「それはつまり、こういうことかラファエロ。今の魔王はマリアを攻撃しようと襲って来たのではなく」

「ま、ある意味『つけ狙ってる』ことには変わりないのかな、こういうのも」


 ぞわわわわっっっっ。

 私の背筋が不快感と嫌悪感に凍りつきました。

 つまりなんですか、魔王はいまだアデリーンさんのことが忘れられず、私とアデリーンさんを同一視して、その、必死に迫ってきている、と……?

 ようやく事の真相を理解した私は、思わず知らず最初に感じた気持ちを思いっきり口に出してしまっていました。


「魔王さん、キモッッッッッ!」

 

おそらく年内最後の更新です。つかストーカー話で年を締めくくるとは……

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