相談
さあ、ようやく話し合いです。
お茶を飲みつつ、社が、円テーブルの真ん中に地図を広げた。
「ところで、俺も、かぁくんって呼んでいいかな?」
と、社が尋ねると、かぁくんは、こくんとうなずいた。
「いいよ。五色さんもそう呼んで!」
「では、かぁくん。鳥が死んでいる場所って分かるかな?」
そう言いながら、テーブルの上の地図を指さした。
その地図は、山の上地区の全部が載っていた。というか、それ以外の所は無い。
「こんなの初めて見た。」
「そうか?家で取っている新聞に入っていたけど?」
「へえ~、いいなぁ。どこの新聞?」
「『山の上新聞』だよ」
「僕のところも、『山の上新聞』だけどあったかな?」
「新聞屋さんで、『地図が欲しいのですが』って聞いたら、貰えるらしいぞ」
「じゃあ今度聞いてみる」
「取りあえず、鳥の死んでいた場所の確認だな」
かぁくんは、コップを器用に翼で掴むと、一気にお茶を飲み干した。
ぷはぁ~
とんとコップを置くと社から借りた赤ペンを走らせた。
✕の印と、△の印。
それは、僕が思っていたのより、遥かに多かった。社もそう感じたのか、顔が硬かった。
地図の上には、20個以上の赤い印。
『山の上公園』の上にある山に多く、また川沿いに集中していた。
「この赤い印だけをみると、この川になんらかの原因があるような感じだな」
「でも、その川は学校の隣を流れているけど、とくに何かが死んでいたって話は聞いていないよ」
「いや、三か月前、学校の近くの川で魚が何匹か死んでいて、大騒ぎになったことがあった」
ぼくは、一生懸命、三か月前を思い出した。
確かにそんなことがあった。死んだ魚の臭いが酷くて、それで休校にまでなった。
みんな、少しだけ喜んだ。
しかしあれは、近くで工事をしていたせいじゃなかったかな?
「あの時、工事中の汚水が流れたせいだという話があったが、それは、あくまでも推測にしかすぎない。別の原因があったとしたらどうだろう」
といわれても、ぼくにはよく分からない。
「けど、取り合えず。この鳥の死骸の話をしたら、みんなあの辺りに近づかないようになるんだよね」
「実際に、死骸を見たわけではないので難しいところだけどな」
「じゃあ、確かめに行こう。」
ぼくは、気軽な気持ちで言った。
「ちょっと待て!!それだと俺が教えた意味がないだろう。危ないから近づくなっていっているんだぞ」
そうだった。
かぁくんがわめく。でも、それがどれほどのものかが実感がないからだろう。
一時は怖いと感じても、忘れてしまっていた。
「いちの得意技は、物忘れだからな。それも仕方がないだろう。でも、いちじゃないが、幾つかは確かめに行きたいな。なんか良い方法はないか?」
「そうね。今日はもう無理だけど。噂として流してみる?」
「あっ、それいいかも。少し時間は掛かるかもしれないけど、確かめてみようとする大人が出てくるかも」
「そうだな、その時ついでにこの場所を言えば信憑性がますか?」
「うん。それいい」
なんだか、ぼく抜きで話は決まったようです。ところで、社のお父さんに頼むんじゃなかったっけ?
「じゃあ、取りあえず俺の父にそれとなく話すかな・・・」
「では、私も晩御飯を食べながら、母に噂として話を聞いてもらうとすましょうかね」
えっと、ぼくはどうすればいいかわかりません。
「あっ、いちはいいぜ。どうせ両親とも忙しいんだろ? お年寄りにする話でもないしな」
「ごめん。ぼくが言いだしたことなのに・・・」
「いいわよ。お互い協力しあってこその仲間です 」
「そうだな」
話し合いが終わったと思ったその瞬間、とんでもない言葉がかぁくんから発せられた。
「あっ。忘れてた。その印、✕の所が魔獣が生まれた場所の印で、△が魔獣になる寸前で死んでしまった生物がいたとこな」
3人とも、ピキーンと固まった。
えっと、ぼくたちは、何の話をしていたのでしょうか・・・
魔獣とか聞こえた気がしますが、気のせいですよね?
ぼくたちは、お互いの顔をロボットのようにギスギシと左右に動かして順に見た。
その日は、それで解散して家に帰った。
あまりにも現実離れなことを聞いてしまったから、3人とも頭が考えることを拒否したからだ。
からすであるかぁくんが居る時点で、すでに現実からかけ離れているのだ。
だから、魔獣うんぬんも否定することはできないのだ。
しかし事件は、僕たちのことをあざ笑うように急激な展開を迎えることとなる。