仲間
ぼくは、かぁくんとの出会いを思い出していた。
そうそう確か、竹林の中の薄暗い所から、大きな黒い物体の泣き声がするという、立派なホラーだった。
ただ単に大きいカラスだと分かってほっとしたら余裕が出て、よく見たら、顔は涙でびしょびしょで、哀れの他いいようがなかった。
それを見たら、そうでもないけど、最初のインパクトはとにかく凄かった。もう少しでもらしそうになったのは、今ではいい思い出だ。
そういえばかぁくん、あの時ぼくと同じくらいの大きさじゃなかったっけ?
あれれ
首をひねった。
「どうしたんだ?」
社に声を掛けられて、びくっとした。ぼくは慌てて話を戻した。
「だから、かぁくんの言う通り、『山の上公園』には、いかないほうがいいんだ。でも、社はまだ信じてもらえるかもしれないけど、他の子は、からすのお告げなんてなんて言っても・・・無理だろう?」
「そうだな・・・。で、なんで、『山の上公園』に行かないほうがいいんだ?」
そういえば、そのことについては、何も話していなかった。
かぁくんのことばかり話していたんだな。失敗。反省。
てれ てれ
熱った顔を手で仰ぎながら話し始めた。
「かぁくんが言うには、『山の上公園』で鳥がなぜか死んでいるから、しばらく『山の上公園』に、近づかないほうがいいんだって話なんだ」
「鳥がか?」
「うん。そうらしい。」
「でも、そんな話聞かないし、死んでいる鳥なんて見たこともないぞ。」
そうだよ。そんな話、聞かないぞ。ぼくはかぁくんを疑いの眼で見た。
「(どきっ、ま・まずい・・・)何それ。何それ。その顔。俺様を疑うのかよ(疑われても本当に嘘だし・・・どうしよう)」
「いや。そういうわけではないけど・・・。もっと詳しい話を聞かせてもらえたらなと思ったんだ」
「詳しいってなんだよ。俺を疑っているんだろ(実際、嘘だし・・・仕方ないよね。でも、いちを守りたかったんだ)」
かぁくんは、べそをかいて、今にも飛び去ろうとする寸前だった。
「みんなを止めるには、確実な証拠が必要なんだ。そのためにも、詳しいことを教えて欲しい」
社が言った。
「何言ってんだよ。お前のせいで、俺はいちに嫌われたんだぞ!」
怒っているのだろうが、そんなかぁくんは特別に可愛かった。そう思ったのはぼくだけではなかったようだ。それまで、疑いを消そうとしなかった社が笑っていた。
ぼくの視線に気がついて、社が口ぱくで伝えてきた。
『こいつ、かわいいな』
これを知ったら、もっと怒るだろうけど、ぼくはうなずいた。
だろう?
社がかぁくんを認めてくれて、ぼくはほっとした。
「鳥が死んでいる場所を教えて欲しいんだ。それが分かれば、保健所に電話して調べてもらえるし、原因が分かるまで近づかないように行政の方が言ってくれる」
「そんな話、俺が理解できると思うか?」
「思うさ。」
あっさりそう言った社に、ぼくの方が驚いた。
「いちなら、理解できないと思うけど、神様の使いなんだろう」
社の言葉に、ぼくは頭から角を生やして詰め寄った。でも、かぁくんは、えっへんと胸を反らした。
「や~し~ろ~」
「どうした。本当のことだろ。今の話、分かったのかよ。」
そう改めて問われると・・・
そう、なんのことやら、さっぱりで・・・
「ぎゃははは!!」
落ち込んでいるぼくの横で、盛大に笑ってくれているのは、ほかでもないかぁくんで、さっきまで泣いていたのに、現金なものだ。
「あの辺で、鳥が死んでいるんだろ?それなら、父さんに言って、保健所に電話してもらう」
「へっ?」
きっと今のぼくは、間抜けな顔をしているだろう。保健所というものが、そもそも不明で、電話してそれがどうだというのだろうか。
「変死している鳥は、インフルエンザのこともあるから、すぐ調べてくれる。死因。なぜ死んだのかが分かるまでは、その近辺には近づかないように行政っていっても難しいか・・・、ようするに、先生がみんなに言ってくれるということだ。そのためにも、鳥の死骸がどこにあるかが重要なポイントになる」
頼もしい友達に、ぼくは改めて尊敬の眼差しを向けた。諦めていたことに、光がさして、問題はきっと、あっというまに解決するだろう。
となったら、行先は社の家に変更だ。
「じゃあ、社の神社に向かって出発」
元気よく宣言すると、すたすた歩き出した。そんなぼくに、社がため息をついた。
「待て。俺を置いて行ったら意味ないだろう。それに、まだ詳しい話を聞いていない」
そうだっけ?
「社の家で話してもいいだろう?ここじゃ、目立つし、変な人に見られるぞ」
かあー かあー
かぁくんが、楽しそうに鳴いた。
「変な人?」
「かぁくんは、一般の人には見えないから、独り言を話している可笑しな人に思われるんだ。」
???社がぼくと自分を交互に指さす。
「今、二人いるよな? いちとおれ」
はははは
ふふ ふふ あはははは
二人でお腹を抱えて笑いあった。
一しきり笑って落ち着いてから、社の家のある神社に向かおうとした。
「二人とも何しているの?『山の上公園』に行かないの?」
声を掛けてきたのは、変り者と呼ばれる、五色マリアだった。