社とかぁくん
----- ぼくは、動けなかったーーーーー
怖かったとかやっぱり行きたかったとか、そんな理由ではない。
今日、『山の上公園』に行くことにしていたのは、ぼくだけでなく、他の子もたくさんいたのだ。でも、行かないほうがいいなんて言っても、きっと独り占めするつもりだなんて思われるのがおちだろう。
かぁくんに、教えてもらったといっても、頭のおかしな人扱いだろうし・・・。
「はぁ・・・。気になっているんだろう? いちは、やさしいもんな。」
動かなくなったぼくを見て、かぁくんがいった。
「うん。でも、ぼくに出来ることなんて何もないんだよなー」
こんな時、ぼくの胸はジクリと痛む。そして、ため息の数が増える。
かぁくんは、そんなぼくを労わるように、ぼくの周りをそっと飛び続けた。
そんな、どことなくゆったりとした時の流れの中、突然怒声が響き渡った。
「このー!!化けカラス、いちから、はなれろー!」
木の枝を振り回して向かって来たのは、クラスメイトの水上 社だ。
たまたま通りかかった社は、ぼくが大きな鳥に襲われていると勘違いしたようだ。
ぼくは、慌てて社をとめた。
普通、化けカラスなんて、怖くて見ないふりするものだろうに、さすがというか、社らしい。でも社なら、話せばきっとかぁくんのことを受け入れてくれるだろう。
だけど・・・、ちょっと待て、僕には当たり前のようにかぁくんが見えるから忘れがちだけど、みんなには見えない。
神社の息子というのもあってか、幽霊とか妖怪とか、見たりできるという噂があった。もしかして、彼ならかぁくんが見えるのではないかと考えていた。これまで、何度か話そうと思ったこともあったが、できなかった・・・。100%の確信はなかったので、悩んでいたんだ。
でもさっきの社のセリフ、かぁくんが見えてないと出てこないものだ。
今回見えるということがはっきりと分かった。
こんな時になんだけど、仲間が増えて良かった。
あっと、それよりも早く止めないと二人とも? うん?1羽と1人? 怪我をすると大変だ。
「違うんだ!!かぁくんは、友達なんだ!ぼくに、『山の上公園』に行くと危ないって教えに来てくれたんだ」
社は、きょとんとした後、変な顔でぼくを見た。でも、すぐにかぁくんに殴りかかるのをやめてくれた。取りあえず、話を聞いてくれるようだ。
そこが、社の凄いところだ。
周りから一目おかれている社は、神社の跡取り息子で、妖怪とか霊とかにも理解が深いのかもしれない。かぁくんが見えるのも、そんな理由からかも。だからこそ、ちゃんと話せば分かってもらえるし、協力者になってくれると思うんだ。取りあえずの希望だけどね。
「友達―!?この化けカラスがか!?」
かぁくんを指さし、呆れた顔で、ぼくを見つめる。それは、何かを確かめるようでもあって、知らずに緊張してしまう。まあ、テレビのアニメでも、妖怪をあまり信じるものではないって、いっているけど、ぼくにはよく分からない。
この世にあるもの全てが等しく、どれもが真実であり、またまやかしである。ぼくはそう考えている。
生きている人間がすべて嘘をつかないかというと、そうではないし、生きるということ自体が罪を背負い続けることだと思うからだ。
極端な話だが、ぼくは今日、魚を食べた。その魚から見て、ぼくは悪なんだろうか。いや違う、それが生きるということ。みんな、命を食べて、生きていく。だからぼくは好き嫌いはせず、残さないように食べる。
あっ話がそれたな、戻して戻して、
「化けカラスとは、しつれいな。きらきらと艶のある綺麗な嘴。この大きくて艶のある羽。理知的な瞳。すらりとした鍛え抜かれたボディー。研がれた鋭い野性的な爪。どれをとっても、高貴で神々しいだろうが!!」
かぁくんは、社の顔の前にとどまるように、飛びながら、見ろといわんばかりに、アピールをしていた。
そこまでいうか・・・。ぼくは、思わず頭を抱えてしまった。社なんか、毒気を抜かれたように固まっている。
「八咫烏っていうんだ。ほら、普通のからすより、大きいし、社の神社のところにも三本脚のからすの絵があるだろ?」
「確かにあるけど、こいつは足が二本しかないぞ」
「それは、いろいろな説があるけど、もともと3本足とは、書かれていないらしいよ」
「それは、こいつから?」
社は、胡散臭そうにかぁくんを見た。それも、無理ないだろう。逆の立場なら、ぼくだって心配する。
ぽりぽり。
人差し指で、頬を掻く。
「いや。かぁくんから聞いた時は信じられなくて、インターネットで調べたんだ。『やたがらす』って調べたら結構あったよ。その中に、『八咫』の意味もあって、『八咫』とは、『単位』で、大きいということなんだって。ほら、かぁくんは確かに、カラスにしては大きいだろう?『八咫烏』は『太陽』と結びついての伝承も多く、太陽が出て沈むのは、『八咫烏』が、太陽の中に入って動かしているからっていう伝承もあるんだ」
思わず熱く語ってしまった。なんだか、我が家のペット自慢をしているようだ。我にかえると少し恥ずかしい。
「まあ、実際はあまりかっこよくないし、ドジだし、くいしんぼだし・・・。」
もじもじと付け足すと、かぁくんが怒った。
「おい、そんなこというのかよ。いろいろと、助けてやっているだろうに。今回だって、親切に教えてやった俺様に対してそれはないだろう」
背中を、ばしばしと羽で叩かれてしまった。
そうなんだよね。結構助けてもらったことがあるんだ。そしてぼくが、かぁくんを助けたこともある。基本的に助け合う仲間って感じ。うん。相棒だ!!
「本当に仲がいいんだな。」
「そうだろう。ただ、誰にでも話せる内容じゃないし、こちらから話すようなことでもないから、そこが難しいところなんだよね。とくに、みんなには、見えないしね。」
「別に話す必要もないなら、話さなければ済むことなんじゃないのか?」
呆れ口調で社が言う。確かにそれは正論だ。でも、それだけじゃないのが、人の心理。
「そうなんだけど・・・。だって、話したい時ってあるじゃないのさ。」
ちょっといじけてみる。
「それは、俺でなくてもいいんだろ。たまたま、俺が今ここにいて、知ってしまっだけで。・・・。」
なんだろう、思わず笑ってしまう。
「何笑っているんだ。」
「だって、知っているじゃないか。最近僕が、社に何か言いたいそぶりしていたって。昨日、自分から聞いてきたじゃないか。何か悩みがあるなら聞くぞって。出来ることなんて限られるから、聞くだけで終るかもしれないけど、話すだけでもすっとするからって、言ってくれたよねぇ?忘れた?」
ぼくは、社の背中をポンとたたいた。
「そうだったけ・?」
とぼけてくれた。
「そうだよ。だけど、社は何時だって誰かと一緒だったから、話すに話せなかったんだよ。そもそも、社の神社で、みんなで肝試しをした時に知り合ったんだから。社にも責任はあるよね。そもそも、あの肝試しにぼくを誘ったのは社だもん。」
ぼくは、あの時のことを思い出していた。