からすのかぁくん
家に帰ると、ランドセルを玄関のところに置いて、すぐに裏の小屋から網と虫籠を持って、巨大蟻を探しに『山の上公園』に向かった。
そんな僕の後ろに、物凄い勢いで近づいてくる黒い影があった。
でもそのことに僕は気がついていなかった。それは、その勢いのまま、容赦なくぼくの頭にとっしんした。
ぐさ!
何かが、頭に突き刺さる。それは、一度だけではなかった。
ぐさぐさぐさ
痛い・・・。 思わず涙ほろり
こんなことをするのは、あいつしかいない。
「かぁー。そんなに慌ててどこに行くんだい。」
ぼくの友達の、カラスのかぁくんだ。
ぼくはちょっと?どころかかなり変わっていて、普通の人が見えないものが見えたり、聞こえたりする。かぁくんともそんなことから知り合った。
それにしても、カラスの口ばしが頭に突き刺さるように当たって物凄く痛い。それが、何度もでだからたまらない。
「もう、やめろよ、かぁくん。痛いじゃないか。怪我したら責任とってもらうぞ!」
ぼくは、両手を頭の上で振りまわした。
「そんなはずないだろう。ちゃんとてかげんしているからな。なんて優しいおれだろう。で、どこに行くんだ。教えてくれたらやめるぞ」
がくっときてしまう。
手加減すればいいというものでもないだろう。それに、本当に手加減しているのか怪しいものだ。
思わず、恨みがましくじとーとみつめる。
かぁくんは、こういったいたずらが大好きなんだ。
いきなり目の前を飛びさる。羽で頭をはたく。くちばしで、かんちょうをする。あげていったらきりがない。それさえなければ、遊びに来るのはO・Kなんだけどなぁ。かぁくんは、200歳と本人はいうけれど、子供っぽい悪戯をするから困りものだ。
「こんなことしなくても教えるよ。どうせ、かぁくんが来たときは一緒に探すつもりだったし・・・。『山の上公園』に行くんだよ。そこで昨日、大きな蟻が見つかったんだ。知ってる?」
「そんなの、神の御使いのスーパー偉いおれが知る訳ないだろう」
かぁくんは、ちょっぴり呆れ顔。
そしてなぜか、ぼくをそれ以上先に行かせないかのように、ぼくの目の前にとまってぼくの目をじっと見る。
「大きな蟻、一緒に探しに行く?」
それを聞いたかぁくんは、何を思ったのか空にまいあがった。
そして、ぼくの頭上をゆっくりくるくると飛んだ。何か、考えているようだ。これまでなら「行く行く!」ってついてくるのにどうしたのだろう?
不思議だったので、動きを止めてじっと見つめた。
どのくらいそうしていただろう。時間もあまりないので、ぼくは待ちきれなくなって尋ねてみた。
「行かないのか?」
かぁくんは、かぁかぁいいながら、ぼくの右肩に止まると、顔を左右に揺らした。何か悩んでいるようだ。いったいどうしたというのだろう・・・? なんとも珍しい光景だ。
「行きたくないなら、無理して付き合わなくてもいいぞ。僕は、一人でも行くから。」
また走り出そうとしたぼくの服を、かぁくんがひっぱる。もう、何だっていうんだよ。
「えっと、あのな・・・、今日は神様のお使いで人間界に来たんだ。まぁ俺は、普通のカラスでなくて、八咫烏という神様のお使いをする偉いカラスだからなぁ。いろいろと神様に頼まれたりするんだな・・・。で『山の上公園』の中に、社があるだろう? あそこにあるのには、ちゃんとした理由があるんだ」
理由? 今更何を言い出すのだろう? あの地に山の神がいるのは、もうよく分かっている。そもそも、かぁくんとの出会いで知ったことだ。
「あのな・・・あそこで、えさをあさっていたカラスが、こないだから死んでいるんだ。だから、おれたちの間では、あそこに近づかないようにっていう伝達がまわっている。神様にも暫らく人間界にいかないほうがいいと言われているし・・・。まぁ俺は、普通のからすでなくて、八咫烏という神様のお使いをする偉いからすだから、たいていのことは、へっちゃらなんだけどさ。でも、何か気にならないか?そりゃあ、まだ人で、何かあったという話は聞かないけど・・・、あってからでは遅いし。もしかしたら、鳥だけかもしんないけど。だけどさ、変わった虫って、何か関係していたとしたら怖くないか?(本当のことまだ、よくわかっていないから言えないけど、これであそこには行かないでくれると嬉しいなぁ~)」
いっきに言い終えたかぁくんは、取りあえず話したことで満足そうな晴れやかな顔になった。
だが今度は僕が考えこんでしまった。
そういえば、ゴミ問題で自然破壊とか、鳥インフルエンザとか、ニュースでよく耳にするようになっている。学校の授業でも、最近は環境問題について調べたりして学んでいる。
先日も、校外学習で隣の島にあるごみ処理場に行ったばかりだ。
もし、知らないうちに自然環境が破壊されていっているとしたら、そう考えると体が知らず知らずのうちに震えた。
ぼくは、この時まで、ただ単純に大きな蟻が見つかったことに興奮して、夢を見るように舞い上がっていた。それが、怖い現実によって起こったかもしれないなんて考えても見なかった。
でも、それはぼくだけではない。学校のみんなも、そしてあのテレビの人もだろう。
これからぼくたちはどうすればいいのだろう・・・。
今いるここは、安全なんだろうか?漠然と、足もとが崩れていく恐怖に体が震えた。
「変わった虫は、進化といえなくもないが、病気や毒のためのものなら、それは恐ろしいものだよ。おれは、いちが心配なんだ」
ぼくは、右肩にのったかぁくんをじっと見た。
「そっか、わかった。行くのをやめる。教えてくれてありがとう。」
でも少しだけ、大きな蟻や、まだ見ぬ変わった虫に未練があった。それはやはり、ぼくが子供だからだろうか?
「ううん、こっちこそ信じてくれてありがとう。うん。何かあったら嫌だもんな。今日は、おれと別のことをして遊ぼう」
くすっ
こういうところがあるから、ぼくはかぁくんが好きなのかもしれない。