4 再び会う
ロフトに連れて行ってくれると言われたけれど、本当だろうか?
親切を装って、もっと違う……いかがわしい場所とかに連れていかれたりして。ヒヤリと背筋に冷たい汗が伝っていくのがわかる。ど、どうしよう。
でも荷物が……。あぁ、キャリーに通帳とか入れておかなければよかった。大事な物が入っていなければすぐにでも逃げ出したいのに!!
先に行くストレート髪の男は、スタスタと私のことなんかお構いなしで行ってしまうし。追いつくのがやっとなのに。もうっ! ちょっとくらい気にしてよ!! 周りがどうなってるかよく見れないし!
肩で息をつくくらい早歩きで辿り着いた先は、雑居ビルみたいな前だった。煌びやかな女の子の看板とかあるんですけど……。
「あ、あのここですか??」
上を見上げて私は首を傾げてしまう。
「違うこっち」
わざとなのか嫌味なのか、キャリーケースをごつごつあたらせながら下に続く階段を先に進んで行った。って、ちょっと、人の物をそんなにぶつけないでっ!
「じゃ、そういうことで」
ぱっとキャリーケースから手を離すと、重そうな扉を開けて中に入ろうとした。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください」
「なに?」
文句でもあるのか? という鋭き目つきで睨まれた。
「あ、いえ。あ、あの、ありがとうございます」
「……あ、そう」
一応教えてもらったお礼は言わないと。失礼な人だけれども。返しも素っ気なくてイラッとするけど、仕方がない。
私は軽く頭を下げて、踵を返した。
? あれ? なんか暗いな。なんで? さっきまで明るい陽射しが下まで差し込んでたのに、振り返った途端なんだか暗い。
「あれ? なんでいるの?」
「え?」
階段の上のほうから声がしたので、見上げると――。
「時間間違って来たの?」
「ふふっ」
鳥巣頭の上のほうがふわふわしていて影になって、なんだか面白くて声をあげて笑ってしまった。
「何で笑うのさ?」
すたすたと降りてきて私の顔にぐいっと顔を近づけてきた。うっ、コーヒー臭い……。
「わ、笑ってませんし、時間も間違ったわけじゃありません!」
匂いから逃げるように一歩引いて答えた。
「? じゃ、なんでいるの?」
「場所わからなくて、そ、その、教えてもらったんですっ」
「へ―。誰に?」
明らかに疑っている。時間間違うほどボケてはいないんだけどなぁ。
「さっき入って行った黒髪のストレートの人」
「ふぅん。髪の長さは?」
「えっと、」
続けようとしたとき、更に頭の上の方が暗くなった。見上げると、ニ人の人影がいっきに降りてきた。に、逃げ場がない!!
「ミナトン、その子新しい彼女??」
「まぁまぁ可愛いじゃん」
鳥頭の人を中心にしてひょこひょこっと左右に男の人が顔を出してきた。……え?
「アヤトさ……ん、にランネ??」
雑誌から切り取ったみたいに、本物がいる!?
どちらも黒髪でアヤトの方は長いから一本に結わえて……ポニーテールの位置で結ってるから一部のファンからはポニー・アヤトって呼ばれてて、
「お? 俺たちのこと知ってるんだ。って当たり前かミナトの彼女なら」
ポニー・アヤトがニヤッと白い歯を覗かせながら笑っている。ふ、普通にかっこいい。
でもちょっと待って。あれ? なんかさっきからこの人達おかしなこと連発してるような……。
「よろしくね。ミナトの彼女ならいっぱい泣かされるから気をつけなよ? なんなら俺が彼氏になってもいいよ?」
疑問形で言ってくるのは、ランネの方。名前とは裏腹に筋骨隆々でドラミングがすごい。そのさまを現しているのか半そでから覗く筋肉が眩しい。
「ちょっと二人ともやめてくんない? なんでこのイモ女がオレの彼女なわけ?」
「え? じゃ、どういう知り合い?」
残り二人の声が重なった。
「うーん……。行きずりの人?」
鳥巣頭……信じたくないけれど、【まほろ】の女型で通っているミナトということ? その人が首を傾げた。……行きずりの人? は? そ、それじゃなんか変な誤解を生みそうじゃない!
「そうか行きずりの関係かぁぁ。まいったね、ここまで来られちゃ」
「俺たち真面目にバンド活動してるから、ちょっとどいてね」
ランネとアヤトは急によそよそしい態度になって、先に進もうとした時、またもや騒々しく階段を駆け下りてくる人がいた。
次話で最終回です。