2 チケットともに
第一印象として、あぁ都会って普通に黒づくめの人って実際いるんだな、という感心だった。
でも、ちょっと待って。今どき"お嬢さん"ってアリ??
「この辺でいいとこ住むってなると、結構お金出さないと大変だよねぇ」
うんうん、と顎に手をあてながら頷いている。
「あ、そ、そうですね」
よくよく見れば、この人髪長いなぁ。綺麗なオレンジ色。でも簡単に声かけてくるってちょっとアヤシイ人かな。
「予算いくらくらい?」
「へ? あ、ええと……」
どうしよう。答えて大丈夫かな。見るからに不動産屋の人じゃなさそうだし。
「ねぇ、しゅーや、またそういうワケありな女の子に声かけるのやめろって」
そこにタバコをくわえ、なんというか……そのへんにあった服急いで着てきました、と言わんばかりのだらしなさ全開、プラス金色の髪が鳥巣状態の人がすたすたと歩ってきた。ふぁさ、ふぁさと髪が揺れている。
「訳ありじゃないよ? 困ってるお嬢さんがいたから助けてあげようと思って」
「だからそれをやめろって言ってるわけ。またさ、トラブるとめんどいし」
たばこの煙を思いっきり私にかけながら言われた。うっわぁぁ嫌な人。失礼すぎる。
「トラブらせない。僕が保障する」
とん、と胸を叩いた。って、
「ちょっとすみません。あの勝手に保障されても困るんですけど」
二人で勝手に話が進んでいたので私は間に入った。
「そうだよね。こいつ拾い癖あってごめんね。ほら、行くぞ」
「あ、でもっ」
黒づくめの長身の人はまだ何か言いたそうだったけれど、あとから来た鳥巣頭にぐいぐい押されて行く。しばらくされるがままだったけれど、突如鳥巣頭に肘鉄をくらわせた隙に、長身の方が駆けてきた。
「これも何かのなんとかというやつかもしれないし。ね?」
な、何が「ね?」なのだろう? 話の繋がりがよくわからない。しかも鳥巣頭の人、うずくまってるんですけど。相当な力だったのかな?
「で、ね、今日対バンあるんだ、チケットあるから是非来て」
くしゃくしゃになった紙ぺらを更に、ぐしゃっとさせながら私の手に握らせた。
「へ?」
「結構有名どころが多いから、自分たちのファン少ないみたいで。サクラでもいいから、ね?」
サングラスを少し下にずらして、お願い、と言わんばかりに瞳が潤んでいた。……ワンちゃんみたい。くーんと可愛く鳴いてるように思える。か、かわいい。
「あ、はい」
哀願されてるみたいで、思わずこくこくと頷いてしまう。
「場所わかるかな?」
くしゃくしゃを伸ばしながら私はライブ会場名を探して、一瞬にして雷に打たれたような衝撃が走った。
「え!? ロフトなんですか」
二度見してしまった。だって、だって聖地じゃん!!! 私がまず行きたいと思っていたところだし。
「知ってる?」
「は、はい。なんとなく」
行きたい会場、あの人たちがステージを踏んだ場所はプリントアウトして手元に今あるし。ただ地理感覚がないだけで……。
「自分たち、二番目だから。それじゃ」
片手をあげで去っていった。
去り際の笑顔がちょっと反則だった。
くしゃくしゃのチケットを改めてよーく伸ばして、対バンのバンド名を見た。
アリス、琥砂、まほろ、Rinnen、……全部知ってるんだけど。
ちょっと待って。ということは四バンドの中の誰かってことだよね? ローディーって雰囲気じゃなかったし。オレンジの長髪……。急いで頭の中のデータブックをめくる。四バンドの中でオレンジの長髪は一人しかいない。
背が高い。綺麗なオレンジ色の長髪、ちょっとドジらしい。ヴォーカル担当。名前はカイト。あれ? さっき呼ばれてた名前と違う。
で、金髪の方はもしカイト率いる【まほろ】のメンバーなら、女の子女の子してるギター担当のミナトだと思うけれど。あの悪態だと、多分違う。かといって他のメンバーで金髪はいないから、対バンする相手の誰かかな?
それにしてもまさか、この大都会でちょっと気になるバンドの人から声かけられるなんてミラクル!!
運命かな?
だめだめ。簡単に運命なんて言葉使っちゃ。でも田舎から出てきた日に出会っちゃうなんて、凄いと思うの。
どうしよう。ドキドキが止まらないっ。
住まいなんて一日、二日どうにかなる!漫画喫茶とかあるし。
とにかく今は新宿駅まで行って、場所確認しとかなきゃ。
開場まであと約五時間。急ごう。
えぇと、山手線に乗って辿りつけるんだよね。とりあえず駅に向かおう!
つ、続き書いてみます(2014.05.11)
修正(2014.05.11)