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1 書店にて

 それはひょんなことがきっかけだった。

 一度ブームが終わったが、約数十年を経て再び同じブームがやってきた時だったのだろう。全国で聞けるラジオ番組でパーソナリティーをしていたあるバンドのせいもあったのかもしれない。



 それとも――――。


 自分の中での熱い青春が終わってしまい力尽きつつも、次のステップへいくために何かが欲しかったのだろうか。


 

 多分、心熱くさせるものが欲しかったのだと思う。




 ある日の休日、新しい出会いが欲しく、駅前のあやしいアーケド街の中にある書店へ向かった。夜になれば客引きとかされている界隈だけれども、明るい時間だし小さい頃から通い慣れているので別段後ろめたさなど一切ない。




 その時の私は、若年のくせに耽美ものが好きであった。それが災いしたのか、とある雑誌が目についてしまったのだ。そのジャンルは「音楽」だった。



 それが始まり――――。



 私は恋をしてしまったのだ。雑誌の中の人に。明るい茶色で腰より下に伸ばした髪に、妖しい視線を注ぐ切れ長の瞳。そして何よりも中世時代のような華麗な服に。

 丁度その頃呼応するように私はたびたび、無限に広がる草原にひっそりと建つ、外国のお城の情景を断片的に夢に見ていたせいかもしれないし、耽美な漫画にあったそのものが現実にある、と認識できたからかもしれない。

 全てのピースがうまくはまっていったのだ。


 恋、とは盲目で現実にいる"彼"に会いたい一心で都心に出るためにあくせくバイトに励み、資金を貯めた。そして"彼"、もしくはメンバーがリスペクトしている音楽を聞いて、調べたり、ギターの種類、楽器ごとの音色。果てまではライブハウスの仕組みにも興味が出てきて、いっそなら専門に学んでもいいかもしれない、と思うようになっていた。高校の勉強の傍ら、彼らのことを友達に布教しながら、下準備をしていった。


 そして二年後。

 彼らがメジャーデビューする頃と時を同じくして、私は決意した。

 雑用でもなんでもいいから、彼らに関わる雑誌、ライブ会場、あわよくば事務所の下働きにでもなれたら本望だった。

 止める両親を振り払って、転居に必要な物と大事な物をキャリーバッグに押し詰めて都心へ出てきた。

 出てしまえば、こっちのもの。ツテはないけれどチャンスはあるだろう、という期待を抱えて。



 それまで何度か都心へ出てくる機会はあったけれど、実際住むとなると費用が思っていたよりかかることに愕然とした。

 ……今までの生活水準は無理と思っていたけれど、どこまで質を落とすべきなんだろう。


 新宿に早く出てる場所、といえば新大久保という情報を頼りに、その界隈の不動産屋の張り出しを見つめながらガックリ肩を落とす。

 交通の便もいい、歌舞伎町に出やすい、となると値がはるみたいだ。そもそも親の承諾なしで借りれるのか不明だし。


「弱ったなぁ」


 思わずぼやいてしまう。


 都会のいいところは人が多くて、ぼやいたって気にも止められないってこと。


「お嬢さん、どうしました? 困り顔は似合いませんよ?」



 昼下がり、新宿雑多の数ある不動産屋。


 その外の物件リストのところで、日中の日差しに似合わない人と出会った。


 春先だというのに、サングラス、全身黒服できめた背の高い人物だった――――。




追加単語(2014.5.09)たびたび・ひっそりと建つ・の・貯めた・そして・なし


加筆修正(2014.05.10)

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