新しいワンピ届きました♪
思いつきで短編です。
「レイ、荷物が届いてるよ。なんかカラフルな箱。」
顔に死相が浮かびそうなほどやつれた同僚から、待ちに待った荷物が届いたことを知った。
滅多にない休憩時間で書いたハガキで通販会社に申し込み(職場のネットは使えない)、それを外に出る用事のある同僚にお願いし、5回くらい忘れられ、それでもなんとかポストに投函してもらったもの。
ネット注文だとほぼ荷物は来ない、電話は滅多につながらないが、ハガキだと投函を忘れなければほぼ7割の確率で到着するのだ!
・・・確率悪すぎだろうって?
別にハガキの処理が悪いわけではない。
悪いのは私の運なのだ。
いや運じゃないな、そういう仕事柄ということにしておこう。
トゥルルー、トゥルルー。
席を立とうとすると目の前の電話が鳴る。
「ハイ、セイケンです。」
電話の向こうの声が遠い。
そう思っていると「オオオオオォーン。」と複数で地獄から慟哭するような・・・聴くものが底冷えする声が聞こえたのでガチャンと切る。
「どっからだ?」
先ほどの同僚が他の机に突っ伏したまま声をかけてくる。
「またイタズラだった。」
ガタンと席をたって「受付に行ってくるから電話は放っておいて。」とお願いして席を離れた。
*
「どうして人間用のエレベーター止まってるのよ・・・。」
壁に手をつきながら、普段の運動不足を棚に上げ、7階ぶんの階段を下りる。
いったん一階についたらひと月ぶりに外にでも出てみようか。
しかし現金の入ったポーチを持って来なかったことに気づき、戻るのは嫌なので空気だけ吸ってこようと決める。
食堂のあるビルの真ん中・・・つまり10階建てのビルの5階まではよく移動するのだ。
私の職場は7階にありほとんどそこで寝泊まりしている状態だ。
宿直室は食堂や物品庫、個人の居住スペース(8~10階)を除く各階にあるのでついつい居ついてしまった。
上階の個人のスペースをもらえるほど偉くない・・・というより事務職専門のペーペーだから宿直室を使えるだけマシだ。
いちいち家に帰っていたら、通勤時間だけで終わってしまう。
死相の浮かんだ同僚がそのへんに転がっていようが、自分もその仲間になろうがもう気にもならなくなった。
次にビルを移転する時はヒラでも住み込み可能にして欲しいくらいだ。
なんとか一階の裏口受付まで到着した。
会社の表玄関の受付と違って華やかさはない。
あちらはガラスの自動ドアでロビーには花が飾ってあったり、セイケンとカタカナをロゴにしたプレートがあったりするが、こちらドアは頑丈さがとりえだけで受付の人も美人なお姉さん'sでなくマッチョなおじさんだったりする。
「おー、レイちゃん。久しぶりだなぁ。大きくなって。」
小さな窓から顔を出したのは顔みしりのおじさんだった。
「そこまで久しぶりじゃありませんよ。荷物きてませんか?カラフルなダンボールの。」
「ああ、二つあるよ。」
ふたつ?
「えーと、ナルミヤ・レイ。これこれ。」
ひとつは通販会社のカラフルなダンボール。もうひとつは味気ない小さいダンボールだった。
「・・・あー、それ。たぶんあっちの【ナルミヤ・レイ様】のだよ。」
受け取りにサインをし、カラフルな方だけ受け取っておく。
「ああ、あのナルミヤ様か。」
おじさんも納得したように荷物を戻し、連絡票を確認する。
私もナルミヤ姓だが、遠い遠い遠~い(くどいようだが、本当に遠い)親戚のお偉いナルミヤ様が同じこのビルで働いている。
しかも、紛らわしいことに名前が似ている。
厳密にはレイノルドというのだが、サインでも通称でもなんでもレイで通しているので、後から入って来た自分は居心地が悪い。
向こうも迷惑しているに違いないが、そこは棚に上げておこう。
「まっいいや。新しいワンピー♪」
このワンピースは季節を先取りした春夏号特集のものだった。
例え、私の手元に届いたのが冬であっても!
珍しく、最速で発送案内が来たと思ったら、輸送事故で一回ボツになり、次は手元に来ていないのに到着済みになって処理されていたり、ようやく再注文(ハガキを5回くらい忘れられた)できたら在庫切れで発送が遅れたり、発送されてもなかなか手元に来なかったワンピがやっとこの手に!
発送されてから数カ月どこを彷徨っていたのかは不問としよう。
今からの季節では着られないが、半分意地になっていたので届いたならば結果オーライだ!
・・・ま、最悪、着替えがなくなった時のパジャマにもなるし。
女?
捨ててますよ?
それが何か?
もう三カ月くらい化粧もしていません。
最後に美容室に行ったのは半年以上前のことです。
それでも最寄りのコンビニかドラッグストアまでスッピンで買い物に行けてしまう私です。
この前一か月ぶりに外出したのは洗顔料と化粧水が切れてしまったためドラッグストアに行ってきましたが、それが何か?
荷物を受け取っておじさんに別れを告げ、また階段にチャレンジです。
休憩しながらとりあえず食堂の5階まで行ってお茶でも飲んでこよう。
そうして7階にたどり着いた時には、死相の浮かんでいた同僚は死体のように宿直室で横たわっていました。(なーむー。)
*
早速カラフルな箱の開封といきましょうか。
ビッ。
・・・といきませんでした。
なにこのテープの抵抗感。
ずいぶんな粘着質って。
しばらく彷徨っているうちにレベルアップでもしてきたんかいな。
まさか手元に届いてからも手を煩わされようとは・・・!
「うおおおおおっ!」
誰もいないのを幸いに渾身の力で箱とテープをサヨナラさせます。
恐るべし、テープの粘着力。
・・いえ、私が体力がないのもありますけど、このくっつきようは尋常ではないですよ。
ミリミリッ!
テープがはがれるとは思えぬ音を発して箱が開きました。
箱が開くと同時に、中からグレーの煙のようなものがあふれ出します。
「なっ、最後にトラップかっ?!」
箱から出てきた煙はみるみる集束し・・・そこには・・・。
新しいゾンビが届きましたー!
「って、なんで新しいワンピあんたが着てんのよ!」
「・・・はだかははずかしいので。」
そこにいたのは左手のないフレッシュな状態の少年のゾンビでした。
死相が浮かんでいる同僚より健康そうなゾンビってどうなのよ?!
「あなたがぼくをかんぜんにじょうかしてくれるひとですか?」
ゾンビにしては滑らかな口上だったりする。
だいたい「おー」とか「うー」とかを発することができればまぁまぁの状態だ。
「へっ、浄化?」
浄化なんて高等技術があるはずがない。
ここでそんなことができるのは・・・。
「おい、私の荷物・・・。」
「ぎゃっ!」
いきなり声をかけられて叫び声をあげる。
恐る恐る後ろを振り返ると・・・。
そこには白い衣装に銀糸で意匠を刺繍した長いズルズルした服を着た美青年・・・もとい遠い遠い遠ーい親戚の超おエライ様のナルミヤ様がいらっしゃった。
その非日常なご衣裳で外を歩いていないことを祈るばかりだ。
いや、常に高級車で移動のため歩くことはないだろうが言葉のアヤで。
ここでは頭を垂れさせるそれも、外ではコスプレ衣装にしか見えない。
ナルミヤ姓は名ばかりで私と違ってクォーターで日本人離れした人物だ。
薄い色素の茶髪・・・いや金茶なのか?に、茶色なのか緑ががっている。
顔は私の乏しい表現力では説明しがたいくらい麗しい。とりあえず対称に配置されたパーツでハリウッド俳優もかくやというくらい整っていることにでもしておいて欲しい。
あ、なんか詩的表現ができない自分が悲しくなってきた。
「それにそんな服を着せて何をしている?」
その美麗な顔の整った眉が顰められる。
「わっ、私のシュミじゃないですよっ!荷物にまぎれこんでたんです!早く浄化してあげて下さい!!」
私の新しいワンピを着たフレッシュゾンビ少年をナルミヤ様に差し出す。
「おねがいしまあす。」
お願いしまーすと言いたいのだろうが、少し間延びした声に「さっどうぞ。」と言うしかない。
目の前の美形は「残念だが、私には出来ない。」と問題発言をぶちかまして下さいました。
「えっ、だって、教団イチの実力者なんでしょ?わざわざここにゾンビが送られてくるほどに!」
「封印をはずした本人でないと浄化できないしくみだ。自分で浄化できないなら一度何かに封印しろ。」
何か残念なヒトを見るような目でナルミヤ様に見下ろされている。
「私、聖剣教団に入ったの去年ですよっ?しかもその前は小さな会社の事務員で、今だってしがない事務員ですけど?浄化や封印なんてできるわけないじゃないですかっ!」
目の前のナルミヤ様の服をつかんでガクガク揺すりたい位だが、それはグッと我慢する。
下手なことをすると親兄弟にまで咎がいくだろう。
「ほら、ゾンビくんもなんとかお願いするのよ!」
「お前もナルミヤの一員だろう?聖剣教団に入れられ・・・いや入ったのは素質が認められたからだ。春が来るまでに封印の技術を叩きこむ。あの強力な封印を破ることができるくらいだから大丈夫だ。」
私のゾンビ君への言葉をさえぎるようにナルミヤ様はおっしゃった。
「・・・なんで春?」
「半年もすれば温かくなるし術もゆるんで肉体が腐り始め・精神状態も異常をきたすからだ。」
ひっ!
「状態が良くて助かったな。君もこの女性の半径20メートルを離れると腐り始めるから気をつけて。」
ゾンビくんは鷹揚に「わかりましたあ。」と了承する。
「お前は今日から特訓だ。仕事は他の人間を入れるから封印を済ませるまでこの建物から出ることを禁ずる。死ぬ気でかかれ。」
ナルミヤ様の非情な宣告が遠くに聞こえる。
新しいワンピがゾンビのおまけつきだった件で、私の人生は大きく変わることになったのです。
ネタバレになるのでキーワードは何も入れられませんでした。
また続きが書ければ単発で投稿する予定です。