第三話 共同作戦(一)
藤野の家は古くは平安から退魔師を生業としている。
家柄としては、私がいた頃曾祖父の時代では、厳格な実力主義であった。
妖魔を退治するための剣術、魔術、呪術、その他の戦う術によっては本家と分家の境はあったものの分家でも当主の片腕として取り立てられていた。
だからこそ、落ちこぼれ、藤野の戦術に合わない人間はあの家には居られないのであると古式尊は思う。
「お帰りなさい、先生」
陣屋敦子が玄関先に立っていた。たったこれだけのことが、私はとても嬉しく思えた。
「ただいま帰りました、敦子さん」
お風呂が沸いていますので、先に入られてくださいと彼女は微笑んで、隣に置いたキャリーバッグを手に持った。
「それでは、お言葉に甘えさせていただきます」
胸の内ポケットに入れていた封筒を確認して、脱衣所へと向かうことにした。
食事は豪勢だった。といっても今までの食事に比べてであり、しかも彼女が初めて依頼をこなして得たもので作ってくれたのがとても嬉しく感じる。
食後に彼女がお茶を入れてもらい、私は真島から渡された依頼書をテーブルに置いた。
「共同依頼ですか?」
簡単に今回の依頼を伝え、彼女は内容を確認して言ったので、私は一度だけ頷いた。
「……気になる点としては、共同する相手が藤野家となっています。藤野家は確か退魔師を生業とする御三家ですよね?」
どうしてそこからと、彼女は目で訴えてくるが、私としては話をするのはあまり気が進まない。
「ええ、古くは平安から続く退魔師の一族です。他の御三家と比べ、実力主義を基本としており、先代の時には苛烈なまでだったそうです」
「それもまた、知り合いの方からなのですか?」
そうですねと言って、お茶を飲む。
「それについては分かりました。でも、なぜこの共同依頼で先生だけでなく私も入っているのかが分からないです」
それもそうかと思う。真島からは実践に関しては問題はないという報告と共に、彼女から感じた自尊心の強さが感じられ、早めに考えを改める機会であると強く説得された。
「今回の依頼では、敦子さんの初の依頼における成果が評価されています。……そうですね、私の同行依頼とでも思ってください
彼女は渋々というようにはいと答えた。
共同依頼は、五月からの開始である。
五月になると、途端に気温が上がり蒸し暑く感じるものだが、閑散とした田舎は涼しいものだ。
「今回も貴方ですか」
敦子の声にええそうです、何か申し訳ありませんと真島が謝っている。
「私は古式様の担当でして、陣屋さんは古式様の弟子となりますから、ええ」
真島は貼りつけたような笑顔で、彼女は一息呆れたようにため息をつくだけだった。
「今日の依頼を確認するのは、既に到着されている藤野家の方々と会っていただき、そこでする形でよろしいでしょうか」
「私はかまいませんよ」
ありがとうございます、真島は頭を下げた。
用意されていた屋敷の一室には既に今回の共同作戦に参加する藤野家の三名が姿勢を正し、瞼を閉じて待っていた。
私たちが襖を開けたときに一瞥したが、それからも沈黙を守っている。空気が重く、それに殺気を感じる。
上座奥に座る少女からだ。三名の姿を見たときに誰だかは覚えてはいたが、奏がこの作戦に参加するとは思っていなかった。
「それでは、作戦の概要を話し合おうかと思います」
真島が話をきりだしたが、急にあがった手にその場にいる全員の視線が集まる、奏だ。
「一つだけ、お尋ねしたいことがあります。そこにいる男性の方です」
静かに、しかし言葉の節々に怒りが込められている。真島が俺の方に目線を向けたので、一度頷いた。
「では……なぜ、藤野家から追放された者がこの場にいるのでしょうか」
殺気が部屋に充満する。隣に座る敦子さんはこれほどまでの殺気を浴びたことがないのか萎縮してしまっている。このままだと、気絶してしまうかもしれない。
「とりあえず殺気を出すのをやめていただきたく思います」
奏が敦子さんの様子を見て殺気を消した。敦子さんその場で胸をなで下ろしていた。
「追放されたというよりは、自ら家を出て、古式の家に養子になっております。また、追放云々の話に関しましては、現藤野家当主であらせられる藤野源馬様に伺うのがよろしいかと。それに依頼の遂行に私情を持ち込まぬようお願いいたします」
奏の横にいる体格の良い藤野明人
へと目を向ける。明人は軽く頷いた。
「真島殿、依頼の話をお願いします」
奏は明人に睨みをきかすが、彼はただ微笑んだだけだった。
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